98話
誤字脱字等ありましたら、よろしくお願いします。
しばらくして、たまたまガネーシャさんのギルドの前を通りがかると、最近は珍しくなくなった順番待ちの列が見えた。並んでいる客の装備からしてやはり中レベル層のプレイヤーが主な客層のようだ。
「ん?」
列の横を歩いていて気が付いたのだけど、ここ最近になってから列が増えてきているような気がする。
もちろんお店はまだまだ人気みたいだし、話題としてもまだ鮮度は落ちていないのだけど、普通だったら一旦は客足が落ち着くはずなんだけどな、クランキーズも例外じゃないし。
クランキーズの経営を近くで見ていて、最初は話題で客が集まるだけで、その後からが本当の店の実力なのだと俺は理解した。結果、うちの店はそれなりに儲かってるし、マリオの店も余裕は十分にある。
そう考えると、ガネーシャさんの店はこれくらいの集客力があるということなのだろうか。ガネーシャさんからの説明を聞いた限りじゃ利益最優先みたいな印象だったけど……
「まあ、いいか」
うちはうち、余所は余所だよな。隣の芝生は青く見えるって言うし、幸いにもあっちの店が開店してからのクランキーズとポーション屋の売り上げが落ちたのも最初の2、3日だけだったし、お互いご近所さんとして上手くやっていこう。
それから数日経って、またガネーシャさんのお店の前を通ると、以前よりもさらに巨大化した待機列が形成されていた。どうしてもこの店で食べたいという人が多いんだろうか。
確かにこの店の料理の値段は他のお店に比べれば結構安いし、NPCが売ってるものよりも効果が高い。
その点では何かと物入りな低・中レベルの人たちにとってはありがたいんだろうけど、回転率の良さと収容数の多さがこの店の売りだったはずなんだけどな。
ギルドに帰った時に一応ヘムジンさんに報告しておくことにした、そういえばこの前にヘムジンさんは何か言ってたよな。もしかして何か知ってるんじゃないだろうか。
「ガネーシャの店の列が増えてる?」
「ここ数日で一気に膨れ上がってますよ。何か知ってるんじゃないですか?」
「うーん、やっぱりかなぁ」
俺の報告を聞くなり1人で唸り始めるヘムジンさん。やはり何か気付いているっぽいな。
そこで何がやっぱりなのか聞いてみると、意外とあっさり教えてくれた。
「まずはこれを見てみて」
現れたのは円グラフやら折れ線グラフやら複雑そうに見える複数のグラフ。大雑把に見てみると、クランキーズの売り上げとか来客数とかのグラフみたいだ。
「これが何なんですか?」
「見れば分かると思うんだけど、経営っていうのは需要と供給のバランスが大切なの。例えばマリオちゃんのポーションが人気だから今日は多めに作っておこう、とかね」
「なんとなくならわかります」
店側は出来るだけ沢山売りたいし、客側は欲しい物を手に入れたい。店側が多く準備し過ぎれば売れ残っちゃうし、客が多すぎたら商品が足りなくなる。このバランスが大事っていうことだろう。ちょっとは社会の授業で習ったから俺でもだいたいなら理解できる。
というか、ヘムジンさんこんな物作ってるんだ。仮にもギルマスだからいくら変人だとはいえ、やることはやってるのかな。むしろこういうことが好きなんだろうな。効率のいいお金儲けの方法とか。
「それで、多分今のあの店の状況は需要が多い割には供給が間に合ってないんだろうね。だから列が増えていくんじゃないかな」
料理の効果が高くて安い店なら多少並んでも食べたいっていう人が増えてきてるのか。それで日に日に客が増えてるんだな。
だけどここでちょっと疑問に思うことがある。
「でもいくらなんでもあの増えかたは異常ですよ」
数日で倍近くまで列が増殖するなんて、いくら掲示板で大々的に宣伝していたからとはいえ違和感があり過ぎる。
ところが、ヘムジンさんはこちらについても何か訳を知っている様子で、「うーん」と唸ったままだ。
「やっぱり何か知ってるんですね」
「ここからは完全に推測だよ?」
「構いません、聞かせて下さい」
ここまで来た以上、聞かずには終われない。あの店の謎を解いてみせるんだ! 俺だってユリアさんの助手として働いてきたんだから多少の推理力は養われてるはずだ。あ、でもヘムジンさんに聞く時点で意味無いか。
あまり人前で言いたくないから、とヘムジンさんは俺の耳元で簡潔に一言で説明してくれた。
「たぶんだけど──」
「……マジですか?」
△ ▲ △ ▲
~数日前、Sword And Pot開店当日~
「ふっふっふっ、遂にこの日がやって来たか」
俺が今立っているのは今日開店する俺のギルド兼店舗の前だ。おっと、自己紹介がまだだったな、俺の名前はガネーシャ。このゲームという名の世界で億万長者になる予定の男だ。
ゲームのサービス開始から数ヶ月が経ち、いくつものギルドが設立された。基本は戦闘職がゲーム攻略の為や生産職仲間で立ち上げるギルドが大半だが、中にはヘムジン商会とかいうよく分からないギルドも存在する。
まぁ俺の設立するギルドも同じような感じなのだが。俺のはあんなギルドとは違って、もっとビッグで壮大なスケールを持つギルドだ。
これの為にゲーム開始時から節約を繰り返し、最低限の金でここまで生活してきた。時にはカジノで危ない橋を何度も渡ったりした。
ギルドハウスを買う金に、畑を買う金に、メンバーを引き抜くための金。ありとあらゆるところに金が掛かった。
途中で何度も挫けそうになった、もう諦めて普通に楽しめばいいんしゃないか?
しかし俺はやり遂げた! メイカーの通りに面した大きな物件を買えたし、引き抜いたメンバーは大勢。
しかも超レアな【調薬】持ちのプレイヤーも引き入れることが出来た。これならあのヘムジン商会にも対抗できる!
そして開店時間がやって来た。店の前には長い列。みんな俺の店にやって来た客だ。
ついに入り口のドアが開かれ、客が雪崩れ込んでくる。ある客は早速料理を注文し、ある客は2階に向かってダッシュしていく。 どいつもこいつも金を落としていってくれる大事な客だ。第一印象が大事っていうし、気を引き締めなければ。
掲示板での宣伝の効果もあってか、開店から数時間経っても客足は衰えるどころか列が大きくなっている。ギルドのメンバー数人に列の整理をするよう指示した後、監督の為に店内を歩き回る。
「ん、あれは……ヘムジン商会?」
奥のテーブルに座っているのはあのヘムジン商会のアイドル、アガサと何か変な奴、キントウだ。あと1人は……よく知らん。とにかく話しかけてみるか。
「おや、そちらにいらっしゃるのはもしかすると、あのヘムジン商会の方ではないですか?」
俺が少し離れたところから声をかけると、キントウが首をキョロキョロ振って声の主を探し出す。俺は客の間を縫って彼らに近付いていった。
「はじめまして、自分はこの「Sword And Pot」のオーナーを務めております、ガネーシャと申します、以後お見知りおきを」
始めが肝心だ。ここは余裕があるところを見せ付けておかないと、いずれは戦闘班でも商売敵になる相手でもあるしな。
その後キントウに店の中を案内し、彼は自分のギルドへと帰っていった。
何かミナモトさんと話していたようだけど、知り合いだったのか? まあ構わないか、これでヘムジン商会に挨拶は済んだ。あとは億万長者への道を進んでいくだけだ。
数日して、数人のメンバーがギルドを脱退したいと言ってきた。もちろん強制は出来ないし、まだ人数はいる。去るものは追わずだな、このギルドにいれば金には困らないのにもったいない奴だ。
それと、そろそろ攻略の為のメンバーも本格的に動き始めないと、今までは生産系の方に掛かりきりだったからな。
さらに2、3日して、またしても数人の生産職のプレイヤーがギルドを去っていった。ここ数日で十数人の生産職がいなくなってしまった。そろそろ人数的に厳しくなってくるな、新しく募集をかけるか。
窓から見える店の入り口には相変わらず列を成して待つ客の姿。始めは単純に来客数が多い所為だったが、今は調理するプレイヤーが不足しているからであり、需要に対して明らかに供給が間に合ってない。
回転率を上げるために収容数を増やしたのが裏目に出たようだ。
「どれもこれも人が辞めていった所為だ!」
苛立ち紛れに壁を蹴りつけるが、俺の足に痛みが走るだけ。なんでみんな辞めていくんだ? 最初はあれほど乗り気だったのに!
それよりもこれからどうする? 畑で生産しているポーションの素材も生産が追いついていないし、武器防具を作るための材料も不足してきた。あれほどあった金もいろいろ買った所為でほとんど貯金はない。
今だって1階の収入でその日の店を回している自転車操業状態だ。これだっていつか止まってしまうかもしれない。ただでさえ調理できるプレイヤーが減っているというのに。
またしても数人が辞めた。彼らが言うには「キツ過ぎる」らしい。確かに今思えば、大勢の客の料理をジャンルごとに数人で対応するのだ。客が増えれば増えるほど調理する側の負担は増えていく。
利益を優先してきた反動でプレイヤーたちには大きな負担がかかっていたようだ。俺はただ経営するだけの立場だったから実際に働いている人たちの気持ちが分かっていなかったみたいだ。
もっと早くに気付いておけばまだマシだったが、時既に遅し。半分以上の生産職が辞め、戦闘班のメンバーもそれに連動するかのように去っていった。まるで沈んでいく船から逃げるかのように。
残ったのは数十人のメンバーとミナモトさんだけ。これではあの店を回すことは出来ない。Sword And Potは事実上の倒産だ。
「くそっ、こんなハズじゃ無かったのに……」
閉店後、客のいなくなった1階の席に腰掛け、頭を抱える。まさかこんな早く終わってしまうなんて。どれだけ時間をかけてきたか分からないのか?
誰かが近付いてくる気配を感じ、顔を上げるとミナモトさんが2階から降りてくるところだった。
「あの、また辞めたいって人が」
「そうですか、了承しといてください」
ミナモトさんはサブギルマスなので、加入・脱退の権限も持っている。
明日からどうすべきか、まずは規模を小さくするか。畑とか売って資金を集めないと。
いろいろやらなければならない事が頭の中に浮かんできてグルグルと渦巻く。ゲームってこんなに辛いものだったっけ?
と、まだ人の気配が残っていたのに気が付き顔を上げるとミナモトさんが悲しげな表情で俺のことを見ていた。
「あの、ガネーシャさん、大丈夫ですか?」
「えっ?」
「ここ最近ずっと浮かない顔してますよね、やっぱりギルドのことですか」
図星を付かれ、言葉に詰まってしまう。俺の沈黙を肯定と受け取ったのかミナモトさんは話を続ける。
「差し出がましいかもしれませんけど、お店の規模を縮小しませんか? ガネーシャさん才能はあるのにこんな所で止まってちゃ勿体無いですよ。私、いつかポーションのお店を持つのが夢なんですけど、手伝ってくれませんか?」
「ミナモトさん……」
天使だ、天使がここにいた!
そうだよ、下手に手を広げすぎたからこんなことになったんだよ。彼女がいれば需要は生まれるんだから場所さえ被らなければいくらでもポーションは売れるじゃないか!
よし、そうなったら俺もこの沈みかけの船から降りないと。まずは土地その他を売り払って──
△ ▲ △ ▲
ヘムジンさんから話を聞いた数日後、予想通りガネーシャさんの店は潰れた。と同時にその店を引き払い、畑なども全て売ったそうだ。
そして、その翌日には始めの街に新しくポーション屋が開店した。初心者たちの為に格安で質の良いポーションを提供してくれると瞬く間に話題になった。
店主はミナモトさんということになっているけど、陰ではあのガネーシャさんが動いているとかいないとか。




