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67話

誤字脱字等ありましたら、よろしくお願いします。

「新メンバーを加えようと思うんだ」


 イベントから一ヶ月ほどが経ったある日、ヘムジンさんは唐突に告げてきた。

 それまで止まっていた攻略も再開され、セイレスから進むと東西北の三つに分岐している道を【軍】は西に、【まほいち】は東に進路を取って攻略を続けている。

 西には樹海の街【グリス】が、東には荒野の街【バックス】という街がそれぞれあるという。北の道は進むと山道になっていて、まだ新しい街は発見されていないようだ。

 俺達三人は東の街も西の街も既に行っており、今度は北に行ってみようかとちょうど話し合っていた矢先にヘムジンさんのあの言葉が登場したのだ。


 それにしても突然どうしたんだろう?


「いきなりどうしたの?」

「何かあったんですか?」


 俺とアガサは揃って驚いているが、ユリアさんは知っていたようで、特に動じた様子は無い。


「いや、別に何か問題があったとかじゃないんだけどね、最近うちのギルドも有名になってきたわけじゃない? クランキーズもマリオちゃんのポーション屋も」


 と言ってウィンドウからここ数ヶ月の店の売り上げを示したグラフを出して見せてくる。うん、綺麗な右肩上がりのグラフだ。


「それにつれお店の方も忙しくなって、いつもユリアさん達がいるわけでもないでしょ?」

「まあそうですね。攻略にも行きたいですし」


 店が忙しいというならNPCを雇えばいいだけの話なんだけどね。俺達(戦闘班)の本来の仕事はギルドの名前を広めることだから、それなりに名前が知れ渡った今、お役御免と言われればそれだけなんだけど。


「そこで新しくユリアさん、アガサ、白ちゃんに続く第四のマスコット的存在の人をギルドに入れたいな〜って思ってたんだ」

「それに伴い、ギルドホームの増改築も視野に入れています」


 さりげなく白を数に入れないでくださいよ……

 っていうか、増改築って何?


「ホームセンターでお金払えば買ったギルドホームならできるんだよ。もちろん限度はあるけどね」

「なるほど」


 改築とかはあまり関係なさそうだな。

 それよりも新しいメンバーについての話だ。


「それで、どうするんですか新メンバーって。もう決まってたりするんですか?」

「ううん、これからだよ……おっと、そろそろかな」


 ヘムジンさんの視線の先にあるのは壁に掛かった時計。ちょうど夕方の六時を指している。何がそろそろなんだ……?


△ ▲ △ ▲


 ヘムジンさんに連れられてやってきたのは一階のクランキーズだ。


「ん?」


 いつもならこの時間帯は中高生から大学生くらいの女性プレイヤーが多い時間なのに客が一人もいない。カウンターの奥にいるマスターも暇そうにしている。


「なんでお客がいないんですか?」

「今に分かるよ」


 それだけ言うと、おもむろにウィンドウを開き、何かの操作をし始めた。そして今まで並んでいた机と椅子が消え、変わりに会議とかで使いそうな長机とパイプ椅子が現れる。長机の向かいにもパイプ椅子が一つ現れた。

 まるで面接みたいだな……


「ほら、キントウくんも座って」

「え、ええ?」


 言われるがままにヘムジンさんの左隣に座る。続いてアガサも俺の左隣に座る。上の階から白衣を翻しながら降りてきたマリオもヘムジンさんの右隣に着席した。ユリアさんは入り口の扉のそばに待機している。


「じゃあ始めるよ?」

「私も参加していい?」

「待ってください、一体何を始めるんですか?」

「何って……新メンバーの面接だけど?」


 それが当然とばかりに言ってくるヘムジンさん。

 ……ユリアさん説明プリーズ。


「先週から掲示板のギルドメンバー募集のスレッドで募集をかけておりました。そして今日が加入を申請したプレイヤーの面接の日なのでございます」

「ちなみに何人ほど……?」

「だいたい百人くらいかな」

「ひ、ひゃくにん!?」


 軽く眩暈がしてきたぞ。なんだよ百人って。そんな人数から選ばないといけないのか。


「これでも絞った方なんだからね? 最初は五、六百とかいたんだから」


 もともと割りと知られていた上にイベントで目立っちゃった所為で更に有名になってしまったので申請が殺到したらしい。ほとんどが男性プレイヤーだったらしいのだが。

 その上、マスターが「白たんは誰にも渡さん!」とか言って男性プレイヤーの加入を断固拒否したそうな。マスターの物でも無いけどな。


 そしてヘムジンさんから指示された選考基準は「何かピピっと感じた人」というひどく大雑把で適当な基準だった。要はフィーリングってことだろ?


「では改めて、ユリアさん」

「畏まりました」


 ヘムジンさんの合図でユリアさんが入り口を開ける。

 

 そこには大きな人だかりが出来ていた。扉の正面には加入希望者と思しきプレイヤー達の列が形成され、脇では野次馬達が何事かと様子を見ている。

 扉が開かれた瞬間、一斉に視線が長机の方に集まりざ野次馬がわめきだす。うわぁ、こっちが緊張しちゃうんだけど、なんでこんなに人がいるんだよ。


「まああんだけ大々的に募集かけたら大事になるよね」

「どんな募集の仕方したんですか!?」


 内容を聞こうと思ったが、さっそく希望者第一号が入ってきて、椅子に座った。彼女が店内に入るとユリアさんは扉を閉めた。良かった、見られたままは流石にキツイ。


 目の前に座るのは大学生くらいに見えるこれといって特に特徴の無い女性だった。


「じゃ、とりあえず名前とジョブと志望動機をお願いします」

「はい。名前は──」


 進行というか質問はヘムジンさんがやるようで、俺達は相手を見ていればいいらしい。フィーリングっていってもどんな人を選べばいいのやら……


△ ▲ △ ▲


「はい、ありがとうございました。結果は追って連絡しますね」


 今ので大体九十人くらいだろうか、面接が始まってから二、三時間ほど経っている。最初はあれほどいた希望者の列も今では残り数人まで減っており、野次馬の数も少ない。

 

「あと何人?」

「五人です」

「つかれたー。ボク抜けていい?」

「いや、駄目でしょ!?」

「俺としてはログイン率が高ければ誰でもいいんだが。もちろん男は論外な」


 飽き始めたアガサが逃げようとし、マスターも面倒くさそうにコーヒーを淹れている。俺も流石に何十人もの話を聞いて疲れてきているけど。

 

 そして雑談をしている暇もなく、前の人と入れ替わるようにして新しい希望者が入ってきた。俺と同い年くらいの女の子だ。

 

 ユリアさんが開いた扉から入ってきて──そして何も無いところでコケた。俺を含め全員唖然である。女の子は慌てて起き上がって椅子に座る。


 腰まで届きそうな真っ黒な髪を三つ編みにし、大きな黒縁の眼鏡を掛けているが、俯いているので顔がはっきりと見えない。

 第一印象としては、教室の隅か図書館でいつも本を呼んでいそうな少し地味な子といったところだろうか。


「そ、それではお名前とジョブ、動機などを聞かせてください」

「え……あっ、その……」


 ヘムジンさんに促されるが、言葉に詰まってしまい、上手く話せないでいる。しばらく無言が続き、ようやく話し始めてくれた。


「あの、名前はサツキといいます。し、志望動機なんですけど、今までほとんどパーティーとか組んでもらったことが無くて、私のジョブでもへんじ……ヘムジン商会さんならなんとかしてくれるかもしれないと思いまして……」

「そのジョブはどんなのですか? 生産職? 戦闘職?」

「一応、戦闘職だと思うんですけど、生産みたいなことも出来ます」


 戦闘職で生産も出来るってどんなジョブなんだ? まったく見当が付かないんだが。

 両隣を見るも、揃って首を傾げている。皆も心当たりのあるジョブは無いらしい。もしかして……俺と同じユニークとかか?


「ジョブの名前はなんですか?」

「え、えっと……ば、【爆破魔】です……」

「「「……は?」」」


 今にも消えそうな声で聞こえてきたのはあまりにも似つかわしくない物騒な名前。いやいや、なんですかそれ。爆破魔? 冗談じゃないよね?

 俺達の怪しんでいる様子が伝わったのか、慌てて自分のステータスを見せてくる。そこにはしっかりと【爆破魔】と表示されていた。


「ば、爆破魔ってどんなジョブなのかな?」

「その……いろいろな爆弾が作れて、投げたり設置したりして戦います。小型爆弾から地雷までいろいろ作れますよ?」


 いろいろ作れますって……周りに被害とかないの?


「ダメージは入りませんけど、衝撃はあるみたいで、その所為で誰にもパーティーを組んでもらえなかったんです。それに爆弾を作るのにも素材とか必要だし、ソロでやるには限界があって、もうここ(ヘムジン商会)以外に当てはないんです……グスッ」


 と言って瞳がうるうるし出すサツキさん。ジョブに振り回されるって大変なんだな。もうこの娘でいいんじゃないでしょうか?


「わかりました。結果は追って連絡しますので」


 が、あくまでも他のプレイヤーと同じ対応をするヘムジンさん。おぼつかない足取りで去っていくサツキさんの背中はとても悲しそうに見えた。


△ ▲ △ ▲


 それから残りの希望者も面接をしたが、はっきり言ってサツキさんのインパクトが大きすぎて、ほとんど頭に入ってこなかった。残りの人ごめんなさい。

 そして、全員の面接が終わり、ギルド三階に戻ってきた俺達は新メンバーを決めるべく協議の真っ最中だった。


「誰かピピッと来る人いた?」

「私は特にいなかったかなぁ……」

「ボクもあんまりピピッと来るのはいなかったよ」

「そう? 僕はあの真ん中くらいに来た青い髪の子が良かったと思うけど。名前はなんだったけ?」

「四十七番目に来られた【赤魔術士】のエルカ様です」

「そうそうその娘が良かったかな。ウェイトレスもやれるって言ってたし」


 ユリアさん、まさか全員覚えたんですか? 違いますよね、たまたまですよね。そんなことできるはず……いやできるか、だってメイドのユリアさんだもん。

 そんなことよりも、俺はそのエルカとやらよりも、あの爆破魔ちゃんの方を推しているんだけど。どうやって説得するか……


「俺はサツキさんがいいと思います」

「サツキって……爆破魔の?」


 おっ、ヘムジンさんが食い付いてきた。ここはお金関連から攻めてみるか。


「あの娘、眼鏡かけてましたよね? つまり、ウェイトレスとしてメイド服を着せればメイド+眼鏡が出来るわけです! しかも見た感じなんかドジっぽい! ということはドジっ子眼鏡メイドが生まれるのです! もうこれで男性プレイヤーのハートを掴んだも同然です! 更に収益が増えることでしょう!」

「おぉ、なるほど!」


 俺の渾身の力説は効いたらしく、ヘムジンさんも真面目に検討しているみたいだ。ただ問題なのは──


「へぇー、キントウはドジっ子眼鏡メイドが好きなんだー」

「本当に! 私今まで知らなかったよ!」


 アガサの白い視線とマリオの驚いたような表情が同時に視界に入る。


「いや、俺がそうってわけじゃなくてだな。あくまで一般論というか……」

「ふーん、まぁいいんじゃないかな、ボクは賛成だよ」

「私もあの娘でいいかな。なんか放っておけないし」

「皆がいいなら僕も賛成だけど。ユリアさんは?」

「皆様にお任せいたします」


 ということで、新メンバーは爆破魔ちゃんことサツキさんに決定したのだった。

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