正しさの在り処
目を開けるとそこは以前の遺跡とは同様に洞窟のようになっていた。
しかし、以前と違うところを挙げるなら、メンバーが私とユリシアさんとグローズさん、ということだろう。
分断は予想の範囲内、落ち着いて行動して行けば、問題ないだろう。
「お、罠ですか。ここは私にお任せください!これでもリッチーなので、固有スキルの『ダンジョンマスター』というのがありまして。私の近くに居れば、罠が発動することはありませんよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて楽させてもらいますね。ミルちゃんももっと近くに来た方がいいんじゃないですか?」
「逆にユリシアさんはもうちょっと離れた方がいいと思いますよ。グローズさん、苦しんでます」
恐らく、勇者パワーとか聖剣のオーラに当てられてる。
「あら。ごめんなさい」
ユリシアさんは慌てて少し離れる。
しかし、これから先、何層か続くであろう、恒例と化すのではと、期待がかかる罠フロアも素通りできる。これは大きいだろう。
どうやら私達のルートは前の遺跡と同じタイプだったらしく、罠フロアが終了すると、ミスリルの残骸がポロポロと落ちているフロアになった。
ミスリルゴーレムは一匹残らず殲滅されているようで、全く見当たらない。
だが、階段前の最後の広間に入ったところで、会敵した。
相手は一人で見たところ武器は持っていない。魔法使いだろう。
相手はいきなり魔法を撃ってきた。
『ファイアーボール』のようだが、デカさと数が普通じゃない。
計九つの隕石のような火球が私達を襲う。
しかし、私の『魔法破壊』に掛かればこんな物、屁でもない。
『魔法破壊』はコンピューターウイルスのような物で、少しでも対象の魔法に混じれば、その魔法は魔力の結合を失い、消滅する。
「全て霧散せよ」
私が唱えると、魔法は魔力の粒子となり、消えて行く。
ユリシアさんは私が『魔法破壊』を使うと踏んでいたようで、既に相手に肉薄していた。
「チッ!」
相手は空間魔法で剣を取り出して、ユリシアさんに応戦する。
どうやら相手は魔法剣士だったようだ。
防がれてなおも凄まじい速さで剣を振るうユリシアさんにグローズさんも加勢する。
しかし、どうやっているのか、トウカちゃんの三倍ぐらいのスピードで剣を振って、二人の猛攻を凌いでいる。
『アイスランス』を差し込んで、援護をしようとするが、それも剣と同じように弾かれる。
それにしても、何の効果でここまで身体能力が上がっているのか全く分からない。
単純にレベルが高く、特性が関係しているのか。
魔法によって身体能力の強化を行っているのか。
それ以外の方法なのか。
今からそれを見極める!
私は戦闘することは一旦二人に任せて、視覚に魔力と必要な魔法、集中力を総動員する。
まず魔力の流れが見える。
魔力は綺麗に全身に行き渡っている。これは戦闘時の基本体勢だ。
もっとだ、もっと奥を見るのだ。
次に見えてきたのが、体に掛かっている魔法。
汎用の身体強化魔法と似ているが、効果が全然違う。
この魔法によって身体能力は汎用の身体強化魔法を使った時の二倍になっている。
もっと、もっと目を凝らして、さらにその魔法がどうやってできているのかを見る。
そして、術式が……見えた!
私は即座に相手の魔法を解析して、魔法を破壊する為に必要な術式の弱点を探す。
これを三十秒で組み上げて、『魔法破壊』に乗せて発動する。
「霧散せよ!」
瞬間、相手の剣を振る速度が明らかに遅くなる。
ユリシアさんとグローズさんの剣が相手の体を切り裂く。
相手も魔法の効果がなくなっていることに気づき、再度、強化魔法を発動するが、無駄だ。
「霧散せよ」
また魔法を破壊する。
その度に相手には傷が増えていき、とうとうグローズさんの剣が相手の胸に突き刺さる。
「ごふッ!!?」
大量に吐血して、そのまま後ろに倒れる。
殆ど即死のようだった。
私達は予め相手を殺した場合の取り決めをしておいた。
死体は出来る限り燃やしてやる、ということだ。
その取り決めに従い、私は『ヘルフレア』を放ち、骨をも溶かす高温で焼き尽くす。
彼が生きていた証が完全になくなったところで私達は次の階の攻略に移った。
そして私達は最下層と思われる階層に着いた。
何故最下層と思ったかというと、今まで各階一人の配置だった、『黎明人類』がこの階になって、二人になったからだ。
「ここに来るまでに全員殺して来たか。流石に冷――」
私は片方が喋り終える前に、残っていた魔力の大半を使って『次元斬』を発動した。
「れ、レイ?レイ!?……き、貴様ぁぁぁ!!よくも、よくもレイを!!!」
余程親密な仲だったのだろう。
残りの一人は我を忘れて、襲い掛かってくる。
最早、私しか見えていないようだ。
相手はユリシアさんとグローズさんを飛び越えて、後ろにいる私の元へ行こうとするのだが、その動きは私の目の前で止まる。
刹那の間に計四回の斬撃を受け、既に剣を握っていない方の腕はなく、腹を三回刺され、胸からは剣が生えている。
「戦場で冷静さを欠くことは、則ち死を意味します」
ユリシアさんの目は世界の為に人を斬る、勇者の目だった。
私は例の如く死体を焼き尽くし、思わずほっと息を吐いてしまう。
「くっ……ミル殿、辛い役目を済まない。本当は私のような大人がやるべきなのに、貴女のような人にやらせてしまっている……」
「いえ、辛くはないです。覚悟してここまで来ていますから。それに私、こう見えても見た目通りの年齢じゃないので、そんなに若くはないんです」
「そ、そうでしたか。それは失礼しました。それでも申し訳ない。あんな形で人を殺すのは気持ちが悪いでしょう」
話の途中で殺すのは確かに胸糞悪いが、一番効率的なのだ。
『次元斬』は性質上、相手が止まった状態でないと、命中しづらいからだ。
「グローズさんが謝ることじゃないです。別に誰も悪くないんですよ。いや、殺すのは悪いことなんですけど……誰が何しようが、ここでは許されてしまうんです。正義も秩序もない、ここはそういう場ですよ」
どちらも殺される覚悟はしているはずなのだ。
それを理解して、両者ともこの場に立っていた。
元々、自分の正しさを証明する術など存在しないのだ。
私が誰かにとっての味方であれば、私は誰かにとっての敵なのだ。
人間が掲げる正義の敵は残念ながら悪ではない。
異なる正義を掲げる人間なのだ。
この世に絶対的な悪はいない。あるのは多数の異なる正義なのだ。
つまりは目線の問題。万人に都合のいい絶対的な正義は存在しないのだ。
例え、それが勇者であったとしても、だ。
そんなことを考えながら、私は一時の休息を取る。




