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23話

誤字脱字、感想等ありましたらよろしくお願いします。

各自、自由解散となった昨日。結局アガサは地下に降りた後戻ってこなかった。なんだかモヤモヤしたものを抱えつつ、今日のクランキーズとマリオの店の開店日を迎えた。戦闘班は活動は休みで一日アガサとユリアさんはウェイトレスとして働く予定だ。戦闘班のリーダーである俺はヘムジンさんから自由行動を命じられていた。開店時間は共に午前十時から、俺とレイさん以外は既に開店準備に取り掛かっている。

現在の時刻は午前九時半、上にいても邪魔になるだけだと判断した俺はレイさんの作業場で暇を持て余していた。


「さっき入り口を見てきたんですけど、結構行列が出来てましたよ。どうやってあんなに集めたんでしょうね?」

「掲示板で相当派手に宣伝してたみたいなのね。キントウは見てないのね?」

「ええまあ、掲示板とかあまり見ない方なんで」

「そうなのね」

「そういえば昨日アガサが地下に呼ばれてましたけど、レイさんですか?」

「…まあ、そうなのね。新しいコスプレが出来たから試着してもらってたのね」


一瞬の間を空けて答えたレイさん。どんなコスプレを作ったのだろうか、後で上の様子を見に行くついでに見せてもらおう。

レイさんと雑談をすること三十分、ついに十一時を迎えた。それをメニューから確認して立ち上がる。あの行列だ、もしかしたら人手不足かもしれないし、それに昨日の様子からしてアガサが気になる。

レイさんの作業場を出てクランキーズに向かうことにした。


△ ▲ △ ▲


部屋を出て細い廊下に出ると微かにだが上の階からの喧騒が聞こえてきた。

階段を上り一階に行くと、そこはどこかで見たことがある風景だった。


「エスプレッソとショートケーキを二つずつでございますね。少々お待ちください」

「マスター!カプチーノ一個とカフェラテ二個だよ!」

「あいよ、待ってな」

「チーズとショートできたよ!持ってって!」

「あと二分ほどでカウンター席が空きますのでこちらでお待ちください」


場所は違えどω姐さん達の店の開店日と同じ状況だった。今はユリアさんが上手く客を捌いてくれているおかげでギリギリ列を消化しきれているが、これからもっと来ればかなりの時間、客を待たせてしまうだろう。


「いや~、少し宣伝を張り切り過ぎたかな」

「俺、手伝いましょうか?」

「お願いできる?」


渡されたのはレイさんが作ったであろう洋服。これを着ろって事なんだろうけど…仕方ない、これもギルドの為か。

そう割り切って渡された服を装備する。一瞬で着替え、ユリアさんの元へ駆けつける。


「ユリアさん、手伝います。何すればいいですか?」

「申し訳御座いません、注文を取るのをお願いしても構わないでしょうか?」

「任せてください」

「ありがとう御座います。その服お似合いですよ」


そう言い残してすぐに客を捌くために別の場所に行ってしまうユリアさん。さて、任された仕事だ、しっかりこなさねば。

新しく席に座った客が頼む物を決めそうなタイミングで話しかける。


「ご注文はお決まりでしょうか……って姐さんじゃないですか!?」

「着ちゃった☆その執事服似合ってるね~」

「おいキントウ、俺のことは無視かよ」

「いえ、雷さんもいらっしゃいませ」

「あの変人から招待を受けたから来てやったぞ。相当人気だな」


ちょうど注文を取りに話しかけたのはω姐さんと雷さんだった。二人とも俺の着ている服を見てニヤニヤしている。うわー、そういう目で見られるともの凄く恥ずかしいんですけど。

そう、俺が渡されたのは執事服。ステータス的に超幸運な執事である。つまり現在の店のウェイトレスは、メイド、執事、セーラー服アイドルの三人なのである。何処のコスプレ喫茶だよ…

よく見たら客の男女比が六対四くらいで男の方が多いし、絶対こいつらユリアさんとアガサ目当てだろ、二人とも可愛いし。ユリアさんは美人と言ったほうがいいか…


初日の営業時間は午後三時まで。なんとか客を捌ききったクランキーズの店内は野戦病院のごとく死屍累々という言葉がそのものの状況だった。


「…やっと終わった」

「もう疲れたよ~」

「皆様、お疲れ様でした」


カウンターで伸びているマスターとアガサ、一番働いていたはずのユリアさんが何故か平然とみんなの分のお茶を淹れている。さすがメイドさん。


「みんなお疲れ~お陰で初日で相当儲かったよ」

「キントウも執事服似合ってたのね。予想通りなのね」


売り上げが表示されてるであろうウィンドウを見ながら地下からヘムジンさんが上ってくる。珍しくレイさんも一緒だ。あの人上にいるの見たの初めてだな。


「ちゃんと分け前払ってくれよな、ヘムジン」


払わなければお前を殺して俺も死ぬ、といった目でヘムジンさんを睨むマスター。


「大丈夫だって、今みんなに送るから。…はい、これが今日のみんなのお給料的なものです」


メールが届き、開けるとエンが添付されていた。…気のせいかな、丸が一個か二個ほど多い気がするんだけど。みんなもどこか信じられないといった顔をしている。


「みんなが頑張ってくれたお陰で予想の倍も収入が入ってね、その分も入ってるよ」

「それは有難いんですけど…」

『…明日からはもう少し人数制限とかが欲しいです(よな)』


△ ▲ △ ▲


月曜日、平日はみんなのログインの状況にあわせて営業される。今日はプリンさんがログインできないそうなので、マスターの作る物だけがメニューに載る。昨日の閉店後に聞いたことだが、【調理】から転職したジョブの作る料理には一時的にステータスがアップする効果があったらしい。どうりで戦闘職のプレイヤーも多かったわけだ。きっとその事もヘムジンさんが宣伝していたに違いない。

放課後、学校から帰ってログインしクランキーズに降りると、ほどよく席が埋まっている。ユリアさんが一人で接客をしているが、問題はなさそうだ。

このゲーム結構リアルな所が多いよな、メニューを自分で受けに行くとことか。流石に会計は店を出るときに自動だけど。


アガサがログインするまでユリアさんを手伝い、戦闘班の三人が揃ったところでフィールドに出る。今日向かうのはグラム側とは反対の北門から行く事が出来るポルキデス山という山を貫通している【ポルキデス坑道】だ。詳しいことは分かってないが、この山を抜けると新しい国に入るらしい。


現在の最前線であるこのフィールドの適正レベルがだいたい35前後なので、後衛がしっかりしている俺たちなら問題無いだろう。

ログインしてきたアガサに今日の活動内容を伝え、早速フィールドに向かう。二人ともメイドとセーラー服だけど大丈夫なのかな。


メイカーを出発し、出てすぐに広がる草原を横切る。途中途中に出会うモンスターをさくっと倒しながらポルキデス山を目指す。そのうち馬車とか移動用のアイテムが欲しくなってくるよな。


しばらく歩くと木々が目立ち始め、林に変わり、そこを抜けると坑道の入り口があるセーフティーエリアに到着した。入り口前では数人のプレイヤー達が休憩をしていた。その中に知り合いがいたのか、アガサはそちらへ駆けていって少し話した後戻ってきた。話していたプレイヤー達は休憩が終わってらしく坑道の中に入っていった。

俺達も坑道に進入すべく装備やフィールドのモンスターの情報の確認を済ませる。ユリアさんが調べておいてくれた情報によると、坑道に出てくるモンスターは【坑道ネズミ】という最初の町の草原にいたネズミの洞窟版と【ボムストーン】という一見ただの石だがプレイヤーが近づくと爆発するという中々厄介なモンスターの二種類だそうだ。ただ、まだこのフィールドの探索がすべて終わっているという訳ではないのでもしかしたら別のモンスターがいるかもしれない、という注意も受けた。


準備も終わり、坑道の中に進入する。一歩踏み出した途端、視界がぼんやりと薄暗くなった。よく見ると坑道内のあちらこちらに薄く発光する石が埋め込まれている。おかげでなんとか視界は確保できそうだ。二人並べるくらいの太さの道を俺、アガサ、ユリアさんの順で縦に並んで進んでいく。少し歩くとT字路があり左右に道が別れていた。


「どっちに行く?」

「お任せします」

「ボクは右かな」


アガサの案を採用しT字路を右に曲がる。少し歩くと奥からタッタッタッと足音が聞こえてきた。とっさに俺達は武器を構える。暗い所為で視界は悪いが直線な道なので俺とユリアさんにとっては好都合だ。段々と近づいてくる足音にユリアさんが反応する。


「三体の敵を確認しました。おそらく坑道ネズミかと思われます」

「えっ、ユリアさん分かるの?」

「はい、【魔力探知】のスキルを持っていますので」


ボムストーンもわかりますよ、と弓を構えたまま答えるユリアさん。いやー、頼りになりますな。

すると、突然ユリアさんが暗闇に向かって矢を放った。暗闇に消えた矢はドスッと何かに刺さる音が鳴り、奥で何かが光って散った。もしかしてモンスターだったの?いきなり撃つからびっくりしたじゃないか。


「キントウ様、十二時方向です」

「あ、はい!」


言われた通りに両手の点棒を暗闇に投げる。すると奥から「チュッ」とネズミの鳴き声がして、暗闇から二匹の坑道ネズミが現れた。草原ネズミと違って毛の色が黒い。暗闇にまぎれる為だろうか?隣ではアガサがウヘッと気持ち悪そうな顔をしている。ネズミ、嫌いなのかな。

俺が攻撃した方とは別の坑道ネズミをユリアさんが射抜いて残り一匹。…これユリアさん一人で十分じゃね?俺いる意味あるの…

最後の一匹を俺が倒し、戦闘が終了する。アガサも後ろで歌ってバフを掛けていてくれた。アガサの歌がいい感じにBGMになって薄暗い坑道も明るく感じられた。

引き続き坑道の探索を進める。所々にポツンとあるきれいな石がボムストーンなのに気付かず近づいたアガサをユリアさんが止めなかったら三人まとめてボーン!となる事態をなんとか回避したり、前後を坑道ネズミの群れに挟まれピンチの場面でユリアさんの無双で切り抜けたりと、もうユリアさんがいなかったらどうなっていたか。…俺役に立ってるの?精々囮くらいにしか貢献出来てないんじゃないだろうか。ま、いいんですけどね囮。一応Agi補正のかかる防具だし。べ、別に気にしてなんかいないよ?


坑道内を右に左に歩き回ること一時間。狭い道を抜け、ようやく開けた場所に出た。出たはいいのだが…


「あれ、倒さないとダメかな?」

「ダメでしょ」

「おそらく無理でしょう」


元は坑道で働く人たちの休憩所か何かだったのだろう。右手には小屋のような建物があり、テニスコートくらいの空間がある。問題は向こうに進むための道を大きなモンスターが塞いでいることだ。

ゴワゴワとした黒い毛皮。体に所々に散りばめられているのは坑道内で発光しているものと同じ石だろうか。

巨大な黒い熊が道を塞ぐように横たわり寝ていた。

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