22話
ギルドへの加入も正式に終わり、店の名前も決まったので今度はギルドホームの案内をしてもらう。
最初に案内されたのは二階。二階はまるまるマリオ用になっているそうだ。学校の教室くらいの大きさのフロアをポーション屋にすると聞いて緊張しだすマリオを見てみんな笑っていた。こちらは明日、改装をするらしい。改装といってもメニュー画面で操作するだけだが。
自分好みに改装していいと言われ、さっきまでの緊張は何処に行ったのか俄然やる気のマリオを連れ今度は三階に上がる。
三階はメンバー専用のフロアになっていて、ここから個人の部屋に入れるらしい。今日からはここでログアウトをすることになる。
今ままで一々宿をとっていたからずいぶんと楽になるな。リビングにあたるスペースに設置してあるソファに乗ってピョンピョン飛び跳ねるアガサをマスターがたしなめていた(二人とも呼び捨てで構わないらしい。俺としてもそちらの方が楽だ)
再び三階から一階に降り、今度は地下一階に案内してもらう。こちらは今のところ残り二人のうち一人の作業スペースになっていて、まだ場所が余っているそうだ。
ということは、やっと残りの人と挨拶が出来るのかな?
俺とマリオ、ヘムジンさんだけで地下に降り、細い廊下を進む。アガサ達は既に面識があるのでパスらしい。いくつかある扉のうち一つの前に来てノックすると中から返事があったので扉を開け中へ入る。声からして女の人かな?
「レイー? キントウ君達連れてきたよー」
「おお、君たちが最後のメンバーなのね?」
レイと呼ばれ振り返った人は今まで何かの作業をしていたのか額の汗を拭う仕草をしながら振り返る。部屋の中には雷さんの店で見たような機械が並んでいた。
ってことはこの人は防具作製のジョブなのか。
レイさんは俺とマリオを値踏みするようにジーっと見つめてくる。
な、なんですか? そんなに見られると結構恥ずかしいんですけど…
「んー、いいのね。こっちとしても作り甲斐があるのね」
「そう? 良かった。キントウ君、こちらレイ。僕たち商会のお抱え生産者だよ」
「キントウです。よろしくお願いします」
「マリオです。よろしくお願いします」
「はいはいよろしくなのね。それと、そこのお嬢さんの白衣は私の作品なのね。偶然なのね」
「え? ……あ、ホントだ!」
レイさんに言われステータスで白衣の作成者名を確認して驚くマリオ。あの人が白衣なんて物を作ってたのか。
よくよく見るとレイさんの装備も何故かジャージだし。きっとあれもステータス補正がかかってるんだろうな。
「今度からはレイに新しい装備を頼むと良いよ。大丈夫だよねレイ?
「了解なのね。先に断っておくけどあたしのジョブは【コスプレ服作製】なのね」
「コスプレ服……ですか……」
「あ、もしかしてユリアさんとアガサの服も……」
「あたしが作ったのね。あれでもれっきとした防具なのね」
どうだ、といわんばかりに胸を張るレイさん。……意外とあるんだな、何処とは言わないけど。おい、マリオこっち睨むなよ。
それからレイさんと別れ一階に戻ってくる。アガサが好奇心を抑えられないのか戻ってきた途端迫ってきた。
「ねね、レイになんて言われた!?」
「つ、作り甲斐があるって言われたけど」
「ふぅん、ボクと同じか……そういえばマスターはなんて言われたんだっけ?」
「『普通なのね……』だ。魅力が無くて悪かったな!」
△ ▲ △ ▲
若干落ち込んだマスターを慰めた後、復活したマスターの淹れてくれたコーヒー(彼のジョブは【マスター】だそうだ。【調理】から転職したらしい)を飲んでいると、カウンターの奥からドタドタと足音を鳴らしてコック姿の男性が飛び出してきた。最後の一人だな。
「やっと完成したぞ! ……って、君らなにコーヒー飲んでんの?」
「その前にキントウ達に挨拶したらどうだ、この脳内スイーツめ」
マスターが飲んでいたコーヒーよりも苦い言葉を浴びせた相手は休憩中の俺たちを見てキョトンとしている。この人がスイーツ担当なんだろうけど……
「……似合わないな(わね)」
マリオとハモったその先にはがっしりマッチョ体型の男性。その姿はダイモンさんと比べても遜色ないくらいの体つきをしたその人は両手にスイーツの乗った皿を持ったまま俺たちを見て一言。
「あ、作ったスイーツ食べたい人ー?」
「ボク食べる!」
「だから挨拶しろって!!」
バシンッ! と頭を叩くマスター。それでようやく俺たちに気がついたマッチョさんはニコニコと笑いながら皿を顔の高さまで掲げた。
「やあ、僕はチャップリン。プリンって呼んでおくれよ」
「キントウです」
「マリオですよろしくお願いします」
「うん、よろしく。じゃあケーキ食べようか?」
プリンさんの作ったケーキを食べているとレイさんも一階に上がってきて始めてメンバー全員が一堂に会する。こうやって見てみるとやっぱりキャラクター濃い人達だよな。キャラの薄い俺が居てもいいんだろうか。
全員が揃ったところでヘムジンさんとユリアさんが前に出る。何かの発表があるみたいだ。
「えー、それでは全員揃ったので当ギルドの今後について発表したいと思います。ユリアさん」
「承りました。私を含め八人は大きく分けて二つのチームに分かれて頂きます。一つ目はマスター様をリーダーとした生産班。こちらにはマリオ様、チャップリン様、レイ様が所属致します。そして二つ目がキントウ様をリーダーとした戦闘班。こちらにはアガサ様、そしてわたくしが所属致します。またヘムジン様はギルドマスターですのでどちらにも所属せずギルド管理の方を担当なさいます」
「ありがとユリアさん。みんなわかったかな、質問ある人?」
「ちょっと待って下さい! なんで俺が戦闘班のリーダーなんですか?」
きっと何かの間違いだ。そもそもユリアさんとアガサを差し置いて俺がリーダーなんて、そんな器じゃない。という意味を込めた質問に対し、笑顔を絶やさないままヘムジンさんは口を開いた。
「だってキントウ君しか前衛いないし。大丈夫だって、リーダーって言っても便宜上だから。頼むよ」
「私からもお願いいたしますキントウ様」
「……わかりました、やるだけやってみます。けど戦闘班って何するんですか」
ギルドホームとメンバーを見た感じ生産ギルドっぽいし、俺なんか役に立ちそうにないんだけどな。
それにユリアさんとアガサのジョブが気になる、あの姿で戦闘班ってことはきっと戦闘系のジョブなんだろうけど。
「戦闘班はキントウ君の好きなように冒険してていいよ。攻略組に混ざるのも良し、のんびりレベル上げするのも良し。ただ条件としては出来るだけ目立って欲しいかな」
「???」
「ユリアさん」
「承りました。キントウ様方には宣伝をしていただきます。その為にフィールドで【ヘムジン商会】と『クランキーズ』の名を宣伝していただきたいのです。様々な客層を呼び込むための重要な活動で御座います」
なるほど、これなら俺は好きに冒険できるし、ギルドの宣伝にもなるって事か。だとしたら俺の仕事もかなり重要だな。やっぱり緊張してきた……
「まあ、攻略のついでに、くらいの気持ちで良いからさ。そんなに気負わなくて良いよ」
緊張を察したのかハハハ、と笑い小さく手を振りながら付け加えるヘムジンさん。それを聞いて少しホッとした。
俺の宣伝にすべてが掛かったりしていたら耐えられないからな。もうストレスで胃に穴が開いちゃいそうなレベル。
ところ変わって今は三階のリビングスペース。アガサとユリアさんの三人で戦闘班の初ミーティングの最中である。関係ないけどモナカ食べたい。
「まずアガサとユリアさんのジョブを知りたいんだけど。二人とも後衛なんだっけ?」
「左様で御座います。わたくし【メイド】のジョブを勤めさせていただいております」
「ボクは補助魔法からの転職で【アイドル】だよ! バフ特化のジョブなんだ!」
相変わらずのテンションを保つアガサとメイドを地で通すユリアさん。ユリアさんの【メイド】って何だよ、箒とか持ってフィールドの掃除とかしてくれるの? それとも後ろから銀のお盆を飛ばすとかか……
△ ▲ △ ▲
結果から言って俺の予想は四分の一くらい当たっていた。主に飛ばす、の部分だけだが。
実際に見てもらったほうが早い、ということでフィールドに来たわけだが……
ドオンッ!! と轟音がフィールドに響き渡り、遠くにいたモンスターが吹き飛び、散る。
実際に目の当たりにしなければ今の攻撃がユリアさんのものだと信じる事ができなかっただろう。隣にいるアガサもほえーとか変な声出してるし、大丈夫かこいつ。
ユリアさんはモンスターを吹っ飛ばした武器を両手に持ち、それはもう見惚れるほど優雅なお辞儀した。
「これがわたくしの武器で御座います」
「いやいやいや、何ですか今の!? 絶対オーバーキルでしょ!?」
「うわー、ユリアさん格好良い!!」
ユリアさんの身の丈ほどのサイズの弓。それが彼女の武器だった。普通イメージする弓よりも断然大きく、大弓と呼ばれる種類だろうか、骨のような乳白色の木材にワイヤーを三本ほど束ねたくらいの太さの弦。
さらに驚くのは飛ばす矢の大きさだ。ゴルフクラブくらいの長さで矢尻も比例して大きくなっている。はっきりいってかなりゴツい。
あれをメイドさんが普通に使っているなんて自分の目で見ない限り誰も信じないだろう。
なんでもメイドに転職した際、前に使っていた武器をそのまま引き継いだとか。てっきり支援担当かと思いきや恐るべし、メイドさん。
次は三人での動きを確認する。今俺たちがいるフィールドはメイカー周辺に広がる草原。比較的レベルが低いのでちょうどいい練習になるだろう。低いといっても、最前線の中ではという修飾語が付くが。
出てくるモンスターは酸性の毒を吐く《アシッドフロッグ》という紫の蛙とプレイヤーに巻き付いたらなかなか放れずダメージを与え続ける緑色の蛇、《バインドスネーク》の二種類だ。
目の前に現れたのは二匹のアシッドフロッグと三匹のバインドスネーク。三人パーティーならちょうどいい数だ。最初にアガサに魔法をかけてもらう。アイドルってどんな魔法を使うんだ?
「じゃあボクから行くね! 【疾風の応援歌】!」
自身の装備しているロッドという種類の短い杖をマイクのように持ち、最近流行っているアイドルの人気の曲を歌いだす。その途端、突然体が軽くなったような気がした。よく見ると自分のHPバーの下に補助魔法が掛かっていることを意味するアイコンが出ている。彼女は歌を歌うことで魔法を発動させることが出来るのか。
それにしても、アガサって歌、上手いんだな。何このリアル能力が必要なジョブ…じゃなくて、モンスター倒さないと……ってユリアさんはやっ! もう二匹も倒してるし! あぁ、もう一匹も……
俺が歌を聞いてるうちにユリアさんがバインドスネークをすべて打ち抜いてしまっていた。残るはアシッドフロッグ二匹、ここはいいとこ見せないとな。いつの間にか【ステップ】から進化していた【ハイステップ】で距離を詰めながら両手の点棒を投げつける。
一匹目は二本で倒せたが、もう一匹は四本で倒すことができた。少し運が悪かったな。
その後も別の補助魔法を使って戦闘をしたけど、戦闘がかなり楽になった。主にAgiとDexが上昇するバフを掛けてもらったけど、他にも武器に属性を付与したり、属性の耐性を付与する魔法とかもあるみたいだ。
最大の特徴は、歌を聴いているプレイヤー全員に効果があるという所だな。大規模戦闘の時に役に立ちそうだ。
「どう? 凄いでしょ!?」
「流石アイドル、歌上手いんだな」
「お見事です」
「でしょでしょ? もっと褒めて!」
一時間ほど三人でモンスターを狩ってギルドホームに戻ってきた俺たち。帰ると二階のマリオの店の改装が終わっていた。フロアの四分の三くらいを工房スペースに割り当て、客が入れるスペースが思ったより狭い。二十人ほど入ればいっぱいだ。
工房とはカウンターで繋がっていて、カウンターの向こうで照れたようにマリオが座っていた。
「いやー、あんまり大勢の人がいるのは緊張するから、工房と在庫を置くスペースにしちゃった☆」
とか言っていた。露天の時なんかもっと人だかりができていたから大丈夫だと思うんだけど。やっぱり店と露店は違うのかね。
△ ▲ △ ▲
夕日が沈み、あたりが暗くなってきた頃、一階に集まってのんびりしているところにヘムジンさんが地下から上がってきた。ギルドマスターであるヘムジンさんの部屋は地下にあるらしい。
「えー、突然ですがクランキーズ及びマリオちゃんの店の開店日が明日に決定しました! ということでよろしく〜」
「はぁ! 聞いてないぞ! 開店は三日後じゃなかったのか!?」
「この建物を買ったりいろいろお金が掛かっちゃってね、今厳しいんだよ? だから予定変更ってことで」
それにもう掲示板で宣伝しちゃったしね、とさらっと重要な事を発表するヘムジンさんとは反対に、ガタッと慌てたように立ち上がるマスター。
「おいプリン、食材アイテム買ってあるか?」
「いや、まだだよ」
「じゃあ今から行くぞ!」
「えっ? ちょっと待ってよ〜」
プリンさんを引っ張って買い出しに行ってしまった。そりゃいきなり言われたら慌てるよな……
マリオも準備のために二階に上がり、ヘムジンさんも再び地下に潜ってしまったので今この場にいるのは戦闘班の三人だけだ。タイミングが良かったのでさっきから気になってたことを聞くことにした。
「ユリアさんとアガサってウェイトレスもやるんでしょ? フィールドに出るときはどうすんの?」
「その時はNPCを雇うってさ。それより明日が楽しみだねっ!」
「キントウ様もウェイトレスをおやりになりますか?」
「うーん……必要なら……かな」
「承りました」
失礼します、とお辞儀をして地下に行ってしまうユリアさん。結果、俺とアガサだけが残された。……なんというか、気まずい……。
いくらゲームの中とはいえ女子と一対一でいたことなんて今までほとんど無いし、自慢じゃないが俺の一対一の場合のコミュニケーション能力は多対一に比べ五倍ほど低くなるのだ。あー誰か早く帰ってこないかな。アガサもテーブルとにらめっこしてるし、どうしたものか。
「キントウはさ、」
「ん?」
無言の時間がアガサによって唐突に破られた。なんかさっきまでのアガサとは雰囲気が違うな。テンションが低いっていうか、なんというか…
「ボクのこと最初どう思った?」
「テンションが高くて元気そうだなって思ったけど」
「それはさ、良い意味でかな?」
「当たり前だろ」
「そう……良かった」
「アガサちゃん? レイさんが呼んでるよ?」
「今行く〜! じゃ、キントウまたねっ!」
ヘムジンさんに呼ばれると彼女はいつものテンションに戻っていた。さっきのは何だったんだろうか。
まだ会ってから一日も経ってないけど、太陽のように明るいアガサがあの時だけは日の影のように暗く映って見えた。




