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偽物令嬢にされて冷遇に文句を言ったら改善されたので本物の令嬢を探してあげました【連載版】  作者: ウナ
回帰編

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新たな住まいと未来を救う出産育児改革

アウストラル帝国の監視を、現地に潜伏しているノア、クロード、オルフィアの三人に任せたアイラたちは、次の行動に移ることにした。


それは、天国組として人形の身体でこちらの世界にやってきたレオンハルト、セオドア、エレオノーラの三人のための物件探しだった。


本家であるアルジェント公爵邸から離れた場所が良いだろうという結論になり、屋敷とは反対側の立地を条件に貴族街をくまなく探した。


魔女のネットワークと公爵家の情報網を駆使した結果、条件にぴったり合う素晴らしい邸宅が見つかった。


こうして、天国組の三人は正式に分家としてその新しい住まいへと移ることになった。


これからは、アイラとリリアの二人が、現代のアルジェント公爵家で本家の家族として暮らしていく。


引っ越しの当日、天国組のレオンハルトとセオドアは、本家の娘たちと離れたくないと大騒ぎをして駄々をこねた。


「いやだ! 私はアイラとリリアの近くにいたい! 分家などという遠い場所に行くなど耐えられん!」


「そうです父上! 俺も妹たちと離れるなど死んでも嫌です! 本家の庭にテントでも張って暮らします!」


二人が血の涙を流しながら叫ぶのを、今世のエレオノーラが冷ややかな目で見下ろした。


「あなたたち、みっともないから静かにしなさい。アイラたちには、この世界の公爵令嬢としての真っ当な生活があるのよ。私たちは分家として、影から彼女たちを支える――のが、役目でしょう?」


聖母のような極上の笑みを浮かべたまま、エレオノーラは淀みのない左右の往復ビンタを、それぞれの頬へ同時にお見舞いした。


乾いた快音が貴族街の青空に響き渡る。


「ぶふぉっ!?」


「ひぅっ!」


二人が気絶したように静かになったところで、エレオノーラは涼しい顔をして彼らの襟首を掴み、馬車へと引きずり込んでいった。


こうして、騒がしい引っ越し騒動はエレオノーラの手によって無事に収められた。


アルジェント公爵邸に戻ったアイラとリリアは、本家(現代)の過保護な父親と兄との本格的な生活をスタートさせた。


現代のレオンハルトとセオドアも、天国組に負けず劣らずの親バカとシスコンであり、毎日が非常に賑やかだった。


そんなある日、アイラは暖炉の前で温かいお茶を飲みながら、ふと思いついたことをリリアに相談した。


「ねえ、リリア。どうせ魂の同化も終わったことだし、いっそ魔女の力で身体を成長させて、ジュリアン様たちとの子供をさっさと産んでしまおうかと思ったのだけれど、どうかしら」


「お、お姉様、素晴らしい案ですわ! 对外的には、今の私たちの肉体はまだ九歳なのですから、絶対に無理がありますが、魔法で成長すれば問題解決ですわね!」


その話を聞きつけたジュリアンや、過保護な本家の父と兄からも、総出で猛反対を受けることになった。


「アイラ、いくら君たちが規格外の魔女だからといって、九歳の少女が突然大人の女性になって出産するなど、この国の常識が崩壊してしまうよ」


「そうだぞアイラ! お父様はまだそんな心の準備はできていない! というか、王太子に娘を奪われること自体、まだ認めていないからな!」


彼らの必死な説得を受け、アイラは少し不満げに頬を膨らませた。


「じゃあ、私たちの代わりに魔力分身を作って、その分身に大人になってもらって、そこから子供を産めば問題ないのではないかしら?……魔力分身じゃ子供は産めないか、人形を作ろうかしら」


アイラが魔女としての合理的な代替案を提示しながら無理なことに思い至り、代案を直に思いついたが、今度はジュリアンがこめかみを押さえて深いため息をついた。


「……アイラ、普通の人間の価値観では、自分の婚約者の本体以外と子供を作るなどという行為は、倫理的にも精神的にも受け入れられないんだよ」


「えっ、そうなの? 人形も本体も、同じ遺伝子からできているから全く同じなのに」


アイラが不思議そうに首を傾げると、隣にいたリリアも「お姉様、さすがに私も本体以外ではちょっと……」と顔を真っ赤にして俯いてしまった。


ここにきて、超越存在である魔女としての考え方と、普通の人間の価値観との間に、埋めがたい大きな違いがあることが示されることとなった。


「仕方がありませんね。お姉様、私たちはまず、『人間の価値観』をしっかりとお勉強し直す必要がありそうですわ」


リリアの提案により、二人は人間の価値観を取り戻すための、厳しい淑女教育を受けることになった。


さらにアイラは、未来の王妃としての資質を磨くための、本格的な王妃教育も同時にスタートさせることになった。


淑女教育も王妃教育も、何一つ問題なくスムーズに進んでいった。


価値観が少しズレているだけで、教育内容そのものは前の人生で一度すべて完璧に終えているのだから、当然の結果であった。


家庭教師たちは、九歳にして王宮の歴史や礼儀作法を完璧にこなすアイラを「建国以来の天才児だ」と涙を流して称賛した。


やがて王妃教育も大詰めを迎え、アイラはテレーゼ王妃の執務室で、実際の国政の実務を手伝うことになった。


「いくらなんでも、九歳のアイラさんに国政の実務を手伝わせるなんて、少し早すぎるのではないかしら」


テレーゼ王妃は心配そうに眉を下げたが、アイラが書類を信じられない速度で仕分け、的確な処理案を書き込んでいく姿を見て、すぐにその懸念を吹き飛ばした。


そればかりか、テレーゼ王妃は「未来のヴァリエール王国」がどのような発展を遂げたのかに、並々ならぬ興味を抱いていた。


「ねえ、アイラさん。もしよろしければ、未来の我が国がどうなっていたのか、お仕事の合間に教えてくださらないかしら?」


「ええ、喜んで。とても素晴らしい変化がたくさんありましたわよ」


アイラが快く応じると、執務室にはいつの間にかジェラール国王、ジュリアン、エドワード、そしてリリアも加わり、全員で今後のヴァリエール王国の発展について話し合う即席の会議が始まった。


アイラが未来の便利な魔導具や、整備されたインフラについて語る中、王族たちが最も強く関心を示したのは、別の事実だった。


「……子供の出生率と生存率の底上げ、ですか」


テレーゼ王妃が、驚きに満ちた声を上げた。


「ええ。子供は国の宝ですわ。その生存率が劇的に上がり、幼少期までに死んでしまう悲劇が極端に減ったと聞けば、一国の母として、そして王妃として無視するわけにはいきません」


ジェラール国王もまた、真剣な表情で大きく頷いた。


「子供の命が救われるということは、それだけ未来の労働力や国の礎が増えるということだ。国の発展を考えるならば、時間の経過を待たずに、今すぐにでも着手すべき大事業だな」


本来の歴史であれば、アイラとリリアの婚約発表は、七年後のデビュタントの際に行われる予定だった。


しかし、子供の命に関わる国政の改革を、そんなに先まで引き延ばすわけにはいかない。


「七年間の猶予があれば、どれだけ多くの尊い命を救えることか。デビュタントを待たずに、すぐにでも実施したいところだね」


ジュリアンが翠緑の瞳を光らせて言うと、アイラはニシシと悪戯っぽく笑いながら、テレーゼ王妃に視線を向けた。


「それなら、一つ提案がありますわ。この出産育児改革の実績は、すべてテレーゼ王妃様のものにしてください」


「えっ? 私のですか?」


テレーゼ王妃が目を丸くすると、アイラは力強く頷いた。


「ええ。この国政は、王妃であり、国母であるテレーゼ様が主導するのが、国民にとっても一番受け入れられやすく、最も尊い実績になりますわ。私たちは、裏から必要な魔導具や衛生知識、栄養管理のメニューをすべて提供して全力でサポートいたします」


子供の魔力暴走を抑える魔導具の設計や、衛生用品の開発については、すでにミーアやミスティ、そして魔女の力が揃っているため、今すぐにでも量産できる体制が整っている。


「アイラさん、リリアさん……。あなたたちは、本当にどこまで慈悲深い魔女なのでしょう。わかりました、このテレーゼ、国母として、未来の子供たちを救うために喜んで矢面に立ちましょう」


テレーゼ王妃は感動のあまり涙ぐみ、二人の小さな魔女の手を優しく包み込んだ。


こうして、テレーゼ王妃が主導する、ヴァリエール王国の歴史を揺るがす壮大な「出産育児改革」が、予定よりもはるかに前倒しでスタートすることになった。


それは、美味しいご飯と魔女の知恵で、王国のすべての子供たちの未来を救うための、美しくも確固たる歩みの始まりであった。


テレーゼ王妃が主導する出産育児改革の宣言は、ヴァリエール王国の王都中に凄じい衝撃となって駆け巡った。


国の母である王妃が自ら現場へと足を運び、子供たちの命を救うための活動を行うなど、建国以来前代未聞の出来事であった。


王都の平民街とスラムの境界に急ピッチで建設された「母子健康管理所」には、連日のように多くの人々が詰めかけていた。


王妃が自ら腕をまくり、手洗いの重要性や、煮沸消毒による衛生管理の知識を優しく平民の母親たちへ説いて回る姿は、瞬く間に王都中の女性たちの心を震わせた。


「まあ、あの高貴な王妃様が、私たちのような平民の赤ん坊を自ら抱き上げてくださるなんて!」


「王妃様がこれほどまでに子供たちのために動いてくださるのだ。私たちに手伝えることがあれば、何でもさせてほしい!」


平民の女性たちが熱狂的に賛同し、率先して管理所の清掃や、配給される食事の手伝いを買って出た。


そればかりか、王妃のこの破天荒かつ慈愛に満ちた行動は、貴族社会の女性たちをも激しく突き動かすこととなった。


「王妃殿下が出向いておられるのです。私たち貴族の妻が、ただ屋敷で澄ましているわけにはまいりませんわ!」


「いずれ母となる身分として、この偉大な改革に参加することは最高の誇りですわね!」


高位貴族の夫人たちのみならず、未来の母親となるべき若い貴族令嬢たちまでもが、身分の垣根を越えてボランティアとして次々と管理所へ参入した。


彼女たちはドレスの袖をまくり、平民の女性たちと肩を並べ、石鹸を使った手洗いや、栄養価の高い離乳食の調理法を熱心に学んでいった。


そこには、身分制度という分厚い壁を越えて、子供たちの未来を守るという唯一の目的のために団結した、美しい女性たちの姿があった。


アルジェント公爵家の三女であるセナが、アイラの知識をもとに考案した「安価で最高効率のカロリー摂取プログラム」も大いに威力を発揮していた。


管理所で配られるセナ特製のハーブと骨魚のスープは、栄養失調気味だった子供たちの頬を瞬く間に健康的な桜色へと変えていった。


こうして、出産育児改革は非の打ち所がないほど完璧な滑り出しを見せ、王都はかつてない活気と希望に満ちあふれていた。


だが、そんなテレーゼ王妃の背後には、常に二人の優秀な大人の女性魔術師が影のようにピタリと控えていた。


彼女たちは魔法師団所属の王妃護衛とされていたが、その正体は、変装魔法によって臨時の大人の姿となったアイラとリリアであった。


規格外の魔女である二人が護衛として目を光らせているからこそ、テレーゼ王妃は安心してスラムに近い危険な管理所へと足を運ぶことができるのだった。


しかし、そんな温かな光の裏で、この世界特有の残酷な牙が、突如として幼い命へと襲いかかった。


「た、大変です! 誰か、お医者様を! 子供の様子が、急に……!」


管理所の奥にある授乳室から、若い平民の母親の悲痛な叫び声が響き渡った。


テレーゼ王妃と、護衛に変装したアイラたちが急いで駆けつけると、薄汚れた布に包まれた、二歳ほどの小さな男の子が苦しそうに身悶えしていた。


男の子の肌は異常なほどの赤みを帯びて熱を持ち、その小さな体からは、ピチピチと火花を散らすような不穏な魔力が漏れ出していた。


「……これは、魔力暴走ですわ」


護衛の姿をしたリリアが青玉の瞳を鋭く光らせ、同じく護衛に変装したアイラの隣で小さく息を呑んだ。


「魔力暴走……! そんな、よりによってこの子が……っ」


周囲にいた医師や、護衛の魔法師団員たちが、一瞬にして青ざめて絶望の表情を浮かべた。


この世界において、幼少期の子供が引き起こす魔力暴走は、貴族であっても生存率が一割に満たない不治の病であった。


親や専属の魔法師が何度も応急処置を繰り返して奇跡的に器が成長するのを祈るしかないその病は、平民の子供にとっては発症した時点で致死率十割、すなわち確実な死を意味していた。


「王妃様、危険ですので下がってください! 暴走のエネルギーが周囲に引火すれば、管理所ごと吹き飛ぶ恐れがあります!」


騎士たちが慌ててテレーゼ王妃を遮ろうとしたが、王妃はそれを手で制し、毅然とした態度で子供の枕元へと歩み寄った。


「退きなさい。この地にあるすべての子供は、この国の母である私の子供も同然です。その子供が苦しんでいるというのに、私が背を向けるわけにはまいりません」


テレーゼ王妃の力強く、凛とした宣言に、周囲の女性たちは涙を浮かべてその姿を見守った。


だが、現実問題として、人間の医師や一般の魔法師には、この暴走を根本から止める手段は存在しなかった。


「……始めましょう。私たちが共同で開発していた、あの魔法を」


テレーゼ王妃が静かに目を閉じ、胸元に手を当てて自身の温かい魔力を練り上げた。


実は、最初の魔力暴走に備えて、テレーゼ王妃は裏でアイラとリリアから「対魔力暴走用の一時しのぎの魔法」を直々に伝授されていたのである。


それは、魔女の因子を必要とする白魔法ではなく、アイラとリリアがあらゆる魔法体系を分析した末に構築した、普通の魔力による「魔力霧散と局所転移の複合術式」であった。


王妃の呼びかけに応じ、背後に控える護衛のアイラとリリアが、テレーゼ王妃の体にそっと手を添えて魔力経路のサポートに入った。


「はあっ!」


テレーゼ王妃が凛とした声を上げ、男の子の額に優しく手をかざした。


王妃の温かい魔力が男の子の体を包み込むと、複雑な光の術式がその小さな体を包み込み、激しく暴れ狂っていた異常な魔力の波動が、ジュウウと音を立てて空間へと霧散し、一部が安全に転移して消え去っていった。


男の子の荒かった呼吸が、みるみるうちに穏やかなものへと変わっていく。


肌の赤みはスッと引き、子供は気持ちよさそうに安らかな寝息を立て始めた。


「……消え、た……? 魔力暴走が、王妃様の魔法で完璧に抑え込まれた……!」


「嘘だろ……。あの致死率十割の不治の病を、これほど一瞬で凌ぐなんて……!」


医師たちや魔法師団員たちが、腰を抜かさんばかりに驚愕し、何度も目をこすって奇跡の光景を見つめていた。


「おお、神よ……! テレーゼ王妃様が、魔力暴走を抑える魔法を開発されていたなんて!」


管理所に集まっていた何百人もの女性たちが、一斉にその場にひざまずき、涙を流しながらテレーゼ王妃の名を讃えて大歓声を上げた。


だが、テレーゼ王妃はそこで満足した表情を見せることはなかった。


「みなさん、顔を上げてください。確かに、私たちが開発したこの魔法で一時的に暴走を凌ぐことはできました。ですが、私や優秀な護衛の魔術師が、常にすべての子供たちの側に居られるわけではありません。魔法を使えないお母様方や、一般の管理員でも、この魔法をいつでも使えるようにする必要があります」


テレーゼ王妃は周囲を見渡し、力強く宣言した。


「ですから私は、王家が抱えている技術者たちに、この『対魔力暴走の魔法』をそのまま定着させた魔導具の開発を命じます。魔法に頼らずとも、すべての子供を救える仕組みを、必ずや作り上げてみせましょう!」


王妃の素晴らしい先見の明と決意に、管理所はさらに熱狂的な拍手と歓声に包まれた。


その後、数週間の間、管理所では何度か同様の魔力暴走が発生した。


その都度、テレーゼ王妃や、護衛として同行しているアイラとリリアが直接魔法を使って応急処置を施し、子供たちの命を繋ぎ止め続ける日々が続いた。


そして、ついにその時が訪れた。


いつものように管理所で実務を行っていたテレーゼ王妃たちの元へ、管理所の裏口から、一人の少女が息を切らせて飛び込んできた。


「テレーゼ王妃様! お待たせいたしました! 例の試作品、今まさに調整が完了しました!」


彼女は、クラエス王国から保護され、王妃直属のお抱え技師であるミスティの工房で修行を積んでいる、未だ九歳の幼い天才魔導具技師、ミーアであった。


「素晴らしいわ、ミーア! タイミングはバッチリよ!」


護衛の姿をしたアイラがミーアの手から受け取ったのは、アイラとリリアが提供した魔術回路を、ミーアがその小さな手で極限まで精密に金属に刻み込んで鋳造した、新型の「魔力暴走制御魔導具」の腕輪であった。


まさにその時、管理所の奥から再び、子供の魔力暴走を知らせる母親の悲痛な悲鳴が響き渡った。


「ミーア、さっそくこれを試させてもらうわね」


テレーゼ王妃はミーアが持ってきた美しい金属製の腕輪を手に取ると、急いで暴走を始めた子供の元へと歩み寄った。


王妃は力強く頷き、苦しむ男の子の細い腕にそっと腕輪を装着した。


テレーゼ王妃が静かに目を閉じ、腕輪に優しく触れて自身の温かい魔力をほんの少しだけ流す。


その瞬間、腕輪に埋め込まれた魔石が美しく輝き、男の子の体から噴き出していた異常な魔力の波動が、まるで吸い込まれるように完全に消え去っていった。


男の子の呼吸は瞬時に穏やかなものへと変わり、子供は気持ちよさそうに安らかな寝息を立て始めた。


「……成功です! 魔導具の自動制御術式、完璧に動作しました!」


ミーアがアメジストの瞳を輝かせて歓声を上げた。


「おおお……! 本当に、あの不治の病を一瞬で、しかも王妃様の魔力を少し通すだけで、こんな小さな道具が解決してしまうなんて……!」


医師たちや魔法師団員たちが、腰を抜かさんばかりに驚愕し、何度も奇跡の光景を見つめていた。


「私たちの王妃様は、やはり国母にして、子供たちを救う聖母様だったのだわ!」


管理所に集まっていた何百人もの女性たちが、涙を流しながらテレーゼ王妃の名を讃えて大歓声を上げた。


王妃が自ら現場に立ち、誰も救えなかった不治の病に終止符を打ったというこの一撃は、王妃の威厳を神格化させるに十分すぎる偉業となったのである。


「みなさん、どうかこの素晴らしい魔導具を作ってくれた、この幼き少女を讃えてあげてください」


テレーゼ王妃は一歩下がり、緊張で少し強張っているミーアの肩を優しく抱いた。


「彼女の名はミーア。私が最も信頼する、平民出身の天才魔導具技師です。彼女の類稀なる知恵と技術がなければ、この奇跡の魔導具が完成することは決してありませんでした」


王妃の言葉に、管理所にいたすべての貴族令嬢や夫人、そして平民の女性たちが一瞬だけ息を呑み、そして次の瞬間、地鳴りのような盛大な拍手と歓声がミーアを包み込んだ。


「平民でありながら、これほど素晴らしい道具を開発してくださるなんて……! あなたは私たちの子供たちの救世主よ!」


「なんて可愛らしく、優秀な技師様かしら! 私たちに手伝えることがあれば、何でも言ってちょうだいね!」


貴族令嬢たちも平民の女性たちも、身分の垣根を完全に越えて、九歳の幼いミーアを熱狂的に歓迎し、その温かい輪の中へと迎え入れた。


ミーアは驚きと感動でアメジストの瞳をいっぱいに潤ませ、胸元をぎゅっと握りしめた。


「テレーゼ王妃様、アイラ様、リリア様……私、この国に来られて、本当に幸せです! 人の命を救う魔導具を作ることができて、本当に嬉しいです!」


ミーアが涙を拭いながら微笑むと、護衛の姿をしたアイラは彼女の肩をポンと叩いてニシシと笑った。


「さすがは私たちのミーアね。最高の仕事をしてくれたわ」


「はい。これで王妃様の出産育児改革は、誰も異を唱えられない完璧な国政事業となりましたわね」


護衛の姿をしたリリアもまた、天使のような笑顔で頷いた。


そして、この偉大なる奇跡から数日後。


母子健康管理所は、さらなる驚きと、この上ない栄誉に包めることとなった。


「国王陛下、お越しにございます!」


先導の騎士の声が管理所に響き渡ると、その場にいた女性たちは一斉に動きを止め、驚きに目を見開いた。


重厚な外套を翻し、威厳に満ちた佇まいで姿を現したのは、ヴァリエール王国の国王、ジェラールその人であった。


本来であれば、このような平民とスラムの境界にある施設に、一国の王自らが足を運ぶなどあり得ないことであった。


しかし、ジェラール国王は強い眼差しで管理所を見渡し、ゆっくりと中へ歩み進めた。


そこで王が目にしたのは、美しく整えられた衛生的な空間と、身分の垣根を完全に越えて協力し合う女性たちの尊い姿であった。


高貴な貴族令嬢がドレスの袖をまくり上げて平民の母親と肩を並べ、優しく赤ん坊の面倒を見ている。


かつては反目し合っていたはずの身分同士が、子供たちの命を救うというただ一つの目的のために団結し、互いに笑顔を交わし合っていた。


「素晴らしい光景だな」


ジェラール国王は、胸の奥から湧き上がる深い感動を噛みしめるように、静かに呟いた。


王は、集まったすべての女性たちに向き直り、その温かく力強い声を響かせた。


「皆、よく聞いてほしい。私は今日、王妃が主導するこの出産育児改革が、どれほど偉大な歩みを進めているかを己の目で確かめるためにやってきた」


王の言葉に、貴族の夫人たちも平民の母親たちも、息を呑んで静まり返った。


「そこで私が目にしたのは、身分の違いを乗り越え、この国の未来である子供たちを救うために団結した、美しく、気高き我が国の女性たちの姿であった。皆の者、本当に見事な働きである。王宮を代表し、そしてこの国の父として、皆の無私に満ちた献身に心からの敬意と、感謝の言葉を贈りたい。お前たちのその手こそが、この国の新たな礎を築いているのだ」


国王自らによる、偏見のない最高のねぎらいと称賛の言葉。


それを聞いた女性たちの瞳からは、一斉に感動の涙が溢れ出した。


貴族令嬢たちも平民の女性たちも、互いに手を握り合い、言葉にならない喜びを分かち合っていた。


テレーゼ王妃もまた、夫の誇らしげな姿に目元を潤ませ、優しく微笑みかけていた。


緊張で体がカチコチに固まっている一人の小さな少女へと視線を向けた。


「さて……。この出産育児改革において、最大の難敵であった『魔力暴走』を打ち破る、奇跡の魔導具を作り上げた者がいると聞いている」


ジェラール国王がゆっくりと歩み寄ると、女性たちは道を開け、九歳のミーアがその場にぽつんと残された。


ミーアは心臓が口から飛び出しそうなほど緊張し、小さな体を震わせながら、深く、深く頭を下げた。


「ミーア、顔を上げなさい」


王の優しい声に促され、ミーアがおずおずとアメジストの瞳を上げると、ジェラール国王は彼女を見下ろし、厳かに、しかし誇らしげに告げた。


「お前の開発した『魔力暴走制御魔導具』は、貴族、平民を問わず、これまで失われるはずだった数え切れぬほどの幼き命を救う、国家的な超一級の功績である。九歳にしてこれほどの偉業を成し遂げたお前の知恵と技術を、我が国は決して忘れない」


「よって、その比類なき功績を称え、平民出身の魔導具技師ミーアに対し、王家より直々に『男爵』の爵位を授与することを、ここに宣言する! これより、お前は我が国の誇る若き俊英であり、子供たちの未来を守る光だ」


「えっ……しゃ、爵位……っ!?」


ミーアは己の耳を疑い、アメジストの瞳をこぼれ落ちんばかりに見開いて絶句した。


小さな肩が、緊張と信じられないほどの歓喜で激しく震えている。


周囲にいた魔法師団員や医師たち、そして何より平民の女性たちからも、一瞬だけ信じられないといった様子で息を呑む音が響いた。


しかし、次の瞬間。


「ミーア様、おめでとうございます!」


「本当に素晴らしいわ! あなたは私たちの、子供たちの救世主ですもの!」


かつては平民であった少女の叙爵に対し、日頃から管理所でミーアの血のにじむような努力と健気な姿を間近で見ていた貴族令嬢や貴族夫人たちが、何よりも率先して、惜しみない万雷の拍手と祝福の声を上げ始めたのである。


平民の母親たちも、涙を流しながら自分の赤ん坊を抱き上げ、ミーアの名を何度も呼んで歓声を上げた。


身分を越えた団結の力は、ここでも完全に結実していた。


平民出身の少女がその類稀なる技術によって貴族となり、王家のお抱え技師としての揺るぎない立場を手に入れた。


それは、ミーアの才能がこれからより安全に、そして最大限に発揮されるための、完璧な未来へのチケットであった。


ミーアは涙で視界を滲ませながら、ジェラール国王へ、そして祝福してくれるすべての人々へと、一生懸命に深い礼を捧げた。


その横で、護衛の姿をしたアイラは「ニシシ」と上機嫌で胸を張り、リリアもまた、嬉しそうに手を叩いて天才技師の新たな門出を祝っていた。


こうして、ヴァリエール王国の歴史に深く刻まれることとなる「魔力暴走の克服」は、国母テレーゼ王妃の聖母化を決定づける奇跡として、そして平民出身の天才技師ミーアが貴族として鮮烈に羽ばたく偉業という形で、完璧に成し遂げられたのである。


美味しいご飯と、魔女の知恵、そして天才技師の技術。


それらが組み合わさった時、この世界の残酷な理不尽など、彼女たちの前にはただの障害物にすらなり得ないのだった。


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