79話
誤字脱字等ありましたら、よろしくお願いします。
夜の樹海よりもなお暗い文字通り闇の中をゆっくりと進んでいく。
足元を照らしていた月明かりも途絶え、まさに一寸先は闇の状態を地で行く洞窟の中はカツン、カツンと足音だけがやけに大きな音で鳴り響いている。
「ね、ねぇ、何も見えないけどみんないるよね?」
「ちゃんと服の裾を掴んどけよ」
ユリアさん曰くこの洞窟、松明等の照明アイテムは存在するらしいのだが、効果が無いらしいので、こうしてはぐれないようにお互いの服の裾を掴みながら洞窟内を進んでいる。この情報もユリアさんが準備中に見つけてきたものだ。ユリアさんマジ有能過ぎる!
「情報では、一本道なので迷う危険は無いようですが……」
「あー、そろそろ行き止まりかなぁ?」
「ネコネコさん見えるの!?」
「ちょっとだけね。たぶんジョブ補正みたいなやつかな」
思わぬところで能力を発揮したネコネコさんのジョブ補正とやらで行き止まりまで辿り着いたことを知った。じゃあここら辺の何処かにキュレの花が?
キュレの花がどういう形をしているかは知っているがどういう風に生えているかは知らないので、真っ暗な中手探りで探してみる。エスカペ草みたいなのがいる以上、どういう状態で生えていてもおかしくないからな。
壁をペタペタ触ってみたり、足元に目を凝らしてみるがそれらしいダイヤ型の花は見つからない。唯一少しだけ見えるネコネコさんも探しているがまだ発見できないみたいだ。
一分ほど探していると、ふいに目の前に青白い光のような球が浮かび上がってきた。ユリアさんが何かアイテムでも使ったのかな。
「おっ、灯りだ! ユリアサンキュー!」
「いえ私は何も使用しておりません。アガサ様が使ったのでは?」
「ボクはユリアが使ったんだとばかり思ってたんだけど……」
それぞれの顔を照らす青白い球は胸くらいの高さでフワフワ浮いていたかと思いきや、突然四つに別れ、俺たちを囲むように散らばり、正方形の形を作る。慌てて囲いから出ようとするが、見えない壁のようなものに阻まれ四角の囲いの外に出ることが出来ない。
「ちょっと、何これ!?」
「まさかトラップか?」
慌てるネコネコさんが目の前に居て……って、気付けば囲いの中はぼんやりと明るくなっていていることに気が付いた。改めて洞窟内を確認すると、幅は五mほど、高さは三mほどの小さな洞窟のようだ。
そして、洞窟の奥、行き止まりの壁際には薄緑色の花がいつの間にか咲いていた。あれがキュレの花か、このトラップみたいなのは気になるけど、とりあえず採取しておくか。
「ユリアさん、あれって」
「キュレの花で間違い無いでしょう。しかしこの状況です、罠の可能性も」
「あるかもしれないよね」
「じゃあどうするの!? 転移門も使えなかったよ?」
ウィンドウを閉じながらアガサが泣きそうな声で言う。
兎にも角にもキュレの花は手に入れなければならない。あの謎かけには何かが守ってる的な文があったけど、まだ出てこないのなら先にとってしまおう。
「ユリアさん、お願いします」
「承りました」
このパーティー唯一の採取スキル持ちであるユリアさんにお願いしてキュレの花を採取してもらおうとすると、今度は花とユリアさんの間に入るように新たな白い球が現れた。
「おぬしら、この花を採りに来たのか?」
突然、白い球から発せられる声に、思わず身構えてしまう。一瞬で俺の隣まで戻って弓を構えるユリアさんを確認しながら目の前の白い球に意識を集中させる。
白い球はユラユラと風も無いのに揺れたかと思いきや、老人の姿に変わってしまう。白い感じはそのままで、輪郭が若干ぼやけている姿はまるで幽霊のようだ。
「ゆ、幽霊!?」
「もしかして戦うの!?」
「まあ待ちなされ。いきなり襲う気なんぞないわい」
幽霊に出会って顔面蒼白のアガサとは反対に嬉しそうにネコミミをピコピコ動かすネコネコさんを見て老人の幽霊は苦笑する。
改めて目の前の老人と対峙し、とりあえず敵意は無いそうなので会話を試みてみることにした。
「あなたは幽霊ですか?」
「世間一般にはそう呼ばれている存在じゃな」
「なんでここにいるんですか?」
「キュレの花を守る為じゃ。キュレの花は大変希少だ。むやみに取ってはいけない」
そのフレーズ、どこかで聞いたような気がするな。どこだっけ?
その言葉にユリアさんも覚えがあったようで、何かに気付いたように息を飲んだ。
「まさか……ご老人はグリスで植物図鑑を製作なさっていたのでは?」
「おや、懐かしい名前だね。あれは未完のままで唯一の心残りじゃよ」
「でもその爺さんって死んだはずじゃ?」
「だからこうしてここにいるんじゃろうが」
何を言ってるんだこの馬鹿は、みたいな目で見てくる爺さんから一旦、視線をずらすと、右手でネコネコさんの服を掴んだまま、地面にへたり込んでいるアガサの姿が。
「どうしたアガサ?」
「なんでユーレイと普通に話してんのさっ!」
「だって、話さなきゃ進まないし」
前に出てきたガイコツ兵士同様幽霊も怖いのか、目の端に涙を溜めて下から睨みつけてくる。幽霊も怖いって、まあ女の子らしいといえば女の子らしいけど。
俺の周りにいる女性って全く幽霊とか平気だから逆にこういう反応する女子は新鮮だな。
「うぉっほん! それで、キュレの花が欲しいんじゃろ?」
「そうですけど、タダじゃないんですよね」
「あたりまえじゃ、ここに来たということはあの謎かけを解いたんじゃろ? ならもう分かってるはずじゃ」
老人は俺たちの顔をを順番に見ていき、ふむ、とだけ呟く。
「……どうやら邪な理由で採りに来たわけではないようじゃな」
「そんなこと、わかるんですか?」
「ニンゲン止めると、いろいろ出来るようになるんじゃよ」
そういやなんでキュレの花探しに来たんだっけ?
あぁ、そうだった、ビビちゃんのお母さんの病気を治す為だった。確かに邪ではないよな。
「それじゃ……ほれ」
爺さんは足元にあったキュレの花を採ると、こちらに差し出してきた。え、何、くれるの?
「なにぼさっとしとる? いるのかいらないのか?」
「あ、ええ、はい、いります」
と、半ば押しつけられるようにキュレの花を受け取り、イベントリにしまう。あれ、これでクリア?
「ねえお爺さん、この花って何かが守ってるんじゃないの?」
花を守るモンスターとかとのバトルを期待していたネコネコさんが我慢できずに爺さんに問いただす。
ところが、聞かれたほうはキョトンと何言ってるんだこいつ、みたいな顔だ。
「わしが守ってるじゃろうが」
「じゃ、じゃあモンスターとかは?」
「いるわけがなかろう」
「そんなぁ……」
残念そうにネコミミを垂らすネコネコさん。なんか悪いことしちゃったな。
それじゃあ無事キュレの花を手に入れたことだし、帰ろうと体を回転させるが、目の前にはまだ見えない壁があり、進むことができない。
とここで、爺さんが再び口を開いた。
「このキュレの花はな、使えばどんな病でも治るといわれている花での、昔はもっと数が多かったんじゃが、悪い奴らに根こそぎ持っていかれて、今はここで僅かにしか残っておらんのじゃよ」
「あのー、爺さん?」
「わしも昔にようやく見つけたはいいものの、同じく探しておった悪い奴らにここがばれてしまって──」
いきなりの回想モードに置いてけぼりの俺たち。もしかして、話が終わるまで帰れない?
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「こうして死してなお、この花を守り続けているのじゃよ。あの謎かけも花を守る為じゃ」
「アアハイソウデスカ」
「では、わしはもう去るとするか。その花でちゃんと救ってやるのじゃぞ?」
それだけ言い残して、再び白い球に戻ってしまう爺さん。それと同時に俺たちを囲っていた青白い球も消え、再び視界が真っ暗闇に染まる。
「うわぁっ! また真っ暗だ!」
「引き返すぞ、はぐれるなよ」
それぞれの裾を掴んで来た道を引き返していく。いやー、無事手に入ってよかったよかった。
が、物事はそう上手く運ばない。
「おい、お前等。キュレの花を渡してもらおうか」
「持ってるのは知ってるんだぞ!」
「大人しく渡せば怪我はさせない」
洞窟から出てきた俺たちを待ち構えていたのは爺さんの話にも登場した大勢の悪い奴らだった。




