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偽物令嬢にされて冷遇に文句を言ったら改善されたので本物の令嬢を探してあげました【連載版】  作者: ウナ
回帰編

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二度目の人生とカオスな家族会議

気絶していたレオンハルトとセオドアが、うめき声を上げながら冷たい床の上で目を覚ました。


「う、うむ……私は一体、何という恐ろしい夢を……」


「父上、俺もです……妹がいきなり神話の魔法を使い、天使が降臨するなどと……」


頭を押さえてふらふらと身を起こす二人に対し、アイラは腕を組んでジト目を向けた。


「夢じゃないわよ、お父様、お兄様。現実を直視しなさいな」


「ヒィッ! ほ、本当にアイラとリリアが魔女になっておる!」


レオンハルトが再び白目を剥きそうになるのを、アイラは素早く黒魔法の微弱な電撃でビリッと刺激して強制的に覚醒させた。


「いいこと、落ち着いて聞いてね。巷で言うところの回帰物、あるいは逆行物っていうジャンルに、私たちが入り込んじゃったみたいなの」


「か、かいき……?」


「要するに、私たちは未来から記憶と力を持ったまま、この九歳の体に戻ってきたってこと。……悪魔の陰謀だとか、神様のうっかりだとか、色々と偶然が重なって処理が追いつかないだろうから、細かいことは後回しでいいわ」


アイラはポンと手を叩き、極めて簡潔に結論を述べた。


「リリアが戻ってきた。私も公爵家に迎え入れられた。アルジェント公爵家の家族が全員揃った。……とりあえず、今はその簡単な事実さえ分かれば良いのよ」


「おおお……! そうだ、私の愛しい娘たちが無事に揃っている! それだけで、お父様はこれ以上何も望まないぞ!」


「アイラ、リリア! お前たちが無事ならば、悪魔だろうが天使だろうがどうでもいい! 兄がすべてを受け入れよう!」


親バカとシスコンという最強の属性を持つ彼らは、アイラの強引な説明をあっさりと受け入れ、感動の涙を流して娘たちを抱きしめようとした。


「あ、ストップ。ハグの前に、もう一つだけ重大な事実を伝えておくわ」


アイラは迫り来る二人を手のひらで制止し、ニシシと悪戯っぽく笑った。


「実は私たち、未来の世界ではすでに結婚して、子供まで作っているの」


「「…………は?」」


レオンハルトとセオドアの動きが、完全に石像のように固まった。


「私のお相手は第一王子のジュリアン様で、リリアのお相手は第二王子のエドワード殿下よ。二人とも立派な王族に嫁いで、それぞれ双子の男の子を産んだの」


アイラが事も無げに爆弾を投下すると、数秒の沈黙の後、公爵邸を揺るがすほどの凄まじい絶叫が響き渡った。


「だぁぁぁぁれが許すかァァァァッ!! 私の可愛い娘たちを、王族の毒牙にかけるなど絶対に認めんぞぉぉぉっ!!」


「兄の目の黒いうちは、たとえ王太子であろうと妹たちに指一本触れさせん! 今すぐ王宮に乗り込んで、あの若造どもを微塵切りにしてやるぅぅっ!」


レオンハルトとセオドアが、目から血の涙を流しながら壁に飾られていた家宝の剣を抜き放ち、今すぐ王宮へ向けてカチコミに行こうと本気の殺気を漏らし始めた。


「まあまあ、落ち着いてくださいませ、お父様、お兄様」


リリアが天使のような微笑みを浮かべ、二人の前にスッと立ち塞がった。


「私たちは確かに未来で旦那様たちと深く愛し合いましたが、それはあくまで『元の世界』でのお話。……すでに心に決めた夫がいる身ですから、この世界(今世)では、誰の元にも嫁に行く気はありませんわ」


「……え?」


暴走していた二人が、ピタリと足を止めた。


「貴族的には跡継ぎや政略結婚で安心できないでしょうけど、私たちは魔女ですからね。面倒な政略結婚なんて物理と魔法で全部お断りして、一生この公爵家で美味しいご飯を食べて過ごすつもりよ」


アイラが堂々とニート宣言を放つと、レオンハルトとセオドアは剣を放り捨て、歓喜の涙を滝のように流した。


「おおお! 一生お父様のそばにいてくれると言うのか! 王族に奪われないなら、これほど嬉しいことはない!」


「アイラ、リリア! お前たちのその決意、兄が全力で支持しよう! 一生涯、このセオドアがお前たちを養い、守り抜いてみせる!」


とりあえず今世の政略結婚の危機(?)は去ったと安心し、二人はすっかり上機嫌になっていた。


「……それで、お父様。明後日には、王宮からジュリアン殿下とエドワード殿下が、慰問という名目でこの屋敷にいらっしゃる予定でしたよね?」


アイラが思い出したように尋ねると、レオンハルトはハッとして顔を顰めた。


「うむ。本来ならばリリアと王太子殿下との婚約を見据えた顔合わせだったのだが……お前たちが絶対に嫁に行かないと誓うのであれば、適当な理由をつけて追い返すとしよう」


「いえ、追い返す必要はありませんわ。むしろ、盛大にお出迎えしましょう」


アイラは、頭の中で天国にいる元の世界のジュリアンと念話を繋ぎながら、極上に腹黒い笑みを浮かべた。


『……というわけで、三日後にこっちの世界の若いあんたたちが来るらしいんだけど、ジュリアン様、何か面白いドッキリを仕掛けない?』


『ふっ、なるほど。天国で退屈していたところだ。……ならば、アイラが用意してくれている「器(人形)」を使って、私たち天国組のメンバー全員で、過去の自分たちを盛大に出迎えてやるというのはどうだろうか』


念話越しに聞こえるジュリアンの悪党のような提案に、アイラは青玉の瞳をキラリと輝かせた。


「お父様、お兄様。三日後の訪問日、王族の応接は私たち『天国組』に任せてください。絶対に退屈しないサプライズを用意しておきますから」


アイラの自信満々な宣言に、レオンハルトとセオドアは、三日後に来るこの世界の何も知らない王子たちが、不憫で気の毒に思えてくるのだった。


そして、三日後の訪問日。


アルジェント公爵邸のエントランスには、十五歳の若いジュリアン王太子と、エドワード第二王子が到着していた。


「レオンハルト公爵。リリア嬢が無事に見つかったと聞き、安堵しているよ。今日は彼女の顔を見に来た」


若いジュリアンが、完璧な王太子の微笑みで挨拶をする。


「殿下、よくぞお越しくださいました。……さあ、どうぞ応接室へ」


レオンハルトとセオドアは、どこか引きつった顔で二人を応接室へと案内した。


重厚な扉が開かれた瞬間、若い王子二人は、部屋の中にいる異様な面々を見て完全に言葉を失った。


「ようこそ、過去の私。そしてエドワード。随分と初々しい顔をしているな」


ソファに優雅に腰掛けていたのは、二十代半ばの精悍な姿に成長した、天国組のジュリアン(人形の身体)だった。


「なっ……あ、あなたは……私にそっくりな、いや、未来の私……?」


「ジュリアン兄上が二人!? しかも、隣にいるのは……私!?」


驚愕する若い二人の前には、同じく大人の姿に成長した天国組のエドワード、マリー、クロード、ノアといった面々が、ニヤニヤと笑いながら勢揃いしていた。


「ふははは! 驚いておるな! これが私たちの用意した最高のサプライズじゃ!」


セリアがクッキーを齧りながら大笑いしている。


しかし、このカオスな状況において、最も強烈なサプライズを受けたのは、案内役であるレオンハルトとセオドアの方だった。


「あら、レオンハルト。それにセオドア。久しぶりね」


「「……っ!!」」


天国組のメンバーの後ろから、優しく微笑みながら進み出てきた二人の女性。


どちらも、九年前に命を落としたはずの最愛の妻であり母、エレオノーラであった。


「え、エレオノーラ……!? し、しかも二人……!? おお、おおおっ……本当に、君なのか……っ!」


「母上……っ! ああ、夢ではないのですね……っ!」


レオンハルトとセオドアは、来客である王子たちの存在を完全に忘れ、二人のエレオノーラの前に膝をついて子供のように大号泣し始めた。


「まあまあ、二人とも相変わらず泣き虫ね。……リリアを無事に育ててくれたことには心から感謝するわ。本当にありがとう」


天使たちの手配によって人形の身体を得て復活した『今世のエレオノーラ』が、二人の頭を優しく撫でた。


しかし、次の瞬間。


パァァァンッ!! パァァァンッ!!


「「ぶふぉっ!?」」


今世のエレオノーラの両手が、レオンハルトとセオドアの頬に、容赦のない強烈なビンタをそれぞれお見舞いした。


「え、エレオノーラ……!?」


「は、母上……なぜ……っ」


頬を押さえて呆然とする二人を見下ろし、今世のエレオノーラは般若のような怒りのオーラを放った。


「悪魔の陰謀で記憶を操作されていたとはいえ、アイラをスラムの泥水の中に放置し、あまつさえ屋敷に連れてきてからも偽物扱いして冷遇したこと……絶対に許しませんからね! アイラは、一度スラムで死んで、そこに未来のアイラの魂が引き合い融合したことで奇跡的に息を吹き返したのよ! もしそのままだったらどうするつもりだったの!! それにリリアが見つかった後もあれは何!? 目的は何であれ、一度、公爵家で連れてきた小さい女の子をスラムに戻すようなことを貴方たちがするなんて見損ないましたわ!」


激怒する今世の妻であり母の言葉に、レオンハルトとセオドアは再び平伏して「も、申し訳ございませんんんっ!」と大号泣しながら謝罪を始めた。


「ふふっ。やっぱり世界が変わっても、アイラとリリアを想う『私』の気持ちは同じね。頼もしいわ」


その様子を横で見ていた『天国組のエレオノーラ』が、扇子で口元を隠しながら、自分自身である今世のエレオノーラの怒りっぷりに満足げに微笑んでいた。


アイラは、目の前で繰り広げられる異様な光景にそっと息を吐いた。


「……自分が激怒してるのを、もう一人の自分がニコニコ笑って見てるって、どういうカオスな状況よ」


感動と物理的制裁が入り混じった涙なしには見られない(?)家族の再会シーンが繰り広げられている。


「……あの、僕たちは今、何を見せられているのかな?」


完全に蚊帳の外に置かれ、目の前の大人の自分たちと、号泣する公爵親子、そしてなぜか二人いる公爵夫人を交互に見比べる若いジュリアンが、引きつった笑いで尋ねた。


「説明すると長くなるが、我々は別の時間軸から来た未来の君たちだ。……安心しろ、君たちには一切手出しはしない。我々はこの世界で、ただ愛する妻たちと美味しいご飯を食べて過ごすだけだからね」


大人のジュリアンが余裕の笑みで答えると、若いジュリアンとエドワードは、目の前の圧倒的な実力者たちから放たれるプレッシャーに、ただただ圧倒されるしかなかった。


(……あんな化け物みたいな連中の相手をするのが、未来の自分で本当によかった。まあ、その未来の自分も大概化け物なのだが)


若いジュリアンは、心の中でひっそりと安堵の息を吐き出すのだった。


感動とカオスが入り混じった面会が終わった後、アイラたちは公爵邸の会議室に集まり、今後の生活についての話し合いを行った。


「さて、色々とカオスな状況だったけど、笑い話はここまでよ」


アイラが議長として切り出すと、指先を鳴らして会議室の周囲に強力な防音と認識阻害の結界を張った。


先ほどまでのドタバタ劇が嘘のように、アイラの表情から一切の笑みが消え、部屋の空気が一変する。


それに呼応するように、ジュリアンやノアたち『天国組』の面々からも、歴戦の強者としての鋭い覇気が放たれた。


「まずは天国組のみんなの戸籍と生活拠点をどうするかだな。私たち天国組のアルジェント家は、レオンハルト公爵の『遠縁の分家』という扱いにして、王都の郊外に別の邸宅を用意してそこを我々の拠点アジトとしよう。表向きはノアやクロードたちに管理を任せつつ、裏工作や集合場所として使うのが一番自然だろう」


ジュリアンが手際よく計画を述べ始めた。


「ええ、それがいいわね。アイラとリリアは、この世界の九歳の身体に宿っているから、そのまま本家のアルジェント家で公爵令嬢として生活を続けるのが合理的だわ」


今世のエレオノーラが微笑みながら同意する。


「では、私とエドワードは、容姿を少し変装魔法で誤魔化し、分家の当主と騎士として王宮に勤務するとしよう。内部に身内がいる方が、色々と情報操作がしやすいからね」


「マリー姉ちゃんは、そのまま私とリリアの専属侍女として本家で雇ってもらうわ。お父様、いいわよね?」


「当然だ! アイラたちの信頼する者ならば、最高の待遇で迎え入れよう!」


すっかりエレオノーラたちに甘えて上機嫌なレオンハルトが、二つ返事で快諾した。


「そして、この異常な事態についてだが……この世界の国王陛下には、私から直接事情を説明し、一度全員で話し合う場を設けることにする。王家の協力を得ておいた方が、今後の活動が格段にやりやすくなるからね」


ジュリアンの完璧な采配により、天国組のこれからの盤石な生活基盤がアッサリと整えられた。


「よし、これで私たちの生活の心配はなくなったわね。……でも、一つだけすごく気になっていることがあるの」


アイラが、少しだけ表情を険しくして腕を組んだ。


「昨日、マリー姉ちゃんの戸籍や、スラムの様子を念のために調べてみたの。……そしたら、不思議なことに、この世界にはマリー姉ちゃんを含め、リックやセナといった他の孤児たちが『誰一人として』存在していなかったのよ」


「えっ……私たちが、存在していない?」


マリーが驚いて目を見開く。


「ええ。それに、マリー姉ちゃんが壊滅させたはずのスラムの元ギャングのおじさんたちも、まだ凶悪なギャングとしてそのまま裏社会を牛耳っていたわ」


アイラの報告に、会議室の空気がピリッと張り詰めた。


「……僕の計算によれば、それは明らかに不自然です。時間を巻き戻しただけならば、彼らが存在しない理由がありません」


ノアが眼鏡を押し上げながら、冷静な分析を口にする。


「つまり、私たちが戻ってきたこの世界は、ただの『純粋な過去』ではなく、微妙に条件が異なる『別のパラレルワールド』だということね」


アイラが結論を述べると、ジュリアンも深く頷いた。


「ああ。神のうっかりによって時間が巻き戻った際に、世界線に何らかのズレが生じたのだろう。……今後の方針としては、自分たちが元いた時間軸と、この世界の時間軸の違いを慎重に調べていく必要がある」


「ええ。何が起こるか分からない以上、警戒は怠れないわね」


アイラは、黒魔法使いの杖をドンッと床に突き立て、力強く宣言した。


「そして、絶対に忘れてはいけないのが……東のアウストラル帝国のことよ」


その名前が出た瞬間、全員の瞳に冷たく、そして激しい怒りの炎が宿った。


かつて彼らの日常を奪い、百二十万というあり得ない数の軍勢で世界を地獄の底に突き落とした、あの狂気の大帝国。


「この世界線でも、奴らが同じように世界統一を企んでいる可能性は高い。……でも、今度の私たちは違うわ。無敵の力と記憶を持った私たちが揃っているんだから」


アイラが青玉の瞳をギラリと輝かせると、リリアも天使のような微笑みを浮かべて立ち上がった。


「ええ、お姉様。この時間軸では、絶対にあの忌まわしい統一戦争など起こさせませんわ。私たちの手で、必ず未然に防いでみせます」


「おう! 悪党どもは、俺の剣で一人残らずぶった斬ってやるぜ!」


「ええ、私の筋肉と信仰の力で、帝国ごと浄化して差し上げますわ!」


クロードとセリアが闘志を燃やし、ジュリアンとエドワードも静かに剣の柄に手を置いた。


美味しいご飯を食べ、愛する家族と笑い合う、この最高に幸せな二度目の人生を守り抜くため。


神のうっかりから始まった新たな世界で、最強の魔女と仲間たちの、底知れぬ悪意との戦いが、今ここに静かに、そして高らかに幕を開けたのである。


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