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24話

おそらく中ボスクラスであろう道を塞ぐ熊は気持ちよさそうにスヤスヤと寝息を立てて眠っている。立ち上がれば体長は五メートルに達するだろう。幸いこちらから刺激しなければ起きそうに無いため、ひとまず三人で作戦を立てる。


「あんなモンスターがいるなんて聞いてないよっ!?」

「だから別のモンスターがいるかもってユリアさんも言ってただろ」

「見たところ、近接タイプのようですが如何しましょう?」

「やっぱり俺が引き付けて、ユリアさんが後ろから射撃、アガサが歌って援護。がベストじゃない?」

「ですがそれだとキントウ様の負担が大きすぎます。相手は未知のモンスターです、慎重に行かなければなりません」

「大丈夫だって、ユリアさんがいるし、アガサもいるし。なっ?」

「うん、任せて!」

「…わかりました。よろしくお願いします」


ユリアさんがしぶしぶといった様子で納得してくれた。心配してくれるのは有難いけど、こういう時にしか目立てる場面が無いからな。ここは俺に任せてもらおう。

回復を済ませ、戦闘態勢に入る。まずはアガサの歌で俺達にステータスをアップさせる。歌うのはAgiをアップさせる【疾風の応援歌】とDexをアップさせる【必中の応援歌】。今、彼女が同時に発動させることが出来る最大数だ。彼女が歌いだし、ステータスにバフのかかったアイコンが現れるのを確認して俺とユリアさんが武器を構える。ユリアさんはアビリティ発動のためのチャージにしばらく時間が掛かる。アガサが歌を歌っても熊が起きないということはこちらから攻撃をしない限りは襲ってこない設定なのだろう。


俺もこの前ダルクさんが作ってくれたジャンゴのトランプを装備し、アビリティ発動の体勢になる。賭け金が1000エン以上でないといけないからそう何回も使いたくないけど、上手くいけば大ダメージを与えることが出来る。そう思うと自然と手に汗が滲んでくる。まだ攻撃をしていないので余裕はあるのだが、あの大きさだとただ横になっているだけで相当のプレッシャーを感じる。

今ならまだ引き返せる。このまま帰ってまた別の日に来るか、他のプレイヤーが討伐するのを待つ事もできる。いや、そんなんじゃ駄目だ。ユリアさん達の役に立つって決めたばかりじゃないか。こんなのでビビッてたら攻略組になんかなれないだろ!

そう自分を鼓舞し、トランプを構えなおす。ジャンゴだか何か知らないけど、伝説のギャンブラーならその幸運か何かを少しでも分けて下さいよ?

ユリアさんのチャージに合わせてポーカーを発動させる。賭け金は10000エン。いい役が出てくれよっ。


「参ります!【チャージショット】!」

「っ!【ポーカー】!」


ユリアさんの大弓が放った赤いエフェクトを纏った矢が寝ている熊を襲う。同時に俺の発動させたポーカーの役が表示され熊に向かって攻撃する。今回の役は【ストレート】。つまり単純攻撃力は5000になる。相手の防御力がいかほどかは分からないが先制攻撃にしてはなかなかのものだと思う。

放たれた矢と光の塊は睡眠中の熊の背中にヒットし、熊が慌てたように起き上がる。寝ている途中に攻撃されて起こったのか熊はその大きな体で立ち上がり、両手を挙げて威嚇してきた。


「ガァァァァァァ!」


巨大な熊の咆哮が坑道内にこだまする。壁に当たって反響するせいで頭がガンガン響く。そして巨大熊のステータスが頭の上に表示された。名前は《ケイブベア》日本語に訳すと洞窟熊ってところか。俺の攻撃ととユリアさんのチャージショットをもろにくらったにもかかわらず、熊のHPバーは全体と比べると僅かほどしか減っていない。俺もユリアさんもさっきの攻撃をするには溜め時間が必要なため、戦闘中にもう一度するのは難しい。俺はイベントリから素早く点棒を両手に装備し直して熊のターゲットを取るべく点棒を顔を目掛けて投げつけた。

ヒュッと風を切って飛んでいった二本の点棒はドスドスと鈍い音をたてて熊の両目に刺さった。両手を挙げていた為、顔が無防備だった熊は意表を突かれたのか手で顔を覆って蹲った。その間にもユリアさんの射撃は続いていて、僅かにだが確実に相手のHPは減っている。


両目を攻撃されて蹲っていた熊は再び咆哮と共に立ち上がり、俺目掛けて腕を振り回して攻撃してきた。右から来る引っ掻きをしゃがんで避け、時間差をつけて繰り出される左からの引っ掻きを一歩前に出て熊の懐に入ることで回避する。両手の引っ掻きが空振りに終わり、隙が出来たところで再び目を狙って点棒を投げる。アガサの応援歌でDexが上がっているお陰で二本とも両目に刺さった。弱点だったのか、「グォ…」と唸って目を押さえ蹲る。こういう獣系は目とかが弱点なのか?だったら狙ってやろうじゃないの。


立ち上がった熊が繰り出す左右の爪の引っ掻きを前と同じ要領で避け、至近距離から両目を狙う。急所の目に点棒が突き刺さり、またしても蹲る。それにしても眼球から棒が生えてる図ってのもなかなかグロいな。VRだからかなり生々しい。マリオとかが見たら卒倒しそうだもんな。


熊の攻撃をかわしては目を狙う、といった動作を数回繰り返したあと突然、熊が先ほどとは違った声を上げた。


「グガァァァァァ!」

「ッ!やばい、ユリアさん避けて!」


前までとは何かが違う咆哮に嫌な予感がして咄嗟に後方のユリアさんに叫ぶ。今までは起き上がったあとは俺に向かってくるはずのなのに、今回だけは大きく息を吸うように体を反らし、背中の石が一際強く発光しだした。

昔の映画で怪獣が背中を発光させてビームか何かを発射する場面を思い出したのだ。


熊は息を吸いきったかと思ったらユリアさんに向けて、口から岩石を飛ばしてきたのだ。握り拳ほどもある岩石が俺の脇を飛び去る。ビュッと耳元で不吉な風を切って飛ぶ音がして振り向く。

幸い、ユリアさんが俺の声に応えて避けてくれたお陰でギリギリ掠っただけで済んだみたいだ。それでも彼女のHPバーは四割まで減っていてアガサがポーションを飲ませている。後衛職だということを差し引いても掠っただけであのダメージだ。至近距離で当たったら間違いなく即死だろう。


「アガサ、必中の応援歌を二つ同時に出来るか?」

「うんっ、大丈夫だよ!」


一旦リセットし、再び歌い直し始める。同じ歌が二個同時に歌えたってことは効果も重複するはず。今度はDexを優先して強化して確実に熊の目を狙っていく作戦だ。その分Agiの補助が無くなるけどそこは俺のプレイヤースキルに頼るしかない。さっきまでの攻撃で相手の攻撃パターンはだいたい掴めた。体が大きいだけあって攻撃に移るモーションも分かりやすいしあのロックブレス(勝手に命名した)も溜め動作があるから二回目からはユリアさんも回避可能だろう。


相手の残りHPは約六割。さて、ここから第二ラウンドといこうか。


△ ▲ △ ▲


ケイブベアとの戦闘が始まってから二十分、ようやく相手のHPバーがレッドゾーンに入り、暗い坑道内での戦闘にも終わりが見えてきた。熊も心なしか疲れているように見える。だが相手から繰り出される攻撃の威力は変わらない。熊のターゲットが俺に向くようにひたすら両手の点棒を投げ続ける。


ところが、ここで始めてみる動きを見せた。体を低くして後足で地面を掻いている。まるで馬のような動きだな──と思ったのも束の間、熊はその大きな巨体からは想像も出来ないような速さで俺に突進してきた。熊とほぼ至近距離で対峙していた俺は当然反応することが出来ずに坑道の端まで吹っ飛ばされ壁に叩き付けられた。


「がッ…!」

「キントウっ!」

「キントウ様!?」

「だ、大丈夫。相手に集中して…」


二人の悲鳴にも似た声が坑道内に響き渡る。俺のHPバーがみるみる減っていき、イエローゾーンからレッドゾーンへ。そして残り数ドットを残してかろうじて残っていた。咄嗟に受身をとったのが良かったのか、何にしてもラッキーだった。

急いでポーションをあおり、HPを回復させる。俺がダウンしている間、前でユリアさんがターゲットを取っていてくれた。戦線復帰に一発デカいのをお見舞いしてやる!右手に持つのはもちろんジャンゴのトランプ、一発お願いしますよ?


「ユリアさん、今戻りました。【ポーカー】っ!」

「お帰りなさいませ、どうかご注意ください」


ユリアさんと位置を入れ替わりざまに熊にアビリティをぶつける。賭け金は出血大サービスで100000エンだ!神様、仏様、ジャンゴ様、どうにかしてくださいよ!

俺の願いが通じたのか、出た役はフォーカード。五枚のカードが集まり、光の塊となって熊の巨体にぶつかる。その攻撃力は単純計算で250000。熊自身の防御力もあるから全部がダメージとして入るわけではないが、かなりのダメージになったに違いない。相手のHPバーも残り数ミリ程しか残っていない。一気に仕留めるか!


右から来る爪をしゃがんで回避、次に来る左の爪を前に出て避け点棒を両目に突き刺す。回避、回避、投げる…回避、下がる、投げる…

集中し熊の動きだけに注意を向ける、たまに右の爪をかわされたあと、左爪ではなく右の甲で攻撃してくるなどフェイントを加えてくるあたり、熊の生存への必死さが伺えてくる。だんだん俺の視界には熊しか写らなくなってきて、今この場に俺と熊しかいないように感じる。熊の一挙手一投足すべてに対応できるよう全神経を張り巡らせ、体を動かす。


そして──


「グ、グォォォォォォ…」


巨大熊はその大きな体を揺らし、地面に伏した。坑道内に張り詰めていた緊張の糸が一気に緩む。


「ふぅ、やったか」

「お疲れ様でした。お見事です」

「やったね!最後の方とかキントウ凄かったよ!」

「そ、そう?」


戦闘が終わり集中が切れたのか頭がボーっとする。するとどこからかファンファーレと共に目の前にウィンドウが現れた。


【ポルキデス坑道のフィールドボス。《ケイブベア》を倒しました。新フィールドへの道が開放されます】

【ボス討伐報酬】

洞窟熊の毛×3、洞窟熊の爪×4、洞窟熊の魂×1


お、また魂が手に入ってるな、たぶんレアアイテムのはずなんだけど毎回手に入れちゃっていいんだろうか、まあいいや。もらえる物はもらっておこう。それに普通のボスとフィールドボスっていうは何か違いがあるんだろうか?マリオに聞いたらまた掲示板見ろって怒られそうだな…


各自手に入れたアイテムの確認も終えたので新しく開放されたというフィールドに足を踏み入れることにした。最初に入るのが俺達だなんてなんだか嬉しいな。


「じゃ、行くか」

「おー!」

「お供致します」

一部修正しました。

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