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偽物令嬢にされて冷遇に文句を言ったら改善されたので本物の令嬢を探してあげました【連載版】  作者: ウナ
冒険者編

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フエルゾンビ討伐作戦

巨大な地下研究施設を跡形もなく消滅させたアイラたちは、空間転移の魔法を用いて、聖都ルシエラに建てられた拠点であるギルドハウスへと無事に帰還を果たした。


かつてのアルジェント公爵邸を完全に再現したその豪奢な屋敷に戻ると、アイラとジュリアンは一旦仲間たちを休ませ、二人だけで冒険者ギルドの特別室を訪れることにした。


魔女の世界から派遣され、ギルドの重役として潜伏しているミラーアリスに、今回の最悪なイレギュラーの報告をするためである。


「……つまり、あの『無限に増殖する面倒くさい被害者の女』が、噛まれただけで感染するゾンビになったというのね?」


特別室のふかふかなソファに深く腰掛けたミラーアリスは、アイラからの報告を聞き終えると、盛大に深い溜息をついて天を仰いだ。


「ええ、少しでも切り刻めば瞬く間に増殖して、その全てが感染源のゾンビとして動き回るという、最悪の組み合わせですわ」


「ただでさえ処理に困って迷宮に放り込んだというのに、それにアンデッドの不死性と感染力まで付与されるなんて、冗談抜きで世界が終わるわよ……」


頭を抱えるミラーアリスの様子を見て、アイラとジュリアンも心の底から「その気持ち、よくわかる」と深く共感していた。


「すでに地下の換気口から相当数のゾンビが外に漏れ出していることは確認済みですから、ギルドのネットワークを使って迅速に情報を集めたいのですわ」


アイラの提案を受け、ミラーアリスはすぐに冒険者ギルド全体に通達を出し、ある一つの新しいルールを策定した。


それは、いかなる場所であってもゾンビを見かけた場合は手を出さず、神聖ルシエラ教国の窓口となっている冒険者のクラン『ヴァリエール』に即座に通報すること、というものである。


中途半端に攻撃して感染を広げたり、万が一あの増殖する個体を切り刻んで被害を拡大させたりするのを防ぐため、専門の処理部隊であるアイラたちに丸投げさせるためのシステムであった。


「これで少しでも被害の拡大が防げれば良いのだけれど、実際にどれだけの数のゾンビが研究施設から抜け出したのかが不明な以上、今はこれが最善策でしょうね」


ミラーアリスの言う通り、もはや世界中に散らばってしまった可能性のあるゾンビを、人間の力だけで完全に探し出して根絶するのは不可能に近い。


最悪の場合、いよいよ人類が絶滅するという直前になれば、天界の天使たちが重い腰を上げて浄化作業、いわゆる『大洪水』と呼ばれる神の鉄槌を下して世界をリセットするだろう。


「いくら私たち魔女の力が強大だと言っても、世界中に散らばった特定の種だけを一気に選別して消滅させるなんてことはできませんものね」


「ああ、それが出来る魔女も中には居るかもしれないが、そこまでして人間に無償で尽くすほど気を揉んでいる者はいないだろう」


ジュリアンが肩をすくめて言う通り、魔女たちにとって人間の存亡など、そこまで興味を惹かれる事象ではないのだ。


面倒だから最終的な処理は天界に任せるというのが、大半の魔女たちの共通した見解であろう。


「私たちの方針としても、美味しいご飯を提供してくれるこの神聖ルシエラ教国の聖都だけは結界で守り抜いて、あとは天界の動向を伺うという形になりますわね」


アイラたちがもし、現在を懸命に生きるただの人間であったならば、このような冷淡とも取れる考えには至らなかっただろう。


しかし、悠久の時を生きる真の魔女や使い魔として人間を辞めてしまうと、驚くほどドライな思考になれるものだった。


長い年月を経て、彼らの中で普通の人間を『同族』としてとらえる感覚が、既にすっぽりと抜け落ちてしまっているのである。


ギルドでの話し合いを終えてギルドハウスへと戻ると、屋敷のサロンには予期せぬ珍客が待ち構えていた。


「やあやあ、麗しき魔女殿たち。ご無沙汰しているね」


そこに立っていたのは、エマの身体を借りているシュシュエルの上司であり、だいぶ昔に一度だけ会ったことのある上位天使、ラジエルであった。


天界からの使者である彼が自ら地上へ出向いてきた理由は、他でもない、今回直面している人間の絶滅危機についてである。


「単刀直入に言おう。天界の方針としては、やはりあのゾンビたちによって地上が汚染され尽くした最後には、大洪水による浄化作業を行うことで決定したよ」


ラジエルは優雅な微笑みを崩さずに、恐るべき神の裁きの決定をあっさりと口にした。


「そう言う訳だから、天界としても我々の庭である人類が絶滅するのは困るゆえに立ち上がったのだけれどね」


「つまり、君たち天使でさえ手に負えなくなったら、世界ごと洗い流して丸投げするという方針で、魔女側も天界側も合意したということだな」


ジュリアンが冷ややかに確認すると、ラジエルは「その通り」と楽しげに手を叩いた。


「しかし、我々としても無闇に地上をリセットするのは骨が折れる。天界としては、そうなる前に君たちの力でなんとかしてくれないかと頼みに来たというわけさ」


「あら、ただの使い走りをさせるつもりならお断りですわ。そこは何か、私たちの食指が動くような良い報酬が用意されているのでしょうね?」


アイラが交渉のテーブルにつくべく不敵な笑みを浮かべると、ラジエルもまた、何かを企んでいるような胡散臭い笑顔を返してきた。


「もちろん、君たちが満足するような特別な便宜を図ろうじゃないか」


「いくら天界でも、私たちをタダ働きさせる気なら容赦しませんわよ。一体どんなすごい報酬を用意しているのかしら」


ラジエルが最後に残していったその笑みがどうにも気にかかるアイラであったが、天界との交渉と方針の共有という点では、この話は一旦解決ということになった。


それからのアイラたちは、クラン『ヴァリエール』に寄せられる情報を元に、各地へ赴いて討伐を行う日々を送ることになった。


何度か一匹から数匹程度のゾンビの目撃情報が入り、その度に天国組のメンバーと共に空間転移で討伐に向かった。


「お姉様、今回もただのゾンビでしたわ! あの増殖する個体じゃなくて安心しました!」


「ええ、ささっとお掃除を済ませてしまいましょう」


リリアや仲間たちと共に、増える最悪の個体が居なかったことに安堵の息を漏らしつつ、確実にゾンビを消滅させていく。


「さあ、お仕事の後は楽しいお食事の時間ですわよ! 今日はこの地方のご当地メニューを堪能して帰りますわ!」


「ははっ、君の胃袋を満たすためなら、どんな辺境の料理でも探し出してみせよう」


ゾンビを倒したついでに、その土地ならではの美味しいご当地メニューを心ゆくまで堪能して帰還する。


そんな平和と危機が入り混じった奇妙なルーチンワークがすっかり板についてきた頃のことである。


平穏な討伐と美味しいご当地グルメ巡りの日々を揺るがすように、二つの方向からアイラたちのもとへ声が掛かった。


一つは、かつて皇都トーキでの事件の末に、面倒だからと冒険者ギルドが管理する迷宮の下層へと放り込んだ『増殖するオリジナル』からの接触であった。


そしてもう一つは、以前何かを企んでいるような胡散臭い笑顔で去っていった天使ラジエルからの再度の接触である。


ある日、討伐後のご当地スイーツを食べ歩いていたアイラたちの前に、予期せぬ人物が立ちはだかった。


「あなた、あの時私をあんな気味の悪い場所に放り込んだ女ね!」


息を切らせて駆け寄ってきた美しい女性は、アイラを指差して声を荒らげた。


「あら、あの時の増殖する被害者さんではありませんの」


アイラが優雅に微笑み返すと、女性は忌々しげに顔をしかめた。


彼女は、アイラたちが実際に接触し、実験と称してジュリアンに殺害させた個体から増殖したうちの一体であった。


彼女たちは同じ顔と性質を持っているが、個体間で意識を共有しているわけではないという。


話を聞けば、迷宮を抜け出して地上でまた別の人生を謳歌しようとしていた矢先、実際に別の自分が成れの果てた恐ろしい姿、すなわち『ゾンビ』に遭遇してしまったらしい。


「あんな悍ましい化け物になった自分を見るなんて、身の毛がよだつわ!」


命からがら逃げ出した彼女は、冒険者ギルドで専門家が事態の収拾に動いているという情報を得て、窓口となっているクラン『ヴァリエール』の拠点まで助けを求めに行こうとしていた。


その道中、ご当地メニューのスイーツを食べ歩いていたアイラたちを偶然見かけたため、思わず声を掛けてきたとのことである。


「なるほど、あのフエルのゾンビに遭遇して生き延びたのは運が良いですわね」


彼女の名前は日本語の『増える』と同じ発音だ。


この世界の言葉ではないため周囲には伝わらないが、アイラから言わせればこれほど彼女の性質を表した、ピッタリの名前はないだろう。


「それで、そちらのラジエル様は一体どのようなご用件かしら?」


アイラが視線を向けると、上位天使ラジエルは相変わらずの企み顔で、しかし今回は少しばかり緊張感のある微笑みを浮かべていた。


「実はね、君たちにぜひともやる気を出してもらおうと思って、天界から特別な許可を取り付けてきたのさ」


ラジエルが提示した報酬の話は、アイラや天国組のメンバーたちにとって、背筋が震えるほど魅力的な内容であった。


「今回、人類の危機を救うために特例で貸し出した『家族と仲間の魂』について、天界からの買い取りを許可しようと思う」


その言葉の意味を理解した瞬間、アイラとジュリアンの動きがピタリと止まった。


「つまり……この事件を完全に解決すれば、お父様やお兄様たちと、永遠にこの地上で共に暮らせるようになるということですの?」


「その通りだよ」


ラジエルが悪戯っぽくウインクをすると、その場にいた全員の間に衝撃が走った。


アイラたちは急いで拠点であるギルドハウスへと戻ることにした。


なぜか超特急で見ず知らずのフエルも一緒についてきたが、もはやそんな些細なことを気にしている場合ではない。


ギルドハウスのサロンに天国組のメンバー全員を招集すると、アイラは興奮を抑えきれない様子で天界からの報酬について話し始めた。


「……というわけで、このゾンビ騒動を片付ければ、皆様はずっと私たちの側で、この世界で一緒に生きられるのですわ!」


アイラが言い終えるや否や、サロンは割れんばかりの歓声に包まれた。


「おおおお! アイラとリリアの側に永遠に居られるだと!? ならば、あの薄汚い死体どもなど、今すぐお父様が塵一つ残さず駆除してくれよう!」


レオンハルトが感動の涙を流しながら黒魔法剣を抜き放ち、雄叫びを上げる。


「ええ、妹たちを害虫から永遠に守り続けることができるとは、天界も粋な計らいをするではありませんか。すぐに全てのゾンビを殲滅しましょう」


セオドアも極度のシスコンぶりを発揮し、美しい顔を戦意に歪ませた。


「ああ、私も愛しい娘たちの成長をずっと見守れるなんて、これ以上の幸せはないわ」


エレオノーラが嬉しそうに微笑み、マリーもメイド服の裾を翻して深くお辞儀をした。


「お嬢様方の美味しいお食事を一生お守りできるのですね。わたくし、気合を入れてお掃除させていただきますわ」


「うおおおおっ! 永遠にアイラたちの飯が食えるなら、どんな化け物だろうが俺の剣で真っ二つだ!」


「リリア様! 私たち、ずっと一緒にいられるんですね! 筋肉と魔法の特訓、毎日付き合いますからね!」


クロードとセリアも手を取り合って喜びの声を上げている。


「……僕の計算によれば、永遠にカオスな日常が続くということですね。ですがまあ、天国の退屈な日々よりは有意義なデータが取れそうです」


ノアは眼鏡をクイッと押し上げながらも、その口元には確かな笑みが浮かんでいた。


みんなで過ごすことが大好きなのだ。


家族も仲間も一緒に居たいという、そんな素敵な願いが叶う場所こそが、この世界なのである。


全員が凄まじいまでのやる気と殺意を漲らせているのを見て、アイラは満足げに頷いた。


そして、ひとしきり歓喜の嵐が吹き荒れた後、事件解決の話し合いを再開するところで漸く、すっかり置き去りにされていたフエルの紹介と特性についての情報を共有するのであった。


「なるほど、切り裂かれて別れた部位の数だけ増えるのですか。計算外の存在すぎて頭が痛くなります」


ノアがこめかみを押さえる中、フエルの一人が思い出したように声を上げた。


「そういえば、私が別の私……その、ゾンビになった私に遭遇した時、すごく遠くからでも分かったわ。私たちは、一定以内の範囲にいると、お互いの存在を認識できるのよ。それで、ゾンビになった私は、一直線に私に向かってきたわ」


その重要な証言により、フエルとフエルゾンビの間には、都市規模程度の距離であっても互いに認知し合える共鳴のような繋がりがあることが分かったのだ。


「素晴らしい情報ですわ! つまり、このフエルさんたちを囮に使えば、最悪のイレギュラーであるフエルゾンビをわりと簡単に見つけ出せるということですのね!」


アイラが嬉々として提案すると、ジュリアンも感心したように頷いた。


「ああ、そういうことなら話は早い。彼女たちを利用して、確実に奴らを仕留めるチームを編成しよう」


ノアは、それに加えて別の角度からの提案もしてきた。


「それならば、未だゾンビ化していないフエルさんを保護することもできるでしょう。退治している後ろで新しいゾンビになってもらっても困りますからね。保護と退治を並行して行いましょう」


フエルは感動して目を輝かせているが、アイラは内心『見事な恋愛フラグですわね……』と頭を抱えていた。


とは言え、今回の特注人形はマザーシックスのお手製に加え、アイラが提供したフエルの特性、殺人衝動を起こさせる能力にも対応済みなので、ノアがフエルを殺すことは無い。


と言う訳で、フエルゾンビの討伐担当者は、護衛と援護と攻撃という役割分担で完璧なチームを組むことに決定した。


選ばれたのは、オルフィアとセリアとノアの三人である。


「ひぃぃ……わ、私がこの増える方たちの護衛ですか……? が、頑張ります、絶対に傷一つつけないように、強力な水魔法の防壁で守り抜きますからぁ……!」


かつては極度のあがり症であったオルフィアだが、芯の強さを見せて決意を固めた。


「任せてください! 私が筋肉と光の魔法で派手に暴れて、ゾンビの注意を全部引きつけますから!」


セリアが頼もしく胸を張り、ノアが静かに杖を構えた。


「フエルゾンビを消滅させるのはアイラ嬢とリリア嬢の混沌魔法が一番強力ですが、相手は単体ですから僕の魔法でも一撃で足ります。一番被害が少なく、確実に殲滅できる計算式はすでに構築済みです」


策士であり、常に冷静な判断を下せるノアが攻撃の要となるのは実に頼もしいことであった。


フエルゾンビの対処法が確立したところで、次は大量に漏れ出した通常ゾンビの掃討作戦である。


「私たちとリリアのチームは、地下に広がっていた道を辿って、過去視の魔法を使いつつゾンビの移動ルートを追跡しますわ」


アイラが地図を広げ、指を這わせながら宣言する。


「見つけ次第、容赦なく見敵必殺サーチアンドデストロイですわよ」


「お姉様、私とエドワード様も絶対に負けませんからね! 愛の力で全部お掃除しちゃいます!」


リリアもエドワードと腕を組みながら、やる気に満ちた笑顔を見せた。


「そして残る問題は、世界中に散らばってしまった可能性のあるゾンビの正確な位置ですわね」


これについては、地下の巨大研究施設から回収した研究資料が鍵となる。


「回収した資料は、魔女世界のエレノワール先生のところに居候しているミーアに協力してもらって、全力で解析してもらいますわ」


優秀な魔導具技師であるミーアの知識と、エレノワールの古代魔法の知恵を借りれば、ゾンビ特有の魔力波長を特定できるはずである。


「ミーアからの解析結果が出次第、リリアの探査捜索系の魔法で一発ヒットした場所に空間転移で向かい、そこでまた見敵必殺サーチアンドデストロイという算段ですわね」


完璧な作戦の立案に、一同は力強く頷き合った。


「さあ皆様、文字通り世界を救う、最高の大掃除の始まりですわよ!」


愛する家族たちと共に永遠の日常を過ごすため、最強の魔女と英雄たちによる、終わらないルーチンワークに終止符を打つ戦いが今、幕を開けたのであった。



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