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第三十話 鉤爪の環の行進 再び【1/2】

第三十話


 瓦礫を踏み越えて進み出たベルザに、クロー・リングの冒険者たちが息を呑む。


「クランマスター……!」


「一体何が......!」


 鎧の継ぎ目から土埃がこぼれ落ちる。片膝をついたベルザは、額を押さえたままかすれた声を漏らした。


「……ミノタウロスに……追われて……第五階層まで……ザガンと……セオドア君と一緒に……」


 息を整えるように、深く呼吸を繰り返す。


「だが……ミノタウロスの精神汚染にやられ……二人が突然……私を攻撃し始めた……。私は……なんとか逃げてきた……」


 仲間たちがどよめき、安堵と動揺の入り混じった声があちこちから漏れる。


「ベルザさんが無事で何よりだ……!」


「ザガンさんは今どこに……?」


 ベルザは痛みに耐えるよう顔をしかめ、弱々しく告げた。


「わからない......」


 ヴェロニカギルド長とフィオナ達がクロー・リングの冒険者達を掻き分け、ベルザの前に出る。


 フィオナはベルザに詰め寄る。


「セオドアは......!セオドアは無事なの!?」


 ベルザはフィオナの問いに顔を伏せる。


「わからない。第五層で姿を見たのが......最後です......」


 ベルザに返答にフィオナは拳を握り込む。


「そんな......」


「役に立てず、すまない......」


 ベルザは頭を下げる。


「い、いえ......ベルザさんが無事で何よりです......」


 フィオナが歯噛みする思いでベルザに言うと、フィオナの前にヴェロニカが割り込む。


「ベルザ」


 ベルザはヴェロニカを見上げる。


「ヴェロニカギルド長......」


「ミノタウロスは第五層に戻ったのだな?」


「はい……聖職者を集めてくれませんか?」


 ベルザの要望にヴェロニカは眉間に皺を寄せる。


「聖職者?」


「精神汚染が酷く......正直、話すのもままならない......」


 ベルザは辛そうに額に汗を流す。


 ヴェロニカは後ろを振り返り、顎で合図する。


「聖職者を連れてこい」


 数名がすぐさま走り、白法衣の聖職者たちを呼び寄せる。


 やがて、彼らがベルザを中心に円を描くように並んだ。


「ではベルザ殿......今から精神汚染を取り除く魔法を貴方に......」


 白法衣の冒険者がベルザに説明しようとした所をベルザが手を挙げて遮った。


「いいですか......ザガンとセオドア君の両名を救う鍵は聖属性魔法を使えるあなた方です」


 ベルザは辛そうに呼吸をしながら、白法衣の冒険者達を見渡す。


「私たちが......」


「はい......あなた方の存在は彼らの希望となるでしょう」


 ――その瞬間、ヴェロニカの眼が細まる。

 義手の指が、ぎしりと軋む。


 ベルザが俯いたまま、口元をわずかに吊り上げた。



「……だからここで死んでもらいます」



 ベルザの身体が変化し、集まっていた聖職者達に黒く大きな腕を伸ばした。


「全員下がれッ!!」


 ヴェロニカの怒声が響く。だが一瞬遅い。


 ベルザの顎が大きく開き、牙が光を反射した。


 次の瞬間、聖職者の一人が悲鳴を上げる間もなく喰い破られ、鮮血が石床を染めた。



 第三階層に悲鳴が上がる。


「全員戦闘体制!!!!そいつはミノタウロスだ!!!」


 怒号と共に武器が一斉に構えられる。


 ベルザの身体が膨張し、筋肉が裂けるように肥大し、近くにいた聖職者達を握り潰し、踏みつけ、噛み砕く。


 骨の軋む音が周囲の空気を刺し、次の瞬間、その姿は漆黒の毛皮と獣の角を持つ巨躯――ミノタウロスへと変わり果てた。


「本物のベルザはどこだ!!」


 ヴェロニカの義手がうなりを上げ、巨大な戦槌を振り下ろす。


 金属と肉がぶつかる鈍い衝撃音。だがミノタウロスは僅かによろめくだけで、笑うように鼻息を荒げた。


『惜しいな。ギルド長様。私がベルザ・ドルグだ』


 ミノタウロスの口角が上がる。


 ヴェロニカは背筋に寒気を感じた。


「包囲を組め!!!」


 ヴェロニカの号令に救出隊が動き出すが、その巨体はあまりにも速い。


 薙ぎ払う腕が冒険者ごと盾を吹き飛ばし、石柱を砕いた。


「どうなってるの!?」


 ノエルが飛んでくる石片から頭を守りながら、叫ぶ。


「わかんないわよ!あいつがミノタウロスってことでしょ!!」


 フィオナは後ろに回避しながら、叫ぶ。


 ドランは飛んでくる石片から二人を守る。


「......構えろ!!」


 フィオナが矢を放つ。ドランが盾で突進する。ノエルの精霊魔法が閃光を走らせる。


 しかし、そのほとんどが分厚い毛皮と膂力に阻まれる。


「私達の攻撃じゃ奴に効かないわよ!!」


 フィオナが次の矢を番ようとすると、隣をヴェロニカが駆け抜ける。


「退いてろ!!!」


 ヴェロニカが戦鎚を大きく振り抜き、ミノタウロスの拳とぶつかる。


『ほぅ!流石はギルド長様......腕は鈍っていないか』


 ミノタウロスの拳は弾かれるも、ヴェロニカは反動で大きく後ろに飛ばされる。


『いや、失敬。鈍らせる腕は私が食ってしまってなかったのだったな!』


 ミノタウロスは獣の笑い声を上げる。


「......っ!このっ化け物めがっ!!!」


 唯一、ヴェロニカの一撃だけが確実に肉へ届くが、一人で巨獣を押さえられるはずもない。


 じわじわと包囲は崩れ、悲鳴と怒号が交錯する。




最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

もし少しでも面白いと思っていただけたら、ブックマークや感想をいただけると励みになります。

次回もどうぞよろしくお願いします。

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