35話
誤字脱字、感想等ありましたら、よろしくお願いします。
アガサを連れ、南門に急ぐ。南門に近づくほど人が増えていき、門周辺では大勢のプレイヤーでごった返していた。すでに掲示板で情報のやりとりがされているのだろう。
こちらはダイモンさんの担当のようで、門の前にダイモンさんが立ってプレイヤー達を仕切っている。
「近接は門の外で迎え撃て! 遠距離は門の上からだ! もうすぐ門を閉めるぞ!」
このクエストの間だけ開放されるのか、門の脇から門の上に行けるようになっていて、今の次々と遠距離職のプレイヤーが入っていっている。
「俺は外に出るけど、アガサは門の上か?」
「ううん、一緒に外で歌うよ!」
「でもお前、魔法職だろ?」
「キントウが守るって言ったじゃん」
当たり前のことのように言われ、返す言葉を失う。それを見たアガサは決まったとばかりに頷いて門の外へ行ってしまう。
ユリアさんから門の上にいる旨のメールを受け取り、俺はイベントリから白を出す。それと同時にマリオから貰った黄色いポーションを十本ほど飲んでおく。この前作った試作品でLuc上昇が追加されているそうだ。いろんなポーションを作ってるんだな。
現れた白は珍しく一言目が文句では無かった。
「おや、以前より若干Lucが増えてますね。若干、ですが」
「そこ強調しなくてもいいだろ」
「まぁいいでしょう。それで、また殺れと?」
「そうだ、今回は数が多くなりそうだから頑張ってくれ」
「あなたもせいぜい死なないようにしていて下さいよ?」
白を連れ門外に出る。既に数百人ものプレイヤーたちが門前で待機している。プレイヤー達の間には緊迫した空気が流れている。目の前に広がるフィールドにはモンスターが一匹もいなく、緊急事態であることを知らせているかのようだ。
しばらくして、後ろの門がギギギッ! と音を立てて完全に閉鎖される。門が閉じられたのを見るのはこれが初めてだ。そしてふたたびダイモンさんが前に出てきた。
「今日は来てくれてありがとう。南門を守備するプレイヤーを仕切っているダイモンだ。みんなには俺の指示に従って貰いたいんだが、反対の人はいるか?」
まわりを見回すが、反対の声を上げる者は誰もいない。それを確認したダイモンさんは、ありがとう、と言うと話を続ける。
「それでは今回の作戦を説明する。まず俺たち近接部隊が敵の足止めをする。そして門の上に待機してもらっている遠距離部隊に上から魔法で一気に片付けてもらう。以上だ」
オーソドックスだが効果的だと思う。単純でわかりやすい。現に誰も意見する人はいないし、みんな納得しているようだ。
△ ▲ △ ▲
待つこと十分ほど、フィールドの奥から黒い物が見えてきた。それと同時に視界の隅に【3:00:00】と表示が現れる。三時間の防衛戦か、長そうだな。
敵が近づくにつれ、その姿がはっきりと見えてくる。どうやら敵はゴブリンやネズミ、オオカミなど今までに出現した敵モンスターの大群のようだ。これなら一匹の強さ敵には問題は無いだろう。
「魔法が届くギリギリの距離で迎え撃つ! 行くぞ!」
『おおおっ!』
ダイモンさんの号令と共に待機していたプレイヤーが一斉に駆け出す。
ドドドッ! と地を震わせながら進む二つの軍団がぶつかり、すぐさま混戦となった。
俺といえばあまりの迫力に門の前でボーッとしてしまっていた。いけない、俺も行かないと! 白が先行する形で戦闘区域に進入する。入った途端、近くにいたゴブリンに襲われたが白が一撃で葬り去る。
「あなたは今Lucがゼロで何も出来ないんだから気をつけてくださいよ」
「マジ……?」
白に言われて慌ててステータスを確認する。本当にLucだけが0になっていた。自律人形に与えるってそのままの意味だったんだ。前に白を使った時はただ見ているだけだったのでLucの変化に気が付かなかった。
彼女に指摘されて始めて知る事実に呆然とする中、突如、戦場に歌声が響き、ステータス上昇のアイコンが現れる。アガサか、そういえばこれって誰にまで効果があるんだろう?
突然の歌声にプレイヤー達は一瞬動揺するが、どうやら彼らにも効果があったみたいであちらこちらで驚嘆の声が上がっている。後方からは魔法での援護射撃もあり、現在はこちら側が優勢のようだ。
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戦闘が始まってから約一時間が過ぎようとしている。戦況はいまだプレイヤー側が有利だが、相手はいくら倒しても湯水のように湧いて襲ってくる。最初は余裕で相手をしていた俺たちだったが、数の暴力に少しずつだが押され始め、死に戻りをするプレイヤーもちらほらと出てきた。
火力のある魔法職もMPを回復させながら交代交代で魔法を放っているが、最初に比べて数が減ってきている。一方、俺のLucを全て持っていった白はというと、前線でダイモンさん達とは離れ、主に戦闘をすり抜けてきたモンスターを潰す役に徹して貰っている。
これなら俺が戦闘区域に近づかなくてもいいし、門には誰も近寄れない。どうやら白は俺からあまり離れることが出来ないようで、そんな地味な仕事は嫌だと彼女自身は愚痴をこぼしながらの仕事になっているが。
白が戦っている間、試しにLucがゼロの状態でポーカーをしてみたが、十回中ワンペアが一回出た程度だった、これはもう足手まとい以外の何者でもないな……
「あとどのくらいこんな事続けたらいいんですかね……」
「ええっと、あと一時間五十分二十五秒くらいかな」
「もう私が前線で蹴散らしてきましょうか。さっき飲んでた黄色いポーションまだありますよね? 全部飲み干して下さい」
「無茶言うなよ、あれ飲むとLuc上がるけど反対に他のステータスがランダムで下がるんだよ?」
イライラしている白に先ほど確かめた事を説明する。
マリオから渡された試作品のLuc上昇ポーションだが、飲むと一つあたりLucが二ポイント上昇する代わりに他のステータスのうち一つが二ポイント減るのだ。たまたまステータス画面を開いた時にStrが三十二しかなくて不自然に思ったのだ。レベルアップすると全てのステータスに一ポイント追加される。俺は今レベルが三十八あって、Strには一ポイントもポイントを振っていないからレベルと同じく三十八ないとおかしいのだ。
試作品である黄色いポーションしか思い当たる節がなく、実際に試した結果、再びStrが二ポイント分減っていたので確信に至ったというわけだ。他のステータスも少しだけ少なくなっていたのでランダムに減るので間違いないだろう。この事はネコネコさんにあげたポーションの結果と一緒にマリオに報告しておかないとな。
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さらに一時間が過ぎて、さすがにプレイヤー達の間にも疲労の色が見えてきた。それに伴って白の仕事量も増えてきている。これでもまだ足りないと愚痴る白を宥めつつ、前線の方に視線を向ける。
際限なく次々と襲いかかる敵モンスターにさすがのダイモンさんも押されているようだ。やはり白の言う通り、ここは他の人に任せて彼女と前線に出るべきなのだろうか?
そんな事を考え始めた矢先、前線から大きな爆発音が響いてきた。何事かと目を凝らすと、茶色い大きな人型のモンスターが前線に躍り出てダイモンさんたちを攻撃していた。
あれは……マッドゴーレム!?
突如現れたボスモンスターの姿にプレイヤー達の間に動揺が走る。あと一時間切っているというのに、なんでこんなタイミングでこんな奴が出てくるんだよ。
心の中で悪態を付くが、そうしたところでどうにかなるわけもなく、マッドゴーレムは二時間に及ぶ戦闘で疲れ切った彼らを躊躇無くポリゴン片に変えていく。マッドゴーレムは物理に強い、だが門の上の魔法使い達もだいぶ疲弊している。白も相性が悪く、門が壊される前に削りきれるかどうか怪しい。せめてMPポーションがあればマッドゴーレムを倒せるだけのMPを回復させられるのに……
こうして考えている間にも次々と前線のプレイヤーが倒されていく、今もダイモンさんが最前線でみんなを指揮しているが、やられるのも時間の問題だろう。そしてとうとう奴のターゲットが門に向いた、マッドゴーレムはプレイヤーを蹴散らしながら門目掛けてズンズンとゆっくりだが確実に近づいてくる。くそっ、何か良い案は無いのか!?
そんな時、ピピピッ! とコールの呼び出し音が鳴った。誰だ、こんな時に……ってヘムジンさんだ、なんだろう。不思議に思いながら出る。
「どうしたんですか突然」
「いや、そっちでマッドゴーレムが出たって聞いてね。もう魔法職はMP切れだろうと思って」
「そうなんです、どうしようか困ってて……」
「大丈夫それならもうすぐ解決するから」
「えっ?」
ヘムジンさんがそう言うのと、門の上から歓声が上がるのはほぼ同時だった。そしてその後すぐに門からの魔法攻撃が開始される。もうMP切れのはずなのに……
弱点である魔法を浴びて思わず足を止めてしまうマッドゴーレム。じれったそうに腕を振り回しているが攻撃の手はいっこうに緩む気配がない。でもなんでだ?
「なんで魔法が……?」
「驚いた? 実はね……今、門の上でマスターがMPポーション配ってるんだ。しかもタダで」
頭の中にギルドでドや顔を決めるヘムジンさんの顔が浮かび上がる。いやいや、でもどうしてタダで配ってるんだよ? そんなことしたら大損じゃないか。
俺の疑問を察したのか、またしてもドや顔を決めていそうな声で自身の思惑を説明してきた。
「今なんでタダで? って思ってるでしょ。それはね、先に金を十分貰っているからだよ!」
「……どういう意味です?」
「ふっふっふ……聞きたい?」
「あー、出来れば簡潔にお願いします」
「ダイモンとクーデルと契約した」
「……は?」
あまりにも簡潔過ぎたせいで意味が理解できない。契約? なにそれ?
気になったので詳しく聞いてみた所、このクエストが始まる通知が来たとき、ヘムジンさんの所にダイモンさんとクーデルさんが来て、ポーション類の援助を申し込まれたそうだ。具体的な内容は、ポーション及びMPポーションの在庫をすべて買い取りたいという内容だ。ヘムジン商会はポーション類の流通をほぼ牛耳っていたからうちに来るのは当然のことだろう。
確かに来るべき魔王軍に向けての対策の為だろうし、自分たちのギルドで独り占めするのではなく、他のプレイヤー達にもちゃんと配分すると彼らは言っていた。そこはヘムジンさんも信用していた。だが、ヘムジンさんはその取引を蹴って、別の契約を持ちかけたそうだ。
それが、今回の契約である、《緊急時のポーション類の無償の配布》だそうだ。
これは門が破壊されそうな危険が迫った時、ヘムジン商会の在庫にあるポーション類を全て無償で配布する代わりにダイモンさんとクーデルさんのギルドは今後一切のポーション類をヘムジン商会から購入する、という契約だ。
今までマリオ一人しか居なかった【調薬】のジョブだが、現在では少しずつ数が増えてきて、うちの店の売上も徐々にではあるが、減っていたらしい。それを見たヘムジンさんはこの契約を持ちかけたのだ。
現在、最も所属プレイヤー数が多いダイモンさんのギルドとクーデルさんのギルドに今後ポーションを納品し続けるという契約を確約できれば、売上は安定するだろう。
今回のクエストの利益だけではなく、今後の利益も見越したヘムジンさんらしい契約だと思う。まあこういう理由でも無ければタダで配ったりなんか絶対しないだろうな、貰った方もまさかこんな取引があったなんて知らないだろうし、やはりタダより怖い物はないな。
「やっと来たか……みんな、いくぞっ! ここが勝負所だ!」
『おおおっ!』
魔法職の戦線復帰により、息を吹き返した様子のプレイヤー達がマッドゴーレムを圧倒していく。残り時間は三十分、これなら門は守りきれそうだ。クーデルさんが守る北門には山オオカミリーダーが出現したが、そちらは片付いているとヘムジンさんは言っていた。どうせなら逆にして欲しかったな。
そして……
「GOOOO!」
「やったぞ! 後は時間まで耐えるんだ!」
『おおおっ!』
「あーあ、私も殺りたかったんですけど」
「まあ、またの機会にしてよ」
△ ▲ △ ▲
ついにマッドゴーレムを倒し、そのままの勢いで残りの時間も門を守り切った俺たちはクエスト終了時間と共に退却していくモンスターの軍団を見送っていた。ふぅ、一時はどうなるかと思ってたけどなんとかなったな。これもヘムジンさんとダイモンさんたちのおかげだな。
と勝利の余韻に浸っていると突然、空が暗雲に覆われ、日の光を遮ってしまった。そして、ザザザッ! とノイズのような音が混じった誰かの声が聞こえてきた。
『声だけで失礼する、私が魔王と呼ばれている者だ。此度は勝利おめでとう勇者諸君、いい戦いだった。だがこれはほんの挨拶だ、次までにはもっと強くなっていないと今度は勝てないかもな。それでは健闘を祈る』
自らを魔王と名乗ったその声の主はそれだけ言うとノイズを走らせ、暗雲と共に去っていった。今は嘘のように空は晴れている。
クエストを無事クリアし、みんなが喜んでいるタイミングで冷水を浴びせるかのような魔王からの挨拶、質悪いな……
お祭りムードから一転、なんとも気まずい空気が流れ出した門から三々五々プレイヤー達が帰っていく。俺もさっさと帰りたいよ。そういえば、アガサはどこにいるのかな?
探してみると、マスターとユリアさんと三人で集まっていた。
「お疲れさまー」
「あ、キントウ、お疲れ。ボクの歌きいてた?」
「それは効果があったかっていう意味か? それとも聞こえていたかっていう意味なのか?」
「両方だよ!」
「効果はあったみたいだけど、前より少ない感じがした、あと歌は普通に聞こえてた。相変わらず上手いな」
「えへへっ、そう?」
アガサと話しているとマスターが恨めしそうに声をかけてきた。よく見るとなんかやつれてるし。
「おいこらキントウ、俺も労え。ある意味一番の功労者だぞ俺」
「マスターもお疲れ、なんで一人だったの? 他にもレイさんとかいたでしょ?」
「俺も一人は無理だって言ったんだが、聞いて貰えなかったんだよ。ならじゃんけんで決めようってことになったんだが……」
「負けたと?」
「ああ」
マスター今日は本当にお疲れさま、変態だけど……
その後俺たちもその場で別れ、ログアウトした。そういえばアガサと飯食べるのまた今度行かないと。このクエストのせいでうやむやになっちゃったし。




