竜の試練
到着した遺跡はこの前の遺跡とは全く違う感じだった。
貴族勲章を見せると遺跡前に居た警備の人は簡単に通してくれた。
警備の人によると、ここしばらくは誰もここに入っていないらしい。
中の様子は以前の遺跡のように突然転移させる系の悪質な物ではなかった。
しっかりと魔法陣の前に注意書きが書いてあった。
『ここから先に入る者、覚悟を決めよ。覚悟なき者は今すぐ去れ』
文言は恐ろしいが、これぐらいでビビっていては、これから待つ地獄を突破できない。
「じゃあ、皆行くぞ」
俺達は普通に魔法陣の中に入る。皆覚悟は決まっているのだ。
魔法陣に入って十秒ぐらいしたところで、俺達は転移時特有の眩い光に包まれた。
目を開けるとそこは以前の遺跡とは同様に洞窟のようになっていた。
しかし、以前と違うところを挙げるなら、メンバーが俺とエリナの二人だけ、ということだ。
分断されるのは予想の範囲内だ。
食糧も十日分、皆魔法の袋に入れて持っているし、魔力ポーションなども入れてある。
「よりにもよってお前か……罠関係のスキルを持ってる者は分かれた方が良かったんじゃがのう」
「まぁ仕方ないだろう。他がどんな感じになったかは分からないが、俺達は俺達で進むしかない」
「そうじゃな。では行くとするか」
さっさと行ってしまいそうなエリナの首根っこを掴み、俺はエリナのつま先の十センチ先を指差す。
「……ありがとう」
開始三十秒でもう最初の罠だ。本当に先が思いやられる。
二階層下がったところで、罠がぴったっと止む。
またゴーレム地獄かと思いきや、今回は違うようだ。
三階層は小さな部屋が一つあり、先は行き止まり。
しかし、部屋の中央には一つの本が置かれていた。
「これ、いかにもだけど、開いてみるしかないよな?」
「それしかあるまい。他に何もない行き止まりなんじゃからな」
俺はエリナの承諾を得て、本を開く。
すると、また眩い光が俺達を包み込んだ。
『我は三層を守護する者。汝等には二つの選択肢がある。一つ、我と勝負し、力を見せよ。さすればその力に応じて、大きく歩みを進めることが出来るであろう。二つ、勇気がない者は今すぐ立ち去れ。そのまま四層に進むが良い』
目を開けると、そこに居たのは巨大な黒い竜。
いきなり二つの選択肢を突きつけて来やがった。
「これどうするよ?」
「もしかすると此奴を殺せば、最下層までひとっ飛びかも知れんぞ?」
そうなんだが、大きく進めるとか言っておいて、三階層分とかだけだったら、マジで萎えるからな。
「おい、竜。力に応じてというが、何をすれば最大で何層進めるんだ?」
竜は悠然とした佇まいのまま、ゆっくりと喋り出す。
『我の体は並みの力では傷一つつかぬ。まず我の体に少しの傷でもつけられれば、三層分。次に我が出血すれば、六層分。最後に我の体の一部でも切断出来れば、最下層まで歩みを進められるであろう』
なるほど。
これは手っ取り早く『次元斬』で爪先でも切り落として、最下層まで進んでしまおう。
「エリナ、始まったらすぐに『次元斬』だ。いいな?」
「……ハヤト、お前爪先でも切り落とせばそれでいいとか思ってるじゃろ?」
「別にいいだろう?向こうが一部でいいって言ってるんだから」
するとエリナが不敵な笑みを浮かべて、
「それでは締まりが悪い。今のわしの力ならあの小さい腕ぐらいなら切り落とせる」
エリナさん、カッケー。
あの『青眼の○龍』のような腕を切り落として見せてくれるようだ。
まぁ足を切るよりは簡単だろうけどね。
「竜よ。一つ目の選択肢、お前と勝負の方を選ぶ」
『……承った。我はこれより二十秒動かぬ。それまでは自由に攻撃するが良い』
おっと?そんな発言しちゃっていいんですか?
「エリナ、やれ」
「言われずとも。『次元斬』」
『ぬぅっ!!?汝の魔法、今まで見てきた者の中でも飛び抜けておる……良かろう。汝等は間違いなく進む資格ある者。我の力で最下層まで送ろう』
何故腕を切り落とされてそこまでピンピンしている。
むしろ切られる前よりも生き生きしてないか?
「いや、少し待ってくれ。ここで一日休んで行ってもいいか?」
あんまり早く着きすぎても誰も居ないかも知れないから、ここらで休んで行きたいのだ。
『うむ……まぁいいだろう。好きなだけ休んで行くがいい。出発の時にまた呼べ』
一瞬迷う素振りを見せたが、すぐに承諾してくれ、そのまま寝てしまう竜。
ていうか腕そのまま?
「という訳で、ここで少し休んで行こう」
「分断された時の作戦では最下層には万全の状態で挑むと決めたからのう」
疲弊したまま、最下層に行き、そこに『黎明人類』が居たら、目も当てられない。
だから万全の状態を期すようにと決めておいたのだ。
「じゃ、テントの設営手伝ってくれ」
「了解じゃ」
俺達は決戦に向け、準備を始めた。
『黎明人類』はもう近い。




