第24話 災神
「な、なんだこれは!? う、動けない。体が圧迫される」
フィルマンの体には万力のような力が加わっていた。辺りは轟轟と木々が唸り、まるで嵐に見舞われているようだった。
「気迫は十分だったな。だが、本気で相手を殺すときは口よりも先に攻撃に移る、先手必勝。これ重要な」
「何をした? 答えろ!」
アムールが余裕を含む表情でフィルマンへと近づく。
「風だよ。風を操る『オ・ビエント、アス・テンブラール・ラ・ティエラ』。習わなかったか? 魔法学の授業はちゃんと受けとくべきだぜ」
(風? 確かに、よく見ると周囲の草がフィルマンへと集まっているように見える)
シェリが目を凝らすと、風の刃に切り裂かれた草木が風に巻き込まれ、フィルマンを中心に集まっていった。巻き込まれた枝は、アムールが一歩近づくたびに、圧力に耐えきれないのか、朽ちる様にして粉のようになっていった。
「本当なら、風の刃で果物のように切り刻んでやろうかと思ったんだがな......シェリの前だし、何よりいろいろと夢に出てきそうだからな。断熱圧縮にしてやったよ」
「選べ。魔王についてゲロってから死ぬか、今すぐ死ぬか。魔王について話してくれたら、もっと楽に死ねる方法に変えてやるのも視野に入れてやるよ」
アムールの瞳は冷たい氷のような色を宿していた。彼から発せられる威圧感はシェリは傷の痛みを忘れるほどに強力なものであった。
「だ、だれが......わ、わかった。吐く、吐くからこれを解いてくれ。話す前に死んでしまう」
圧倒的な威圧感か、もしくは死への恐怖なのかは定かではなかったが、フィルマンは脂汗を流しながら今にも途切れそうな声で、言葉を紡いだ。
やがて、嵐のような荒れた風は鳴りを潜め、フィルマンは膝間付くかのように、その場に倒れこんだ。
「俺の知っていることなんて大したものはないが全部話す。まず、魔王様は人間・植物・動物......果てにはドラゴンまで際限なく集めている」
「目的は?」
「生物兵器さ。なぜそんなものを作っているのかはわからないが、少なくとも連れ攫われた村の連中は生物兵器の実験体になっていたのを見たことがある」
生物兵器――シェリは驚きが隠せなかった。この世界の研究者の中には生物を使い研究を行っているものがいることは知っていたが、そんな生命に対する侮辱のような、神への冒涜のようなことをするものがいるのだろうか。何より、人間を使ってその研究を行っていることが恐怖であり、おぞましいものであった。
「どんなものがある」
心の中が溝のようなもので満たされている感覚だった。一つ間違えば、今目の前にいるこの男を殺していしまいそうであった。怒りで震える拳を握りしめ、アムールは冷静に問答を繰り返していった。
「俺の見た範囲ではマグライト石......火薬玉を使った何かを作っていた。......俺もよくわからないんだ。知っているのは魔王様の側近か五人の災神......後は、研究に携わっている研究員ぐらいだろう」
「五人の災伸?なんだそれは」
「知っているのはその名称だけだ。だが、その五人は恐ろしく強いらしい。噂じゃ出会ったら最後、仲間であろうとも消しちまうやべぇ奴らなんじゃないかって言われている」
「ふむ......五人の災神か......」
アムールの心に妙に引っかかるものがあった。聞いたこともない言葉であったが、何処かで聞いたことがあるような、無いような、不思議な感覚で包まれていた。
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