表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
流れの豚は今日も金が貯まらない  作者: うつチャリンカー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
70/96

第18話-2◆囮

 俺はリリィの靴をもう一度見た。


「足、出せ」


「また?」


「まただ」


「ごはん食べながら?」


「食いながらでいい」


 リリィは黒パンを持ったまま足を出した。


 俺はかかとの布を確認する。まだ少し浮く。裂け目の入口は狭く、岩も砂もある。足が遊べば、すぐ鳴る。鳴るだけならまだいい。転べば引き戻す前に砂を広く踏む。


 布を一枚足す。


「きついか」


「少し」


「痛いか」


「痛くはない」


「変なら言え」


「変」


「今か」


「ちょっと、きついのと痛いのの間」


「それを早く言え」


「今言いました」


 俺は布を少しずらす。


 バランが感心したように覗き込んだ。


「君、子供の靴係が板についてきたね」


「斬るぞ」


「今のは褒めたんだが」


「褒め方が悪い」


 ベルニーが言った。


「グローも似てる」


「どっちに言った」


「両方」


 バランは笑い、俺は黙って紐を締めた。


 リリィが小さく足を動かす。


「今度はいい」


「歩く前に言えた。よし」


 リリィは少しだけ嬉しそうにして、それをごまかすように黒パンをかじった。


 食べ終える頃には、谷の音が少し変わっていた。


 ちり。


 りん。


 間が短くなっている。


 右の裂け目の奥から、音が返るたびに白い飴の匂いが濃くなる。まるで、裂け目そのものが息をしているみたいだった。


 ベルニーが先に反応した。


「奥。近い」


 全員の視線が裂け目へ向く。


 暗い。細い。荷車は無理だ。大人も横向きでなければ通れない場所がある。子供なら通れる。連れて行くには都合がいい。


 俺は嫌な想像を頭から追い出した。


 想像で動くな。


 見たものと聞いたもので決めろ。


「作戦を決める」


 俺は言った。


 バランが剣の柄から手を離し、わざとらしく姿勢を正す。


「ようやく、ぼくの華麗な出番だね」


「地味にやれ」


「出番の前に翼を折られた気分だ」


「翼なら、ここでは縁起が悪い」


 そう言うと、バランは一瞬だけ口を閉じた。


 軽口の切れ目。


 こういうところで、ただの馬鹿ではないのがわかる。


 エイヴァが俺の手から岩へ移り、裂け目の入口を見た。


「鳴りを完全に消すのは無理だね。むしろ消そうとすると、不自然に空白ができる。向こうがそれを聞けば、かえって気づく」


「じゃあ、どうする」


「小さく、決めた形で鳴らす」


 エイヴァはくちばしでリリィの手を示した。


「リリィは昨日みたいに踏ませない。まず、白線の揺れを整える。鳴らすなら一度。短く。怖くても、勝手に次を踏まない」


「うん」


 リリィは真剣に頷いた。


 俺は縄を出した。


「俺は後ろで持つ。引いたら戻る。抵抗するな」


「しません」


「名前を呼ばれた気がしても進むな」


 リリィの肩が小さく揺れた。


 だが、今度はちゃんと答えた。


「進まない」


「声が聞こえても?」


「進まない」


「オリビアに似ていると思っても?」


 リリィの顔から血の気が少し引いた。


 言いたくはなかった。


 だが、言わないといけない。


 この裂け目は、リリィの欲しいものを鳴らす。そういう場所だ。こちらが嫌なことを言う前に、向こうが優しい声で言ってくるかもしれない。


 リリィは両手を握った。


「……進まない。グローが引いたら、戻る」


「よし」


 今度の「よし」は、少し重かった。


 リリィもそれをわかった顔をした。


 バランが手を上げる。


「ぼくは?」


「別の場所で一度だけ鳴らせ」


 バランの目が輝いた。


「陽動だね」


「派手にするな」


「陽動を派手にしないとは、なかなか難しい注文だ」


「できなければ、やらせない」


「できるとも」


 バランは胸を張った。


「ぼくは必要なら、控えめに輝くこともできる」


「控えめな輝きって何だ」


「高級な灯り」


「見えたらだめだ」


 ベルニーが短く言った。


「音も大きすぎたらだめ。二つ離れた岩場で、一度。剣の鞘で石を叩く。砂は踏まない」


「ぼくが砂を踏まずに音だけ出す」


「そう」


「地味だ」


「大事」


 ベルニーの声は短いが、そこに少しだけ温度があった。


 バランはそれに気づいたのか、肩をすくめただけで文句を止めた。


「任されたなら、やるさ」


「任せたわけじゃない。必要だから使う」


 俺が言うと、バランはにやりとした。


「君のそういうところ、嫌いではないよ」


「俺は嫌いだ」


「自分を?」


「その返しだ」


 リリィが小さく笑った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ