第5話:交錯する言葉と笑顔
「地元民優先枠」を設けてから数日が経った。
『Farm Cafe Katze』の店内には、以前とはまた違った、不思議な調和が生まれていた。
「おや、今日は外国の方が来てるのかい?」
猫村さんが、隣の席を物珍しそうに眺めながら席に着く。
その隣のテーブルには、大きなバックパックを足元に置いた、若い欧米人のカップルが座っていた。予約サイト経由で来てくれた、動画ファンの二人だ。
「ええ、フランスから来られたそうですよ。動画を見て、どうしても日本の田舎が見たかったって」
「ほぉ〜、フランスかぁ! そりゃまた遠いところから」
猫村さんは感心したように頷き、連れてきたお孫さんに「ほら、挨拶しなさい」と促す。
小学生のお孫さんは、恥ずかしそうにモジモジしながらも、小さく手を振った。
すると、フランス人の女性客がニコリと笑い返し、片言の日本語で話しかけてきた。
「コンニチワ。カワイイね」
「あ、えっと、ハロー!」
お孫さんが精一杯の英語で返すと、店内が和やかな空気に包まれる。
予約客だけの洗練された空間も悪くはなかったが、この少し泥臭くて、生活感のある空気こそが『Katze』らしいと俺は思う。
「お待たせしました、猫村さん。『旬野菜のゴロゴロカレー』です」
「おお、これこれ! これが食べたかったんだ!」
猫村さんがスプーンを構えると、お孫さんも嬉しそうに目を輝かせる。
その様子を見ていたフランス人カップルが、興味深そうに俺に尋ねてきた。
「Excuse me. What is that side dish?(すみません、あの付け合わせは何ですか?)」
彼らが指差したのは、カレーの横に添えられた小皿料理。
ただの福神漬けではない。猫村さんの畑で採れたキュウリとカブを使った、ほなみ特製の浅漬けだ。
「This is... 'Asazuke'. It's Japanese pickles.(これは『浅漬け』です。日本のピクルスのようなものです)」
「Oh, Pickles! Looks delicious.(へぇ、ピクルス! 美味しそうね)」
俺が説明に四苦八苦していると、厨房から出てきたサクラコが流暢な英語で助け舟を出した。
そして、猫村さんに通訳する。
「猫村さん、この人たち、その漬物が気になるんだって。猫村さんの畑で採れた野菜だよって伝えたら、『アメイジング!』だってさ」
「ほう! わしの野菜がフランス人に褒められたか! がっはっは、嬉しいねぇ!」
猫村さんは上機嫌で、自分の皿の浅漬けを箸で摘んで見せ、身振り手振りで「美味いぞ!」とアピールする。
言葉は通じなくても、美味しいものを食べて笑顔になる気持ちは万国共通だ。
「どうぞ、サービスです。ぜひ食べてみてください」
ほなみが気を利かせて、カップルのテーブルにも浅漬けの小皿を運んできた。
恐る恐る口に運んだ二人は、ポリポリという小気味良い音を立てた後、パァッと顔を輝かせた。
「Good texture! Very fresh!(いい食感! すごく新鮮だわ!)」
「アリガトウゴザイマス!」
店内に、笑顔と拍手が広がる。
ネットの世界でバズった「虚像」としての田舎と、猫村さんたちが生きる「現実」の田舎。
その二つが交わり、反発することなく溶け合っていく。
「……いい光景だろ?」
俺はカウンターの中で、グラスを拭きながら呟いた。
隣で洗い物をしていたほなみが、優しく微笑む。
「はい。……私、こういうお店にしたかったんです。遠くの人も、近くの人も、みんなが同じテーブルで『美味しいね』って言い合える場所」
「あぁ。俺たちが守りたかったのは、これだよな」
世界への扉は、一方通行じゃなかった。
外からの風を取り入れつつ、足元の土の匂いも大切にする。
そのバランスの上に、今の『Katze』は成り立っている。
帰り際、猫村さんが俺に声をかけてきた。
「喜多くん、ありがとな。孫も大喜びだったよ。……あっちの人たちにも、よろしく伝えといてくれ。『また来いよ』ってな」
「はい、必ず伝えます」
そしてフランス人カップルも、帰り際にスマホの翻訳アプリを見せてきた。
画面には『最高のおもてなしをありがとう。この場所は、動画よりもずっと素敵でした』と表示されていた。
俺は深く頭を下げた。
胸の奥が、温かいもので満たされていくのを感じながら。
「孝文、ほなみちゃん! お疲れ様!」
閉店後、制服のエプロンを外したサクラコが、大きく伸びをした。
「今日はいい日だったね。私の通訳スキルも役に立ったし!」
「あぁ、助かったよ。やっぱりサクラコは頼りになるな」
「えへへ、もっと褒めていいよ?」
無邪気に笑うサクラコだが、その視線は鋭く店の将来を見据えているのだろう。
この「交差点」をどう守り、どう育てていくか。
課題はまだまだあるけれど、この三人なら――いや、アリスや黒ヤギ、そして猫村さんたちも含めた「チーム」なら、きっと大丈夫だ。
俺はほなみのお腹にそっと視線を落とした。
新しい家族が加わる頃には、この店はもっと賑やかで、温かい場所になっているはずだ。
そう確信できるだけの強さが、今の俺たちにはあった。
⚫︎あとがき
作者「英語は分からないから、全部AIにお任せしちゃったよ」
クロエ「いいんじゃない? そこはもう便利なものを使っていきなさいよ」
烏骨隊長「そうであるぞ。いくらTOEIC300点の作者だからといって、自身の知識のみで補えない部分は文明の力を使うべきである」
作者「やめてよ低い点数バラさないでっ⁉︎」




