表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/14

第八話

雪也さんの古いご友人である豊川さんが訪れてからしばらく経ち、季節はすっかり冬になった。雪が降るのはまだまだ先だろうけど、体感的には既に雪が降っている時期ではないかと思ってしまう。


母と二人暮らしの時は、細い火と着物で寒さを凌いでいたけど、今は篠崎邸で暖かな生活ができている。雪也さんには頭も足も向けて寝られない。


…と、暖房の恩恵と夫に感謝をしている休日の朝。今日は雪也さんも仕事がお休みらしく、彼からある提案をされていた。


「蜜葉、デートしよう!」

「でえと?」

「逢瀬?逢引?を外国語で言うとデートなんやで。これからどうや?何か用事ある?」


雪也さんは両手を合わせながら、うるうると瞳を輝かせながら言ってきた。なるほど、親しい間柄の男女で出かけることをデエトと言うのか、と私は一人知見を深める。


「大丈夫ですよ、行きましょうか。」

「ほんまか!?嬉しいわあ。ほな、準備が出来次第行きましょか!…あ、焦らんくてええで。女の子はおめかしに時間かかってなんぼやからな。」


雪也さんは心の底から幸せそうな表情をしながら笑顔で微笑んでいる。そんな嬉しそうな彼の顔を見ていると、私まで嬉しくなってくるのだった。


「蜜葉は行きたいところあるか?」

「…雪也さんとなら、どこでも。」

「え~ん嬉しいこと言ってくれるやん…ほな、俺の中で温めてたデートプランで行きましょか。」


そう言い残すと、雪也さんは『ほなまた後で!』と言い残し、自室に戻っていった。準備が整い次第呼びに行けばいいのかな、と一人考え事をする。


(デエト…プランって何だろう。聞き損ねてしまった。文脈的に予定って意味かな。)


◇◇◇


身支度を整え雪也さんの部屋に向かい、家の前の通りに出る。既に馬車を手配していたのか、私たちはそのまま乗り込み目的地に向かう。…の、だけど。


「まずはどこに行くんですか?」


行先は雪也さんしか知らないから、馬車が走り始めてすぐに問いただしてみた。彼はニコッと笑うと、右手人差し指で上を示すような動作で答える。


「以前指輪作ったやろ?それ取りに行こうと思ってるんや。」

「あ、指輪完成したんですね。楽しみです…!」

「そう言ってもらえて嬉しいわあ。で、そのあとにお洋服買いに行こうかな思てるねん。」

「雪也さんのですか?」

「俺やなくて蜜葉のや。まあ、それは追々。」

「?」


何だろう、雪也さんの言い方に含みがある。私はそれに気が付かないふりをしつつ、ちらりと彼の顔を見る。私の視線に気が付いた雪也さんが、隣に座っている私の手を握る。一瞬驚いたけど、私は彼に応えるように手を握り返した。


◇◇◇


「わあ…綺麗…。」

「うんうん、ええ出来やな!」


最初に着いたのは、雪也さんが経営している宝飾店だった。私たちの指輪は完成してからこのお店に保管されていたらしく、受け取り待ちになっていたらしい。


「そんじゃ、お手をどうぞ、お姫様?」

「は、はい。」


私は緊張しつつ、差し出された彼の右手に自分の左手を添える。確か、指輪は左手に薬指にするのだと以前聞いた気がする。


私の手を取る彼の右手は相変わらず冷たい。そこに、更なるひやりとした感覚に苛まれ、少しだけ手を動かしてしまった。雪也さんはそんな私の様子を見つつ、左手薬指に指輪をはめてくれた。彼の瞳を彷彿とさせる綺麗な赤色が、私の手の上に佇む。まるで彼が近くにいてくれているような感覚を覚え、私は嬉しくなるのだった。


「さて、次は蜜葉の番や。俺にもしてくれるか?」

「わ、分かりました。」


私も雪也さんの真似をし、彼の左手を取る。白く陶器のように透き通った肌、皮膚越しに見える骨格、程よい長さに整えられた爪、彼の手を見る機会などなかったから、思わずじっくり見てしまい、意識を指輪に戻す。


指輪に触れながら、彼の手にも触れる。比較してみると、雪也さんのほうが少し温かいような気がした。指の付け根に指輪が到達し、彼の指には私の瞳と同じ色の宝石が鎮座する。


「これで俺ら、より一層夫婦っぽくなれたかな。」

「ええ。…でも、指輪はなくとも、私の夫は雪也さんですし、雪也さんの妻は私です。」

「…!…せやな、それは変わらん。」


二人の絆の深まりを感じつつ、私たちは宝飾店を後にした。


◇◇◇


「うーん…蜜葉には明るい色が似合うな。今度は白か桃色のやつ持ってきてくれへん?」

「畏まりました。」


指輪を受け取った私と雪也さんが訪れたのは、高級な店舗が並ぶ百貨店だった。その一角にあるお洋服の専門店で、私は着せ替え人形と化していた。


私の持っている衣服と普段着は、全て和服であり洋服は一つも持っていない。せっかくのデエトだからと、雪也さんはこのお店に私を連れてきてくれた。既に購入を決めているお洋服は数点あるのに、彼はまだまだ見足りないらしい。


とは言うものの、独断で全てを決めていくわけではなく、適宜私の意見は取り入れてくれている。故に、断りを入れる頃合いを見失っている。


「蜜葉は白と桃色はどっちが好きなん?」

「えっと…このお洋服の造形的には、桃色ですね。」

「そうか、じゃあこれも購入で。あとは合わせる上着と靴やな。靴はまた別の店行くで。店主、この桃色の服に合わせやすい上着を十点ほど持ってきてくれへん?その中から選ぶわ。」

「畏まりました。」


お洋服の選定は、まだまだ続きそうです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ