第6話:騒がしい常連たち
週末のランチタイムが終わろうとしていた頃。
俺はランチ最後のお客さんを見送り、大きく息を吐いた。
「ふぅ……今日も忙しかったな」
「お疲れ様です、孝文さん。片付け、手伝いますね」
ほなみが、大きくなってきたお腹を気遣いながらも、テキパキと皿を下げていく。
夏に妊娠が発覚して、今はもう季節が冬に差し掛かろうとしている。出産予定の来春も近づいてきており、体調は安定しているようだが、決して無理はさせられない。
「いいよ、俺がやるから座ってて。サクラコ、ほなみにハーブティー淹れてあげてくれ」
「ラジャー! お腹の赤ちゃんにも優しいやつにするね!」
高校生になったサクラコは、学校が休みの日はこうして店を手伝ってくれる。かつての「人見知り」の面影はなく、今や店の頼れる看板娘だ。
穏やかな午後のひととき。
静かな田舎の空気の中に、鳥のさえずりと、遠くの耕運機の音だけが響く――はずだった。
ドコドコドコ……ドッドッドッ……!
突然、店の前の砂利道に、不釣り合いな重低音が響き渡った。
耕運機じゃない。これは――大型バイクの排気音だ。それも、一台や二台じゃない。
「な、なんだ!? 暴走族か!?」
「えっ、まさか……こんな田舎に?」
俺たちが顔を見合わせていると、爆音は店の駐車場で止まった。
窓から覗くと、そこには見覚えのありすぎるバイクと、見覚えのありすぎるシルエットがあった。
「おーい! 喜多! 生きてるかー!」
ヘルメットを脱ぎ、輝くスキンヘッドを露わにしたのは、かつての上司であり、俺の恩人でもある松田さんだ。
その隣には、爽やかな笑顔の青央さん。そして、なぜかGoProを頭に装着した怪しい男――ネット仲間であり動画師匠のてんちょーもいる。
「うわぁ……一番騒がしい人たちが来た」
「あはは、皆さんお元気そうですね」
俺とほなみは苦笑しつつ、店外へと出迎えた。
「いらっしゃいませ! ……って言うか、連絡くらいくださいよ!」
「サプライズだ、サプライズ! 動画がバズったって聞いたからな、冷やかしに来てやったぜ!」
松田さんは豪快に笑いながら、俺の背中をバシバシと叩く。相変わらず痛い。
手には「出産祝い」と書かれた熨斗付きの箱と、一升瓶が握られている。まだ生まれてないが……気の早い祝いなのか飲み会なのかどっちなんだ。
「やぁ喜多くん。お店、すごく立派になったね! ネットで予約しようとしたら満席で焦ったよ」
「青央さん……すみません、今は予約困難で」
「いいのいいの! ほら、ボクたちは『地元民優先枠』ならぬ『元同僚強制割り込み枠』ってことで!」
青央さんがウインクをする。そんな枠はない。
てんちょーはと言えば、無言でカメラを回しながら店の外観を舐めるように撮影している。
「キタサン、いい画が撮れそうだよ。この『グローバル × ローカル』な雰囲気、最高だね」
「てんちょー、他のお客さんの顔は映さないでくれよ」
「わかってるって。……おっ、看板娘ちゃん発見!」
カメラがサクラコに向けられると、彼女は慣れた様子でピースサインをした。
「いらっしゃい、おじさん達! 今日はカレー? それともコーヒー?」
「おぉ、サクラコちゃん! 大きくなったなぁ! 制服姿も板についてるじゃないか!」
松田さんが目を細める。彼らにとってサクラコは、かつての騒動を共に戦った「戦友」であり、親戚の子供のような存在なのだ。
店内に戻ると、新規で入店したお客さんたちが、強面の松田さんを見て少し身構えた。
スキンヘッドにアロハシャツ、そして金のネックレス。どう見てもカタギには見えない風貌だ。
その時、テラス席にいた外国人観光客のグループが、興味深そうに松田さんを指差した。
「Wow, Yakuza? Cool!(ワオ、ヤクザ? クール!)」
あぁ、また誤解されている。
松田さんは言葉の意味は分からなかったようだが、向けられたカメラに気づくと、ニカッと笑ってダブルピースをした。
「ナイスガイ! ジャパニーズ・マフィア・スタイル!」
「No No, He is just a... friendly ex-boss.(いえいえ、彼はただの……フレンドリーな元上司です)」
サクラコが苦笑しながら通訳する。
店内が一気に和やかな笑いに包まれた。松田さんの強面と愛嬌のギャップは、万国共通でウケるらしい。
「ふぅ……相変わらず台風みたいな人たちだ」
俺はコーヒーを淹れながら、カウンター越しに彼らを眺めた。
松田さんと青央さんは、ほなみのお腹を気遣いながら、ベビー用品談義に花を咲かせている。てんちょーはサクラコに新作の動画編集テクニックを伝授中だ。
かつて会社で消耗していた頃には想像もできなかった光景。
でも、彼らが背中を押してくれたからこそ、今の俺がある。
「喜多! コーヒーおかわり! あと、この『特製プリン』ってのもくれ!」
「はいはい、ただいま」
俺は苦笑しながら、新しい豆を挽き始めた。
店内に漂うコーヒーの香りと、賑やかな笑い声。
世界中から人が来るようになっても、変わらない絆がここにある。
それが何よりも嬉しく、そして誇らしかった。
⚫︎あとがき
クロエ「そういえば、厨二病はあとがきに出さないの?」
作者「あぁ、鷺ノ宮先生ね。いやぁ、出そうと思えば出せるんだけどさぁ……」
烏骨隊長「何であるか、その含みがある言い方は」
作者「いやね、厨二病って執筆コスト高いじゃん? 正直、めんどい」
鷺ノ宮「ひどいっ! もう厨二病は治ったのに!」
クロエ、烏骨隊長「「あ、出た」」
鷺ノ宮「虫が出てきた、みたいなニュアンスで言わないでよー!」




