97話
今回はちょっと短めです。
ヘムジンさんの判断へとりあえず様子見ということになり、数日後俺は久しぶりにフィールドに出ていた。最前線がノアンになってからほとんど攻略に出ないでのんびりしていたおかげでダイモンさんたちとは進行度が離れてるみたいだけど、まあいいか。
今日来ているのはノアンから北の方角に広がる【北の大森林】という場所だ。グリスの樹海ほどではないが、そこそこの広さを持つこの森は魔王軍の領土の入り口のような扱いをされていて、この森を抜ければ本格的に魔王軍の部隊との戦闘が始まっていくらしい。
「それにしても、一気にモンスターのレベルが上がったね」
「流石は魔王軍の支配下というところでしょうか」
俺の後ろでのんびり待機中のアガサと遠くから向かってきたモンスターを狙撃中のユリアさんの会話が聞こえてくる。
「ユリアさんはともかく、アガサも仕事してよ」
「えーだって、キントウ普通に問題ないじゃん、むしろオーバーキルじゃない?」
「だから基本点棒を使ってるんだろ、支援魔法のあるなしじゃ結構違いがあるんだよ」
俺はこの森に来たのは初めてなので、白無しでどこまで通用するのか半ば腕試しのような感じだ。ユリアさんが言った通り、いざ魔王軍の領土に入ってモンスターのレベルが全然違っていて驚いた。
単純なステータスだけじゃなくて行動パターンやモーションなんかも複雑になっていて、なかなか動きが読めない。
今倒した狼型のモンスター《クレイジーウルフ》も他の狼型モンスターとは比べ物にならないくらい速かった。今回は単体だったから余裕だったけど、複数で囲まれたら危ないかもしれない。
「魔王復活の影響でモンスターが凶暴になってるって要塞の兵士も言ってたしな」
そろそろ白に任せた方がいいかもしれないな。武器とかで殴られたりするのはあまり怖くないんだけど、噛み付かれたりするのは未だに慣れないな、噛み跡とかをリアルに想像しちゃうと、ちょっと気持ち悪くなる。
その日は森の中を2時間ほど歩きまわってギルドに帰った。やっぱり一番心配なのは攻略よりもギルドの方だろう。ヘムジンさん達は楽観視してたけど、直接見てきた者としてはかなり心配だったりする。
あの集客数を見せ付けられるといくら開店日だったからとはいえ、しばらくはあれくらいの数のお客はガネーシャさんの店に流れるだろう。
「帰りましたーって、あれ?」
入り口のドアを開けて中に入ると、そこにはいつもと変わらないくらいの客入りのクランキーズだった。まだ夕方ごろなので、女性プレイヤーが多めで、サツキさんがそそっかしくウェイトレスの仕事をしている。
「キントウさん、おかえりなさい」
「あ、はい、ただいまですけど……ヘムジンさんは?」
「たぶん3階にいらっしゃるかと」
サツキさんに礼を言い、ユリアさんとアガサの2人とも一旦別れ、3階に上がる。
3階にはサツキさんの言った通り、ヘムジンさんがソファに座ってくつろいでいた。ソファの正面に置いてあるテーブルの上にはポーションのビンが2つ並んでいる。どちらも普通のポーションのようだけど、何か意味でもあるのかな。
「ヘムジンさん何やってるんですか?」
「あ、キントウ君おかえり。これ? まあ見てみてよ」
差し出された2つのポーションを見比べてみるが、多少の数値の差はあるものの、大して違いは無いように見える。もしどちらかを使うとしても、俺はどっちでも構わないくらいだ。
「これがどうかしたんですか」
「その右のポーションはさっきあっちの店で買ってきたやつだよ。左はマリオちゃんが作ったやつ」
「へぇー、ミナモトさんが」
確かに右手に持った方が若干数値的には劣っている。でも、戦闘中だったら誤差くらいの差だ。思っていたよりレベル高いのかなミナモトさんって。
「僕も見てきたけど、あのお店は長持ちするかな?」
「それってどういう意味ですか」
なんであんなにお客が集まってるのにいきなり店が続くか、なんて言い出すのかまったくわからない。
ヘムジンさんは余裕の表情だ。ほぼ同じ数値で値段があっちのほうが安いんだから普通ならミナモトさんの店に客は行くだろう。
なのに、あの余裕。まったく変人の思考は理解が出来ない。




