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偽物令嬢にされて冷遇に文句を言ったら改善されたので本物の令嬢を探してあげました【連載版】  作者: ウナ
冒険者編

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聖都の地下に潜む狂気

人形のドールボディであるにもかかわらず、クロードが新しい筋肉の張り具合を誇らしげに見せつけ、セリアが力強く頷き返している姿を見て、アイラたちの顔にも自然と笑みがこぼれた。


「みんな、すっかり新しいお体に慣れたみたいですわね」


アイラが嬉しそうに声をかけると、オルフィアも柔らかい笑みを浮かべて歩み寄ってきた。


「はい、マザーシックス様が作ってくださったこのお体、生前の頃と全く変わらない感覚で動かせます」


マリーも優雅にお辞儀をして、メイド服の裾を揺らした。


「お嬢様方をお守りするため、わたくしもいつでも戦えるよう調整は完璧に済ませておりますわ」


そんな頼もしい仲間たちの姿に、一ヶ月の疲労も吹き飛ぶようだった。


「さあ、難しい話は後にして、今日は皆さんの地上への帰還と新しいお体を祝って、盛大なパーティーを開きましょう!」


アイラの提案に、その場にいた全員から歓声が上がった。


早速、公爵邸を完全に再現した広い厨房では、アイラとリリアを筆頭に、マリーとエマの有能なメイドコンビが加わり、凄まじい手際で料理が作られていった。


天国から駆けつけてくれた大切な家族や仲間のため、アイラたちは持てる限りの知識と技術を総動員して、最高級の肉をふんだんに使ったローストビーフや、新鮮な魚介のブイヤベース、そして色とりどりの美しいスイーツの山を完成させた。


広間の大きなテーブルに豪華な料理が並べられると、待ちわびていたレオンハルトとセオドアが感極まったように涙を流した。


「おおおお……! アイラとリリアの手料理を再び地上で食べられる日が来るなんて、お父様はまた死んでも悔いはないぞ……!」


「父上、すでに死んでいるという事実を忘れないでください。しかし、愛しの妹たちの愛情がこもった料理、一口たりとも有象無象には譲りませんよ」


そう言いながら猛烈な勢いで料理を取り分ける二人の横で、エレオノーラが微笑みながら彼らを見守っていた。


「あなたたち、あまりはしたない真似をしないで頂戴。……でも、愛しい娘たちが腕によりをかけて作ってくれた料理だもの、私もお腹いっぱい食べさせてもらうわね」


「お母様、お口に合うと嬉しいですわ。さあ、たくさん食べてくださいね!」


リリアが楽しそうに笑いながら、エレオノーラの皿に料理を取り分けていく。


「むうっ、アルジェント公爵ばかりずるいぞ! 私も、もっとその肉厚なステーキを所望するのじゃ!」


セレスも教皇としての威厳をすっかり忘れ、口の周りにソースをつけながら料理にかぶりついていた。


「セレスちゃん、お肉ばっかりじゃなくてお野菜も食べなきゃだめだよ?」


セナが甲斐甲斐しくセレスの世話を焼き、その隣ではヴァリエとガーランドが、久しぶりの母親の手料理に舌鼓を打っていた。


「やっぱり、母さんの料理は世界一だね。どんな高級な料理より、これが一番美味しいよ」


「ええ、本当に。お母様の手料理を食べると、勇者として戦っていた頃の疲れまで癒される気がします」


立派に成長し、勇者としての使命を果たした息子たちの言葉に、アイラとリリアは少し照れくさそうに、けれど心の底から嬉しそうに微笑んだ。


クロードとセリアは凄まじい勢いで肉を平らげながら、摂取したカロリーをいかに効率よく筋肉と魔法の威力に変換するかについて熱く語り合っている。


かつての……いやかつて以上のアルジェント家の食卓の風景がそこにはあった。


皆が心ゆくまで料理を堪能し、エマが淹れた薫り高い紅茶とアイラ特製のデザートが配られると、穏やかなティータイムへと移った。


場が落ち着いたのを見計らい、アイラは少しだけ真面目な表情を作って切り出した。


「さて、美味しいご飯も食べたことですし、現状の報告をさせていただきますわね」


アイラは、ジュリアンと共に北の森を調査した結果を話し始めた。


それに続き、リリアとエドワードのチームが南の山岳地帯を、セレスとセナ、エマたちのチームが東の荒野をそれぞれ一ヶ月かけて探索した結果が報告された。


どのチームも夥しい数のゾンビを討伐したものの、肝心の発生源である実験施設や、黒幕の痕跡を見つけることはできなかったという結論であった。


「うむむ、あれだけしらみつぶしに探しても見つからないとなると、一体どこに隠されているのやら……」


セレスが紅茶を飲みながら首を捻ると、これまで黙って話を聞きながら手元のノートにペンを走らせていたノアが、ふと顔を上げた。


「……皆さんの報告と、僕が事前に収集した情報を総合して計算した結果、一つの興味深い仮説が導き出されました」


ノアが眼鏡の位置をクイッと直すと、全員の視線が彼に集まった。


「まず、この神聖ルシエラ教国は、かつて神聖エルミナ教国と名乗っていた時期がありました」


「ええ、アウストラル帝国の世界統一戦争後の時ですわね」


アイラが頷くと、ノアは静かに言葉を続けた。


「ええ。その際、アウストラル帝国の皇族が教国を乗っ取り、支配下においていたという歴史的事実があります。当然、その乗っ取りの過程で、皇族を護衛する軍属や、彼らに仕える多くの知識人、研究者たちもこの教国に入り込んでいたはずです」


「……なるほど。その知識人の中に、無敵の兵士、すなわちゾンビの開発者がいたとしてもおかしくはないというわけだね」


ジュリアンが鋭い視線でノアの言葉の先を促した。


「その通りです。アウストラル帝国が滅びた後も、彼らは密かに帝国の復活を待ち望み、地下深くに潜って研究を続けていたのではないでしょうか」


ノアの冷静な推論に、広間は水を打ったように静まり返った。


「しかし、数百年という長い年月が経つにつれて、当初の『帝国復活』という目的は風化し、ただゾンビたちを兵器として研究し続ける狂気的な研究機関だけが残ってしまった……」


「そして、資金難に陥ったその研究機関に、あの『影の国家』がスポンサーとして資金や技術を提供していた可能性も十分に考えられます」


かつて影の国家と死闘を繰り広げたヴァリエとガーランドが、険しい表情で言葉を添えた。


「それらの要素と、皆さんが各地域から持ち帰ってくれたゾンビに付着していた土の成分、それに微かに残る魔力の波長をすべて計算式に当てはめると、答えは一つしかありません」


ノアは持っていたペンを置き、真っ直ぐにアイラたちを見据えた。


「実験施設は、これまで皆さんが探してきたような辺境の地や荒野ではなく……ここ、神聖ルシエラ教国の聖都、あるいはごく近隣の町や村のどこかに隠されている可能性が極めて高いということです」


その言葉を聞いた瞬間、アイラは前世の記憶にある一つのことわざを思い出した。


「……『灯台下暗し』、ということですわね」


「まさにその通りです。最も安全で、かつ人目につかない場所として、彼らは教国の中枢に近い場所を隠れ蓑に選んだのでしょう」


ノアの完璧な論理による推論に、他のメンバーも次々と納得の表情で深く頷いた。


「なるほど、遠くばかりを探して、足元をお留守にしていたというわけだ。僕の計算でも、それが最も理にかなっているね」


ジュリアンが感心したように言うと、レオンハルトが力強く立ち上がった。


「よろしい! 敵の居場所がこの教国の懐にあると分かれば、話は早い! 明日から我々も各チームに分かれ、この教国内をしらみつぶしに探してやろうではないか!」


「ええ! 私の物探しの魔法も、距離が近ければもっと精度が上がります! 今度こそ絶対に見つけ出してみせます!」


リリアも気合十分に拳を握りしめた。


「よし、方針は決まりましたわね。明日からはチームを再編して、聖都を中心に教国内の調査を開始しますわよ!」


アイラの高らかな宣言に、天国から駆けつけた頼もしい仲間たちが一斉に力強い返事をした。


美味しいご飯と世界の平和を守るため、最強の布陣による本格的な反撃がいよいよ始まろうとしていた。


ノアの完璧な推論により敵の拠点が教国内にあるという確信を得たアイラたちは、翌日から本格的な調査を開始した。


聖都ルシエラやその周辺の町や村を効率よくしらみつぶしに探すため、メンバーはアイラ、リリア、セレス、レオンハルト、クロードをそれぞれリーダーとする五つのチームに再編された。


教皇であるセレスのチームがもっとも怪しい聖都の内部をくまなく調べ、他の四チームは教国内に点在する町や村の調査を担当することになった。


人形の体を得て疲労を知らない天国組の活躍もあり、調査は昼夜を問わず驚異的なスピードで進められていった。


そして調査開始から三日後、各チームはそれぞれが担当する町や村の倉庫、あるいは使われていない民家の地下に、奇妙な隠し部屋を発見したのである。


その隠し地下室のどれもが、ただの貯蔵庫ではなく、何らかの生体研究を行っていたと思われるおぞましい形跡が残されていた。


さらに、それぞれの地下室からは奥へと続く隠し通路が伸びており、それを辿っていった結果、五つのチームは最終的に一つの場所に集結することとなった。


「……どうやら、みんな同じ道に辿り着いたみたいですわね」


薄暗い地下通路の交差点で他のメンバーたちと合流したアイラが、周囲を見回して言った。


「ええ、お姉様。私の物探しの魔法でも、この先から凄まじい邪気と腐敗の臭いがビンビンに伝わってきます!」


リリアが鼻をつまみながら、通路のさらに奥へと続く巨大な鉄の扉を指差した。


「我が愛娘たちよ、よくぞここまで辿り着いたな! しかしこの先は危険な匂いがするゆえ、お父様の後ろに隠れているのだぞ!」


「父上の言う通りです、ここは我々にお任せを。害虫駆除の準備はとうに済んでおります」


レオンハルトとセオドアが黒魔法剣を抜き放ち、娘たちを守るように先頭に立った。


彼らが合流したこの場所は、地上で言えば聖都ルシエラから最も近い村にある、一見普通に見える民家の真下であった。


レオンハルトが一刀両断にして分厚い鉄の扉を破壊すると、そこにはさらに地下深くまで続く巨大な研究施設が広がっていたのである。


「なんという規模だ……これだけの施設を教国の足元に秘密裏に建造していたとは、相当な資金と技術力だね」


ジュリアンが冷静に施設内を観察するが、感心している暇はなかった。


扉が破壊された音を聞きつけ、施設の奥から夥しい数の動く死体、すなわちゾンビたちがうめき声を上げて押し寄せてきたのだ。


しかし、ここにいるのは最強の魔女たちと、感染の恐れが一切ない人形の体を持ったかつての英雄たちである。


「さあ、お掃除の時間ですわよ! 晩ご飯の時間までに片付けますわ!」


アイラの号令とともに、一方的な掃討戦が開始された。


施設内に巣食っていたのは、人間のゾンビだけではなかった。


動物や魔物の死体をつなぎ合わせたものや、人間と魔物を強引に融合させたような、吐き気を催すほど悍ましいキメラ型のゾンビモンスターまでが徘徊していたのである。


「うおぉぉっ! どんな化け物だろうが、俺の筋肉と剣の前では無力だ!」


「光よ、邪悪なる死者の魂を浄化しなさい!」


クロードが大剣で巨大なキメラゾンビを一刀両断にし、セリアが武闘派聖女らしい物理的な威力を伴う光の魔法で残骸を消し飛ばしていく。


天国組の頼もしい活躍により、施設内のゾンビたちは瞬く間に数を減らしていった。


そんな中、施設の最深部に近い研究ブロックへと足を踏み入れたアイラとジュリアンは、目の前に現れた一体のゾンビを見て顔色を変えた。


「ジュリアン……あれは、まさか……」


「ああ、間違いない。我々が冒険者として登録した直後、ジャンパニア帝国で遭遇したあの事件の……」


二人の視線の先にいたのは、かつて彼らが調査した『増殖する被害者』という謎の怪異、そのゾンビバージョンであった。


普通の人間とは明らかに異なる不気味な魔力を放ちながら、その怪異のゾンビはカタカタと首を揺らして向かってきた。


「うおぉっ! なんだか気持ち悪い動きをする奴がいるな! 俺がぶっ斬ってやる!」


アイラが静止するより早く、クロードが持ち前の瞬発力で飛び出し、大剣を振り下ろした。


怪異のゾンビは為す術もなく真っ二つに両断され、床に崩れ落ちる。


「ふはは! 手応えすらないぜ!」


クロードが豪快に笑った直後、驚くべき現象が起きた。


オリジナルであった『増殖する被害者』よりも遥かに速い、物の数秒という驚異的なスピードで、二つに分かれた肉体がそれぞれ独立したゾンビとして蘇生し、起き上がってきたのである。


「な、なんだこいつら!? 斬ったそばから増えやがったぞ!?」


慌てたクロードが再び剣を振り回し、今度は四等分に切り刻むが、結果は同じだった。


細切れになった肉片がグチャグチャと蠢き、瞬く間に四体のゾンビとなって立ち上がり、カタカタと不気味な音を立てて迫り来る。


「ちょ、ちょっと待て! 斬れば斬るほど数が増えるじゃないか!」 クロードの慌てふためく姿を見て、アイラはやれやれと優雅にため息をついた。


「……冗談じゃないわ。ただでさえ増殖する厄介な怪異が、ゾンビの不死性と感染力まで手に入れたというの?」


この信じがたい光景を見たレオンハルトや他のメンバーたちも、事の重大さを理解して息を呑んだ。


「お姉様、これって……噛まれて増えるだけじゃなくて、倒しても増えちゃうってことですか!?」


「ええ、そのようですわね。通常の物理攻撃や魔法で中途半端に破壊しては、かえって数を増やすだけですわ」


アイラは表情を引き締めると、真の魔女としての本気を少しだけ見せることにした。


彼女の杖の先端に、黒魔法の破壊力と白魔法の浄化力を融合させた、底知れぬ威力を秘めた混沌魔法の球体が現れる。


「塵一つ残さず、存在そのものを消し去るしかありませんわ!」


アイラが杖を振り下ろすと、混沌の光が増殖した怪異のゾンビたちを一瞬で包み込み、悲鳴を上げる間もなく完全に空間から消滅させた。


「みんな、聞いてちょうだい! 今私が消滅させたあの怪異型のゾンビは、完全に消滅させる以外に倒す手段がない最悪のイレギュラーですわ!」


アイラの警告は、すぐさま念話を通じて全メンバーの最重要ターゲットとして共有された。


「方針を変更します! この巨大研究施設は、内部の資料を少しだけ回収したら、施設ごと完全に消滅させますわよ!」


もしあの怪異型のゾンビが施設の外に一匹でも逃げ出せば、世界は瞬く間に終わりを迎えてしまうだろう。


アイラの決定に反対する者は誰もおらず、一行は残されたゾンビたちを蹴散らしながら、各研究施設を徹底的に潰して回った。


回収した資料や現場の状況から、この施設で何が起きたのかという真相が徐々に明らかになってきた。


研究施設の中には、白衣を着た研究者たちのゾンビも多数存在しており、彼らが自らの研究の犠牲になったことは明白であった。


「なるほど、研究の途中で何らかの事故が起き、施設内で感染爆発、いわゆるバイオハザードが発生して研究者も全滅したというわけですね」


ノアが血まみれの資料を読み解きながら、冷静に推論を述べた。


「そして、制御を失ったゾンビたちは、厳重にロックされた正規の出入り口を開ける知能はなかったが、偶然開いていた換気口や別の狭い通路を伝って、幾重にも張り巡らされた地下道を通って遠い場所から地上へ漏れ出した……と考えるのが自然でしょう」


ノアの推測通り、施設の外周にはゾンビたちが強引に這い出たような土のトンネルがいくつか発見された。


「つまり、すでに相当数のゾンビが教国の各地、あるいはもっと遠くへ散らばってしまっている可能性が高いということですね」


エドワードが深刻な表情で呟くと、リリアが不安そうにアイラの袖を掴んだ。


「お姉様、どうしましょう……もしあの増殖するゾンビが外に出ていたら……」


「心配いりませんわ、リリア。出たものは仕方ありませんし、見つけ次第お掃除するだけですもの」


アイラは妹の頭を優しく撫でると、決意に満ちた瞳でメンバーたちを見回した。


「諸悪の根源であるこの施設は、私とリリアの混沌魔法で今この瞬間に消し去ります。ですが、すでに外へ出てしまったゾンビたちを放置するわけにはいきませんわ」


広大な施設から全員が転移魔法で地上へ脱出したのを確認すると、アイラとジュリアンは上空へと舞い上がり、眼下を見下ろしながら、巨大な混沌の渦を放って、地下の巨大研究施設を丸ごと、音もなく消滅させた。


「さあ、ここからが本当の戦いですわよ。……と言いたいところですが、いくら私たちでも、むやみに世界中を飛び回るのは非効率ですわね」


アイラはふと何かを思いついたように、ニシシと悪戯を企む小悪魔のような笑みを浮かべた。


「お姉様、何か良いお考えが?」


リリアが小首を傾げると、アイラはパチンと楽しげに指を鳴らした。


「ええ! 私たちには『冒険者ギルド』という世界最大のネットワークがありますわ! それに……あそこには、私の可愛い魔女のお姉様、『ミラーアリス』が重役として潜伏していますの。彼女に少し、協力おしごとしてもらいましょうか」


悪い顔で笑うアイラの提案に、頼もしい仲間たちも「なるほど」とニヤリと笑い返す。 かくして、未知の怪異という最悪のイレギュラーを抱えたゾンビたちとの戦いは、冒険者ギルドと「潜伏魔女」ミラーアリスを巻き込んだ、新たな局面へと突入していくのであった。



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