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偽物令嬢にされて冷遇に文句を言ったら改善されたので本物の令嬢を探してあげました【連載版】  作者: ウナ
第二部

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学園編プロローグ

学園編開幕です。

一旦、過保護組や婚約者候補たち、一人除くとして、ご退場いただき、青春してもらいましょう…

と言いたいところですが、勿論、絡んできますけどね。

新たに登場人物も入れてスタートです。

世界崩壊の危機や隣国のスパイによる国家転覆の陰謀を、美味しいご飯と物理(魔法)で薙ぎ払ってきた私たち探偵令嬢のドタバタ劇から、早数年。


十五歳となった私、アイラ・アルジェントは今、この国の貴族の子女が必ず通う最高峰の教育機関――『王立学園』の壮麗な正門の前に立っていた。


「わぁっ……! すっごく広くて綺麗です! アイラ様、リリア様、ついに私たちも学園の生徒なんですね!」


純白に金の刺繍があしらわれた真新しい制服に身を包み、教国から無事に留学してきたセリアが、目をキラキラと輝かせている。九歳の頃のじゃじゃ馬っぷりはそのままに、毎日私と一緒に「カロリー消費(魔法ぶっぱ)特訓」に励んだ彼女は、引き締まった美しいプロポーションを誇る見事な武闘派聖女へと成長していた。


「ええ、本当に。エドワード殿下が『中庭の東屋を案内する』って約束してくださったの、覚えててくれてるかな……」


隣でそわそわとしているのは、私の自慢の双子の妹、リリアだ。


彼女もまた、儚げな美貌に磨きがかかり、歩いているだけで周囲の男子生徒たちが息を呑んで道を空けるほどの美少女に成長している。


かくいう私も、スラムの栄養失調児から公爵令嬢として美味しいものを限界まで食べ続けた結果、アルジェントの血筋らしい、それなりに見栄えのする(と自分では思っている)令嬢に育っていた。


「リリア、心配しなくてもエドワード殿下は絶対に待ってるわよ。今日この学園で、私たちが知ってる『在校生の先輩』は彼だけなんだから」


そう。数年前のお茶会で「学園は害虫駆除の最前線だ!」だの「僕の才能を見せつける独壇場だ!」だのと騒いでいたセオドア兄様や、天才魔道士のリュカ君、生真面目騎士のカイルさん、そして腹黒王太子のジュリアン殿下は、揃いも揃って【去年、学園を卒業】しているのだ。


「ふふふ……うるさい過保護なお兄様たちがいなくなった学園! これで心置きなく、ジュリアン殿下が約束してくれた『学生食堂の究極の特別裏メニュー』を毎日満喫できるわ!」


私が両手を握りしめて歓喜の声を上げると、周囲の新入生たちが「公爵令嬢が学食の話を……?」とヒソヒソと囁き合っていたが、気にしない。私の学園生活のモチベーションの九割は、学食に懸かっているのだから。


私たちは足取りも軽く、入学式が行われる巨大な大講堂へと向かった。


厳かな空気が漂う大講堂。


新入生たちが指定された席に座り、壇上には学園長や教授陣がズラリと並んでいる。


「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます」


司会の声に合わせ、私たちは静かに背筋を伸ばした。


しかし、私がふと『来賓席』や『親族席』の方へ視線を向けた、その瞬間だった。


(…………ん?)

私は、自分の目を疑った。


親族席の最前列、ひときわ目立つ豪奢な椅子に、見慣れた銀髪の青年がドカッと座り、腕を組んでこちらを(主に私とリリアに近づく男子生徒を)凄まじい眼力で睨みつけているのだ。


「ちょっとリリア。なんで去年卒業したはずのセオドア兄様が、あんな最前列で親族面して座ってるのよ。しかも腰に『魔法剣』帯びてるし。天使さんから代わりに貰ったものとはいえ、なんであんな物騒なものを学園の入学式に持ってくるのよ」


「えっ……本当です。あ、お姉様、あっちの来賓席には……!」


リリアが指差した先。


そこには、王立魔法師団の特注ローブを着てふんぞり返っているリュカと、王宮騎士団の制服をピシッと着こなしたカイルの姿があった。


『……ふん。僕がいなくなった学園など退屈の極みだろうが、せいぜい頑張るんだな、素人ども』

『リリア嬢、アイラ嬢! 不届き者がいれば、いつでも私が王宮から駆けつけますから!』

距離が離れているのに、彼らがドヤ顔で発している幻聴が聞こえてくるようだ。


「な、なんで卒業生がこんなにゾロゾロと……」


私が引き攣った顔をしていると、講堂の空気が一変した。


「これより、国王陛下からの祝辞を賜ります」


「えっ、国王陛下!?」


周囲の新入生たちが驚きにざわめく。


例年、入学式に国王が直々に足を運ぶことなどあり得ないのだ。


壇上に姿を現した威厳に満ちた国王陛下のお姿に、講堂は水を打ったように静まり返った。


そして、その後ろに付き従うようにして登壇したのは――王太子ジュリアンと、第二王子のエドワードだった。


「キャァァァッ! ジュリアン殿下よ!」


「エドワード殿下もいらっしゃるわ!」


新入生の令嬢たちが、扇子で顔を隠しながらも黄色い歓声を上げている。


ジュリアン殿下は余裕の微笑みで手を振り、エドワード殿下は真面目な顔を崩さずに、しかし一直線にリリアの方を見つめて、ほんの少しだけ口角を上げた。リリアも顔を真っ赤にしている。


「新入生諸君。王立学園への入学、心より歓迎する」


国王陛下の重々しく、よく響く声が講堂を包み込んだ。


最初は普通のお祝いの言葉、そしてこれからの国を背負って立つ若人への激励……ここまでは良かった。誰もが感動的なスピーチに聞き入っていた。


しかし、スピーチの中盤から、国王陛下の声のトーンがわずかに変わった。


「諸君も知っての通り、近年、我らを取り巻く『国際情勢』は極めて緊迫している」


(……ん?)

「隣国との国境問題だけでなく、我々の常識を覆すような『未知の脅威(悪魔)』が、いつこの平和な日常を脅かすか分からない時代なのだ」


チラッ。


国王陛下の鋭い視線が、なぜか一瞬、新入生席のど真ん中にいる『私たち(アイラ・リリア・セリア)』の方へ向けられた。


「だからこそ、私は諸君に期待している。この学園で培った知恵と力、そして『いざという時の圧倒的な武力と解決能力』をもって、国難に立ち向かってほしい」


チラッ。


また見た。完全にこっちを見ている。


「既存の常識に囚われない、自由な発想。例えばそう、『どんな陰謀も物理と魔法で強引に粉砕する』ような、頼もしい若者の台頭を、私は心待ちにしているのだ」


(……気のせいだ。気のせいだと思いたい)


ジィィィィィィィッ。


国王様の視線が、もはやチラ見ではなく、完全に私に固定されていた。(気のせいじゃなかった!)


(……ちょっと待って。絶対私たちに何か望んでるよね!? 国王様、今めちゃくちゃ私たちにプレッシャーかけてきたよね!?)

私は冷や汗を流しながら、壇上の後ろに立つジュリアン殿下を見た。


すると、稀代の腹黒王太子は、私と目が合った瞬間――これ以上ないほど悪魔的で、意味ありげな極上の微笑みを向けてきたのだ。


『――最高の舞台と、最高の裏メニューを用意して待っているぞ、私の愛しき探偵令嬢』

彼のそんな声が、テレパシーのように私の脳内に直接響いた気がした。


周囲の令嬢たちは「きゃあっ! 今、ジュリアン殿下がこっちを見て微笑んでくださったわ!」と勘違いして卒倒しそうになっているが、私は別の意味で卒倒しそうだった。


「お、お姉様……。国王陛下、なんだか私たちにすごく期待してくださっているみたいですね……!」


「私、教国とこの国の架け橋になるために、粉骨砕身の覚悟でカロリーを燃やします!」


何も分かっていないリリアとセリアが、感動で目をキラキラさせている。


違うのよ、あんたたち。あれは「何かデカい事件が起きたら、お前ら探偵バディで丸く収めろよ」っていう、国家ぐるみの無言の圧力なのよ!

(……やれやれ。面倒事の気配しかしない学園生活の幕開けじゃない)

私は小さくため息をつき、しかし、すぐにニシシと口角を上げた。


王族からの圧力だろうが、悪魔の陰謀だろうが、かかってこい。


こちとら数々の神話級の脅威を乗り越えてきた無敵の同い年トリオだ。


「まあ、美味しい学食の裏メニューが毎日食べられるなら、多少の厄介事くらい受けて立ってあげるわよ」


波乱の予感と、極上の美食の匂い。


私たち探偵姉妹の『王立学園編』は、こうして盛大なプレッシャーと共に、華麗に幕を開けたのだった。


入学式での異例の国王陛下の登場と、その圧倒的なプレッシャー(主に私に向けられたもの)の余韻が冷めやらぬまま、新入生たちは次なる行事へと駆り出されていた。


『新入生オリエンテーション』

響きは良いが、その実態は『クラス分けのための能力測定』である。


王立学園では、生徒の学力や魔力レベルを測定し、各クラスの能力が平均化されるように編成される。そして、優秀な成績を収めた者が、同じクラスの成績不良者を指導し、底上げを図るという、名付けて『連帯責任スパルタ教育システム』が採用されているのだ。


「優秀な者は己を磨きつつ後進を育てよ、か……」


測定会場となる巨大な修練場で、私はため息をついた。


隣では、リリアが不安そうに両手を握りしめ、セリアが「いつでもいけます!」とばかりにシャドーボクシングをしている。


「ねえ、聞いてリリア。去年卒業したセオドア兄様たちの代って、成績トップ組が鬼のようなシゴキで、学年全体の成績をセカンド組(優秀クラス)レベルまで強引に引き上げたらしいわよ」


「ええっ!? そ、そんなに厳しいんですか……?」


「エドワード殿下が青い顔で言ってたわ。ジュリアン殿下が『無能は罪だ。私のために死ぬ気で学べ』って笑いながら課題を倍増させて、リュカ君が『こんな簡単な術式も解けないなんて、脳みそがスライム以下ですね』って冷笑しながら徹夜で補習させてたって」


ハッキリ言おう。異常だよ、ジュリアン殿下!

後進を育てるというより、完璧な手駒(社畜)を育成するブラック企業の研修じゃないの、それ。


「私たちも、そんな恐ろしい先輩たちに指導されるのでしょうか……」


リリアがブルリと身震いする。


「大丈夫よリリア! 私がついてるわ! どんな補習も、カロリーを燃やしてぶっ飛ばします!」


セリアが自信満々に胸を叩くが、彼女の解決策は常に物理(または魔法)だ。


しかし、周囲の新入生たちは、そんな私たちの会話など気にも留めず、ひたすら緊張した面持ちで測定の順番を待っていた。


誰も、私たち三人が『とんでもない成績』を叩き出すことになるなんて、これっぽっちも予想していないのだ。


そして始まった能力測定。


最初の科目は『筆記試験』。歴史、魔法理論、政治経済など、幅広い知識が問われる。


「……ふふっ。甘いわね」


私は問題用紙を前に、ニシシと笑った。


スラムで培った(というより、ジュリアン殿下から強制的に叩き込まれた)裏社会と政治の裏事情、そして何より前世の知識(サスペンスドラマのトリックや雑学)をフル動員すれば、この程度の試験、赤子の手をひねるようなものだ。


リリアはリリアで、お父様の膨大な蔵書を読み漁り、さらには教会の教義の矛盾点まで論破できるレベルの頭脳を持っている。


セリアは一見脳筋に見えるが、教国で英才教育を受けたエリート聖女だ。神学と戦術論に関しては右に出る者はいない。


結果。


【筆記試験 トップ3】

第1位:リリア・アルジェント

第2位:アイラ・アルジェント

第3位:セリア・ローラン

私たちは、他の生徒たちに圧倒的な差をつけて上位を独占した。


掲示板に張り出された結果を見て、周囲の生徒たちが「公爵令嬢が1位と2位!?」「しかもあの教国からの留学生が3位!?」とどよめいている。


「ふふん。まあ、当然の結果ね」


「お姉様、私、お父様の本棚にあった『古代魔法文明の崩壊と経済的影響』の記述が役に立ちました!」


「私は『異端審問における効率的な尋問手順』の設問で満点を取りました!」


……セリアちゃん、それ学園の試験に出るの?

続いては『魔力測定』と『実技試験』。


的に向かって魔法を放ち、その威力と精度を測るというものだ。


「さあ、見せてみろ新入生ども! 貴様らの貧弱な魔力をな!」


担当の厳つい魔法教師が、新入生たちを煽る。


他の生徒たちが「ファイアボール!」や「ウォーターカッター!」と、可愛らしい魔法を的に当てていく中、私たちの順番が回ってきた。


「次、セリア・ローラン!」


「はいっ!」


セリアは的の前に立つと、深く息を吸い込んだ。


「カロリー消費・第一段階! 『聖なる大いなる鉄槌ホーリー・スマッシュ』!!」


ドゴォォォォンッ!!

的はおろか、その後ろの防護壁ごと、眩い光の柱と共に粉砕された。


周囲がポカーンとする中、セリアは「ふう、朝ごはんのカロリーは消費できました」と爽やかに汗を拭っている。


「つ、次! リリア・アルジェント!」


教師が震える声で呼ぶ。


「はい。……ええと、あまり目立ちたくないのですが」


リリアは困ったように微笑みながら、そっと手を前に出した。


「『白妙の結界(絶対防御)』」


パァァァッ……!

リリアを中心に、修練場全体を覆い尽くすほどの巨大で強固な光のドームが展開された。教師の放った全力の攻撃魔法すら、波紋一つ立てずに弾き返してしまうほどの強度だ。


「なっ……なんという規模の防御魔法だ……!」


教師がへなへなと座り込む。


「最後、アイラ・アルジェント!」


「はーい」


私はのんびりと前に出た。


魔法を使えば、必然的に『黒魔法』になってしまう。目立つのは避けたいが、手を抜いて成績不良者クラスに回され、面倒な補習を受けさせられるのも御免だ。


(……仕方ない。ちょっとだけ本気を出すか)

私は的を見据え、指先をピンと弾いた。


「『宵闇の穿孔ダーク・バレット』」


ヒュッ。


音もなく放たれた黒い魔力の弾丸は、的に当たる直前で無数に分裂し、的をミクロン単位で正確に撃ち抜いて、完璧なアルジェント家の紋章を穿った。


威力よりも、その異常なまでの精密操作に、魔法教師の顎が外れそうになっていた。


すべての測定が終わり、最終的な総合成績が発表された。


【新入生 総合成績 トップ3】

第1位:アイラ・アルジェント(実技の精密性で逆転)

第2位:リリア・アルジェント

第3位:セリア・ローラン

ここまでは予想通りだ。


しかし、同時に発表された『指導対象者リスト』、つまり今期の総生徒数129名中の『ボトム(ワースト)3』の名前を見て、私は思わず首を傾げた。


【新入生 総合成績 ボトム3】

第127位:ミア・フローレス(全科目平均以下・気弱すぎて実技放棄)

第128位:ノア・ウィンザー(魔力測定最下位・筆記試験特化)

第129位:クロード・ベルンハルト(筆記試験赤点・実技特化)

「……ねえ、エドワード殿下。このワースト3の人たちって、どういうこと?」


私は、書類の束を抱えてやってきたエドワード殿下に尋ねた。


「ああ、学園の『連帯責任スパルタ教育システム』の組み合わせリストだよ。今年の入学生は全部で129名。全体を平均化するため、1位は最下位の129位を、2位は128位を、3位は127位をそれぞれマンツーマンで指導することになる」


なるほど。つまり、1位の私が129位を、2位のリリアが128位を、3位のセリアが127位を担当するということか。


「だが、このワースト3は少し特殊でね。129位のクロードは平民出身の特待生だが、魔法を全く使えない上に筆記試験は白紙。代わりに剣術だけで実技試験の的を両断した脳筋だ。128位のノアは没落貴族の三男で、魔力は皆無だが筆記試験の成績はリリア嬢に次ぐ高得点。そして127位のミアは……子爵家の令嬢だが、極度のあがり症で実技試験で気絶してしまったらしい」


「なるほど、極端すぎる一芸特化型と、完全に委縮しちゃってる落ちこぼれちゃんってわけね」


私はニシシと笑った。


「つまり、私たちトップ3が、彼らを一人前に『指導』するってことね?」


「ええ。アイラ嬢たちなら、彼らの隠れた才能を引き出せると期待しています。……兄上(ジュリアン殿下)たちのように、無慈悲なシゴキで潰したりはしないと信じていますよ」


エドワード殿下が、少し心配そうに私たちを見た。


「もちろんよ! 美味しい学食のためにも、サクッと指導を終わらせて、平和な学園生活を謳歌するんだから!」


こうして、私たち探偵バディ3人は、個性豊かすぎる『成績ボトム組(クセ強ワースト3)』とチームを組み、彼らを一流の生徒へと鍛え上げるというミッションを背負うことになった。


(休日の特別授業とかに、リュカやカイルが『抜き打ちチェックだ!』とか言って乱入してきそうな嫌な予感はするけど……まあ、なんとかなるでしょ!)

波乱と厄介事、そして育成という名の新たなる『探偵令嬢のドタバタ劇』が、王立学園を舞台に幕を開けたのだった。


オリエンテーションが終了し、私たち新入生はそれぞれのクラスが発表されるまでの間、特別教室での待機を命じられていた。


特別教室へ向かう廊下の途中、実技試験の集計を終えたエドワード殿下と一瞬だけすれ違った。

彼はすれ違いざまに、リリアに向かってそっと目配せをし、誰にも聞こえないほどの小声で囁いたのだ。

『リリア嬢。……あとで、約束の東屋で待っているよ』

その甘い一言に、リリアは今も耳まで真っ赤にして、そわそわと落ち着かない様子で椅子に座っている。


といっても、この教室にいるのは私たち『トップ3』三名だけである。


「指導対象との初顔合わせ、ですね。どんな方たちなのでしょうか」


リリアが少し緊張した様子で、姿勢良く椅子に座っている。


「安心してくださいリリア様! どんなに基礎体力がなくても、私が毎日一緒に走り込みをして、カロリーの消費方法から叩き直してあげますから!」


セリアがなぜか腕まくりをして気合を入れているが、方向性が完全に脳筋軍曹のそれである。


「セリアちゃん、今回私たちが教えるのは主に魔法の制御や筆記試験の点数の上げ方だからね? 筋トレじゃないからね?」


私が釘を刺していると、教室のドアが控えめにノックされた。


「入っていいわよー」


私の声に応じて、ゆっくりとドアが開く。


こに立っていたのは、学園の成績順位ヒエラルキーの底辺でありながら、見事に個性が爆発している(というか大事故を起こしている)三人の生徒だった。


「ちわっす! 俺が第129位の、クロード・ベルンハルトだ! よろしく頼むぜ!」


先頭を切って入ってきたのは、私の指導対象であるクロードだった。


元気のいい挨拶と共に現れた彼の姿を見て、私は思わず天を仰いだ。


(……どこのRPGの主人公だよ!!)

ツンツンに逆立った癖のある茶髪。日に焼けた健康的な肌。制服のシャツは胸元まで開いており、なぜか腕には皮のプロテクター。そして極めつけは――背中に背負った、彼の身長ほどもある巨大な両手剣(大剣)である。


「ちょっと待って。学園の教室にそんな馬鹿でかい武器を持ち込んでいいの!?」


「おう! 俺は平民の特待生で、剣術試験で的を真っ二つにした成績だけでねじ込まれたからな! 学園長に『お前の武器は体の一部として持ち歩きを許可する』って言われたんだ!」


クロードがニカッと白い歯を見せて笑う。


うん、間違いなく熱血バカだ。しかも、魔法が一切使えず、筆記試験は白紙で提出したという筋金入りの脳筋である。


「……ふん。野蛮な筋肉ダルマめ。剣など振り回しても、古代魔法文明の記述一つ解読できないというのに」


そんなクロードの背後から、ボソッと冷ややかな声がした。


第128位、ノア・ウィンザーである。


没落貴族の三男だという彼は、色白でひょろりとした体格をしていた。


重たそうな『おかっぱ頭』に、分厚い黒ぶち眼鏡。両手にはこれまた分厚い古文書を抱えており、いかにも「インテリですが体力はありません」というオーラを放っている。


「なんだと!? てめえノア! 実技試験でファイアボールすら出せずに、教師に『杖の振り方が美しいですね』って慰められてた癖によ!」


「うるさい! 僕の頭脳はこの学園の至宝だ! 魔力がないのは体質の問題だ!」


早くもボトム組の中で内ゲバが始まりそうになっている。


しかし、その騒ぎの影で、もう一人の人物がカタカタと震えていた。


「ひぃぃ……ご、ごめんなさい、私なんかが、こんな、輝かしいトップ組の方々と同じ空気を吸ってしまって、本当にごめんなさい、今すぐ息を止めますからぁ……!」


第127位、ミア・フローレス。


子爵家の令嬢である彼女は、教室の隅っこで両手で頭を抱え、しゃがみ込んでいた。


何より目を引くのは、その髪型だ。


重たい前髪を完全に『ぱっつん』と切り揃え、目元が完全に隠れてしまっているのである。さらに声の震え具合から、極度のあがり症かつネガティブ思考であることが痛いほど伝わってきた。


「ちょっとミアさん、息を止めたら死んじゃいますよ!」


セリアが慌てて駆け寄り、しゃがみ込むミアの肩をポンと叩いた。


「ひゃっ!? せ、聖女様……! まぶしい、まぶしいです、私のようなどん底の落ちこぼれには、その筋肉……じゃなくてオーラがまぶしすぎます!」


「筋肉で合ってますよ! さあ、顔を上げてください。前髪が長すぎて前が見えていないのではないですか?」


セリアが、ミアの重たい前髪をそっと手でかき分けた。


その瞬間。


「……えっ?」


前髪の下から現れたのは、長いまつ毛に縁取られた、宝石のように澄んだアメジストの瞳。そして、人形のように整った、儚げで愛らしい顔立ちだった。


「わぁ……ミアさん、とっても可愛いですね!」


リリアが目を輝かせて拍手をする。


「はわっ!? か、かわいい!? わたしが!? そんな、滅相もございません、私は道端の石ころ以下の存在で、前髪で顔を隠していないと周囲の皆さまの視覚を汚してしまうと……!」


ミアは顔を真っ赤にしてパニックになり、再び自らの手で前髪をバサッと下ろして『完全防御形態』に戻ってしまった。


(なるほど……。超絶美少女なのに、自己評価がマイナスに振り切れてるのね)

私は小さくため息をつき、パンパンと手を叩いて全員の注目を集めた。


「はいはい、挨拶はそのくらいにして。これから私たちが、あんたたちの指導係よ」


私はツンツン頭のクロードを指差した。


「私が1位のアイラ。そして、あんたが129位のクロード。私はあんたの筆記試験を叩き直す」


「お、おう! よろしく頼むぜ、アイラ嬢!……でも、俺、本当に勉強とか魔法とかさっぱりでさ。剣なら誰にも負けねえんだけどな」


クロードがポリポリと頬を掻く。


「大丈夫よ。あんたの脳みそが筋肉でできてるなら、知識を筋肉に直接叩き込む方法を考えるから」


「……え? なんか今、すげえ恐ろしいこと言わなかった?」


次に、リリアがノアに向かって優雅にお辞儀をした。


「私は2位のリリアです。ノア様、あなたは筆記試験は素晴らしい成績でしたから、私は主に魔力制御と実技の基礎をサポートさせていただきますね」


「……リリア・アルジェント嬢ですね。あなたの歴史論文の回答は素晴らしかった。実技はともかく、座学においてなら、あなたと有意義な討論ができそうだ」


ノアが黒ぶち眼鏡をくいっと押し上げ、少しだけ得意げに笑う。


「まあ、嬉しいです。でも、実技も大切ですよ? 私、相手の魔法を一切通さない『絶対防御』の術式なら得意ですので、ノア様にもまずは『どんな攻撃を受けても死なないための結界術』からお教えしますね」


「……はい? い、いや、僕は魔力がゼロで……」


「大丈夫です! 気合いと祈りで結界は張れます! お父様(公爵)がそうおっしゃっていました!」


「公爵閣下はどんな教育をしてるんだ!?」


ノアがインテリらしからぬ声でツッコミを入れている。


最後に、セリアがミアの手をがっしりと握った。


「私は3位のセリアです! ミアさん、あなたは極度の緊張から魔力制御を失敗してしまったそうですね!」


「ひぃぃっ! は、はい……! 人の目があると、どうしても、頭が真っ白になってしまって……!」


「わかりました! では、まずは『人に見られても恥ずかしくない完璧な肉体』を作り上げましょう! 明日の朝から、学園の外周を三十周です! 汗と共に羞恥心を流し去るのです!」


「し、死にますぅぅぅぅっ!?」


ミアが涙目で悲鳴を上げた。


……うん。


指導係(トップ3)も、対象者(ボトム3)も、全員が見事に我が道を突っ走っている。


「いい? あんたたち」


私は三人の落ちこぼれ……もとい、個性豊かな問題児たちを見渡して、ニシシと笑った。


「私たちトップ組にはね、『平和で快適な学園生活を送って、学食の裏メニューを毎日堪能する』っていう崇高な目標があるの。だから、あんたたちには死に物狂いで成績を上げてもらうわ。エドワード殿下は『無慈悲なシゴキはしないように』って言ってたけど……」


私はジュリアン殿下仕込みの、とびきり腹黒い笑顔を浮かべた。


「結果を出すためなら、多少の荒療治スパルタは仕方ないわよね?」


「「「ひっ……!」」」


ゲームの主人公風熱血バカ、インテリおかっぱ眼鏡、そして前髪ぱっつんのあがり症美少女。


彼らボトム3が、私の笑顔を見て一斉に顔を引き攣らせる。


こうして、私たちの波乱とツッコミに満ちた『ボトム組育成計画』は、賑やかな悲鳴と共に幕を開けたのだった。



楽しんで頂けましたでしょうか?

学園編もよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
一人除いて退場ということは、残ったのはエドワード王子だと当たりを付けて そ れ 大当たりだったけど、理由が全然全く違った! 予想では、最後の良心であるが為に残ったのだと思ってたら、他のが卒業で退場! …
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