終焉の時
「あー、久しぶりに表に出た」
体は重いが、まぁ大丈夫だろう。
「流石吸血鬼王の眷属、完全に封印はできないか」
「最初からこれが狙いか?シド兄」
「その呼び方はともかくとして、間違いないよ」
これは完全に分断を操作されたな。
でなければ、ここまで用意周到なのに説明がつかない。
他のチームが無事だといいが、今はそんなことを考えていられない。
「そうか……」
しかし、どうしたものか……。
『限界突破』を使うのは大前提として、それなプラスアルファの強化が必要だ。
私の思念体としてのエネルギーを使えばどうにかなるかもしれない。
私の思念体としてのエネルギーを使うということはそのまま吸血鬼の部分を削るということに直結する。
そしてそれを全て使えば、私の存在と私の吸血鬼性は失われる。
まぁいいか。
元々はあるはずのなかったこの人生だ。
最後は自分の生みの親に孝行するのもいいかも知れない。
だが、私が『限界突破』を使う前にエリナの物と思われる声がした。
思われる、というのは少し声が違っているのだ。
「少し待て、我が配下よ」
声がした方を振り向くと、そこには少しだけ背が伸びて、全体的にスタイルが良くなったエリナがいた。
「お前、エリナか?」
「うむ。此奴らの血を吸っておったら、成長したようじゃ」
なるほど、その手があったか。
『黎明人類』の血を吸ったところで、何も問題はないし、そればかりか吸血行為というのは吸血鬼の力を上げる簡単な方法だ。
エリナからは魔王エリノアと同じような気配が感じられる。
こいつ、ほぼ元通りの吸血鬼王となったか。
その証拠にエリナの周りには干からびた中衛が四人いる。
「わしから力を貸してやる。それで少しはマシになるじゃろう……この結界邪魔じゃな」
エリナが魔力を込めた足で結界を蹴りつけると、そこからどんどんヒビが広がっていき、最後には完全に割れた。
「僕としたことがこの可能性は考えてなかった。まさか倒した敵の血を吸い尽くすとはね」
エリナは私のに力を分けてくれたようで、いつもの二割増しぐらいにはなっている。
『魔封じ結界』が破られたことも入れれば、大分楽になってきた。
これなら勝てるかもしれんな。
「『限界突破』、『生命転換・改』」
ここからは死ぬまでノンストップだ。
何としてでもこいつらを一人残らず殺す。
「行くぞ、シド兄」
「いつでも来なよ」
私は思い切り地面を蹴り、シド兄に肉薄する。
先程ほどの力は出ない。
シド兄の基礎ステータスに届くか届かないかぐらいだろう。
ここから勝負が決まるポイントは戦闘センスのみなのだが、それもタイマンの場合だ。
この戦いでは相手に数の利がある。
このままだと間違いなく負ける。
だが、それでもやるしかないのだ。
斬り合っている内に相手の剣が分かってきた。
大体どの辺に次の攻撃が来るか分かるので、徐々にシド兄を押し込んでいく。
しかし、他の前衛も黙ってはいない。
私は他の前衛の相手をしている内に捌き切れないダメージを蓄積していく。
よし、ここだ。
私はスカーリアの禁書閲覧室にあった魔法書で習得した魔法を使う。
「『カウンター』」
私は前衛の一人に向けて蓄積したダメージの分だけ攻撃力に変換する『カウンター』を使用する。
『カウンター』を使った剣撃は相手の剣を折って、そのまま相手の体を袈裟懸けに大きく斬る。
こいつはもう動けないだろう。
「まず一人」
「まだそんな隠し球があったとはね。いやはや、君には驚かされるな」
とは言いながらも、まだまだ余裕のありそうなシド兄。
まぁ体が弱体化しているせいで、ほとんど傷が治らないし、依然として数の利が向こうにあることは変わってないからな。
そして、私の隠し球はもう存在しない。
スカーリアで習得した魔法で、効果的な物はないのだ。
「でも、もうさっきの様には行かない。君の剣はもう読み切った」
シド兄にはシドのような超人的な魔法の才能はない。
そして、私が見たところ、剣の才能は一流だが、超一流という訳でもない。
だが、そんなシド兄が『黎明人類』のまとめ役をやっているのにはしっかりとした理由があるように見える。
一つは集団をまとめ上げるカリスマ性と作戦指揮能力の高さだ。
魔法を使うように指示するタイミングも全て完璧だった。
そして、もう一つは愚直なまでの剣の鍛錬と執拗で盲信的な剣への愛。
これによって戦闘センスでは負けるはずのない私より先に相手の剣を読み切っている。
これはもはや剣聖どころの話ではない、剣王だ。
「さぁ、どこまで耐えられるかなッ!」
こちらの守りの薄いところを的確に狙う完璧な剣技。
流石にこれは返せない。
「どうしたんだいッ!さっきから全く返ってこないじゃないか」
「ぐ、うっ……!」
なんという剣の冴え……全く私の剣が入らない。
またダメージが蓄積してきて、さっきと同じ威力の『カウンター』が撃てる状態ではあるが、上手く受け流されてしまう気がする。
少し周りを見てみると、他の前衛はエリナの対処に当たっていた。
どうやら、中衛のリーダー格を下したようで、中衛は壊滅、これによってエリナが後衛に殴り込まないように前衛がフォローしているようだ。
さっきから魔法が飛んでこないと思ったが、後衛は全てエリナの対処に当たっているようだった。
これはもう少しの辛抱かもしれんな。
「何よそ見しているんだいッ!一生懸命守らないと死んじゃうよ?」
しかし、本当にどうしたものか。
これはもうどうやっても勝てないだろう。
そして、私の存在も徐々になくなってきている。
つまり、それは吸血鬼性もなくなってきているということだ。
そうなるとますます再生力が落ちてくる。
悪循環だが、これが最善手だ。
もし、一瞬でも『生命転換・改』を断ち切ろう物なら、辛うじて保っていた均衡が一気に崩れて、シド兄の攻撃をもろに喰らうことになる。
「……これで終わりかな?」
剣ばかりに目がいっていたせいで、私はシド兄の綺麗な跳び蹴りを頭に喰らう。
や、ばい……意識が、飛、ぶ……。
「……はっ!?」
気がついた時、私はまだ剣を振っていた。
「素晴らしい根性というか意地だね。君、気を失っても僕の剣を受けていたよ」
危ない、危ない。
そこまでの時間は経っていないようで、せいぜい三十秒といったところだろう。
まさか入れ替わっていたのか?
まぁそんなことはどうでもいい。
今はとにかくシド兄に集中だ。
しかし、丁度その時、体から力が抜けてしまった。
「な、に……!?」
「とっくに限界は来ていたんだよ。自分の体を見てみなよ」
体はボロボロで各所から血が流れている。
思ったより私は吸血鬼の再生能力に頼っていたようだ。
だが、これしきで負ける訳にはいかない。
「ふーん、まだ立つんだ。いいよ、今度こそ殺すから覚悟してね。楽に殺してあげようと思っていたけど、というか思っているけど、手元が狂って上手く行かないかもしれないから、そこんとこよろしくね」
「随分な自信だな。言っておくが、私も今しがたお前の剣を見切ったからな?」
「それは楽しみだ」
シド兄は一気に駆け寄ってくる。
私はしっかりと剣の動きを予想して受けようとするが、シド兄は剣術の型を変えてきた。
それでも剣のクセというのは意外と変わらない物で、全く予想できないということはない。
しかし、自分で思っていたよりも自分の体の傷はかなり大きい。
読んでも読んでも、体がついていかないのだ。
そして、剣戟を再開してから、十分程経ったところで、とうとう足が言うことを聞かなくなってしまった。
より一層体の傷は増え、今にも倒れそうだ。
「ふぅ……君、しぶといねぇ。本当に予想外だったよ。ここまで手こずらされるとは思ってなかった。だけど、これで本当にお終いだ。さよなら、剣士くん」
すまん、私よ。
どうやらここで本当に終わりのようだ。
だが、私も最後は一矢報いるぞ。
シド兄が剣を振り上げた瞬間、私は『生命転換・改』の出力を限界まで上げ、最後の力を振り絞って立ち上がる。
そのまま振り下ろされる剣に剣を下から振り上げ、シド兄を仰け反らせる。
「『カウンター』!!」
私は左手の拳でシド兄の顔面を思い切り殴る。
鼻骨ぐらいはやったかな?
私はそのままそこに倒れ込む。
「プッ……中々いいパンチだね。まだ僕の剣を弾ける程の力が残っていたとは思わなかったけど、結局僕を倒せなかったんじゃ、変わらない。今度こそお終いだよ」
ああ、もっと色々してやれたんじゃないかと思えてくる。
最初に暴れた時、スカーリアで暴れた時、色々なことが頭に思い浮かぶ。
これが走馬灯とかいうやつか。
何より本当に申し訳ないのはアイツだ。
私はアイツから無理矢理体を奪ってしまったが、あんなのが最後だとはアイツも思わなかっただろう。
願わくば、来世で幸運があらんことを。
だが、そこで剣と剣がぶつかり合う音が私の耳に届く。
なんだ、来てくれたのか。
「待たせたな。我が配下よ」




