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偽物令嬢にされて冷遇に文句を言ったら改善されたので本物の令嬢を探してあげました【連載版】  作者: ウナ
冒険者編

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家族と仲間そして事前調査

アイラとジュリアンは、一度自分たちが住まう魔女の世界へと帰還し、妹であるリリアとその使い魔エドワードを伴って天界へと向かうことにした。


神聖ルシエラ教国の危機、ひいては世界の危機を救うため、そして何よりアイラの美味しい食事の時間を守るためには、天国にいる家族や仲間たちの協力が不可欠だったからである。


天使シュシュエルの特別な手配により、真の魔女であるアイラとリリアは生きたまま天界の門を通り抜け、死者の魂が安らぐ天国の面会用オフィスへと足を踏み入れた。


純白の大理石で造られた無機質ながらも神聖な雰囲気のオフィスで待っていると、やがて扉が開き、懐かしい三人の姿が現れた。


「おおおお!私の愛娘アイラ!そしてリリアぁ!お前たちの顔をまた見ることができて、お父様は嬉しくてまた死んでしまいそうだ……!」


「父上、すでに我々は死んでおりますが、この感動は何度味わっても筆舌に尽くしがたいですね。愛しの妹たちよ、今日も最高に美しい……」


かつて氷の公爵と恐れられたレオンハルトと、氷の貴公子と呼ばれた兄のセオドアが、威厳をかなぐり捨てて大理石の床に膝を滑らせ、娘と妹の姿を見るなり涙と鼻水を流してすがりつこうとしてきた。


しかし、その二人の背後から、温厚でありながらどこか威圧感を放つ美しい女性が一歩前に出て、親バカとシスコンの二人を冷ややかな目で見据えた。


「あなたたち……久しぶりの娘たちとの面会で、またそんな見苦しい姿を見せるつもりかしら?」


「「ひっ……も、申し訳ございません、エレオノーラ(母上)!」」


レオンハルトとセオドアがビシッと直立不動の姿勢を取ると、その女性はふわりと優しい微笑みを浮かべ、アイラとリリアの前に進み出た。


「私の愛しい、可愛いアイラ、リリア……。よく来てくれたわね、またあなたたちの顔を見ることができて嬉しいわ」


「お母様、お久しぶりですわ」


「お母様、またお会いできて嬉しいです!」


アイラとリリアは、天国からずっと見守ってくれている母エレオノーラと久しぶりの抱擁を交わした。


再会の挨拶もそこそこに、アイラたちは最近まで滞在していた神聖ルシエラ教国での出来事や、そこで食べた絶品グルメについて嬉々として近況報告を始めた。


アイラが美食の聖都でいかに美味しいものを堪能したかを語ると、エレオノーラはふふっと楽しそうに笑い、レオンハルトとセオドアは娘たちの幸せそうな様子に目尻を下げる。


近況報告が一段落すると、エレオノーラは優しく微笑みながら、面会用オフィスを出て緑豊かでどこまでも広がる天国の居住区へとアイラたちを案内した。


「さあ、みんなもあなたたちが来るのを心待ちにしていたのよ」


美しい花々が咲き乱れる広大な平原を歩いていると、遠くから幾人もの人影がこちらに向かって駆け寄ってくるのが見えた。


「お母様!お久しぶりです!また俺たちに会いに来てくれたんですね!」


「お母様!下界の話、また聞かせてくださいよ!」


アイラとジュリアンの間に生まれた双子の息子、リオンとマグナスが、満面の笑みを浮かべてアイラに抱きついた。


彼らはミーアたちに育てられ、愛する家族に囲まれて大往生を遂げた後、こうして天国で平穏に暮らしながら、度々会いに来る母との時間を楽しんでいるのである。


「ええ、二人とも元気そうで何よりですわ」


「お母様、お久しぶりです。僕たちも、お母様がまた来てくださるのを楽しみにしていました」


「お母様……!またお会いできて嬉しいです!今日はどんなお土産話があるんですか?」


続いて、リリアとエドワードの間に生まれた双子の息子、ディエルゴとハイネルも母であるリリアの前に進み出て、深い敬愛の念を込めて頭を下げた。


さらにその奥からは、魔女側の勇者として影の国家を打ち倒すという過酷な運命を見事に成し遂げた二人の息子も姿を現した。


「父さん、母さん。久しぶり。またこうして家族で集まれるのは、やっぱり良いものだね」


「お母様、お父様、お久しぶりです。天国の自然は素晴らしいですが、少し退屈していたところでしたよ」


ヴァリエとガーランドが照れくさそうに笑いながら両親に挨拶をする姿を見て、アイラとリリアは嬉しそうに目を細めた。


愛する息子たちとの和やかな近況報告に花を咲かせていると、さらに騒がしい足音が近づいてきた。


「アイラお嬢様、お久しゅうございます。もしお嬢様の食材を傷つけるような不届き者がおりましたら……わたくしが、奴らの存在そのものを『お掃除』して差し上げますわ」


完璧超人のメイドであり、アイラを守って散ったマリーが、般若のように恐ろしいオーラを背負いながらも優雅に一礼した。


「おう!アイラ、リリア、元気にしてたか!またお前らの特製料理が食える日を待ってたぜ!」


「……僕の計算によれば、あなた方がここへ来るということは、また何か致死率百パーセントのストレスを伴う事件が起きたということですね。例外処理スルーしたいところですが、お話くらいは聞きましょう」


熱血漢のクロードと、理屈屋で苦労人のノアも、かつての学生時代と変わらぬ調子で笑いかけてくる。


「アイラ様、リリア様!筋肉と信仰の力は天国でも健健ですよ!」


「アイラさん、リリアさん、お久しぶりです!何かお困りごとですか?私にできる事なら協力します!」


武闘派聖女のセリアと、白魔法使いで水魔法の使い手でもあるオルフィアも、力強く拳を握りしめて二人の訪問を歓迎した。


アウストラル帝国の世界統一戦争で命を落とし、天国で安らぎを得ていたかつての仲間たちが、誰一人欠けることなくアイラとリリアの前に集結したのである。


「みんな、久しぶりですわね。今日も元気そうで何よりですわ」


アイラが一通り皆との再会を喜んだ後、コホンと一つ咳払いをしてから真剣な表情を浮かべた。


「今日は皆に近況報告をしに来ただけではありませんの。実は、地上の神聖ルシエラ教国にて厄介な事件が起きていましてよ」


アイラは、かつてアウストラル帝国が世界統一戦争にて使用していた動く死体が再び地上で徘徊し始めていること、そしてそれが噛みつきによって感染拡大する性質を持っていることを説明した。


「なんてこと……あの忌まわしい戦争の遺物が、まだ地上に残っていたというのね」


「ええ。通常の騎士団では感染のリスクがあるため、すでに死を迎えて魂だけの存在である皆様に人形の身体を貸与し、掃討作戦に協力していただきたいのですわ」


アイラの頼みを聞いたレオンハルトは、黒魔法剣を極めたかつての猛将の顔つきに戻り、力強く頷いた。


「無論だ!愛娘たちの平穏な生活を脅かす有象無象の死体など、このお父様が塵一つ残さず斬り捨ててくれよう!」


「妹たちに近づく害虫は、たとえ死体であろうと徹底的に駆除するのが兄の務めです。急ぎ保護に向かいましょう」


二人の頼もしい言葉を皮切りに、かつての仲間たちや息子たちも次々と賛同の声を上げた。


「母さんの頼みとあらば、断る理由はないさ。死体風情に後れを取る程弱くはないんだ……さて、腐れ死体どもの掃除に行こうか」


「今度は死体ですか、死体の相手をする日が来るとは思いませんでした。任せてください、お母様」


ヴァリエとガーランドがかつての勇者としての闘志を燃やすと、マリーやクロードたちもそれに続いた。


「みんな……本当に、本当にありがとう。またこうして一緒に戦ってくれるのね」


アイラが深々と頭を下げると、ジュリアンが優しく彼女の肩を抱き寄せ、皆に向かって高らかに宣言した。


「君たちに再び剣を取らせてしまうことは心苦しいが、人類の存続と……何よりアイラの美味しいご飯を守るため、どうか我々に力を貸してほしい!」


「「「おおおおおっ!!」」」


広大な天国の平原に、かつての英雄たちの力強い雄叫びが響き渡り、地上における動く死体掃討に向けた最強の部隊が結成されたのだった。


天国から地上へと帰還したアイラたちは、仲間たちが新しい身体に慣れるための準備期間について話し合っていた。


天国での姿である外見年齢と、用意される人形の肉体との差や、人間と人形の感覚の違いなど、実戦に投入するまでには色々と慣れてもらう必要がある。


とはいえ、彼らほどの猛者であれば一月もあれば十分に感覚を掴むことができるだろうとアイラは予想していた。


今回彼らが使用する人形の肉体は、魔女世界にいるマザーシックスが急ピッチで製作してくれる手はずとなっており、数日後にはアイラたちの拠点となるギルドハウスに集合できる見込みである。


そのギルドハウスは、神聖ルシエラ教国が特別に提供してくれた所有区画に、アイラたちの魔法によってかつてのアルジェント公爵邸と全く同じ姿で建てられていた。


レオンハルトたちが到着して実戦の準備が整う前に、調べられるところまでは調べておかなくてはならない。


「数百年もの間、活動を停止していたはずの動く死体が、最近になって突然発見されるなんて明らかにおかしいですわ」


アイラが地図を広げながら疑問を口にすると、ジュリアンも真剣な面持ちで頷いた。


「ああ。誰かが意図的に今まで隠し、どこかで秘密裏に運用していたと考えるのが自然だね」


「ええ。数百年前のアウストラル帝国の技術を研究していた施設が、この世界のどこかに存在しているに違いありませんわ。でなければ、もっと昔に大規模な被害が出て、大事になっているはずですもの」


二人はそう推測を交わし、まずはゾンビの村になっていた方角からさらに東、北、南の三方向を捜索範囲として定めた。


教国の西側にある町や村、他国へと続く街道には、アイラが簡易使い魔を放っているため、もし何か異変を見つければすぐに知らせが来る手はずとなっている。


三方向へと散らばる前に、アイラたちは最初に結界で封鎖されていたゾンビの村へと向かい、内部のゾンビを一掃した。


その後、村の中に実験施設などが隠されていなかったか念入りに調べたが、どうやらそういった怪しい施設は無いようだった。


そこでアイラが過去視の魔法を用いて村の状況を見てみると、空中に浮かび上がった淡い光の映像には、ゾンビパニックが起こっている痛ましい場面だけが映し出されていた。


あまりの惨状に、アイラは思わず目を伏せた。


しかし、その過去の映像から、この村に現れた最初のゾンビが北の方向からやって来ていたことが判明したのである。


有力な手がかりである北側は、発案者としてアイラとジュリアンのチームが向かうことになった。


そして南側はリリアとエドワードのチーム、東側はセレスとセナ、エマたちのチームがそれぞれ担当して調査を進めることとなった。


北の森を探索するアイラとジュリアンは、次々と現れる動く死体を魔法と剣で容易く掃討しながら歩みを進めていた。


「まったく、どこまで歩いても腐った死体ばかりで、肝心の怪しい施設は影も形も見当たりませんわ」


アイラは忌々しげにため息をつくと、空間収納から取り出したクッキーをかじって気を取り直した。


「ああ、本当に君の言う通り、誰かが巧妙に隠蔽しているとしか思えないね。君の美しい顔が曇るのは私の本意ではないが、今はこうして地道に潰していくしかなさそうだ」


ジュリアンは優雅な笑みを崩さず、迫り来るゾンビの首を不可視の刃で軽々と刎ね飛ばしていく。


アイラは甘いクッキーを咀嚼しながら、心の中で(こんな大規模な隠蔽工作ができるなんて、単なる残党の仕業ではありませんわね)と、見えざる敵の周到さに舌を巻いていた。


一方、南の山岳地帯を担当するリリアとエドワードのチームもまた、果てのない死体の群れに辟易していた。


「お姉様がおっしゃっていたアウストラル帝国の施設、私の物探しの魔法でもちっとも引っかかりません!」


リリアが強力な白魔法の光弾でゾンビたちを吹き飛ばしながら、悔しそうに唇を尖らせた。


「リリア嬢、君は素晴らしい働きをしているから、どうか落ち込まないでほしい。それより、君の美しいドレスに返り血や汚れが飛んでは大変だから、私の後ろに下がっているんだ」


エドワードは愛する婚約者を庇うように前に立ち、生真面目な顔つきで剣を振るって死体の山を築いていく。


リリアは世界を脅かす危機の中にあっても、(エドワード様は相変わらず過保護すぎますけれど、こうして二人きりで行動できるのは少し嬉しいですわね)と、彼への愛おしさに胸を温かくしていた。


そして、東の荒野を進むセレスたちのチームは、最も賑やかでカオスな状況に陥っていた。


「ええいっ!教皇であるこの私が、なぜこんな泥臭い死体の掃除などせねばならんのじゃ!これでは美味しいご飯を食べる前に食欲が失せてしまうわ!」


セレスが豪快に文句を言いながらも、圧倒的な神聖魔術でゾンビたちを次々と薙ぎ払っていく。


「セレスちゃん、文句を言ってもお仕事は終わらないよ!えいっ、えいっ、悪い死体さんたちは残さずお掃除しなきゃね!」


セナは純真無垢な笑顔のまま、天使の恩寵を乗せた物理的な打撃でゾンビを粉砕していくという、聖女らしからぬ戦いぶりを見せていた。


「お二人とも、あまり派手に暴れ回ると後の片付けが大変になりますので、もう少し手加減を……はぁ、どうして私がこんな重労働をさせられているのでしょう」


エマは冷静にメイドとしての仕事をこなしつつ、(いくら特別手当をもらえるとはいえ、こんなに服が汚れる仕事は割に合いませんね)と内心でボヤきながら深い溜息を吐いていた。


そんな終わりの見えないゾンビ掃討の毎日が続き、来る日も来る日も死体の山を築くこと一ヶ月。


広大な範囲の調査を続けたアイラたちは、数多くのゾンビを討伐したものの、目的の施設を発見することはできなかった。


各チームは期待外れの結果に落胆しつつ、聖都ルシエラに建てられたかつての公爵邸を模した屋敷へと戻ってきた。


重い足取りで屋敷の扉を開けると、そこには人形の肉体を得てすっかり地上に馴染んだ、人類防衛隊の家族や仲間たちが勢揃いしてアイラたちを出迎えるのであった。


人形のドールボディであるにもかかわらず、クロードが新しい筋肉の張り具合を誇らしげに見せつけ、セリアが力強く頷き返している姿を見て、アイラたちの顔にも自然と笑みがこぼれた。


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