決戦『黎明人類』
何時間寝ていたか分からないが、体力を回復させた俺達は竜に最下層まで送ってもらう。
目を開けると、そこは巨大な扉の前だった。
「……いかにもだなぁ」
「何人いると思う?」
「五人」
飛ばして来た階層に『黎明人類』が配置されていることを願うばかりだが、もしかすると、ここで一気に来るという作戦かも知れない。
そうなると、『生命転換』を使わざるを得ないだろう。
いや、別に『生命転換』を使うことはやぶさかではないのだ。
しかし、エリノアさんの話によると、持続時間がそこまでないのだ。
持続時間はだいたい三十分、それまでに蹴りがつくか、という問題なのだ。
まぁ、あれこれ考えても、この部屋に入ってみないことには何も出来ない。
「まぁ何人でも良いか。どちらにしろ、全て倒すんじゃからな」
「ああ、違いねぇ」
俺は左、エリナは右の大きな戸を押していく。
地響きを起こしながら、扉は徐々に開いていき、中の様子が分かってくる。
大広間の中央にはまず五人いる。
そして、その少し後ろにまた五人。
更にその後ろに五人だ。
「おいおい……俺達ハズレ引いたんじゃね?」
「これは流石にキツそうじゃな……」
総勢十五人の『黎明人類』がそこに待ち構えていた。
「こんにちは、そしてようこそ、新人類のお二人。君達は大事なお客様だからね、この人数でお出迎えさせて頂いたよ。後……弟のシドが世話になったね」
ああ、こいつ間違いなくこの中で一番ヤベェ奴だ。
俺は小声でエリナに指示を出す。
「一番後ろ、どれでもいいから殺れ」
「うむ」
仲間の異様な姿に気づいた相手が悲鳴を上げ、それに釣られて、敵全員が後ろを向く。
瞬間、俺は『明鏡止水の境地』を発動し、一番前の五人に向けて駆け出す。
これで確実に一人は殺れる。
「甘いよ」
しかし、シド兄が俺の剣を受け止めた。
あの状態から受けられるとは、流石といったところだな。
だが、俺もこれを予想していなかった訳じゃない。
「いや?もう一人斬ってる」
俺が言うと、シド兄の隣にいた男が首から勢いよく血を飛び散らせ、倒れる。
「……なるほど。僕も君を見誤っていたようだッ!」
シド兄は思い切り俺の剣を跳ね除け、俺は仕方なく、後ろに跳ぶ。
すげぇ力だ。
しかし、息を吐く間もなく、後衛の魔法部隊から魔法が飛んでくる。
俺はそれをある程度捌くが、致命傷にならなそうな物は避けない。
いちいち構ってると、キリがないからな。
今回エリナは前衛をやるようで、中衛の部隊にガンガン切り込んでいる。
中衛は魔法剣士のような奴らで、エリナと同じようなタイプのようだ。
それにしても流石だ。
不意打ちじゃなかったら、あそこまで簡単には殺せなかった。
そして、その中でも別格な奴がグループに一人ずついる。
前衛のシド兄、中衛の茶髪の男、後衛の青髪の女、こいつらは群を抜いて強い。
それがひしひしと伝わってくる。
その時、丁度青髪から『雷槍』が飛んできた。
一つは首、もう一つは胸を的確に狙ってきている。
俺は勿論、激しく動きながら戦っている。
青髪は俺の動きをもう読み始めているようだ。
俺は『生命転換』でとりあえず十年分転換する。
「速いッ!?皆気をつけろ!」
シド兄が仲間達に叫んでいる。
しかし、残念ながら標的は前衛じゃない。
俺は前衛の横を通り抜けて、後衛の方へ走り抜ける。
「レイシア、やれ」
「『魔封じ結界』」
またやって来やがった!
やられると分かっていても、俺ではこれを防ぐ術はない。
シド兄が後ろから、青髪が前から、俺を完全に殺しにきている。
「終わりだよ。剣士くん!」
「『ヘルフレア・バースト』」
「まだだ……『生命転換・千年』!」
突如として俺の中に膨大な力が流れてくる。体がはちきれそうだ。
そして、俺はもう一つの可能性に気づく。
エリノアさんはそもそも寿命が一万年もなかったという考えに至ったが、俺は体が圧倒的な力に耐えられなかったのではと思った。
それ程までにこの力は大きい。
しかし、今はそんなことを考えてはいられない。
俺は普段の三分の一くらい時間の流れの中で、一瞬で全ての状況を把握する。
眼前にはもう『ヘルフレア・バースト』なる魔法が迫っており、後ろは見えないが、気配からシド兄の剣は後頭部から二十センチも離れていないだろう。
だが、この二つを捌くことは今の俺にとっては造作もない。
俺は素早く横にスライドして、シド兄の剣を避けられるようにしておく。
『ヘルフレア・バースト』は『ファイアーボール』ぐらいの大きさの玉だが、当たった瞬間に大爆発しそうなことが見て取れる。
だからこの魔法が爆発する前に斬り刻む。
一閃、二閃、三閃……俺は一秒もないかと思える時間でとにかく魔法を斬る。
そして、魔法は爆発して、あたりは煙に包まれる。
しかし、シド兄は手応えがなかったことで、気づいているはず。
俺はすぐさま後ろを向いて、迫りくる剣を受ける。
だが、先程と同じ力で剣を受けると、シド兄は後ろに吹き飛ぶ。
「行くぞ!」
俺は吹き飛んだシド兄を追いかけるように、飛び出す。
シド兄は既に体勢を整えており、剣を受けようとしてくる。
さっきより更に大きな力で剣を叩きつける。
「ぐぅっ!!」
しかし、シド兄だけにも構っていられない。
後ろから残りの前衛三人が凄い速さで駆けてくる。
俺はシド兄の剣を跳ね上げて、それでできた僅かな時間で三人の相手をする。
振り向きざまにその勢いを生かして、三人の剣を一気に受け止めて、更にそのまま振り払う。
こいつらじゃ、シド兄一人にも及ばない。
そもそも気迫で負けている。完全に俺にビビっているのだ。
だが、俺も油断した。
ギリギリ間に合うかと思ったシド兄の攻撃は俺予想より早く、首筋に迫っていた。
すんでのところで、腕でガード。
当然裂傷ができるが、そのまま腕が落とされるということはない。
「……化物め」
「知っての通り、俺は吸血鬼なんでね。化物だよ」
やはり再生が遅い。
『魔封じ結界』の影響をもろに受けている。
「だけど、君が化物で良かった……レイシア、行け!」
レイシア、おそらく青髪の魔法使いと思われるのだが、そういえば、さっきから魔法攻撃を全く受けていない。
まさか、まだ何かあるのか!?
「高等儀式魔法『封印の御手』!」
『封印の御手』は確か神官の魔法だった気がするが、奴らも使えたのか!?
そうなると俺はかなりヤバイ。
『封印の御手』はその名の通り、神の封印にも匹敵するような魔法だ。
その効果は魔物、悪魔の完全封印。
しかし、高位の魔物、例えば吸血鬼王とか古代竜とかになると、完全な封印は施せないが、魔法の力は凄まじく、普段の十分の一くらいの力になってしまう。
つまり、『魔封じ結界』もって合わせれば、俺は普段の五割ぐらいの力しか出せないことになる。
そして、『封印の御手』で出てきた巨大な光の手を避ける術はなく、俺は『封印の御手』をもろで食らってしまう。
「ぐあぁぁぁ!!?」
痛い、焼ける、溶ける!
神聖な魔法に対する拒絶反応を起こして、全身が爛れるような痛みに襲われる。
何とか痛みは治ったが、力が湧いてこない。
『自動戦闘モードが必要か?』
うっせぇ、すっこんでろ。
『強がらずに体を渡した方がいいと思うぞ?それにエリナは……意外と大丈夫そうだな』
そう、エリナはかつての吸血鬼王の力を取り戻しつつあり、通常時の力なら俺よりも上なのだ。
まぁ一年弱血をごくごく飲んでいれば、そうなるのも頷けるのだが、それにしたって吸血鬼王は強い。
劣化コピーの俺じゃ、いくら特性があるからと言って、基礎ステータスで勝てるはずがないのだ。
『それは置いといて、だ。そのままだと本当に死ぬぞ?』
分かってはいる。
だけど、これは任せては行けない気がするのだ。
自分の手で殺して、自分の目で見つめなければならない気がするのだ。
『なるほど。その心意気は立派なものだ。しかし、私もそろそろ暴れたくなってきた頃合いだ。任せてはくれないか?』
暴れたくなってきたって、そんな単純な理由かよ。
『まぁそれもあるが、何より「限界突破」を使った時の場持ちが違う。この数を強化なしの弱体化した力で乗り越えるのは難しいだろう』
でも、今回は渡す訳には行かない……気がする。
『……分かった……ではその体、乗っ取らせてもらうぞ』
は?おい待て!やめ、ろ……。
『すまんな。冗談抜きで今のお前では勝てんよ。勿論、奥の手を使わなければ私も負ける。ここは私に任せろ』
ぐっ……ダメだ。力が入らない……。
俺はそのまま目を閉じてしまった。




