ミニモンカード交流大会と神悪魔の狂乱
クラエス王国が新たなミニモンカードの交流国として正式に加わり、王都は連日、かつてないほどの活気と笑顔に包まれていた。
結界の構築や次回大会の準備が着々と進む一方で、王宮の静かな執務室では、アイラとジュリアンが深く眉をひそめていた。
「ねえジュリアン、やっぱりどう考えてもおかしいわ」
アイラは手元のタルトをかじる手を止め、青玉の瞳を真剣に輝かせた。
「ここ五年の間に、ミニモンカードは国境を越えて世界中へ爆発的に広まったでしょう。いまや貴族も平民も関係なく、カードを通じた交流が当たり前になっているわ」
ジュリアンもまた、優雅に紅茶のカップを置きながら、同意するように深く頷いた。
「ああ、君の言う通りだよ、アイラ。一度戦争が始まってしまえば、国家間の気軽な行き来など不可能になる。何より、カードの生産国であり供給元である我がヴァリエール王国との流通が途絶えるリスクを、各国の民が恐れないはずがないんだ」
「そうなのよ。カードを通じて他国の文化や人々と触れ合っている国民たちが、わざわざそれを台無しにするような戦争を望むはずがないわ。国民の関心を惹きつけないはずがないのに、なぜ今さら各地で開戦の機運が高まっているのかしら」
アイラの言葉には、確かな理があった。
世界中の人々が熱狂する娯楽と交流の輪が広がっているにもかかわらず、それを自ら破壊するような戦争へ突き進むのは、あまりにも不自然であった。
「民衆の意思とは無関係に、裏で強引に情勢を操作している『何者か』が存在すると考えるのが自然だね」
ジュリアンは翠緑の瞳を冷たく光らせると、執務机の引き出しから一巻の羊皮紙を取り出した。
「事態の真相を確かめるべく、各地に我が王家の『影』を解き放つことにするよ」
ジュリアンが口にした『影』とは、王家に代々仕える極秘の密偵組織のことであった。
彼らは単なる諜報員ではなく、一人ひとりが異常なまでの戦闘能力と生存能力を誇る超人集団であった。
それもそのはずで、彼らが密偵として認められるための最終試験は、黒魔法剣の極致に至ったレオンハルトやセオドアを相手取り、アルジェント公爵邸から無事に脱出するという、正気の沙汰とは思えない恐ろしい内容だったからである。
並の騎士であれば一瞬で塵と化すような過酷な訓練を突破した者だけが、王家の影として選ばれていた。
そして何より、彼らが裏切りという行為と無縁である最大の理由は、その契約の異質さにあった。
彼らは文字通り、己の心臓を物理的に王家へと、自ら申し出て捧げているのだ。
王家の秘術と大魔女の術式によって心臓を奉納する代わりに、彼らは常人を遥かに凌駕する身体能力と、致命傷を受けても容易には命を落とさない『死に難い肉体』を手に入れていた。
自らの命と引き換えに王家へ絶対の忠誠を誓う彼らは、まさに誇り高き愛国者の集団であった。
当然ながら、王家側から彼らに与えられる見返りも破格の極みであった。
彼らの残された家族は、王家の特別保護プログラムによって生涯にわたり完璧に守られ、万が一彼らが殉職した場合でも、遺族の生活は王家が未来永劫保障していた。
さらに、彼らには人知れず与えられている『最大の特典』が存在した。
殉職あるいは寿命を迎えた際、彼らの名は王宮の奥深くに眠る歴代王族の聖域に『王家を守護せし英霊』として手厚く祀られるのだ。
それだけではない。
死後に辿り着く天国において、彼らはなんとヴァリエール王国の歴代の王族や、神聖ルシエラ教国の歴代教皇、さらには聖女たちと直接お目通りができるという、前代未聞の権利が約束されていた。
これは、天界と地上の両方に絶大な影響力を持つ大魔女アイラと、天使シュシュエルによる完全なる『職権乱用』の賜物であった。
(もっとも、天国の貸し会議室で歴代の先祖たちがアイラの料理に舌鼓を打ちながら賑やかに過ごしている光景に遭遇したとき、彼らがどれほど驚愕するかは、死んでからのお楽しみである。)
「彼らならば、どれほど厳重な警戒が敷かれた国であっても音もなく潜入し、確実に真相を持ち帰ってくれるだろう」
ジュリアンが静かに指を鳴らすと、部屋の隅の影がゆらりと揺らめき、気配を殺した数人の密偵たちが一瞬で姿を消した。
「頼もしいわね。これで、裏で糸を引いているおバカさんの正体が早く分かると良いけれど」
アイラは満足そうに微笑むと、冷めかけた紅茶を飲み干した。
世界を巡る不穏な戦雲の裏側を暴くため、王家に心臓を捧げた最強の密偵たちが、静かに大陸全土へと解き放たれたのだった。
数日後、ヴァリエール王宮の執務室にて、王家の『影』たちが音もなく姿を現した。
彼らが各地から持ち帰った情報は、並の密偵では決して捉えられない異質なものであった。
報告を聞くジュリアンとアイラの表情は、次第に呆れと困惑に包まれていった。
何故なら、各地で戦争の機運が高まっている裏には、人間の邪な心に働きかける悪魔の存在があったからである。
しかし今回の事態は、かつてのような地獄の門を開くための暴走ではなかった。
悪魔は人間の悪意や欲望を煽り、戦争を起こさせて大量の死者を出させようとしていたのだ。
その目的は、死した悪人の魂を回収し、地獄へと送り届けることだった。
これはいわば、魂の循環と人口調整という、神から与えられた悪魔本来の使命のようなものである。
地獄へ送られるのは悪人の魂のみであり、天使が保護する善人の魂は含まれない。
実は、悪魔も天使と同様に神によって創られた存在であり、神の定めた世界のルールに従って動いていたのだ。
神が定めた不介入のルールで動く悪魔を、敵対関係にある天使であっても取り締まることは禁じられていた。
この世界には明確な規則と序列が存在していた。
人間やエルフ、ドワーフ、亜人といった種族は、基本的に悪魔の誘惑に抗い、打ち勝つことができるように創られている。
教国の教えにある通り、人間には悪魔に抗う術があらかじめ与えられていた。
一方で、世界の調律者である天使には人類も悪魔も勝てない仕組みになっており、神の祝福やルールからは逃れられない。
この絶対的な理によって、神の絶対性が保たれていた。
ただし、ただ一つの例外が存在した。
神からの制限を一切受けていない存在、それが『魔女』であった。
魔女は世界の理の枠外におり、神に至ることもできれば、天使すら凌駕する力を振るう者も存在していた。
「……なるほどね。道理で天使たちが動かないわけだわ」
ジュリアンも手元の報告書を見つめながら、深く頷いた。
「神の定めたルールに基づく人口調整か。天界が動かない理由も頷けるね」
しかし、アウストラル帝国から帰還した密偵が、さらに奇妙な情報をもたらした。
なんと悪魔たちは、現在世界中で爆発的に大流行しているミニモンカードへの進出を企んでいるというのだ。
しかも、プレイヤーとしてではなく、自らが『カード』として参戦するという前代未聞の計画であった。
――時を少し遡り、アウストラル帝国の地下深く。
深く濃い瘴気が立ち込める室内に、数人の男女が集まっていた。
彼らの瞳は白目までもが赤黒い色に染まっており、最高位の悪魔であることを物語っていた。
彼らは頭を抱え、真剣な面持ちで密談を交わしていた。
「天使も魔女も地上に居るのに、我々悪魔にどうしろと言うのだ!」
一人の男の悪魔が、頭を抱えながら叫んだ。
「そうだぞ!我々悪魔が天使にも魔女にも勝てないのは、神がそう作ったからだ!」
「我々悪魔だって地上で大活躍したいのだ!」
大きな角を生やした男の悪魔が、悔しそうにテーブルをバシバシと叩いた。
「そもそもミニモンカードとやら、神だけカードになってズルいのではないか!?」
別の女の悪魔が、不満げに爪を噛みながら言った。
「そういえば、天使は未だカードにはなっていないらしいぞ」
「……ほう?」
「ならば我ら悪魔が、天使よりも先に時代を先取りしてカード化を推進すれば良いのではないか!?」
「名案だ!実に素晴らしいアイデアだな!」
悪魔たちは手を叩いて歓喜した。
「良し、決まりだな!天使が戦争で大量に出た死者の魂の回収に右往左往している間に、しれっとカード入りを果たせば良いのだ!」
「それでは、戦争を起こさせるチームと、カード化を推進するチームに分かれるとしようではないか!」
こうして、最高位の悪魔たちはノリノリで役割分担を決め、不気味かつどこか間の抜けた高笑いを上げるのであった。
――そして現在。
報告を聞き終えたアイラとジュリアンは、盛大に脱力していた。
「……カード化って、本気で言っているのかしら」
「あはは、神のカードに対抗して自分たちもカードになりたいだなんて、実に悪魔らしいというか……なんというか」
戦雲の裏に隠されたまさかの真相に、王宮の執務室には何とも言えない脱力感が漂うのだった。
報告を聞いていた王宮の執務室で、真っ先に声を上げたのはアイラでもジュリアンでもなかった。
エマの肉体を借りて控えていた天使シュシュエルが、金色の瞳を激しく輝かせて立ち上がったのである。
「悪魔どもがミニモンカードへの進出を企んでいるだと!?世界の調停者たる我ら天使を差し置き、悪魔ごときが先にカード化を果たすなど、断じてあってはならん!」
シュシュエルの背後から神々しい光の羽が激しく羽ばたき、激しい対抗心を露わにした。
「おい、シュシュエル、落ち着きたまえ。君たちが張り合うような話ではないと思うのだが……」
ジュリアンが呆れたように苦笑いを浮かべるが、シュシュエルの怒りは収まらなかった。
「黙れ、人間!これは天界と地獄の誇りを賭けた一大事業だ!すぐに教皇セレスとネフィリムのセナを捕まえて、天使のカード参戦を決定せねばならん!行くぞ!」
そう叫ぶや否や、シュシュエルはエマの身体を強引に翻し、教会の二人を捕まえるべく疾風のごとく部屋を飛び出していった。
残されたアイラとジュリアンは、静まり返った執務室で顔を見合わせた。
「……やれやれ。天界の天使様が一番ノリノリになってしまったね」
ジュリアンが深々とため息をつくと、アイラも呆れ顔で手元のタルトを一口かじった。
「人外たちの妙な対抗心は置いておくとして、そんなくだらない理由で人類の戦争が起こされるなんて、たまったものじゃないわね。悪魔の企む戦争の波に、わざわざ乗ってあげる義理もないわ」
「そうだね、アイラ。カードになりたいのなら、戦争など起こさず直接君のところへ頼みに来れば良いだけの話だ」
「そういうこと!言いたいことがあるなら、直接顔を合わせて話し合いましょう」
こうして二人は、戦雲を未然に防ぐため、悪魔たちの潜むアウストラル帝国へと直接向かうことを決意した。
不穏な瘴気が渦巻くアウストラル帝国の地下深く。
最高位の悪魔たちが集う密談の場に、突如として二人の人物が姿を現した。
本物の魔女であり、あらゆる瘴気を無効化するアイラ。
そして彼女と使い魔の魔力パスで繋がっているため、同じく瘴気の影響を全く受けないジュリアンである。
突然の超常的な侵入者に、白目まで赤黒く染まった最高位悪魔たちは椅子から転げ落ちんばかりに驚愕した。
「な、なぜ魔女とヴァリエールの国王がこんな地獄の底のような場所にいるのだ!?」
「ひぃっ、殺される!神の介入を受けない規格外の魔女だぞ!」
怯え惑う悪魔たちに対し、アイラは気安く手を振ってテーブルの空き席に腰を下ろした。
「落ち着きなさいな。今日はあなたたちを退治しに来たんじゃないわ。カード化の件で、直接話し合いに来たのよ」
「か、カード化だと……!?」
ジュリアンも優雅な所作でアイラの隣に座り、腹黒くも完璧な笑みを浮かべた。
「君たちがミニモンカードになりたいからといって、地上で戦争を起こされては迷惑でね。カード化の参戦自体は許可するから、戦争の企みは今すぐ取り下げてもらおうか」
最高位悪魔たちは顔を見合わせ、信じられないというように目を丸くした。
「ほ、本当に我々悪魔もカードにしてくれるのか!?」
「ええ。ただし、ちゃんとしたルールとバランスを話し合うのが条件よ」
アイラがそう告げると、悪魔たちは狂喜乱舞し、即座に戦争の企みを撤回してテーブルについた。
こうして、魔女、人間の王太子、そして最高位悪魔が膝を突き合わせるという、世界平和への前代未聞のカード会議が始まった。
「まず、神のカードはルールの改変や絶対的な効果を持っているでしょう?なら悪魔のカードはどういう役割にするかだけど……」
アイラが問いかけると、一人の最高位悪魔が身を乗り出した。
「我ら悪魔は、リスクと引き換えに絶大な威力を発揮する効果が良い!己のライフや手札を犠牲にして、強力なモンスターを召喚するのだ!」
「なるほど、それは実に悪魔らしくて面白い効果だね。相手の妨害や罠の破壊に特化させるのもアリかもしれない」
ジュリアンが手帳にメモを取りながら、的確なアドバイスを添える。
「それから、クラエス王国で開発された新しい機能やルールについても共有しておくわね。今度の最新バージョンでは、専用の魔導具を使うことでカードから立体的なミニモンが自立して現れるようになるのよ」
「ぬお!?自分たちの姿が立体となって戦うのか!それは素晴らしすぎる!」
悪魔たちは目を輝かせ、子供のように身を乗り出して最新ルールの説明に聞き入った。
魔女と悪魔と人間が真剣にカードの効果やデザインについて議論する空間は、あまりにも平和で、どこか微笑ましいものであった。
「よし、大まかなカードの効果と役割の方向性は決まったわね。詳しい細部の調整は、ヴァリエール王国と現地のクラエス王国で詰めることにするわ」
アイラが立ち上がると、最高位悪魔たちは満足そうに深々と頭を下げた。
「感謝する、魔女アイラ!これで我らも時代に乗り、地上で大活躍できるぞ!」
こうして、裏で仕組まれていた世界規模の戦争の危機は、一通りのカード効果の打ち合わせと共に、実にあっさりと回避されたのであった。
アウストラル帝国での打ち合わせを終え、場所をヴァリエール王宮の会議室へと移した後も、世界の歴史に類を見ない神話的な戦いが繰り広げられていた。
その戦いの争点は、ひとえにミニモンカードの効果とバランス、ただそれだけに尽きていた。
本来、神が定めたこの世界の理において、悪魔が天使に勝利することは絶対にあり得ない。
だが、カードゲームのルールの上においてならば、カードの効果や組み合わせ次第で、悪魔が天使を倒すことも十分に可能なのだ。
これは現実の世界の理ではなく、あくまでカードゲームのルールに過ぎない。
しかし、悪魔たちにとって、そのような細かい前提などどうでも良いことだった。
たとえ盤上のゲームであろうとも、悪魔が天使と対等以上に戦い、打ち勝つことができる土俵が遂に完成したのだ。
絶対的な神が創り出した理ではなく、制限を受けない魔女が創り上げた公平なゲームルールこそが、虐げられてきた悪魔たちにとっての最大の救いであった。
この熱気を孕んだ会議の様子を、空間の隙間から二柱の神が実に微笑ましそうに眺めていた。
現実に影響を与えることのないゲームのルールではあるが、自分たちの生み出した我が子たちが、ルールの中で必死に抗い、知恵を絞っている。
二柱の神にとっては、それこそが何よりも愛おしく、素晴らしい光景に映っていたのだ。
そんな神々の様子を、少し離れた場所からアイラとリリア、そして魔女たちの母の一人であるマーリンが冷ややかなジト目で見つめていた。
神として百億年という途方もない時間を生きていても、まだまだ精神的には子供っぽい部分が残っているのだと、三人はその片鱗を確かに目に焼き付けていた。
百億年を生きてなお子供なのであれば、数百年や数千年しか生きていない自分たち魔女も,まだまだ子供なのだろうとアイラは妙に納得していた。
白熱する会議が数時間に及び、参加者たちのお腹が盛大に鳴り始めると、アイラの指示によって王宮の至高の料理が次々と運び込まれた。
極上のローストビーフや、旨味が凝縮されたシチュー、焼き立てのパンを口にした悪魔たちは、そのあまりの美味しさに歓喜の声を上げた。
元々、悪魔という種族は贅沢と美食が大好きであった。
最近のヴァリエール王国の食文化が飛躍的に進化している噂は耳にしていたが、この王宮で出されるご飯の美味さは群を抜いていたのだ。
最高位悪魔たちは、口々に王宮の料理を絶賛し始めた。
「この肉の柔らかさとソースのコクは一体どうなっているのだ!」
「正直、地獄のどの宴よりも美味いぞ!」
感動のあまり、会議が終わった後もこの王宮でシェフや使用人として働きたいと言い出す最上級悪魔まで現れる始末であった。
これには、給仕を手伝っていたマリーやエマも呆れ顔を浮かべるしかなかった。
食事の歓談中、悪魔たちの組織構造に関する意外な裏事情が明らかになった。
悪魔という存在は、高位になればなるほど頭が良く、極めて狡猾になる。
しかし、下っ端の悪魔たちが救いようのないほど愚かであるため、高位の悪魔がすべての指示を出さねばならず、実質的なワンマン社長状態になっているのだという。
一方、天使たちは下っ端の段階から非常に頭が良く優秀であった。
そのため、上位の天使たちは面倒な書類仕事や雑務をすべて下位や中位の天使たちに丸投げし、自身は悠々自適な生活を送っているのだという。
最上位悪魔は、肉を頬張りながら不満げに吐き捨てた。
「まったく、上位天使どもは完全に堕落しておる!」
そのやり取りを傍らで聞いていたアイラの頭の中で、居候しているレイラがのんきに呟いた。
(ワンマン社長の悪魔と、大企業の天使と言ったところね)
レイラの実に言い得て妙な例えに、アイラは心の中で深く深く同意するのであった。
会議の幕が上がるまでに、クラエス王国の国王は大変な苦難を強いられていた。
事の発端は、クラエス王国で行われる予定の新技術と新ルール、そして新パッケージに関する重要相談であった。
もともと参加予定であったミーアに加え、ヴァリエール王国の国王ジュリアンと王妃アイラが名を連ねた。
さらに、天使のシュシュエルや、天使であり神聖ルシエラ教国の教皇であるセレスティア。
ネフィリムであるセナに、最高位悪魔の代表であるサータンまでが顔を揃えることとなった。
サータンというのは魔王の一般的な相称ではなく、この個体が持つ固有の名前である。
そして極めつきには、この世界の創造神である存在が、仮名シンとしてひょっこりとお迎えされていたのだ。
世界の理の頂点に立つ創造神が、しれっと会議に混ざっていると知ったクラエス王国の国王は、その圧倒的な事実の重みに耐え切れず、冷や汗をだらだらと流しながら胃薬をがぶ飲みした挙句に直に卒倒してしまった。
それから十日が経過し、ようやく国王が寝込んでから復帰した日こそが、まさにその会議の当日であった。
ジュリアンは、過酷すぎる現実に翻弄されたクラエス国王に対して、心底から深く同情の目を向けていた。
会議室の重厚な扉が開かれ、ついに神々と人外が入り交じる前代未聞の会議の幕が上がるのだった。
カード効果についての具体的な落とし込みも、着々と進められていた。
天使の有能性がカードのスペックにもしっかりと反映されている。
一方で、悪魔と魔物たちは意外にも高い親和性と協調性を見せ、チームワークを重視したシナジー効果を発揮するデザインとなった。
上位悪魔以降の個体は総じて優秀であり、盤面をコントロールする高い知性を誇る。
その反面、上位天使のカードになると、面倒な書類仕事などを下位や中位に丸投げして怠けていた彼らの堕落性がそのまま反映されていた。
上位天使カードは一見すると破格の性能を誇るものの、いざという時にうっかり致命的な弱点が露出してしまうという、なんとも人間臭い仕様になっていた。
下級や中位の天使たちにとっても、日頃からこき使われている不満がカードのフレーバーや効果の足枷に繋がっているという噂がもっぱらであった。
こうしたカードのバランス調整や設定のすり合わせは、会議の参加者たちによって熱心に議論されていた。
クラエス王国の新しい魔導具技術や、立体モンスタールールが導入される最新パッケージの影響についても、詳細な相談が交わされる。
最高位悪魔のサータンは、自らのカードが正しく評価されていることに満足げな笑みを浮かべ、時折鋭い戦術的意見を飛ばした。
創造神シンは、我が子たちの賑やかな様子をただ微笑ましく眺め、サクサクのクッキーやバター香るマドレーヌを美味しそうに頬張っていた。
「ほらシン様、あまりお菓子ばかり食べていると後でお腹を壊しますよ」
とクラエス国王が青い顔で胃薬を握りしめながらハラハラと見守るなど、緊張感とシュールな笑いが絶妙に入り交じっていた。
クラエス国王が再び気を失わないよう、外では厳重な警備が敷かれる中、歴史の教科書にすら載らない奇跡の会議は、最高潮の盛り上がりを見せていくのであった。
入念な打ち合わせが何度も開催され、世界中の期待を背負って迎えたミニモンカード交流会は、当初の予想を遥かに超え、なんと八つの国が参加する巨大な大会へと発展していた。
その参加国の中には、ただのカードゲームの枠を超えて、魔族が即興で勢いに任せて立てた国や、天使たちがノリと勢いで即興で建国した国も含まれていた。
つまり、カードの盤上だけでなく現実の国家としても、天使と悪魔の本格的な戦争が盛大に火蓋を切って落とされたのである。
あまりにもカオスすぎる世界情勢を知るクラエス王国の国王は、過酷すぎる現実の重みに耐え切れず、「この大会が無事に終わったら、いよいよ息子の王子に王位を譲って戴冠式をするんだ……」と、見事すぎる死亡フラグを自ら進んで立てまくっていた。
周囲から「天使と悪魔が絶対に死なせないから大丈夫ですよ」と突っ込まれていたが、神話の種族たちに命を強制的に回収されずに回避させられたその果てには何があるのだろうかと、国王は密かに震えていた。
すべてが終わった暁には、「お疲れ様でした!」と笑顔で創造神が出迎えてくれるらしいが、その創造神があまりにもお茶目すぎて、国王の胃痛は限界を突破し続けていた。
一方、クラエス王国の次期国王であるエドガー王太子も、このハチャメチャすぎる世界情勢と超常種たちの暴走をしっかりと把握していた。
エドガーは、どうすればいいのか皆目見当もつかず、妻であるカテリーナ王太子妃に必死の助けを求めていたのだった。
しかし、カテリーナにとっても、これまでの人生で神様はおろか天使や悪魔に直接出会ったことなど一度もなく、ましてやそんな規格外の存在への対処方法など分かるはずもなかった。
そんな頭を抱えるカテリーナを見かねて、最初の時間軸からすべての裏事情を知っているアイラが、絶妙なタイミングでたっぷりと助け舟を出すことにしたのである。
アイラのアドバイスを受けたカテリーナの導きにより、クラエス王国は天界や地獄、そして神々との正しいお付き合いの仕方を驚くべきスピードで学んでいくのであった。
こうして、神々と人外、そして人間たちが入り交じる狂乱の渦の中、クラエス王国は歴史の教科書にすら載らない『第六回ミニモンカード交流大会』を無事に開催することになったのだった。
――だが、この時の人類はまだ知らなかった。
カードのルールを巡り、現実の国家まで巻き込んだ『超常種たちの第二ラウンド』が始まろうとしていることを。




