表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
流れの豚は今日も金が貯まらない  作者: うつチャリンカー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
80/96

第20話-4◆国境へ

 バランが子供たちに外套を整え、立ち上がる。


「では、ぼくたちは子供を安全に預け、国境で合流する」


「勝手に合流を決めるな」


「君たちだけに格好いい役を渡すのは癪だからね」


「子供を預けるのも、格好いい役だろ」


 バランは一瞬、虚を突かれた顔をした。


 それから笑った。


「君はたまに、ぼくの調子を狂わせる」


「いつも狂ってるだろ」


「そういう意味ではないんだが」


 ベルニーが荷物を確認する。


「急ぐ。白い巡礼団より先に記録所へ」


「頼む」


 俺が言うと、ベルニーが少しだけ目を細めた。


「頼まれた」


 バランが肩をすくめる。


「ぼくには?」


「落とすな」


「それだけかい?」


「子供を戻すな」


 バランの顔から笑みが少し消えた。


「戻さない」


 軽くはなかった。


 俺は頷く。


 それでいい。


 子供たちを連れていく準備をする間、リリィはずっとその姿を見ていた。自分も行きたいのか、追いたいのか、残りたいのか、全部が混ざった顔だ。


 俺は荷袋を肩にかける。


「リリィ」


「うん」


「歩けるか」


「少し」


「なら、少し歩いて、だめなら言え」


「うん」


「国境へ行く」


 リリィは白い箱が消えた方を見る。


「姉さん、国境の向こうにいると思いますか」


 来ると思っていた。


 リリィはもう、「いるって言って」とは言わなかった。ただ、聞いた。


 俺は少しだけ息を吐いた。


「わからん」


 リリィの顔が少し沈む。


「そこは、いるって言ってほしかった」


「できない約束はしない」


「うん」


 返事は小さかった。


 俺は続けた。


「だが、確かめには行く」


 リリィが顔を上げる。


「国境へ行く。白い箱を追う。白い手袋の言葉が嘘か本当か見る。記録があるなら見る。邪魔なら壊す」


「壊すの?」


「必要ならな」


 エイヴァが荷袋の上で眠そうに言う。


「国境砦でそれをやると、かなり面倒だよ」


「今さらだ」


「そうだったねえ」


 リリィは少しだけ泣きそうな顔をした。


 それでも、頷いた。


「わたしも行きます」


「足を治しながらな」


「うん」


「怖ければ言え」


「言う」


「痛ければ」


「言う」


「勝手に走るな」


「走らない」


「バランが変なことを言ったら」


 リリィは少し考えた。


「今は、ちゃんと聞く」


 バランが胸に手を当てた。


「リリィ、君は本当に見る目がある」


「調子に乗るな」


「最後までこれかい」


 ベルニーが子供の外套を直しながら、短く言った。


「その方がいい」


 バランは笑った。


 子供たちはまだ怯えている。安全とは言えない。俺たちも、何かを勝ち取ったわけじゃない。


 それでも、白い札は一つ外れた。


 鈴は一つ、手から離れた。


 三人の子供が、白い箱の奥ではなく、こちら側にいる。


 ゼロではない。


 俺は黒砂の向こう、白い箱が消えた方を見た。


「約束はしない」


 リリィが俺を見る。


「だが、確かめには行く」


 鳴り砂の谷は背後で静かになっていた。


 静かすぎるくらいだ。


 まるで、次に誰の音を覚えるか、待っているみたいだった。


 俺たちの前には、国境がある。


 町の門より高く、砦の壁より面倒な、次の門が。


 白い巡礼団は、そこを通る札を持っている。


 俺たちは持っていない。


 それでも行く。


 門が閉じているなら、今度も別の通り方を探すだけだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ