ミルの優しい嘘
エリナが魔法を解いた後はもう帰っていいと言われたので部屋に戻る事になった。
「わしはハヤトの影の中に入って眠る事にする。良いかの?」
「別にいいけど、ベットで寝なくていいのか?」
「影の中での生活に慣れたからのう。しばらくは影で寝る事にする」
それじゃあ、おやすみなのじゃ、とエリナはさっさと影の中に入っていってしまった。
俺はベットにとりあえず座った。
「まさかダンジョンの探索依頼でこんな事になるとはなぁ。世の中なんでも起こるな」
それに魔王軍残党のリーダー格まで倒してしまったんだから、運命的なものを感じるよな。いやもしかしたらこれも俺の豪運によるものなのかも知れない。
「そうだね。今日も色々あって疲れたからもう寝ようか?」
「そうだな、じゃあおやすみ……ってちょっと待ったぁぁぁ!!」
こいつ!ホントに口達者だな!危ない、危ない。
エリナが言っていた話を問いたださなければならないんだった。
「甘いわ!ごまかそうたって、そうはいかないぞ!」
「ば、バレちゃったかぁ……でも今日は疲れちゃったし、明日にしない?」
こいつ、この後に及んで先延ばしにしようとしてるな?
「ええい!言い逃れしてないで、さっさと白状して楽になれ!」
「チッ、言いくるめられると思ったのに」
「お、お前、天使なのに舌打ちとかいいのか!?堕天使になるぞ!?」
俺がそう言うとミルが笑った。
「冗談だよ!私はあんまり気乗りしないけど話す事にするよ」
なんか流れでキレたみたいな感じになってしまったが、正直俺は天使的な力が実は残っていた、としか分かっていない。
なぜ隠したのかは全く心当たりがない。
「で、何が聞きたいの?」
「まず、エリナが言ってた事が本当かどうか、それと、本当ならなんで嘘をついたか、かな」
「あの子の言ってた事は本当だよ。私には力が残っていた、なんで嘘をついたかはできれば言いたくない……」
「でも嘘をついたのが本当だとするなら不思議な事が二つある。一つ目はもし力が残っていたならさっさと天界に戻れたんじゃないかって事で、二つ目は特性がA級じゃ天使にしては低いんじゃないかって事だ」
俺はミルが嘘をついたというエリナの話が未だに信じられないのだ。それ程までにこいつが真面目な奴であるという事を俺は知っている。
「天界に戻れないって話は本当だよ。まぁでも戻れたとしてもしばらく戻るつもりはなかったけどね」
「それはまたどうして?」
「途中まで君を導いてあげようと思ってたんだよ。この世界に連れてこられて戻れないって分かったときはちょっと凹んだけどさ」
今ではそんなに悪くないって思ってるよ、そうミルは言った。
俺は正直泣きそうになった。
こんなにも俺のことを考えてくれていたとは思わなかった。
「今さらだし、もう戻れないけど本当にごめん。ミルがそんなに俺のこと考えてくれてたとは思わなかった」
「天界の住人からしたら人々はみんな大事な子供のようなものなんだよ……だからそんなに気にしなくてもいいよ?」
こんな事まで言ってくれる。
もうなんで嘘ついたかは聞かなくてもいいや。
ミルから話してくれるのを待とう。
「ありがとう……それじゃあ二つ目、天使的な力がなかったのに特性がA級ってのは少しおかしいんじゃないか?別に天使は戦闘向きじゃなくてこんなもんって言うなら信じるけど」
あーそれはね、と言ってミルはカードを出す。
俺はミルが出したカードを二度見してしまった。なぜならそこには『魔法使いのセンスA級』ではなく『魔法使いのセンスS級』と書いてあったからだった。
「なっ!?こりゃどういう事だ!?俺が見たときは確かにA級だったはずだろ!?」
「力を使ってこのカードと水晶に対するみんなの認識を阻害していたんだ。いわば世界を書き換えるレベルの魔法みたいなものだったんだけど、『超・限界突破』を使っちゃったから力がなくなって阻害する事が出来なくなってこうなったんだ」
なるほどね。そういうトリックだったのね。それになんだかミルが嘘をついた理由がわかってきた気がするぞ?
こいつ、あれだ。俺がこの世界を楽しめるために自分が目立たないようにしたんだろう。要するにとんでもないお人好しだ。
自分をこんな境遇にした人間にここまで出来るとはどんなメンタルをしてるのか分からない。
あーでも理由は『大事な子供みたいなものだから』なんだっけか?
なんかもうこいつには頭が上がらないな。
まぁでもこの事は本人には言わないでおこう。なんか恥ずかしがりそうだし。
「私からも一つ聞きたいことがあったんだけどいいかな?」
「いいぞ?なんだよ?」
「かなり足が速かったけどなんでかなって。さっきは急いでたから聞かなかったけど」
来ると思った、その質問。
「俺、エリナに血を吸われたろ?あのときどうやら吸血鬼になりかけたみたいで……はい」
俺はカードを取り出してミルに見せる。
「こ、これはひどいね……種族名が人間もどき、スキル欄には『血の記憶』が習得可能って書いてある……これ、完全に眷属になりかけてるね」
ミルから見てもダメか。
「でも、このぐらいならなんの問題もないんじゃないかな?眷属になると種族名が吸血鬼になるから、ハヤトには『渇き』とかがこないと思う」
という事はこの状態でいる限り俺にはメリットしかないんじゃないか?
そんなに恐ろしい事ではなかったどころか喜ぶべき事じゃないか。
エリナには感謝こそすれ、怒るなんてとんでもない。あのとき叫んでしまった事が悔やまれるぜ。
エリナには後で謝っておく事にしよう。
『いやいや、その必要はないぞ、ハヤト』
「何だ!?」
今、エリナの声がしたよな!?影の中にいるはずなのにどういう事だ!?
「急にどうしたの!?何かあったの、ハヤト!?」
ミルには聞こえていない?どういう事だ?
『うるさいのぅ、そう驚くな。この声はお前にしか聞こえていないぞ。頭の中に直接、声を届けておる、要はテレパシーみたいなもんじゃ。お前が頭の中で意識的に何か考えればそれがわしに届く』
エリナ、起きてたのか。
しかし便利な機能だな。吸血鬼ってすごいな……いや待て、という事は俺が何か考えればそれがエリナには筒抜けという事に……!?
『まぁそういう事じゃ。あまり変な事を考えるなよ?』
こ、こいつ!俺をからかってやがる!
でも今はとりあえずミルと話そう。あんまり黙ってると怪しまれるしな。
「あーいや、何でもない。急に大きな声出して悪かったな」
「そう?で、何だったけ?」
そうだ!いいこと思いついたぞ。
「さっきの話はもういいや。とりあえずは問題ないって事で安心した。さっきの眷属になりかけた事関連なんだけどな……」
という感じで俺はダンジョン内でエリナとの事を話した。俺の恥ずかしいセリフは抜いてだが。
「そうだったんだ……なかなかに辛い過去を持っていたんだね。よし、分かった!私もエリナの家族になるよ!」
「そうか!ならこれからは一緒にアイツを支えてやろうな!」
クックックッ!今ごろエリナは影の中で身悶えしている事だろう。
どうだ、エリナ!これじゃ、恥ずかしくてミルの前には出れまい!
『……おい。ここには確か大浴場があったと思うんじゃが……ちょっと行くぞ?お前も汗を流したいじゃろう?』
あ、あかん。完全に怒らせてしまった……
俺はミルに一言言って、大浴場に向かう事にした。
この度は「異世界転生したのに魔王がいません!」を読んで頂きありがとうございます。
趣味で初めて書く小説ですので、拙い部分がかなりあると思います。
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