第22話 天才の誕生(6)
「あんなところに......足速すぎだろ」
「獣人だしね」
「しかし、妙だな。獣人には何回か会ったことはあるが、どちらかといえば、獣が二足歩行になったような感じで、あんなに人間っぽくなかったはずだぞ。彼女は本当に獣人なのか?」
アムールが首を傾げる。
「本当さ。ただし、純粋な獣人じゃないけどね」
「......混血か?」
イリスが首を縦に振った。
「正解。彼女は獣人と人間のハーフ。色々分け合ってね、今は私が彼女の親代わりってこと」
言葉を言い切ると同時に、イリスが防風でも起こすかのように、首をアムールの方へと向けた。目は若干血走っており、まるで飢えた獣のような鋭い眼光であった。
「つまり、私にとっては大事な娘なんだよ。さっきはいつもの癖で、からかったけど娘はやらんぞ! どうしてもというのならばこの私を倒していけ!」
(いらねーし、怖ぇよ。どんな情緒してるんだ、こいつ)
イリスの不安定な情緒、圧倒的狂喜に気圧されながらも、窓の外を見つめる。相変わらず少女は、足を三角にして木の下に座り込み、どこか遠いところを見つめていた。
(ソフィといったか。あいつはあいつでどこを見てるんだ? 俺が言うのもなんだが、ここには変なやつしかいねぇな......)
間違いなく、傷によるものではない精神からくる疲労が、重りとなってアムールの体にのしかかった。目を閉じればすぐにでも眠れそうであったが、顔をぐしゃぐしゃに混ぜ、眠らないようにし、本来の目的を考えた。
「んで、なんで俺を助けたんだ。こんなしょうもないことをするためにここに来たわけじゃねぇだろ」
イリスの動きがパタリと止まる。白い絹のような髪を指で巻きながら、唸っていると、突然何かを思い出したかのように顔をはっとさせた。
「ごめん、完全に忘れてたわ」
(忘れんなよ......)
「あんたを助けた理由は一つ。私の弟子になりなさい!」
「わかった」
「ふっ......やはり断ると思っていたわ。だが、あなたの命は私が持っているようなもの。無理やりにでも――あれ今なんて言った?」
「なるって言ったんだよ。テメェの弟子に」
イリスは首を傾げる。
「おかしいわね......てっきり断られて、再び因縁のバトルが始まると思っていたのに」
アムールが肺に溜まっていた空気をすべて吐き出すかのように、大きなため息をついた。先程より、赤く大きく腫れた腕をこれ見よがしに掲げ、イリスに悪態をつく。
「こんな状態で、どうやって戦うと思ってるんだよ。頭おかしいんじゃねぇか?」
イリスが風船のように頬を膨らませた。
「頭おかしくないですぅ! おかしいって言ったほうがおかしいんですぅ!」
幼子のように喚くイリスの様相に、かつての色っぽい大人びた女性は存在していなかった。アムールはどこかこの平穏な空気に飲まれ、自身もほんの少しだけほだされているような感覚になり、改めて気を引き締めるように小さく息を吐いた。
「言っておくが、俺は負けたままじゃ終わらねぇ。おまえに魔法やらなんやらを教わって、おまえを殺す」
プライドはなかった。いや、あったのかもしれなかったのかもしれないが、敗北を喫したときに、既に捨てた。アムールを縛るものは存在しなかった。
「おまえを超える。そして、自分自身も超えてみせる。......後悔するなよ?」
「いいね。やれるもんならやってみな。それぐらい意気込んでもらわなきゃ、弟子として不足だしね」
運命というものがあるかは定かではない。
しかし、この出会いは間違いなく運命の出会いといえるだろう。
彼の魔法使いとしての、なんちゃって僧侶としての物語が始まったのだ。
読んでいただきありがとうございます!
全くと言っていいほど、現在軸の話が進んでいませんが、もう少しだけ過去話に付き合ってください。
めちゃくちゃ書きたかったところなんです!




