第08話-2◆橋の下の印
俺たちは小川沿いを下り、ベルニーの言う荷車用の板橋へ向かった。
板橋は、橋と呼ぶには頼りないものだった。
湿地に渡した太い丸太の上に、幅広の板を何枚も並べただけ。荷車が一台ずつ通れる幅はあるが、ところどころ板が浮き、端の縄が切れかけている。
橋の手前には、古い小屋と、眠そうな橋守がいた。
橋守は俺たちを見て、最初にバランを見た。
次に俺を見て、顔を引きつらせた。
「通行料だ。荷車じゃなくても取る」
「いくらだ」
「一人、銅貨二枚。大きいのは四枚」
「大きいのとは俺か」
「他にいるか?」
バランが横で笑いをこらえている。
俺は睨んだ。
リリィが心配そうに小声で訊く。
「払えますか」
「払うと飯が減る」
「じゃあ、減らせません」
「その通りだ」
エイヴァが俺の肩で首をかしげる。
「小鳥一羽分は?」
橋守が面倒くさそうに手を振った。
「鳥からは取らん」
リリィが少し前に出た。
「じゃあ、小鳥の分だけ安く」
「リリィ、それは前も違った」
「あ」
リリィは顔を赤くした。
橋守は眠そうだった顔を、少しだけ緩めた。
「妙な子だな」
「宿でも言われました」
「言われただろうな」
俺は橋を見た。
手前の板が一枚、浮いている。奥の丸太が少し沈んでいる。荷車が乗れば傾く。渡れるが、危ない。白い馬車がここを通ったなら、誰かが直すか補強したはずだ。
「白い馬車は通ったか」
橋守の目が動いた。
「見てない」
「答えが早い」
「通ってないものは通ってない」
嘘か、知らないか。
どちらにせよ、顔に出る。
バランが明るい声で割り込んだ。
「ぼくたちは急いでるんだ。通してもらえるかな」
「なら金だ」
「もちろん払うよ」
バランが袋に手を伸ばす。
俺はその手首をつかんだ。
「待て」
「何だい」
「払うな」
「君、本当に金に細かいな」
「旅費は命だ」
「格好よく言っても、やっぱり金の話じゃないか」
「金の話は大事だ」
俺は橋守へ顔を向けた。
「橋を直す。通行料を引け」
橋守が眉を上げた。
「直せるのか」
「今夜までは持つようにできる」
「昨日も聞いたような言い方ですね」
リリィが小さく言う。
「昨日で学んだ」
「学ぶ場所、そこですか」
エイヴァがふくらむ。
「まったく。旅をしているのか修理しているのかわからないねえ」
「両方だ」
橋守は少し考えた。
「直せるなら、おまえら全員通してやる。ただし、壊したら払え」
「壊れてるものを壊したら?」
「払え」
「面倒な橋だな」
俺は荷を下ろし、橋の端へしゃがんだ。
丸太の沈み方を見る。縄は古い。湿気を吸って、触ると繊維がほぐれる。板の一部は腐りかけている。全部を直すのは無理だ。だが、荷車一台分を安全に通す程度なら、浮いた板を押さえて、片側に力が逃げるようにすればいい。
バランが覗き込む。
「手伝おうか」
「板を踏むな」
「まだ踏んでない」
「踏みそうだった」
ベルニーが言う。
「当たり」
「君たち、少しはぼくを信用してくれ」
「してる。だから動くな」
バランがひどく不満そうな顔をした。
リリィが橋の横へ回ろうとする。
「リリィ」
「下には入りません。横から見ます」
「何を」
「板の隙間。向こう側に、何か挟まってます」
俺は視線を追った。
橋の真ん中近く。板と板の間に、白いものが挟まっている。包み紙かと思ったが、細い布の端だ。
「取れるか」
「わたしなら、手が入るかも」
「駄目だ」
「まだ言ってません」
「言う顔だった」
リリィは頬をふくらませた。
「でも、見つけました」
「ああ。助かった」
そう言うと、リリィは一瞬で黙った。
ベルニーが少しだけ目を細める。
バランが妙な顔をする。
「何だ」
「いや、君、そういうことも言うんだね」
「必要なら言う」
「もっと普段から言えばいいのに」
「うるさい」
エイヴァが楽しげに羽を揺らした。
「褒め言葉ひとつで周りを止めるんだから、大したもんだよ」
「黙れ」
「照れるんじゃないよ」
俺は予備の紐を出し、浮いた板を一度外した。リリィが見つけた白い布端は、板の下に引っかかっている。手で取るには奥すぎる。俺が斧の柄で引っかけると、濡れた布切れがずるりと出た。
白い外套の端。
それも、子供用の細い縫い目がある。
リリィの息が止まる。
「同じ?」
「里の縫い方とは少し違います。でも、子供の服です。端を引っかけて、破れたんだと思います」
「白い馬車が通った証拠か」
バランが言う。
橋守が目をそらした。




