表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
高卒サラリーマンが脱サラして田舎でスローライフするだけの話  作者: らいお
第二部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

95/100

第6話:騒がしい常連たち

 週末のランチタイムが終わろうとしていた頃。

 俺はランチ最後のお客さんを見送り、大きく息を吐いた。


「ふぅ……今日も忙しかったな」

「お疲れ様です、孝文さん。片付け、手伝いますね」


 ほなみが、大きくなってきたお腹を気遣いながらも、テキパキと皿を下げていく。

 夏に妊娠が発覚して、今はもう季節が冬に差し掛かろうとしている。出産予定の来春も近づいてきており、体調は安定しているようだが、決して無理はさせられない。


「いいよ、俺がやるから座ってて。サクラコ、ほなみにハーブティー淹れてあげてくれ」

「ラジャー! お腹の赤ちゃんにも優しいやつにするね!」


 高校生になったサクラコは、学校が休みの日はこうして店を手伝ってくれる。かつての「人見知り」の面影はなく、今や店の頼れる看板娘だ。

 穏やかな午後のひととき。

 静かな田舎の空気の中に、鳥のさえずりと、遠くの耕運機の音だけが響く――はずだった。


 ドコドコドコ……ドッドッドッ……!


 突然、店の前の砂利道に、不釣り合いな重低音が響き渡った。

 耕運機じゃない。これは――大型バイクの排気音だ。それも、一台や二台じゃない。


「な、なんだ!? 暴走族か!?」

「えっ、まさか……こんな田舎に?」


 俺たちが顔を見合わせていると、爆音は店の駐車場で止まった。

 窓から覗くと、そこには見覚えのありすぎるバイクと、見覚えのありすぎるシルエットがあった。


「おーい! 喜多! 生きてるかー!」


 ヘルメットを脱ぎ、輝くスキンヘッドを露わにしたのは、かつての上司であり、俺の恩人でもある松田さんだ。

 その隣には、爽やかな笑顔の青央さん。そして、なぜかGoProを頭に装着した怪しい男――ネット仲間であり動画師匠のてんちょーもいる。


「うわぁ……一番騒がしい人たちが来た」

「あはは、皆さんお元気そうですね」


 俺とほなみは苦笑しつつ、店外へと出迎えた。


「いらっしゃいませ! ……って言うか、連絡くらいくださいよ!」

「サプライズだ、サプライズ! 動画がバズったって聞いたからな、冷やかしに来てやったぜ!」


 松田さんは豪快に笑いながら、俺の背中をバシバシと叩く。相変わらず痛い。

 手には「出産祝い」と書かれた熨斗(のし)付きの箱と、一升瓶が握られている。まだ生まれてないが……気の早い祝いなのか飲み会なのかどっちなんだ。


「やぁ喜多くん。お店、すごく立派になったね! ネットで予約しようとしたら満席で焦ったよ」

「青央さん……すみません、今は予約困難で」

「いいのいいの! ほら、ボクたちは『地元民優先枠』ならぬ『元同僚強制割り込み枠』ってことで!」


 青央さんがウインクをする。そんな枠はない。

 てんちょーはと言えば、無言でカメラを回しながら店の外観を舐めるように撮影している。


「キタサン、いい画が撮れそうだよ。この『グローバル × ローカル』な雰囲気、最高だね」

「てんちょー、他のお客さんの顔は映さないでくれよ」

「わかってるって。……おっ、看板娘ちゃん発見!」


 カメラがサクラコに向けられると、彼女は慣れた様子でピースサインをした。

 

「いらっしゃい、おじさん達! 今日はカレー? それともコーヒー?」

「おぉ、サクラコちゃん! 大きくなったなぁ! 制服姿も板についてるじゃないか!」


 松田さんが目を細める。彼らにとってサクラコは、かつての騒動を共に戦った「戦友」であり、親戚の子供のような存在なのだ。


 店内に戻ると、新規で入店したお客さんたちが、強面の松田さんを見て少し身構えた。

 スキンヘッドにアロハシャツ、そして金のネックレス。どう見てもカタギには見えない風貌だ。

 その時、テラス席にいた外国人観光客のグループが、興味深そうに松田さんを指差した。


「Wow, Yakuza? Cool!(ワオ、ヤクザ? クール!)」


 あぁ、また誤解されている。

 松田さんは言葉の意味は分からなかったようだが、向けられたカメラに気づくと、ニカッと笑ってダブルピースをした。


「ナイスガイ! ジャパニーズ・マフィア・スタイル!」

「No No, He is just a... friendly ex-boss.(いえいえ、彼はただの……フレンドリーな元上司です)」


 サクラコが苦笑しながら通訳する。

 店内が一気に和やかな笑いに包まれた。松田さんの強面と愛嬌のギャップは、万国共通でウケるらしい。


「ふぅ……相変わらず台風みたいな人たちだ」


 俺はコーヒーを淹れながら、カウンター越しに彼らを眺めた。

 松田さんと青央さんは、ほなみのお腹を気遣いながら、ベビー用品談義に花を咲かせている。てんちょーはサクラコに新作の動画編集テクニックを伝授中だ。

 かつて会社で消耗していた頃には想像もできなかった光景。

 でも、彼らが背中を押してくれたからこそ、今の俺がある。


「喜多! コーヒーおかわり! あと、この『特製プリン』ってのもくれ!」

「はいはい、ただいま」


 俺は苦笑しながら、新しい豆を挽き始めた。

 店内に漂うコーヒーの香りと、賑やかな笑い声。

 世界中から人が来るようになっても、変わらない絆がここにある。

 それが何よりも嬉しく、そして誇らしかった。

⚫︎あとがき

クロエ「そういえば、厨二病はあとがきに出さないの?」

作者「あぁ、鷺ノ宮先生ね。いやぁ、出そうと思えば出せるんだけどさぁ……」

烏骨隊長「何であるか、その含みがある言い方は」

作者「いやね、厨二病って執筆コスト高いじゃん? 正直、めんどい」

鷺ノ宮「ひどいっ! もう厨二病は治ったのに!」

クロエ、烏骨隊長「「あ、出た」」

鷺ノ宮「虫が出てきた、みたいなニュアンスで言わないでよー!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ