69話
誤字脱字等ありましたら、よろしくお願いします。
頭上から木漏れ日が差し込む少し暗めの空間。見渡す限りの木と植物。イベント期間の森とは違い、ジメッとしていないし、時折吹く風もちょうどいい涼しさでとても気持ちいい。
遠くから聞こえてくる鳥のさえずりと風で葉が擦れる音以外は何の雑音の無い静かな場所。心なしか空気も他と比べてきれいに感じる。
森林療法とか森林セラピーとかあるけど、これなら確かに効果もありそうな気がするな。
ここはセイレスから西に進んだ所にある【グリス樹海】。樹海の街として知られる【グリス】はこの樹海の中央に位置しており、樹海が街を外界からの敵を拒むかのように樹海内には強力なモンスターが生息している。
……しているのだが──
ドォォォン!
バキバキバキッ!
ドッカァァァァン!
そんな静かな樹海の空気をぶち壊すかのように響き渡る爆発音。それも一つや二つではなく、立て続けに何回も繰り返し爆発が起きる。
そして爆発で発生した煙が晴れた先にあったのはそこだけ更地になった空間。辺りには倒れた木が散乱し、中には黒く焼け焦げているのもある。
「なんだよこれ……」
思わず呟いてしまう。先ほどまで戦闘していたモンスターは今の爆発で跡形も無く消えてしまった。隣には申し訳なさそうに下を向いている眼鏡メイド姿のサツキさん。ヘムジンさんに戦闘用としても支給されたようだ。
「これは想像以上ですね」
「す、すいませんっ! 上手く威力の調整が出来なくて……」
後衛のユリアさんも合流し、とりあえずその場から移動する。今の爆発で遠くのモンスターを引き寄せたかもしれない。
なんで俺が樹海に来ているのかというと、レベル上げという目的もあるが、別の目的もあった。ことの発端は一時間ほど前まで遡る。
△ ▲ △ ▲
「素材集め?」
サツキさんが加入してから数日経ってのこと、サツキさんもある程度慣れてきたようで、コケる回数も徐々に減ってきていた頃だった。
今日はユリアさんとサツキさんが俺とフィールドに出て、アガサが店番として残る日だった。
東の【バックス】方面でレベル上げと探索でもしようかと思っていた所にサツキさんがおずおずと提案してきたのだ。
「あの……手持ちの素材が少なくなっていまして、まだあまり出回ってなくて買うと高くなっちゃうんです。なので出来れば採取に行きたいなぁって思ってるんですけど……駄目でしょうか?」
サツキさんが言うには、彼女の武器である爆弾を作るために必要な素材アイテムである【破裂茸】なるアイテムがグリス樹海にあるそうな。
しかし、先日のイベントで爆弾をだいぶ使ってしまったらしく、現在の手持ちが少ない。
しかもグリス樹海はほぼ最前線の中でも不人気のエリアのため【破裂茸】自体が出回ってないそうで、自分で採った方が市場で買うよりもかなり安上がりなんだと。
「今までは別のアイテムを使っていたんですけど、新しい爆弾には【破裂茸】が必要で……すいませんっ!」
「いや、別に謝らなくてもいいけど。ねぇユリアさん?」
「はい。それでしたら樹海に参りましょうか」
ということで今日の予定を変更し、グリス樹海でレベル上げをしつつ、【破裂茸】を集めることとなったのだった。
そして樹海に入り、モンスターと出くわしサツキさんの爆弾の威力を見せてもらおうとしたらこの有り様である。
何ですかこのオーバーキル。
ちょっと前まで目の前にいたシカ型のモンスター(サイズは大人の馬くらい)が一瞬で蒸発してしまった。近くに退避していた白も爆風でダメージこそ受けなかったものの、後衛のユリアさんのところまで吹っ飛ばされていたし。
とりあえず近くのセーフティーエリアまで逃げ込み、一息つく。
「あぁ、また巻き込んでしまいました! すいませんすいませんすいません!」
「ダメージ無いし大丈夫だって。な?」
「一瞬殺ってやろうかと思いましたが、キントウは無事だったので一応大丈夫です」
何度も頭を下げるサツキさんを宥めながら、どうしたものかと不安な気持ちになる。
なにはともあれ、【破裂茸】を探さないと。と思ったが、俺はあることに気が付いた。
「俺、【採取】のスキル取ってないんだよね……」
この【採取】スキルが無ければ当然、【破裂茸】を採取することができない。今から取ってもいいが、今後使う予定も無いし、ちょっともったいない気もするが……
「それでしたらキントウ様は待っていてください。私とサツキ様で周囲を回ってきますので」
「えっ! いいんですか?」
「はい。それでは参りましょうか」
と、ユリアさんがサツキさんを連れて移動する。流石ユリアさんだな、採取スキルも取っているとは。
二人が行ってしまい、俺と白だけが残される。白は近くの木や花などを見ながらぶらついている。
「あんま遠くに行くなよ?」
「あたりまえでしょ、私がキントウのこと守るんだから。こうしている間も割りと警戒してるんだから」
と当たり前のように言って俺の元に戻ってくる。そうだったのか、知らなかった。でもな白、ここ──セーフティーエリアなんだ。
△ ▲ △ ▲
数十分ほど、森林浴という名の昼寝をしているうちに二人は帰ってきた。見た目に変化はないけど、無事手に入れることはできたのだろうか。
「お待たせ致しました。それでは再び探索に向かいましょう」
「ありがとうございます! これで新しいのが作れます」
「今度は威力の調整をしっかりな」
合流した後、【グリス】を目指して歩を進める。一応の目的地としてグリスに向かいつつ、出会ったモンスターを倒しレベル上げをするというのが今日のプランだ。
下草の生えた地面を踏みしめながら木と木の間を縫うように進む。どこを見ても木、木、木。地図を見ながら出ないと確実に迷ってしまいそうだ。
邪魔な雑草を退かしながら歩いているとふいにサツキさんが隣に並んでいることに気が付いた。
前を歩く白を見ては俺を見てまた白を見て……というのを俺の隣で繰り返している。
何回目か俺の方に視線が来た時にまたしてもサツキさんがおずおずといった様子で話しかけてきた。
「あ、あの……いきなりで失礼かもしれないんですけど、キントウさんと白さんって……その……お、お付き合いされてるんですか?」
「……はい?」
あまりにも急な質問過ぎて思わず聞き返してしまった。
白と付き合ってる? 俺が?
とここでサツキさんには白のことをあまり説明していなかったことを思い出した。たしか「俺を守ってくれる人」的な感じにしか説明してなかった気がする。いい機会だしちゃんと説明しておくか。幸いユリアさんの探知に何も引っかかってないし。
「白は俺の武器だよ。運喰いっていう自律人形で俺の護衛が仕事。俺のLucのステータスが動力源であり、パワーだからかなり強いよ」
「改めまして、キントウの護衛の白です」
「そうだったんですか! あまりにも親しげだったので勘違いしちゃいましたすいませんっ!」
再び頭を下げてくるサツキさんを見て苦笑いが浮かぶ。この人、謝ってばかりだよな。そんなに気にしなくてもいいのに。
△ ▲ △ ▲
十数回ほど戦闘を繰り返しているうちに、少しずつ道のような物が見えてきて、更に進むと森の中に整備された道が現れた。これを辿って行けばグリスに辿り着ける。
平らに均された大人二人分くらいの幅の道をのんびり散歩気分で歩く。敵が来ても先にユリアさんが気付くし、白もいるからあまり危険は無い。
それに人気の無いエリアなので別のパーティーに会うことも無い。
やがて道が段々と大きくなり、馬車一台くらいが通れるほどの幅まで大きくなった道の向こうには太い木で作られた囲いがあった。
囲いの上には小屋のような建物が付いていて、見張り台のような役割を果たしているみたいだった。
そして正面には大きく開け放たれた門があり、多くは無いがそこそこの数の人たちが出入りしていた。あれがグリスだ。
「ふぅ〜やっと着きましたねぇ……あぁ、私ほとんど何もしていなくてすいません……」
「経験値もそこそこ溜まっていますね」
あからさまに安堵の表情を浮かべるドジっ子メイドと疲れの色を全く見せない完璧メイド。
ちなみに俺は【悪魔の悪運】の所為で経験値は雀の涙ほどしか溜まってなかった。やっぱり通常時は外すべきかな。
門の手前には川が流れていて、橋が掛かっている。どうやらこの川はグリスを囲うように流れているみたいだ。それとも川に囲まれた土地に街を創ったんだろうか。
門を潜ると先には沢山の木造平屋建ての建物が建っていた。もちろん門を入ってまっすぐの先には転移門のある広場のある。
森の中にある街っていうと、巨大な木の中に部屋を作ったりだとか、そんなイメージを持っていたが、ここは街というよりも大きな村という表現の方がしっくりくるような印象を受ける。
規模は他の街に比べて数段劣るが、なんとなく懐かしい気分にさせる空気が流れているような気がした。
メイド×2と和服少女を連れている俺は随分と目立つらしく、プレイヤー以外にもNPCからの視線も多く集まっていた。「あれがあの変人商会か……」とか聞こえてきたけど気にしない。
「さて、着きましたけど……どうします?」
「一応この先、樹海を抜けた先にもエリアはあるようですが、ほとんど手付かずですね」
「わ、私は【破裂茸】が手に入ったので早速帰って作りたいんですけど……って、わがままですよねすいません!」
俺も東の荒野の方に行ってみたかったからサツキさんの用事が済んでいれば、転移門で転移して行きたいんだよな。まだ時間はあるし、サツキさんの変わりにアガサも来るだろうしな。
というわけで、一旦ギルドに戻り、そこから今度は東の荒野の街【バックス】に向かうこととなり、早々にグリスから立ち去ることにする。
転移門広場にやってくると、ある一人の女の子が視界に飛び込んできた。
その少女は広場に備え付けられている木製の椅子に腰掛け、物憂げな表情をしていた。たぶんNPCだな。
その女の子にサツキさんも気が付いたらしく、何を思ったのか少女の方に行ってしまい、話しかけてしまった。
ちょ、あんなにあからさまにクエスト臭プンプンさせてる娘に話しかけるとか、帰るんじゃなかったのかよ!?
案の定、目の前にクエスト開始のウィンドウが開かれる。
早く帰りてぇ……




