表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
高卒サラリーマンが脱サラして田舎でスローライフするだけの話  作者: らいお
第二部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

93/100

第4話:静寂なる盛況

 完全予約制を導入してから、二週間が経った。

 『Farm Cafe Katze』の空気は、劇的に変わっていた。


「いらっしゃいませ。ご予約の佐藤様ですね、お待ちしておりました」


 落ち着いたトーンで出迎える俺の声が、店内に穏やかに響く。

 かつてのような喧噪はない。

 一日に受け入れる客数を制限したことで、店内には常にゆったりとした時間が流れている。

 お客様は皆、事前に注意事項を読み込み、わざわざ予約を取ってまで来てくれた人たちだ。当然、マナーもすこぶる良い。


「わぁ……本当に動画のままだ。静かで、空気が美味しくて……」

「料理も絶品だね。これが採れたて野菜の味か」


 店内の撮影は料理の手元のみ。

 そのルールのおかげで、以前のように立ち歩いてシャッターを切る者もいない。皆、目の前の食事と、窓から見える田園風景を純粋に楽しんでくれている。


「孝文、3番テーブルのお客様、デザートの追加オーダーです」

「了解。ほなみ、季節のフルーツタルト一つ頼む」

「はーい、喜んで!」


 厨房のほなみも、以前のような殺気立った様子はない。

 一つ一つの料理に丁寧に愛情を込められるペース配分。それが彼女にとって一番の喜びなのだろう。お腹の子への負担も最小限に抑えられているはずだ。


 まさに、理想的な回転。

 「スローライフ」と「商売」の両立。

 俺たちは、ついに最適解を見つけた――そう思っていたのだが。


 その日の閉店後。

 片付けを終えて一息ついていると、裏口から「ごめんくださーい……」と遠慮がちな声が聞こえた。

 顔を出したのは、お隣の猫村さんだ。


「あ、猫村さん! こんばんは。どうしました? 野菜の差し入れなら、いつもすみません」

「いやいや、今日は違うんだよ。あのなぁ、喜多くん……」


 猫村さんは帽子を脱ぎ、申し訳なさそうに頭を掻いた。


「実は、孫が遊びに来ててな。喜多くんの店のカレーが食べたいって言うんだが……サイトを見ても、来月まで『満席』ってなっててなぁ」

「あ……」


 俺はハッとした。

 サクラコが作った予約システムは優秀だ。優秀すぎて、予約開始と同時に枠が埋まってしまう。

 その結果、ネットに張り付いている遠方の熱心なファンは来れるが、猫村さんのような地元の年配の方々が、ふらっと立ち寄ることができなくなっていたのだ。

 灯台下暗しとはこのことか。こんなにも重要な事が頭から抜けていたなんて、情けない限りだ。


「す、すみません! 猫村さんならいつでも大歓迎ですよ! 今すぐ作りますか?」

「いやいや、ルールを破るわけにはいかんよ。みんな我慢してるんだから」


 猫村さんは寂しそうに笑って、帰っていった。

 その背中を見て、俺は胸が締め付けられるような思いがした。

 俺たちを守ってくれたのは、誰だ?

 あの騒動の時、鍬を持って駆けつけてくれたのは、猫村さんたち地元の人々じゃなかったか。

 その恩人たちが入れない店なんて、俺たちが目指していた『Katze』なのだろうか。


「……孝文、難しい顔してるね」


 いつの間にか、学校から帰ってきたサクラコが隣に立っていた。手にはタブレットを持っている。


「今の話、聞いてた。……システムの欠陥だね。ごめん、私が『効率』を優先しすぎた」

「いや、サクラコのせいじゃない。予約制にしたおかげで店が守られたのは事実だ」


 俺はサクラコの頭を撫でる。彼女は高校生になっても、こういう時は素直に甘えてくる。可愛い奴だ。


「でも、このままじゃダメだ。俺たちは『世界への扉』を開いたけど、そのせいで『足元の扉』を閉めちまったのかもしれない」

「じゃあさ、こうしようよ」


 サクラコがタブレットを操作し、画面を見せてきた。

 そこには、予約システムの管理画面が表示されている。


「『地元民優先枠』を作るの。予約サイトを通さなくても、電話や直接来店で受け付ける席を、毎日必ず二席確保する。その代わり、住所確認はさせてもらうけど」

「なるほど……アナログな枠を残すわけか」

「うん。それと、テイクアウトも始めよう。店内で食べられなくても、ほなみちゃんの料理を楽しみたい近所の人は多いはずだから」


 サクラコの提案に、厨房から出てきたほなみも目を輝かせた。


「それ、素敵です! カレーやサンドイッチなら、テイクアウトでも美味しく食べてもらえますし!」


 俺たちの「スローライフ防衛戦」は、守るだけじゃない。

 大切な人たちを受け入れるための、攻めの改革が必要なのだ。


「よし、善は急げだ。サクラコ、システムの改修を頼めるか?」

「任せて! 今夜中に終わらせる!」

「俺は猫村さんに電話してくる。『明日のランチ、空けときましたよ』ってな」


 静寂と熱狂のバランスを取るのは難しい。

 でも、俺たちならきっと、一番心地よい場所を見つけられるはずだ。

 だって俺たちには、最強の頭脳と、最高の料理と、温かい仲間がいるのだから。

⚫︎あとがき

クロエ「うぅむ、便利すぎるのも逆に不便よね……」

烏骨隊長「そうであるな。今の時代だからこそ、昔ながらの慣習ややり方は大事にするべきである」

クロエ「にしても、サクラコも凄いわね。すぐにシステム改修できちゃうなんて」

作者「私もwebデザイナーとして働いてるからある程度分かるけどさ、システム改修なんてすぐに出来ないよ?」

烏骨隊長「そこは才女っぷりを発揮しているであるな」

作者「そうだね。もう知識を隠してないから、思うままに楽しんで欲しいね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ