表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜咲く国の姫君【改訂版・ギルフォードルート】~神様の気まぐれで異世界に召された少女は隣国王子に溺愛される~  作者: 咲来青
最終章 幸せな未来のために

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

307/308

第7話 二代目の〝神様〟

 神様との別れが悲しくて、寂しくて――。

 私はかなり長い間、ギルの胸で泣きじゃくっていた。


「強がりのくせに泣き虫だね、君は……。本当に困ったお姫様だ」


 心に染み入るような優しい声で、彼はそっとささやく。

 温かくて大きな手で、私の頭を何度もなでてくれながら――泣き止むまで、ずっと。

 たくましい腕で私を包み込みながら、小さな子をあやすようになで続けてくれていた。


 彼の腕の中はいつも温かくて、私をホッとさせてくれる。

 だからこそ心ゆくまで、彼に甘えることができたんだ。



 ギルは優しい。

 ……ちょっとだけ意地悪だけど。


 ギルは私を愛してくれる。

 ちょっと……ううん。かなりヤキモチ焼きだけど。


 彼がいてくれるなら……私はこれから先も、ずっと幸せでいられる。

 神様を失った寂しさも、彼さえ側にいてくれるなら……きっといつかは癒えるはず。



 だけど……。



 ああ……そうか。

 神様を失ってこんなにも寂しいのは……。

 この世界に、彼がたった一人しかいないからなんだ。


 この世に神様がたった一人しかいないように……ギルもこの世にたった一人。

 その一人を失うことは……やっぱり、とても大きなことなんだ。



 ――だって、代わりなんていないもの。

 他の誰にも、その人の代わりなんてできないんだもの。


 だから……。

 だからこんなにも……。



『オレの代わりになるもの、置いてくことにした。よかったら受け取ってくれ』


 唐突に、神様が別れ際に言ったセリフが脳裏をよぎった。

 私はハッとして顔を上げ、思わず大きな声を上げた。


「そうだっ、『代わり』!」


「え?……『代わり』?」


 キョトンとした顔で見下ろすギルを見つめ、コクリとうなずく。


「そうだよ、『代わり』! 自分の代わりになるものを置いてくって、別れ際に神様言ってた!……『代わり』……。『代わり』ってなんだろう?」


 何の当てもないまま辺りを見回す。


 そう簡単には見つからないだろう、とは思ったけど。

 とりあえず、木の周りをぐるぐる歩いて探し回ってみた。


 ――すると。


 ()()は、当然のことのように私の目に留まった。

 私はゆっくりと近付いていって、()()の前でしゃがみ込む。


「ねえ、見て! こんなところに小さな木が――」


「小さな木?」


 彼は戸惑い気味に近付いてくると、しゃがんでいる私の肩越しから、指し示す場所を覗き込んだ。


「……ああ、本当だ。こんなところに若木が育っていたんだね」


 彼が言うように、神様の木――桜の古木の根本には、まだ小さな――二十センチにも満たないほどの可愛らしい木が生えていた。


「うん。……ねえ。神様が言ってた『オレの代わり』って、もしかしてこれのことじゃ――」


 言いながら木に触れると、


(よく見つけてくれたな!)


 いきなり神様の声がして、私はギョッとして立ち上がった。


「神様っ?……え……えっ? まだいたのっ!?」


 嬉しくて、声が弾む。

 でもそれには答えぬまま、神様は先を続けた。


(それじゃーちょっとだけ、木から離れててくれないか? そうだな……十歩くらい後ろに下がってくれ)


「えっ?……あ、うん。わかった!」


 私はギルの手を引き、神様の指示通りに十歩ほど下がった。


(もういいか?……ちゃんと離れたよな?)


「うん。離れたよ!」


(離れたよな? じゃあ行くぞ!――それっ!!)


 神様のかけ声と共に、一瞬にして桜の古木は光の粒子となった。

 粒子は吹いてきた風に乗り、私たちの頭上をブワッと吹き抜ける。


「えっ?……えええええッ!?」


 まるでマジックショーみたいな光景に、私は驚きの声を上げた。

 そのままあんぐりと口を開けたまま、吹き抜けた風の行方を目で追う。


 光の粒子となった古木は、大空高く舞い上がり、空に溶けるように消えていく。

 その様子を眺めながら、呆然と空を仰いでいると、


「リア!――若木が!!」


 ギルが私の肩に手を置き、何事かを知らせた。

 慌てて振り向くと、いつの間にそこまで成長したのか、桜の若木が私たちを見下ろすようにそびえ立っていて……。


 驚きのあまり、私は再び口をあんぐりと開け、ただ声もなく、一気に成長してしまった若木を見上げていた。


(もひとつ、それっ!!)


 神様の声を合図に。

 今度は枝という枝から、蕾がニョキニョキと芽吹いていき、


(最後におまけだ! そぉれっ!!)


 一斉にポポン、ポン、ポンっと、全ての蕾が花開いた。


「……わぁぁぁあ……!」


 思わず感嘆の声を上げてしまうほど、見事なまでの咲きっぷりだった。


 こんなに綺麗な桜の花は、今まで見たことがない。

 そう感じてしまうほど――吸い込まれてしまいそうなほどに、幽玄で雅やかなたたずまいだった。


 その空間だけ別世界のような……。

 圧倒的な美が、確かにそこに存在していた。



(驚いたか? それがオレの代わりだ。……代わりって言っても、オレと違って力は使えないけど……まあ、ないよりはマシだろ? 今度からは、力のないそいつをオレの代わりだと思って……神様として、大事にしてやってくれ)



「神様……」


(本当は、そこら一帯埋め尽くすほど、桜の木でいっぱいにしてやりたかったんだけどさ。今のオレの力じゃ、これが精一杯なんだ。ごめんな)


「ううん、そんなことないよ!……嬉しい! すっごく嬉しいよ! 私、桜大好きだもん! この木だけでも充分素敵だよ! ホントにありがとう、神様!」


(じゃ……今度こそ、本当にさよならだ。その花が咲くたびに、オレのこと思い出してくれたら……嬉しいんだけどな)


「うん! 思い出す! 絶対思い出すよ! 咲かなくったって思い出すからっ!」


(さよなら、リナリア。……元気でな)


「うん……うん! 神様こそ元気でね! 桜さんと、ずっと一緒にいられるといいね!」



 ……それっきり、返事は返ってこなかった。

 これでもう……ホントのホントにお別れなんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ