68話
誤字脱字等ありましたら、よろしくお願いします。
「あ、ありがとうございますっ! よろしくおねがいしますっ!」
翌日になり、クランキーズにやって来たサツキさんは加入許可の知らせを聞くなり頭が床に付きそうなくらい下げて俺達にお礼を言った。なんか泣きそうな顔になってるぞ、そんなに嬉しかったのか。
「昨日も言ったんですけど、ここに入れなかったらゲーム止めようと思ってたんです。なので本当にありがとうございました!」
そ、そこまで追い込まれていたのかよ……
「それじゃあ、サツキさんには加入記念としてこちらを差し上げまーす」
とおもむろにヘムジンさんはイベントリからいくつかのアイテムを取り出し、サツキさんに渡す。サツキさんが受け取ったものは装備アイテムだったらしく、さっそく装備欄を開いて変更しているようだった。
そして装備の変更が終わり、一瞬光が彼女を覆い、光が消える頃には着替え終わったサツキさんが姿を現していた。
「どうでしょうか……?」
目の前にいたのはメイドさんだった。
黒と白を基調としている部分はユリアさんと共通しているが、こちらはミニスカで、いたるところにフリフリが付いていて、ユリアさんを大英帝国風とするならこっちはアキバ風とでも言えば言いのだろうか。
なんというか『THE・コスプレ』っていう感じだな。
ヘッドドレスも付いて眼鏡もフル装備したまごうとなき眼鏡メイドさんである。
「おぉ、神よ……」
「かわいいー!」
「よくお似合いです」
「徹夜で作った甲斐があったのね」
マスターが誰かに祈りを捧げているが誰だろう。メイドの神様だろうか?
というより、あんたは白じゃなかったのか、可愛ければ誰でもいいのかよ。
いつの間にやら一階に上がってきていたレイさんもヘムジンさんも満足そうに頷いている。ちなみにプリンさんは奥で何か作っている最中で出て来てない。完全に空気だよな、料理は美味しいのに。
その日からサツキさんはクランキーズのウェイトレス兼戦闘班ということになり、今度からはユリアさん、アガサ、サツキさんの誰か一人は店に残り、他の二人が俺と外に出る、ということになった。
アガサは若干不満そうだったけど、ヘムジンさんに何か言われてこっちを見たと思ったら急に素直になった。何を言われたんだろう。
昨日の様子を見た限り(というか自分でも言ったけど)サツキさんはかなりのドジっ子そうで心配だったから今日は外に行かず、店内で見守ることにした。
店内にはメイド×2とセーラー服と和服のウェイトレスが働いている。これだけ聞いたら、なんか違うお店だと勘違いされそうだ。
「前から思っていたんですけどこれ、絶対私の仕事じゃないですよね?」
「まぁ、俺の護衛のついでだと思ってよ」
「まったく……あ、ただいま参りますっ」
カウンター席に座り、のんびりしていると白が近づいてきて文句を言ってくる。しかし新しくオーダーが入ったのかすぐに客席の方に向かって行った。
俺も白に働いてもらうのはちょっと違うかなぁ、とは思ったんだけど、少し前にマスターがお金を払う(自腹)とまで言ってきて断れなくなってしまったのだ。
サツキさんも入ったことだし、白の出番はもう終わりだな。マスターは泣きそうだけど。
△ ▲ △ ▲
さて、いきなりだがここでクランキーズの客足について説明しようと思う。我がギルドの看板であるクランキーズはマスターの作るコーヒー・紅茶系とプリンさんの作るケーキ系が主なメニューである。それぞれ飲食すれば一時的にバフ効果があり、それ目的で来る客も少なくない。
そしてクランキーズに客が多く来る時間は一日に二回ほどある。一回目は放課後過ぎ。この時間帯は軽くお茶をしに来る女性プレイヤーが多く、多いといっても目が回る程ではない。
次の混み合う時間帯が今現在、夜十時から深夜にかけて。つまり会社帰りの大人達がログインする時間帯だ。
この時間帯を俺は勝手に『アイドルタイム』と呼んでいる。もちろん、店が空いている時間、という意味では無く文字通りの『アイドル』な『タイム』なのだ。
要するに──
「ユリアさん! こっち向いてー!」
「アガサちゃん! 握手して下さい!」
「おい、俺が先だぞ」
「あれ和服ちゃんがいないな」
アガサやユリアさんのファンが押しかけてくる時間なのだ。ほぼ毎日いるユリアさんと違ってアガサは毎日ウェイトレスをしているわけではないので更にレア度が上がるとかなんとか……
更に今日は──
「もしかしてあれが昨日変人商会に入ったっていう噂の爆破魔ちゃんか」
「爆破魔ちゃんってドジっ子眼鏡メイドか?」
「そうそう、あそこにいる娘だよ……って、転んだ!?」
ひそひそ話している二人ずれの男たちの視線の先には何故か何も無いところで転んでいるメイド姿のサツキさん。運ぼうとしていた物を落としてしまったみたいだ。
そういや、ゲーム内で料理を落としたらどうなるんだろう。
「料理を落とした場合はすべて【ゴミ】という調合等で失敗した際に手に入るアイテムに変わります」
「うわっ! ユリアさんいつの間に」
「たまたま通りかかりましたので。では」
と言い残して颯爽とサツキさんのところまで歩いていき、【ゴミ】と化した元ケーキを片付ける。ゲーム内は三秒ルールの適応外ですか。まあ飲食店なんでそんなことしませんが。
「お、お待たせいたしました……きゃぁ!」ガッシャァァン!
「だ、大丈夫ですか?」
「……はい、だ、大丈夫です。申し訳ありません」
「いえ、ご馳走様でした」
「???」
ひっくり返してしまったサツキさんは申し訳なさそうにしているが、対して客は大変満足そうにしている。うん別にそういうお店でもないんだけどね。ここ、普通の喫茶店だから。
大勢のしかも男性に見られているということもあってサツキさんのドジっぷりは加速していた。歩けばどこかしらにぶつかるし、物を持てば渡した時のまま無事に席まで辿り着くのも稀だ。
それに加え、彼女がドジるたびに周りからは「おぉ!」とか嬉しそうな声が上がり、更にサツキさんがテンパるという悪循環に陥っていた。
「あの眼鏡メイドさんに運んできて貰いたいんですけど」
「指名料金は別ですが」
「お願いします」
「かしこまりました、少々お待ち下さい」
え、指名料なんか取ってんの?
△ ▲ △ ▲
「ふぇ〜疲れました……」
「そりゃこっちのセリフだわ。まさか真性のドジ+あがり症だったとはな」
「す、すいません。あの人数だと緊張してしまって……」
「まぁまぁいいじゃないの。それが彼女のウリなんだし」
「お前は見てるだけだからな!」
ぐったりと机に突っ伏すマスターとサツキさん。反対にユリアさんとヘムジンさんは涼しい顔をして立っている。アガサは遅すぎないうちにログアウトした。
「それでどうだった?」
ヘムジンさんはサツキさんの隣に座り話しかける。サツキさんは話しかけられた途端、ビクッと背筋を伸ばして起き上がった。
「は、はい。あの、あんなに大勢のお客様が来て緊張しましたし、ドジばっかりでしたけど、楽しかったです!」
「うんうん、僕も宣伝した甲斐があったよ」
「おいキントウ、白たんを出してくれよ。それだけで俺はまだ戦えるっ!」
「やだキモい」
「そんなっ……!」
今にも泣き出しそうなマスターは放っておいて、サツキさんのそばに寄る。初日からあんなに大勢の客を相手にするのはとても大変だっただろう。ねぎらいの意味を込めて声をかける。
「サツキさん、お疲れ様」
「あ、キントウさん。お疲れ様でした。すいませんご迷惑ばかり掛けてしまって」
「キントウでいいから。俺もオープンの時もの凄い数の客を相手にしたけど、今日も凄かったな」
「はい、まずはあがり症だけでも治さないと……」
「まあゆっくり慣れていけばいいんじゃないの?」
「ありがとうございます!」
そう言うとサツキさんはニッコリと笑った。
なんか先輩面して言ってるけど実際、俺自身は見ていただけだしな。今度から暇な時は手伝うか。




