95話
誤字脱字等ありましたら、よろしくお願いします。
「あ、あのー、それってどういうことですか」
隣の通りに新しい店が開くといっても、それは別のプレイヤーが店を出すということなのか、それともヘムジン商会が店舗を増やすという意味なのか、どっちとも取れそうな言い方だ。
話の意味が分からずに動揺を隠せない俺とは反対に、マリオは何か心当たりがあるようで、ユリアさんの話を聞いてすぐにウィンドウを開いて操作していた。
「マリオちゃんは少し知ってるみたいだね。もちろんキントウ君にも説明するから」
ヘムジンさんが目配せすると、ユリアさんが再びしゃべり出す。
「まずはこちらをご覧下さい」
そう言ってユリアさんが見せてきたのは一つの画面、掲示板のとあるスレッドのようだ。見たところ、ギルドの勧誘や宣伝用のスレッドらしい。
その中で一際目立っている書き込みがあった。新ギルド発足の宣伝と勧誘を兼ねた書き込みだ。
355 :ガネーシャ
ギルド「Sword And Pot」 現在もメンバー募集中です、戦闘系と生産系を兼ねたギルドとなっています。また近々メイカーにギルドハウス兼店を開店することになりました、開店当日には素敵なプレゼントも用意しておりますので、是非ご来店下さい。詳しくはこちら! [URL]
張ってあったURLをクリックすると、メイカーの地図が表示され、新しく開くと書いてあった店の場所がマークしてあった。確かにうちのギルドのある通りの1つ隣の通りに開店するみたいだ。隣のマリオも同じ画面を見ているらしく、「ホントだ……」と呟いている。
「このガネーシャっていうのが、ギルマスですか」
「そうだろうね、ヒンドゥー教の商業の神様の名前らしいよ」
商売繁盛の意味も込めてそのプレイヤーネームしたのか、始めからこのゲームで商売する気満々だったってことか。
画面をスクロールしていくと、少し先に同じくガネーシャさんの書き込みがあり、詳細な開店日時決定のお知らせが宣伝されていた。明日の朝11時からの開店だそうだ。
「俺はこの人の名前初めて聞いたんですけど、ゲーム内では有名なんですか?」
「少し前まで生産系のギルドのギルドマスターを務めていたようですが、解散したようです。ジョブは【経営者】という店舗などの経営に特化した生産職ですね」
ユリアさんが答える。そんなことまで分かるのか。
それに戦闘系と生産系の両方を兼ねるっていうのも気になる。このゲームはジョブによって出来ることがはっきり分かれるからギルドも戦闘系と生産系の片方専門がほとんどだった。
だからこのギルドみたいなのは結構珍しかったりする。それについて聞いてみると、
「人とお金があれば出来なくもないよ? 実際にうちだって一応両方やってるし」
マリオちゃんやレイのおかげでお金には不自由しないからね、と付け加えるヘムジンさん。
「そして、明日の開店日に誰かに店の様子を見に行って貰いたいのですが」
「敵情視察ってやつか、俺が行こう」
「ボクも行きたいっ!」
マスターとアガサの2人が手を上げる。この2人が揃うと騒がしくなりそうな気がしなくも無いんだけど。アガサが何かして、それにマスターがツッコんで更に騒がしくなるっていう負の連鎖ね。
「あー、じゃあキントウ君もついて行ってくれる? 明日はクランキーズ開くから。マスターはすぐに帰ってきてね」
というわけで、明日俺もその店に行くこととなった。
△ ▲ △ ▲
翌日、ログインし、ギルドの3階から1階のクランキーズに降りてみると、いつもよりお客が少ないように見えた。カウンターに控えるマスターも心なしか暇そうにしていた。
「おう、来たかキントウ」
「やっぱりお客が少ないな」
「掲示板では相当宣伝してたみたいで、話題だったらしくてな今も待機列が出来てるらしい」
それを聞いてω姐さんたちのお店の開店の時を思い出す。あの時も人がいっぱい居たっけ。
今、店でウェイトレスをしているのはユリアさんとアガサで待機列にはサツキさんが並んでくれているらしい。本当はアガサが並ぶ予定だったんだけど、ヘムジンさんの判断で交代させられたとか。
何十分か待っているとサツキさんからメッセージが届いた。もう少しで中に入れるところまで列が進んだそうだ。
お客が少なくなったタイミングを見計らってお店をユリアさんに預け、3人で隣の通りに向かう。
マスターの言った通り、こっちの通りには長い待機列が生まれていた。その列を辿っていくと1つの建物が見えてきた。
外観はシンプルに「Sword And Pot」の名前の書かれた看板が掛かっていて、入り口は大きな両開きの門のような扉だ。テーマパークにあるレストランみたいなのに近いかもしれない。
今はその入り口が全開になっていて、片側には待っている人たちが並び、もう片側からは食べ終えたらしいプレイヤーが出て来ている。
「なんじゃこれ」
「おいおい、マジかよ」
「おっきいね……」
その店舗兼ギルドハウスを見上げて思わず呟いてしまう。
店のサイズがうちより数倍大きく、クランキーズが喫茶店だとしたらこっちは大型レストランといえばいいだろうか。それが5階建になって俺の前に立ちはだかっていた。
「キントウさーん! こっちです!」
俺を呼ぶ声の方を見ると、列の中に並んだサツキさんを発見した。目立たないようにするためかメイド服ではなく、ジャージみたいなのを着ていた。たぶんレイさん製。
「サツキさん、ありがとね」
「いえ、では私はこれで」
サツキさんがいたところに俺たちが入り、順番が来るのを待つ。
と、そこでマスターがイベントリから何かを取り出した。
「一応着けておくか?」
差し出されたのは黒縁のメガネ、変装用に使えということだろう。何の為に変装するのかは疑問だったが、着けておくことにする。
しばらくして俺たちの番が回って来た。
係の人に案内されて中に入ると、そこには想像以上の風景が広がっていた。
まず、入ってすぐの1階部分が食事ができる店になっているようで、フロアを丸々1個使っていた。フロアの中心辺りにはテーブルが大量に配置され、相当数の客が一度に食事できるようになっている。
ここで何が食べられるのかと思い、首を回してみれば、壁際にはいくつものカウンターが並び、向こう側では調理系ジョブのプレイヤーが大勢いて料理を作っている。
そこで目に付いたのが、各カウンターの上に掛かっている看板だ。
【和風】【洋風】【デザート】【飲み物】などさまざまさ種類の看板があり、その横にはメニューも表示されている。
お客自身が食べたい料理のあるカウンターまで向かって直接受け取る方式のようだ。それのせいか、ウェイトレスやウェイターがほとんど見当たらず、反対にお客が多く歩き回っていた。
「なんか、凄いな」
「食堂って感じだね」
「どんな味が食べてみるか」
開いている席を見つけて座り、それぞれ食べたい物を取りに行く。俺はちょうど人が少なくなった洋風のカウンターに向かった。
メジャーな物から初めて聞くような料理が並ぶ中、俺はその中からカレーを頼んだ。
想像よりも安かった料金を払って受け取ったカレーを持って席に戻ると、既にアガサとマスターは先に戻ってきていた。アガサはショートケーキ、マスターは自分の専門だからか、コーヒーを数種類買っていた。
いただきます、と言ってからそれぞれ食べ始める。皿の上に盛られた半分白米、半分カレーというオーソドックスなカレーを一口食べてみる。
「うん、美味い」
「こっちも美味しいよ」
「ま、まあこんなもんだろ」
いつもながらゲームとは思えない味だ。中に入った野菜や肉の食感もしっかりしているし、カレー自体もスパイシーで食べ応えがある。
美味しいんだけど、なんか初めて食べたような気がしない。どうしてだろう、市販のカレーの味ではないし気のせいだろうか。
「おや、そちらにいらっしゃるのはもしかすると、あのヘムジン商会の方ではないですか?」
ふいに、どこからか知らない声が聞こえてきた。
どこから聞こえてきたのかと探していると、フロア内を行き交うお客の間を縫って1人の男性がこちらに近付いてきた。
「はじめまして、自分はこの「Sword And Pot」のオーナーを務めております、ガネーシャと申します、以後お見知りおきを」
そう言ってガネーシャと名乗った男は芝居がかった仕草で深々と頭を下げた。




