第20話-4◆国境へ
バランが子供たちに外套を整え、立ち上がる。
「では、ぼくたちは子供を安全に預け、国境で合流する」
「勝手に合流を決めるな」
「君たちだけに格好いい役を渡すのは癪だからね」
「子供を預けるのも、格好いい役だろ」
バランは一瞬、虚を突かれた顔をした。
それから笑った。
「君はたまに、ぼくの調子を狂わせる」
「いつも狂ってるだろ」
「そういう意味ではないんだが」
ベルニーが荷物を確認する。
「急ぐ。白い巡礼団より先に記録所へ」
「頼む」
俺が言うと、ベルニーが少しだけ目を細めた。
「頼まれた」
バランが肩をすくめる。
「ぼくには?」
「落とすな」
「それだけかい?」
「子供を戻すな」
バランの顔から笑みが少し消えた。
「戻さない」
軽くはなかった。
俺は頷く。
それでいい。
子供たちを連れていく準備をする間、リリィはずっとその姿を見ていた。自分も行きたいのか、追いたいのか、残りたいのか、全部が混ざった顔だ。
俺は荷袋を肩にかける。
「リリィ」
「うん」
「歩けるか」
「少し」
「なら、少し歩いて、だめなら言え」
「うん」
「国境へ行く」
リリィは白い箱が消えた方を見る。
「姉さん、国境の向こうにいると思いますか」
来ると思っていた。
リリィはもう、「いるって言って」とは言わなかった。ただ、聞いた。
俺は少しだけ息を吐いた。
「わからん」
リリィの顔が少し沈む。
「そこは、いるって言ってほしかった」
「できない約束はしない」
「うん」
返事は小さかった。
俺は続けた。
「だが、確かめには行く」
リリィが顔を上げる。
「国境へ行く。白い箱を追う。白い手袋の言葉が嘘か本当か見る。記録があるなら見る。邪魔なら壊す」
「壊すの?」
「必要ならな」
エイヴァが荷袋の上で眠そうに言う。
「国境砦でそれをやると、かなり面倒だよ」
「今さらだ」
「そうだったねえ」
リリィは少しだけ泣きそうな顔をした。
それでも、頷いた。
「わたしも行きます」
「足を治しながらな」
「うん」
「怖ければ言え」
「言う」
「痛ければ」
「言う」
「勝手に走るな」
「走らない」
「バランが変なことを言ったら」
リリィは少し考えた。
「今は、ちゃんと聞く」
バランが胸に手を当てた。
「リリィ、君は本当に見る目がある」
「調子に乗るな」
「最後までこれかい」
ベルニーが子供の外套を直しながら、短く言った。
「その方がいい」
バランは笑った。
子供たちはまだ怯えている。安全とは言えない。俺たちも、何かを勝ち取ったわけじゃない。
それでも、白い札は一つ外れた。
鈴は一つ、手から離れた。
三人の子供が、白い箱の奥ではなく、こちら側にいる。
ゼロではない。
俺は黒砂の向こう、白い箱が消えた方を見た。
「約束はしない」
リリィが俺を見る。
「だが、確かめには行く」
鳴り砂の谷は背後で静かになっていた。
静かすぎるくらいだ。
まるで、次に誰の音を覚えるか、待っているみたいだった。
俺たちの前には、国境がある。
町の門より高く、砦の壁より面倒な、次の門が。
白い巡礼団は、そこを通る札を持っている。
俺たちは持っていない。
それでも行く。
門が閉じているなら、今度も別の通り方を探すだけだ。




