第22話 天才の誕生(4)
「おまえ......やっぱり――」
少女のケモ耳や身なりはアムールの好奇心を強く刺激し、体の外へと引きずり出していった。
彼の関心に焼かれたのか、少女の頬はみるみる染まっていき、やがて真っ赤な林檎の擬人化のような姿へと変わってしまった。
「わ、わ、私――」
「恥ずかしいぃぃぃぃ!」
少女は部屋全体に広がるほどの大声を上げると、扉を破壊する勢いで部屋から出て行ってしまった。木を叩くような音が遠ざかっていった。青天の霹靂に打たれたような気分になり、動揺を隠すことはできなった。
「な、なんだったんだ。......どうすんだこれ」
アムールの目の前には薬箱から取り出された包帯と薬品が散乱していた。仕方がなく、傷ついた腕を無理やり動かし、包帯や薬を拾い、自ら巻き直すこととなった。イリスに転ばされた際に折れた骨が繋がっていないためか、関節を曲げるたび激痛が走る。よく見ると、患部は通常の二倍以上に腫れあがっており、まるで丸太ような状態となっていた。
「ひでぇな。暫く治らねぇぞ、これ」
ぶつくさと文句を言いつつも、包帯を巻いていると、先ほどの足音とは別の落ち着いた音が扉の向こうから響いてくる。
(......面倒くさそうな予感)
響いてくる足音にどこか嫌悪感を感じ、最大限の警戒をしていると、その予感は的中したかのように、いやな声も響き渡ってきた。
「元気してる~?」
柔らかく、陽気な中に胡散臭さを隠す作ったような声と共に、白いローブが姿を現す。アムールは反射的に飛び掛かりそうになった身体を諫めつつ、言葉を投げかける。
「......よくねぇよ」
「そりゃ残念」
にこにことむかつく笑顔をひっさげながら、イリスは一歩一歩間合いに踏み込むかのように、じりじりと近づいて、近くの丸椅子に腰かけた。まるで酒場にいる親父のような、品のない座り方を前に、アムールは思わず顔をしかめた。
そんなアムールの表情など気にしないかのように、イリスがにやにやした表情を崩さずに口を開き始める。
「にしても、お前も隅に置けないねぇ~。まさかあんなに直接的な告白をするなんて。結構、熱に侵されやすいタイプ?」
「......? 何の話だ?」
イリスの言っている言葉がわからず、頭の中がぐちゃぐちゃになる。
「とぼけんなよ~」
「.....マジで何言ってんだ、おまえ」
思わず怪訝な表情になる......いや、元から怪訝な表情であったが、さらに深まったといったほうが正しいだろう。アムールの額に彫刻されたような深い皺を見て、ようやく気付いたのか、イリスの顔から笑顔が消え、同時に当惑した表情へと変化していく。
「......もしかして、何にもわかってない感じ?」
「だから、テメェは一体何の話をしているんだ! いきなり告白だのなんだの聞かされても訳わかるはずがないだろ!?」
イリスが顔を洗うように擦りだす。かと思えば、前髪をまくり上げたりと、何処か落ち着きがないように、焦りだした。
「......あちゃー。何にもわかってなかったのかー」
自分の知らぬところで、物事が進んでいくが、絶対碌なことになっていない気がする。出会ってから、へらへらした表情しか見てこなかったイリスの顔が、焦燥に満ちてるのが何よりの証拠であった。
(ここからどうやって抜け出そうかな......)
目覚めたときにあった敗北感は、春の温かい風と共に窓から抜けていき、心身の億劫さだけが残っていた。
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