表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/14

第六話

赤く染まっていた木々は痩せ細り、木の葉は散り、本格的に冬の始まりが訪れていた。

雪也さんは『蛇は冬になると冬眠するんやで。』などと冗談を言いながら、これでもかというくらい厚着をして家を出て行った。


彼を見送った後、私は身支度を整えて家を出た。家の前に呼んだ馬車が待機しており、私はそれに乗り込む。


今日は母が入院している病院に顔を出す予定になっていた。雪也さんから『お母さんによろしくな。』と洋菓子の詰め合わせを受け取った。こんな高価なものを母のためにいただいてもいいのかと、少し躊躇いの気持ちはあるけど、彼の好意に甘えることにした。


馬車の車輪の走る音と馬の足音に紛れて、街行く人々の声が聞こえてくる。私は外から聞こえる様々な音に耳を傾けながら、母へのお見舞いの品を支えるように持ち直した。


◇◇◇


病室に着いて目に付いたのは、寝台に寝ながら窓の外を眺める母の姿だった。雪也さんの計らいで個室を用意してもらえることになり、母は周りの目を気にしないで過ごせていると聞いた。


扉の開く音に気付いた母がこちらを振り返り、笑顔で私の名を呼ぶ。そんな母の姿を見て、私は少し泣きそうになった。


「お母さん、調子はどう?」


私は泣きそうになった自分を誤魔化すように、母へ声を掛ける。母はゆっくりと起き上がり、寝台に座ってこちらに視線を向ける。


「大分良くなったよ。病院の先生と、篠崎様のおかげでね。もうすぐ、家に帰ることもできるって。」

「そう、…良かった。…あ、これ、雪也さんからのお見舞いの品。」


母は恐る恐るといった手つきで、お見舞いの品を受け取った。


「…あら、申し訳ないわね。それにこれ、高価な洋菓子じゃない。良いのかしら、こんな良いものいただいて。」


母は最初、夫婦二人の家に親である自分が住むなんてと言って、前の崩れかけの家屋に一人で戻ると言い張っていた。だけど、雪也さん自身からの説得もあり、退院後は篠崎邸で暮らすことになっていた。

何から何まで雪也さんにはお世話になりっぱなしになり、私はかなり申し訳なさを感じている。彼は気にするなと言っていたけど、それでも遠慮の気持ちは簡単に消えない。


「…何で。」

「ん?」

「何で、雪也さんは私にこんなに尽くしてくれるのかなって。爵位が欲しい、一目惚れした、だけでは片付けられない何かがあるように感じて。」


そんな私の発言を聞き、母が少し考える素振りを見せる。すると、何かを思い出したのか、あっと小さく声を発し、私の顔を見る。


「あの時の白蛇さんだったりして。」

「あの時…ってどの時?」


私は思い当たる節がなく、疑問符を抱きながら母に聞き返す。覚えていないのかと驚かれたけど、覚えていないものは覚えていない。


「冬休みを利用して、二週間ほど旅行に行ったの覚えてる?貴女あの時、怪我をした白蛇をどこからか持ってきたのよ。」

「そうだっけ?」

「そうよ!しばらく黙って部屋に籠っていると思ったら、蛇を内緒で飼っていているような状態で。もう、あの人も私も旅館の人たちもびっくりして。あの人に至っては、外に放り投げようと躍起になっていたじゃない。」


あの人、とは失踪した父のことだろう。

それにしても、私が旅先で蛇を捕まえて飼っていたなんて相当な出来事なのに、私には全く記憶にない。言われてようやく『そんなことあったような…?』程度の感覚にしかなれない。


「旅館の人が噂していたのよね、最近鼠を見かけなくなったって。あの白蛇さんが食べていたんじゃないの?」

「さ、さあ…?」

「しかも貴女、大切にしていたおもちゃの指輪をその白蛇さんの胴体に着けて。あんなに大切にしていたのに、あの時の旅行で無くしちゃったのよね。」


衝撃的な話の数々を聞き、私は曖昧な返事しかできなくなる。そういえば、お気に入りの手拭いがなくなったのは記憶に残っているんだけど、私はその時怪我をしていた白蛇さんにあげてしまったのだろうか。


「その白蛇って、目の色は赤かった?」

「私はしっかり見ていないから、覚えていないわね…。貴女なら覚えているんじゃないの?」

「無理言わないでよ…今までその話を忘れていた私が覚えているわけ…。」



_あなたの体は綺麗な白ね。まるで降り積もる、純白の”雪”みたい。



「…?」


何かを思い出しかけた気がしたけど、頭のどこかに引っかかる感覚が残るだけで、答えには辿り着けなかった。


◇◇◇


病院から帰宅した日の夜、いつものように私と雪也さんは同じ寝台に入って眠りにつこうとしていた。今日は雪也さんが私を抱き締めるような姿勢のまま、頭を器用に撫でている。ちょっと恥ずかしいし、彼の腕への負担が心配になる。


「お母さんの調子、どうやった?」

「順調に回復しているみたいです。雪也さんのおかげです。本当にありがとうございます。」

「俺はなーんもしてへん。感謝するなら医者にしておき。」


彼はいつものように、軽口に謙遜を交えて話す。適当にあしらわれてもいいから、私は彼に感謝の気持ちと言葉を伝えておきたかった。


ふと私は、病院での母との会話を思い出した。私は深く考えず、そのことを話題に出してみた。


「…今日、母に昔話を聞かされたんです。」

「ほー。どんな?」

「私が昔、旅行先で怪我をした白蛇を拾ったらしいんです。」

「……………。」


その瞬間、彼がびくっと腕を震わせ、私を抱き締める腕の締まりが強くなった。息苦しさを覚え、思わず私は彼の腕を叩く。無意識だったのか、謝罪の言葉を口にしながら彼は腕の力を緩めた。


「………蜜葉は、そのこと覚えてたん?」

「いえ、全然。母が、雪也さんはあの時の白蛇さんかもしれないね、なんて言い始めて。」

「……へえ………。」


ポツポツと病院での母との会話を思い出し、雪也さんに話す。段々と睡魔に見舞われ、私はゆっくり瞼を閉じる。


「…すみません、眠くて…。この話は、またいずれ…。」

「…おう、ええんやで蜜葉。おやすみ。」



「私、その白蛇さんに多分こう言ったんですよね…『あなたの体は綺麗な白ね。まるで降り積もる、純白の”雪”みたい。』って…………」


睡魔で微睡む中、私は辛うじてそんなことを口にする。無意識にそんなことを口走りながら、私の意識は沈んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ