【221 第一次西部攻略戦(十七) ~駐屯司令官クーロ~】
【221 第一次西部攻略戦(十七) ~駐屯司令官クーロ~】
〔本編〕
クーロの地位は大官――別名五千人将であるため、その軍の規模は当然ながら五千である。
しかし今回“双頭の蛇の陣”の胴にあたる重要な部分を担う軍ということで、クーロは一万の兵を率いている。
クーロ大官軍五千に、彼が今駐屯しているヘリドニ地方並びにそれに隣接しているアラウダ地方から残り五千を召集したのであった。
むろんクーロの独断ではなく、聖王国の中央政府――それも王都におわすブーリフォン聖王直々の要請であった。
ヘリドニ地方の地方領主はアカリナ、そしてアラウダ地方の地方領主はクラウといい、二人とも元々中央政府の行政官出身、つまりは文官であった。
ミケルクスド國といった敵国と国境を接している地方の地方領主が文官出身者というのも意外に思われるかもしれないが、実は対ミケルクスド國の西部地方については、タシターン地方の地方領主であるマデギリーク将軍が、エーレ、ヘリドニ、アラウダ三地方も含む四地方の広域地帯の防衛も担っていた。
いずれにせよ東西南北を全て敵と国境を接しているソルトルムンク聖王国からすれば、敵国と国境を接している地方が大部分であり、それら全ての地方に指揮官クラスの武官を領主として配置するのは物理的に不可能であった。
それにこの当時の聖王国は、四方にある敵国からの侵攻に常にさらされており、その都度国境線が内側に書き換えられる事態が日常茶飯事であった。つまりは指揮官クラスの武官は常時不足の状況であった。
さて、クーロはヘリドニ地方に駐屯はしているが、ヘリドニ地方の主城ヘリドニ城には入城していない。ヘリドニ城は、当然ヘリドニ地方の地方領主にあたるアカリナが住居兼行政府としている城である。
ブーリフォン聖王直々の要請で二千五百の兵をアカリナから借り受けたクーロではあったが、その主城に居座る気は毛頭なかった。
それに、ヘリドニ地方に到着しヘリドニ城を一目見たクーロは、ヘリドニ城が戦に耐えうるような建造物ではないことを理解し、あえてヘリドニ城を拠点とせず、ヘリドニ城とアラウダ地方の主城アラウダ城の中間地点に簡素ながら砦を設け、そこをクーロ軍の拠点と定めた。
砦自体は簡素な上、規模も小さく内側に千人程度しか収容できないので、当然のことではあるが多くの兵は砦付近に野営という形で駐屯した。
このクーロの行為は、ヘリドニ地方並びにアラウダ地方の地方領主たちに、非常に好感をもって受け入れられた。
國の方針、それも聖王直々の要請といっても、よそ者が自分たちの地域に駐屯するということは、地方領主を含めそこの領民からあまり良い感情では受け入れてもらえないのが通常である。
その上、二千五百人もの兵を一時的とはいえ、そのよそ者に貸すのである。絶対に断ることなど出来ない聖王直々の要請であるため、その負の感情は当然、駐屯してくるよそ者のその指揮官に集中する。
そのような中、具体的な“地方への駐屯”並びに“兵の貸与”を超える駐屯指揮官の要請は、地方領主並びにそこの領民の負の感情をさらに煽ることになる。
むろん具体的な要請にはないが、“地方への駐屯”には、その地方における主要な建造物の借用、それも無償の借用も含まれて然るべきであり、それは言わずもがな、その地方と同名の主城の可能性が限りなく高い。
そして主城であれば基本、地方領主が住まい兼政治を担う府として普段利用しているため、その駐屯期間中は地方領主と行政官などは一時的にそこを退き、別に居住並びに行政府の場所を設けなければいけなくなる。
具体的な要請ではないが、ほぼそれが通例であるため、駐屯した指揮官からそれを具体的に要請されれば、それを断ることは当然出来ない。……というかそれが含まれているため、よそ者指揮官の自分の地方への駐屯は、自分の地方が具体的に敵に攻められているなどという非常事態でない限り、それは地方から大いに嫌がられる事柄なのであった。
しかしクーロはその具体的になっていない通例の要請については、要求しなかったのであった。
さらにクーロは駐留している間の兵糧などの軍備、さらにヘリドニ、アラウダ両地方から貸与された計五千の兵に対し、その従軍期間中は有償を保障したのであった。
このヴェルト地方の時代に貨幣制度が発達していたかは定かではないが、いわゆる今の給金に相当するものを兵たちに、クーロは支給したのであった。これには従軍した兵だけでなく、その地方の民たちからも非常に喜ばれた。
本来であれば、聖王陛下からの要請であるため、兵は無償貸与され、それらの従軍させられた兵の費用も全てその要請された地方で賄うのが一般的であった。
さらに駐屯してきた指揮官によっては、自分が連れてきた兵の分の兵糧などまで、駐屯している地方に負担を強いるよう命じる者もおり、そしてそれを命じられれば、その地方がそれを拒むことは基本出来なかった。
これなど地方要請の具体的ではない内容についての拡大解釈であり、拡大解釈である以上、拒むという選択肢もないわけではなかったが、その要求を拒んだことにより、後日、その駐屯していた指揮官から、その地方に対し歪曲された訴えを中央政府にするという危険性も十分に考えられる。要求された地方の領主からしたら命令を拒むリスクは非常に高いものであると考えられた。
そのような状況において、クーロの自軍の負担どころか貸与された兵の負担まで全て自前で行うという姿勢は、ヘリドニ、アラウダ二地方からすれば、破格の申し出であり通常では考えられないことであった。
〔参考 用語集〕
(人名)
アカリナ(聖王国領ヘリドニ地方領主)
クーロ(マデギリークの養子。大官)
クラウ(聖王国領アラウダ地方領主)
マデギリーク(クーロとツヴァンソの養父。大将軍)
(国名)
ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)
ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)
(地名)
アラウダ地方(ソルトルムンク聖王国の一地方)
エーレ地方(ソルトルムンク聖王国の一地方)
タシターン地方(ソルトルムンク聖王国の一地方)
ヘリドニ城(ヘリドニ地方の主城)
ヘリドニ地方(ソルトルムンク聖王国の一地方)
(その他)
大官(指揮官の位の一つである官の第一位。五千人規模を指揮する。中官より上位。別名五千人将)




