第04話-4◆道は残った
第04話-4◆道は残った
リリィが数歩遅れて止まり、膝に手をつく。息が荒い。ちゃんと疲れている。それでいい。疲れない子供はいない。
「追わないんですか」
「今は追えない」
「でも」
「見失ってない」
俺は土を指した。
細い車輪跡。片側が沈む癖。馬の蹄。白布の端から落ちた糸くず。
それから、リリィの手の中の青い布片。
「道は残った」
リリィは布片を見た。
目が赤い。だが、泣いてはいない。
「……わたし、走りました」
「ああ」
「転びませんでした」
「見てた」
「役に立ちましたか」
俺は少しだけ言葉を選ぶ。
今回は、失敗しなかった。
「立った」
リリィは口元を引き結んだ。泣きそうな顔で、少し笑った。
「よかった」
エイヴァがリリィの肩でふくらむ。
「アタシも役に立ったねえ」
「鳥は馬に嫌われた」
「命がけの陽動をそう言うかい」
「助かったと言った」
「もう一回」
「調子に乗るな」
バランが追いついてきた。朝日を浴びて、妙に爽やかな顔をしている。
「さて、白い馬車は旧街道へ。ぼくらも行くしかないね」
「ぼくらにするな」
「目的地が同じなら、競争だ」
「勝手に走れ」
「もちろん。ぼくが先に着く」
ベルニーが轍を見下ろす。
「先に着くだけなら、罠に先にかかる」
バランは一瞬黙った。
「……そこは、少し考える」
「少しじゃ足りない」
「ベルニーまで」
俺はリリィの靴を見た。かかとの布が少しずれている。走ったせいだ。
「座れ」
「今?」
「今」
リリィは素直に道端の石へ腰を下ろした。俺はかかとの布を直し、紐を締める。
バランがそれを見て、少し意外そうな顔をした。
「こんな時に靴紐かい?」
「足を潰したら終わりだ」
「追跡中だろう」
「だからだ」
ベルニーが短く言った。
「正しい」
バランは肩をすくめた。
「今日はぼくが分の悪い日らしい」
「毎日そうしろ」
「嫌だね」
リリィが小さく笑った。
笑えるなら、大丈夫だ。
町の方から、また笛が鳴った。今度は複数。俺たちを追ってくるのか、馬車を追うふりをするのか、どちらにせよ戻って説明している暇はない。
俺は立ち上がった。
旧街道の先には、白い馬車の轍が伸びている。
町には入れなかった。
宿も取れなかった。
危険預かり金も、まだ下がったかどうかわからない。
だが、門の外で待たされていた俺たちは、町の裏口から道を見つけた。
「行くぞ」
リリィが布片を胸元にしまい、新しい靴で立つ。
「うん」
エイヴァが肩で丸くなる。
「やれやれ。宿も朝飯も置いて旅立ちかい」
「パンはある」
「固いやつだろう」
「文句は歩きながら言え」
「飛びながら言うよ」
バランが剣を鞘に戻し、笑った。
「では、競争開始だ」
「勝手にしろ」
俺は旧街道を見た。
朝日が、白い轍の端を照らしている。
リリィの小さな足音が隣に並ぶ。少し大きい靴が、土を踏む。もう門を見る必要はない。
町を出るなら、門はいらなかった。




