第25話 命の大尾
「ほかに何か知っていることはあるか」
「もう知っていることはねぇよ......少なくとも私の知っていることは全部話しましたよ」
――胸騒ぎがする。
シェリの心の中に拭い切れぬ影が雨雲のようにひろがっていた。それが、冷静になったフィルマンからくるものなのか、それとも今だ大地を揺らすような威圧感を発しているアムールからくるものなのかわからなかった。アドレナリンが切れたのか、鈍い痛みが体の裂けた傷口からじわじわと広がっていくのを感じる。
「......最後に一つ聞きたいことがある。彼女の両親――国王たちについてだ。彼らはどうなった」
先ほどより空気が重くなるのを感じる。
聞く必要があるかないかでいえば『ない』といえるような質問だった。むしろ、返答次第ではシェリの心の傷に塩を塗るようなことになっていしまうだろう。
しかし、アムールは聞いた。自分の選択が正しかったのかは定かではない。だが、シェリにとってこの質問は必要だと感じたからだ。
「知りませんよ。私はヴァスト王国の転覆した後に、魔王様に使えだしたもの。その前に起きた出来事や、そこにかかわっていた人物の末路なんて知る由もありません」
「......そうか」
フィルマンの言葉にシェリは安堵したかのように、傷ついた胸をなでおろした。シェリはその時、自分は言葉では覚悟を決め、脳では理解できていても、希望を捨てることはできていなかったことを自覚することとなった。
アムールが左手を上げ、指を力を籠め、静かなる夜の情景に弾けるような音を落とした。
「じゃあな」
その言葉を最後にフィルマンの声は聞こえなくなった。気が付くと、シェリの前にはフィルマンの頭が転がってきており、唖然とした。
「へ――」
暫く脳が理解できなかったが、脳が目の間にあるそれが頭だと認識したとき、シェリは猛烈な吐き気に襲われた。転がっている頭はまるで自分の死を認識していないかのように、安らいでおり、何なら今にも動き出しそうであった。
「な、なんで......いくら何でも......最後の言葉とかは......」
不意に、シェリの喉からかすれてはいるが、声が漏れた。それは植物の擦れる音にすら負けるほどの小さな音であったが、アムールは的確に拾い上げ、言葉を返した。
「必要だったか? 何も知らぬ無垢な村人たちを実験台にし、あまつさえそれを楽しむような快楽殺人鬼と変わらぬようなこの男に」
シェリは体に鞭を打つようにして、無理やり起こす。
「だ、だとしても......どんな罪人だったとしても、死の瞬間に慈悲は与えられてもよいはずです......」
「どちらにしろ、こいつの命はここで終わりじゃよ。遅いか早いか、突発的か宿命的か......そこはそこまで重要かのう?」
心の中で何かが引っかかる。アムールの言っていることは理解できる。しかし、シェリはそれでも認めることはできなかった。
「我儘だってことはわかってます。でも――それでも、死の間際に少しの猶予を、覚悟を決める時間を与えるべきだったと思います!」
弱弱しくも、力強い声が放たれる。アムールはシェリの言葉に一瞬肩を震わせるも、すぐにいつもの落ち着いたような表情で語り始めた。
「......ふむ、少し話をしようかのう。なに、別に説教しようってわけじゃない。ちょっとした話さ」
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