表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
220/289

【220 第一次西部攻略戦(十六) ~ツヴァンソとヌイ(後)~】


【220 第一次西部攻略戦(十六) ~ツヴァンソとヌイ(後)~】



〔本編〕

「本当か! それは良かった」ヌイの目に安堵の光が宿る。

 ツヴァンソはそれを見て、ヌイのこの素直さが本当にいとおしくなった。

「……それでヌイ様、これからいかがなされます?」「これからって……?」「呆れた! ヌイ様は私と相思相愛と知って、それで安心されたのですか。ヌイ様からすれば、一人の女性をキープしたぐらいのお気持ちなのでしょうか?」

「馬鹿な!」ツヴァンソの言葉にヌイが憤慨する。「俺は、そのような男じゃない。愛すると決めた女とは、一生涯添い遂げる」

「良かった。実は私も同じ思いです。私にとっても、ヌイ様だけが恋愛の対象です」ツヴァンソも嬉しそうに、ヌイにそう告げると、彼の胸に勢いよく飛び込んだ。

「ツ・ツヴァンソ……」ヌイはツヴァンソのこの行動に一瞬狼狽うろたえたが、それでも彼女を強く抱きしめる。

 ツヴァンソにすれば夢のような出来事であった。ずっと憧れていたヌイから、はっきりと告白されたのだ。七年前の二〇三年にゴンク帝國領アルヒ地方へ侵攻の際、ヌイと作戦行動を共にして以降、彼と一緒に軍事行動をすることが多かった。

 ただあくまでも同じ戦友、或いは上官と部下という間柄の関係であって、ヌイが淡白な性格だったのもあり、二人の関係が色恋沙汰に陥ることは無かった。

 それでもツヴァンソは、今はそれで良いと思っていた。むろん最終的にはヌイと一緒になることを目標としていて、影ながら彼の幸せを見守るなどという顛末は、ツヴァンソの性格からして絶対にあり得なかった。

 それでも、ヌイが色恋沙汰については淡白過ぎて、ヌイがツヴァンソに好意を持っているかどうかも全く分からず、ある意味ツヴァンソのヤキモキした気持ちがずっと続いていたのは間違いなかった。

 ツヴァンソからすれば十中八九、自分からヌイに告白するものと思っていた。それで撃沈したとしても、諦めることなく、何度も何度もアタックするつもりであった。

 そしてツヴァンソとしては自分が将軍に昇格したタイミングが、その初告白の頃合いと自分で決めていた。ツヴァンソのこの発想は実に男性的であったが、ツヴァンソもそういう意味から言えば、色恋沙汰に関しては初心うぶであった。

 ツヴァンソは、自分にずっと想いを寄せているクーロの気持ちを分かりながらも、そういうクーロをからかって楽しんではいたが、そのクーロがいつの間にか、年上の女性であるルーラと深い恋仲になっており、自分ツヴァンソより先に恋愛に関して経験者になっているのに、一向に気付いていないのであるから……。


 そしてツヴァンソからすれば、今回自分が敵の毒矢を受けて生死の狭間を彷徨うという出来事が、まさかヌイと自分の関係をこんなにも急接近させるものとは夢にも思っていなかった。

 それもヌイの方から告白させるという、ツヴァンソからすれば最善の形で実現しようとは……。

 今回の敵の毒矢を受けるというツヴァンソからすれば今後絶対に起こってはいけない事柄ではあったが、今回はそれがヌイからの告白に繋がったのであるから彼女からしたら、その敵にお礼を一言申し入れたいぐらいの不思議な感情が溢れているのを否定しようがなかった。

 むろんその敵は毒矢を発した次の瞬間、ツヴァンソの手によってすぐに倒されているので、直接謝意を述べるその機会は永遠に訪れないのではあるが……。



 さてミケルクスド國を弱体化させる『第一次西部攻略戦』の戦略、聖王国のマデギリーク将軍とジュリス王国のフセグダー将軍連合軍によるミケルクスド國北部のホウニィアオ地方侵攻、そして聖王国のヌイ新将軍によるミケルクスド國中央部リノチェロンテ地方侵攻の二つの作戦が同時進行している頃、その戦略構想の一つである、もう一つの軍勢が聖王国領ヘリドニ地方の主城ヘリドニ城に駐屯していた。

 その軍はクーロ新大官が率いる一万の軍。クーロが今駐屯しているヘリドニ城のあるヘリドニ地方は、西方をミケルクスド國と国境を接している聖王国領であり、南方を聖王国領のエーレ地方とタシターン地方の二地方と接していた。

 さらにヘリドニ地方の北方にはアラウダ地方という聖王国領があり、アラウダ地方は西がミケルクスド國、そして北がジュリス王国と国境を接している地域であった。

 今回のクーロ軍の役割は、北方のマデギリーク、フセグダー連合軍と、南方のヌイ軍を様々な意味合いで繋ぐ軍であった。

 なぜなら、北と南の二軍は今回の攻略戦の性質上、物理的に離れたところで戦っている。その上これも攻略戦の性質上ではあるが、この北と南の二軍の連携は必要不可欠であった。

 その南北二軍に互いの軍の動向を伝える役割を担っているのが、この時のクーロ軍の有りようであった。


 この今回の攻略戦の三軍は、通称“双頭の蛇”の陣形と呼ばれている。三軍の位置が地方を跨ぐ遠距離のため、それを『陣形』と表現するには大規模過ぎることから、一般的には適当な表現ではないが、それでもあえて“双頭の蛇の陣形”と表現する。

 まさにマデギリーク、フセグダー連合軍とヌイ軍の二軍が、双頭の蛇のそれぞれの頭にあたり、クーロ軍がその蛇の胴にあたる。

 つまりは双頭にあたる蛇の頭の二軍が、敵を駆逐していく重要な部分であると同時に、その二つの頭を繋ぐ胴にあたる軍は、敵を侵略するという役割は担ってはいないが、逆に敵から攻撃され破られれば、それで二つの蛇の頭の命運も尽きるという非常に重要な部分と言えた。

 むしろ重要度だけで比較すれば、南北の蛇の頭の二軍より、さらに重要な軍と言えるであろう。




〔参考一 用語集〕

(人名)

 クーロ(マデギリークの養子。大官)

 ツヴァンソ(マデギリークの養女。クーロの妹。中官)

 ヌイ(クーロ、ツヴァンソと同世代の指揮官。将軍)

 フセグダー(ジュリス王国の将軍。『生ける武神』の異名を持つ)

 マデギリーク(クーロとツヴァンソの養父。大将軍)

 ルーラ(クーロ、ツヴァンソと同世代の指揮官。大官)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)

 ゴンク帝國(ヴェルト八國の一つ。東の国)

 ジュリス王国(ヴェルト八國の一つ。西の国)


(地名)

 アラウダ地方(ソルトルムンク聖王国の一地方)

 アルヒ地方(ゴンク帝國領)

 エーレ地方(ソルトルムンク聖王国の一地方)

 タシターン地方(ソルトルムンク聖王国の一地方)

 ヘリドニ城(ヘリドニ地方の主城)

 ヘリドニ地方(ソルトルムンク聖王国の一地方)

 ホウニィアオ地方(ミケルクスド國領)

 リノチェロンテ地方(ミケルクスド國領)


(その他)

 大官(指揮官の位の一つである官の第一位。五千人規模を指揮する。中官より上位。別名五千人将)


〔参考二 大陸全図〕

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ