第22話 天才の誕生(5)
アムールはイリスの反応の真意を聞くべく口を開いた。
「いい加減、何の話か説明しろよ。わけわからない話を延々と聞かされているこっちの身にもなってみろよ」
「あー......」
怒りに染まり、ピリピリしているアムールを見ながらイリスは大きくため息をついた。やがて、何処か落ち着きのない様子で、目を泳がせながら、ゆっくりと話し始めた。
「獣人族の決まり事って知ってる?」
「知らねぇな。そもそも興味ねぇし」
「獣人族にはね、面白い決まり事があるの。男性の獣人は己をよりすごく見せるべく、犬歯や耳といった身体的特徴を誇らしげに見せびらかすの。いわゆる、求愛行動ってやつね。それで、女性の方はというとね......」
(......話が見えてきた気がする)
嫌な予感に背筋が凍る。今まで生きてきて、幾多の修羅場に遭遇してきたが、そのどれもが起こる前に必ずと言っていいほど、背筋に冷えた感触が走ってきた。外れたことは、無い。
アムールの表情がより一層曇る。
「耳や尻尾といった身体的特徴を隠すの。問題はここからなんだけど、彼女たちは死ぬまで隠し続けるのか? ――答えはいいえ。彼女たちはあるタイミングで獣人であることを隠さなくなるの。......ここまで来たら言わなくてもわかるだろうけど......言う?」
「あぁ......」
「『運命の相手を見つけたとき』ね。本来ならロマンティックだけど......今回は別ね」
「つまりあれか、あいつの耳を見ちまったのはやばいと」
「うん。彼女......ソフィが今回の件についてどう捉えているのかはわからないけど、反応を見る感じ宜しくはないね。......私はてっきり、二人が出会って五秒で即結婚! みたいな激ウマ話だと思ったんだけどね」
「おぉ......」
ツイていない。気分はまるで罠にかかった、獣のような絶望感だ。イリスと出会ってから――いや、生まれてからずっとそうだった。いつだって、天が彼の味方になったことはなかった。それどころか、常に彼の人生に向けて試練を放ち続けている。前世というものがあるなら、彼は大罪でも犯したのか? と疑問を持つほどだった。
アムールは疲れた目で窓の外を眺めると、一面の花畑と大きな木が見えた。そして、そこには問題の原因となっている少女の姿もあった。
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