絶対防衛結界とカードゲーム漬け計画
天界の神々と天使たちによる途方もない介入を経て、世界の歪みが正されてからしばらくの時が流れた。
王都の市場は、かつてないほどの活気と笑顔に満ちあふれていた。
「ねえ、知っているかい? オルビスオルトス侯爵領に、エルフの里が新しく作られたんだってさ」
八百屋の店主が、新鮮な野菜を手に取りながら隣の客に話しかけた。
「ええ、もちろん知っているわよ! ビクトール侯爵様とメルティーユ様の御婚礼は本当に素敵だったそうね。建国以来初めての他種族との親睦だなんて、ロマンチックだわ」
買い物をしていた女性が、うっとりとした表情で微笑みを浮かべた。
「俺の弟も侯爵直属の私兵として里の警備に行っているんだがね。現地のエルフの娘さんと良い雰囲気になっているらしくて、近々結婚するかもしれないんだ」
「まあ! それは本当にめでたい話ねえ」
人々がそんな平和な会話を交わすほどに、大陸には新しい時代の風が吹き抜けていた。
オルビスオルトス侯爵領の深い森に開かれたエルフの里は、厳重な警備と人間側の深い敬意のもとで開放され、人間とエルフの新たな絆を育む象徴となっていたのだった。
しかし、地上の人々が知る由もないところで、この世界は一度滅亡の危機から強引に救い出されていた。
アイラとレイラに対して、天界の神々から世界の真実が明かされていた。
実は、元の「幹の世界」が崩壊した際、崩壊した時間軸の先から世界が徐々に腐り落ちてきていたのだという。
それに気づいた宇宙樹の管理人が、腐敗した部分を躊躇なく切除し、最も瑞々しく育っていたアイラたちの「枝世界」を高接ぎしたことによって起きた現象だったのだ。
時間軸のズレにより一時的な大混乱が生じたものの、宇宙樹そのものは再び力強く根を張り、正常な成長を始めていた。
「世界樹だの宇宙樹だの、スケールが大きすぎて頭が追いつかないわね」
「神格化が進めば、いずれ自分たちの宇宙樹を育てて世界を創成することになるらしいけれど……まあ、私たちにはまだずいぶん先の話ね」
アイラとレイラは呆れつつも、その途方もないスケールの事実を受け入れていた。
そんな天界からの説明がなされていた頃、アイラの精神世界ではもう一つの重要な出来事が起きていた。
そこには転生者であるアイラ、前世の知識を持つレイラ、そしてこの世界で辛い運命を辿ってきた「元々の幹の世界のアイラ」という、三つの精神が揃っていた。
「色々と落ち着いたことですし、そろそろ私たちの人格の整理をしましょうか」
精神世界のお茶会で、転生者のアイラが提案した。
元々のアイラと転生者のアイラでは、同じ名前のままだと何かと不都合が多い。
すると、幹の世界で壮絶な人生を歩んできた元々のアイラが、静かに微笑んで口を開いた。
「私は、心機一転して新しい名前で生きたいわ。これまでの辛い過去と別れを告げて、あなたたちと共に歩むために」
そうして話し合った結果、幹の世界のアイラは名を改め、「ライラ」と名乗ることになったのだった。
こうしてアイラ、ライラ、レイラという三人の人格が綺麗に共存する, 新たな神の候補がここに再誕したのである。
だが、幹の世界が高接ぎされたことで、解決したはずの問題が再び表面化しようとしていた。
幹の世界で健在だった存在は、世界の揺らぎが収まった後も、そのまま世界に残り続けてしまうのだ。
ジェラール国王は重々しい面持ちで、アイラたち回帰組を王城の執務室へと呼び出した。
「呼び立ててすまない。……アウストラル帝国が、再び『世界統一』を掲げて蠢動を始めたようだ」
ジェラール国王の言葉に、場に緊張が走った。
かつて最初の時間軸で無数の国家を泥沼の戦争に巻き込み、滅ぼしてきた帝国の脅威が、幹の世界では健在であり、対策をしていなかったので、牙を剥いてきたかたちだ。
もっとも、魔女として大覚醒を遂げた今のアイラたちにとって、帝国の兵力など恐るるに足らない相手であった。
「帝国を滅ぼすこと自体は造作もないけれど……問題はあの『動く死体』たちと、研究を受け継ぐ者たちね」
ただ力でねじ伏せるだけでは、アンデッドの恐怖は根絶できず、いずれ再び人々に惨劇をもたらすだろう。
「ならば、かつてのように抗体ワクチンを世界中に散布すれば良いのではないかしら?」
そうアイラが呟いたその時、ミーアが誇らしげに胸を張って一歩前に出た。
「ふふん! こんなこともあろうかと、こんなこともあろうかと!私はあらかじめミスティ様に頼んでワクチンの作り方を伝授していただいておりましたの! そして……完成品が既にここにございますわ!」
ミーアが差し出した薬瓶に、その場にいた全員が目を見張った。
相変わらずの圧倒的な準備の良さである。
即座に作戦が実行に移されることとなった。
広大な大陸全土へ効率よくワクチンを届けるため、高レベルの風魔法の使い手たちが選ばれた。
アイラ、リリア、レイラ(ライラ)、そして使い魔として魔力を共有するマリーの四人が東西南北へと分かれ、一斉に絶大な風魔法を解き放つ。
空を覆いつくす虹色の風に乗って抗体ワクチンが大陸全土へと行き渡り、世界の隅々まで光の粒子となって降り注いだ。
この世界を救うあまりにも絶大な功績により、ジェラール国王は即座に恩賞を下した。
前もってワクチンを準備していたミーアは「侯爵」へと昇進した。
そして、見事な風魔法で散布に貢献したマリーは「子爵」へと叙爵されたのである。
爵位が上がったことで身分上の壁が完全に打ち払われたマリーは、そのままノクシタと晴れて結ばれ、公爵夫人としての幸せな人生を歩み始めることとなった。
ちなみに、幹の世界におけるマリーは、かつて光の種を与えてくれた天使が存命していたおかげで、光の種を所有しており、アイラの魔力パスも正常に機能していることから、もともとあらゆる家事を完璧にこなす完璧超人っぷりは最初の時間軸よりも、より洗練されている。
スラムの廃教会にいた家族も無事に全員生き残っていた。
天国の魂が降りてきて同化を果たしたリックたちも、すんなりとその記憶を受け入れ、今ではアルジェント公爵家で元気に働いているのだった。
こうして数々の問題は鮮やかに解決され、ヴァリエール王国には再び穏やかな日常が戻ってきた。
人々はエルフとの交易所で賑わい、新しい時代の恵みを享受していた。
アイラたちも変わらず、平和な世界でミニモンカードゲームの対戦を楽しんだり、社交界で華やかなお茶会を開いたりして、心穏やかな日々を過ごしていた。
世界が救われ、大地に平和の余韻が漂う中、あっという間に五年の歳月が流れたのである。
アイラとジュリアン、そしてリリアとエドワードの子供たちも無事に成長し、既に流暢な言葉を喋れる年齢になっていた。
彼らはかつての枝の世界での記憶や天国での記憶を保持したまま生まれてきたため、本来であれば無敵の状態で「強くてニューゲーム」を謳歌するはずであった。
しかし現実の彼らは、毎日涙目になりながらヒーヒーと悲鳴を上げていた。
アイラたちの血筋ゆえのスパルタ教育環境が、彼らに容赦なく襲いかかっていたからである。
勉強の指導を担当しているのは、他ならぬ前国王のジェラールであった。
世界最高峰の頭脳と経験を持つ元国王による直々の詰め込み教育は、幼い子供たちにとってあまりにも壮絶であった。
さらに剣術や身体能力の訓練に関しても、「アイラとリリアの産んだ男児なのだから、これくらいは出来て当然だ」という周囲の期待のもと、怒涛のスパルタ指導が繰り広げられていた。
もっとも、教育を担当する教師陣も最初は「もし才能がないようなら早々に引き上げさせよう」と考えていたのだった。
だが、流れ出る血脈は伊達ではなかった。
幼い子供たちは情けない声を上げて泣き言を漏らしながらも、課された過酷な課題を次々とクリアし、メキメキと驚異的な成長を遂げていったのである。
その成長スピードに触発された大人たちは、次第に本気を出して指導に熱を入れてしまう結果となった。
その甲斐あってか、まだ幼子であるにもかかわらず、子供たちは「ひぃひぃ」と泣き言を漏らしていた顔を一変させ、既に並の貴族を凌駕する威厳と王族の覇気を全身から漂わせ始めていた。
「……なんだか、思っていた以上にすごいことになっていませんか?」
訓練場と書斎の様子を遠目から伺っていたジュリアンが、冷や汗を流しながら呟いた。
「僕たちの父上や叔父上たちの熱量が、完全に想定を超えていますね」
エドワードもどこか引き気味の表情で苦笑いを浮かべた。
親であるアイラとリリアも、祖父や叔父たちの容赦のない教育方針に少し引いていた。
「私たち、自分たちが女の子だったからこそ甘やかされて育ったのだと、今になって痛感したわね」
アイラが呆れたように息を吐くと、リリアも深く頷いた。
「ええ、お姉様。もし私たちが男の子に生まれていたら、あのように徹底的に叩き込まれていたと思うと少し恐ろしいですわ」
親たちの心配を余所に、幼き覇者たちは今日もスパルタ教育に揉まれていた。
その日の午後、アイラとリリア、ライラ、そしてレイラの四人は、王宮の美しい庭園に佇むガゼボで穏やかなティータイムを楽しんでいた。
ライラとレイラもまた、精神世界から小さな魔法人形に意識を移し、ちょこんと椅子に腰かけていた。
人形の可憐な手で大事そうにカップを傾け、極上の紅茶と焼き菓子を堪能している。
「こうしてのんびりと甘いものを味わえる時間が、一番の幸せですね」
ライラが満足そうに頬を緩ませると、レイラも微笑みを浮かべた。
「ええ。数年前の大混乱が嘘のように平和で、本当に素晴らしいわ」
しかし、そんな穏やかなお茶会のひとときは、一報の報告によって打ち破られることとなった。
あわただしくガゼボへとやってきたのは、マリーとエマであった。
「アイラ様、リリア様! 大変な報せがございますわ!」
マリーが真剣な面持ちで息を整えながら口を開いた。
エマもまた、腕を組んで真面目な顔つきで頷いていた。
「世界統一とまではいきませんが、大陸の遠方にて再び大きな軍事的緊張が高まっておりますの。周辺諸国を巻き込んだ戦争の機運が急激に高まってきているようですわ」
マリーの報告を聞いたアイラとリリアは、思わず顔を見合わせた。
せっかく手に入れた平穏な日々に、再び戦争の影が忍び寄ろうとしているのだ。
「ヴァリエール王国としても、自衛のために軍を動かす準備をしなければならないかしら……」
リリアが憂いを帯びた表情で呟いた。
せっかく育ち盛りの子供たちとの平和な時間を過ごしているというのに、厄介な紛争に巻き込まれるのは御免であった。
すると、紅茶のカップをソーサーに置いたライラが、至極あっけらかんとした様子で一つの提案を口にした。
「ねえ、わざわざ相手の戦いに付き合って自衛の戦争なんてする必要があるかしら?」
ライラの発言に、アイラとリリアは目を丸くした。
「どういうことかしら、ライラ?」
アイラが問いかけると、ライラは不敵で可愛らしい笑みを浮かべて見せた。
「とても簡単なことよ。ヴァリエール王国の領土全体を、私たちの強力な魔女の結界で丸ごと覆ってしまえば良いのよ。そうすれば、敵は物理的にも魔法的にも攻めて来られなくなるわ」
その言葉を聞いた瞬間、ガゼボ内に衝撃が走った。
つまり、戦争に参加するどころか、国ごと絶対不可侵の空間へと隔離し、早々に戦線からリタイアしてしまおうという大胆極まりない計画であった。
「それなら、敵がどれほど暴れようと、我が国には一切の被害が出ませんわね!」
リリアが手をポンと叩いて目を輝かせた。
「結界の構築自体は、王城の中心から私とリリア、そしてマリーの三人で高レベルの魔法を展開すれば問題なく完了するわ」
アイラが細かな手順を計算しながら頷いた。
「発動する瞬間こそ多少の手間と膨大な魔力がかかるけれど、一度展開してしまえば超高純度の魔石と大規模魔法陣で恒久的に維持できるわね。これで今後、戦争の心配なんて一切しなくて済むようになるわ!」
こうして、ヴァリエール王国の絶対防衛結界計画は一瞬にして決定されたのである。
「せっかくだから、この素晴らしいアイデアをセレスにも教えてあげましょうよ!」
アイラの発案により、遊びも兼ねて神聖ルシエラ教国へ転移魔法で一瞬にして移動することとなった。
光の渦が収まると、そこは神聖ルシエラ教団の大聖堂の奥深くであった。
突然姿を現したアイラたちに、教皇セレスは驚きつつも嬉しそうに迎え入れた。
「これはこれは、アイラにリリアではないか! 突如として現れるとは、相変わらず賑やかなことじゃな」
アイラたちはセレスと挨拶を交わすと、さっそく先ほど思いついた「国家丸ごと結界計画」について説明した。
話を聞いたセレスは、小さな手でポンポンと手を叩いて感心したように目を輝かせた。
「おお! それは実に素晴らしい妙案じゃな! 戦争などという不毛な争いに付き合う必要など最初からないのじゃからな!」
セレスは自身の内に秘められた天使の力を誇らしげに誇示してみせた。
「神聖ルシエラ教国も、わらわの天使の力を極限まで解き放ち、国全体を覆う神聖結界を発動・維持することにしようぞ! これで我が教国も安泰じゃ!」
ルシエラ教国もまた、ヴァリエール王国と同様に絶対防衛の結界によって外界の争いから完全離脱することが決まった。
そのやり取りを横で静かに眺めていたエマ【シュシュエル】がアイラへと近づいてきた。
エマは特に小言などを言う様子もなく、じっとアイラの顔を見つめていたが、やおら口を開いた。
「我は手伝うことも吝かではない……アイラ、供物として私に特製の絶品デザートを捧げる気はあるか?」
ちゃっかりとおねだりをしてくるエマ【シュシュエル】の姿に、その場にいた全員から思わずくすくすと笑いが漏れた。
「ええ、もちろんだわ! シュシュエルが協力してくれるなら、とびきり美味しいベリータルトと新作パフェを用意してあげるわね!」
アイラが満面の笑みで約束すると、エマは満足そうに何度も頷いた。
「交渉成立だな。セレスの神聖結界の補助は我に任せるがよい」
こうして、平和を愛する二大国家は、戦火の予兆をあざ笑うかのように強固な結界の準備を整え、穏やかで幸福な日常を守り抜くのであった。
ヴァリエール王国と神聖ルシエラ教国における絶対防衛結界の構築は、驚くべき急ピッチで進められた。
アイラ、リリア、マリー、そして教皇セレスと大天使エマ【シュシュエル】の膨大な魔力と神聖力が融合し、両国は瞬く間に外敵を完全に寄せ付けない絶対不可侵の領域へと姿を変えたのである。
大陸の遠方で高まりつつあった軍事的緊張や戦争の予兆も、強固な結界の前にあっては蚊帳の外の話であった。
これで何事にも脅かされない平穏な日常が約束されたかに思われた。
しかし、結界が完成してから間もなくして、王城のサロンで寛いでいたアイラたちの元へ一人の人物が飛び込んできた。
「アイラ様、リリア様! お助けくださいませ!」
慌ただしく駆け込んできたのは、先の功績により侯爵へと昇進を果たしたミーアであった。
「あら、ミーア。侯爵になって落ち着いたかと思えば、相変わらず賑やかね」
アイラが呆れつつも微笑むと、リリアも淹れたての紅茶をテーブルに置いた。
「ミーアさん、そんなに慌ててどうされたのですか? 温かい紅茶でも飲んで一息ついてください」
「ありがとうございます……ですが、一刻を争う事態なのですわ!」
ミーアは紅茶を一息に飲むと、真剣な眼差しで二人に向き直った。
ミーアの故郷であるクラエス王国は、かつてアイラたちが介入する前、世界中から「魔道具技師の聖地」と称えられていた技術大国であった。
現在でもその誇りと技術力は衰えておらず、日々革新的な魔道具が開発されている国である。
「実は、我が故郷クラエス王国が、今回の遠方での戦争に巻き込まれそうになっているのですわ!」
「クラエス王国が? あそこは中立を保っている技術国家だったはずじゃないかしら」
アイラが首をかしげると、ミーアは大きく首を振った。
「戦争を起こそうとしている国々が、クラエス王国の誇る高度な魔道具技術と軍需生産能力を狙って、強制的に陣営へ引き込もうと圧力をかけてきているのですの。このままではクラエス王国が戦争の道具として利用されてしまいますわ!」
「なるほどね……技術大国ゆえの苦悩というわけか」
ジュリアンやエドワードもサロンの入口から姿を現し、重々しい表情で頷いた。
しかし、ミーアがアイラたちの元へやってきた理由は、単なる故郷への同情を買いに来ただけではなかった。
「実は……クラエス王国の技術者たちが、私宛てに素晴らしいプレゼン資料を送ってきていたのですわ!」
ミーアは抱えていた革縛りの厚い書類束を、バサリとテーブルの上に広げた。
「彼らは私との約束通り、我が国が誇る魔道具技術を駆使した『ミニモンカードの新しいアイデア』を開発して提案してきたのです! 私はその資料を見て、絶対に導入したいと確信してここへ持参いたしましたの!」
「ミニモンカードの新しいアイデア……?」
その言葉を聞いた瞬間、アイラとリリアの目がギラリと光った。
アイラたちはもちろん、カードゲームの魅力に目覚めているヴァリエール王国と神聖ルシエラ教国のミニモンカード交流国にとっても、見過ごせないキーワードであった。
二人は提示された資料を食い入るように読み込み始めた。
そこには、クラエス王国が誇る精巧な魔道具技術を組み込んだ、画期的な新カードシステムが記されていた。
カードに込められた魔導回路により、カードを専用の盤面に置くことで、モンスターが自由を与えられたモンスターとして出現し、攻撃やスキルの効果が視覚的・体感的にド派手に再現され、モンスター同士本来の力を発揮できるという、魔女会では常識だが、地上では不可能だと思われた「完全自立型のミニモンによるバトル」の提案であった。
さらに、それらの最新技術を前提とした、新たなカードの組み合わせや特殊ルールまでもが完璧に構築されていたのである。
「……これは、すごいわ!」
アイラは思わず拍手を送った。
「単なるターン制のカードゲームから、本格的な体感型バトルへと進化するじゃない! このアイデアと技術は、絶対に採用するべきだわ!」
「ええ、お姉様! これが実現すれば、ミニモンカードの面白さはこれまでの何倍にも跳ね上がりますわ!」
リリアも興奮気味に瞳を輝かせた。
資料を精読したアイラ、リリア、そして同席していたジュリアンやエドワードたちの意見は、一瞬で全会一致となった。
クラエス王国をこのまま戦争の渦に巻き込ませて破滅させるわけにはいかない、と。
「決定ね。ヴァリエール王国と魔女の力を以て、クラエス王国を全面的に救済・保護しましょう!」
アイラが力強く宣言すると、ミーアは感激のあまり涙ぐんだ。
「お、お助けいただけますのね! ありがとうございます、アイラ様!」
「ただし!」
アイラはニシシと不敵な悪戯っ子の笑みを浮かべ、人差し指を立てた。
「ただで助けるなんて、そんな甘いことはしないわよ? 助ける条件として、クラエス王国には一つ大きな義務を果たしてもらうわ」
「条件、でございますか……?」
ミーアがゴクリと唾を飲み込むと、アイラはニヤリと笑って言い放った。
「クラエス王国が提案してきたこの素晴らしい技術と新ルールを早速導入して……『第六回 国際ミニモンカード交流大会』を、クラエス王国主催で開催してもらうわ!」
「まあ! それは最高の条件ですわね、お姉様!」
リリアも手を叩いて賛同した。
「我が国とルシエラ教国を結界で守りつつ、クラエス王国に大会の準備をさせれば、敵国も手出しができなくなりますわ。なにせ、世界中が熱狂する大会の開催地になるのですから!」
「ふふふ……これを機に、クラエス王国の国民も、技術者も、王族も、全員残らずミニモンカード漬けにして差し上げる計画を実行に移すわよ!」
アイラの黒い笑顔に、ジュリアンとエドワードは顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。
こうして、クラエス王国を救うための救出作戦と、国家丸ごとカードゲームの虜にする「クラエス王国ミニモンカード漬け計画」が、静かに、そして着実に動き出したのであった。
この時、まだ何も知らないクラエス王国の王族や技術者たちは、なぜか背筋を走った強烈な寒気に身を震わせていたのだった。




