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【216 第一次西部攻略戦(十二) ~各軍の動き~】


【216 第一次西部攻略戦(十二) ~各軍の動き~】



〔本編〕

「敵将ソヴァジヌを、聖王国のツヴァンソが討ち取った!!」その声は、突如として沸き起こった。

 そしてその声と同時に、ソヴァジヌ将軍本陣の目印である数本のミケルクスド國の旗が倒れ、代わりに聖王国の旗が立ち並んだ。

「何?! 何かの間違いでないのか?!」敵の掃討戦を担っていたソヴァジヌの副官キクナスは背後を振り返り、そう呟く。

 ソヴァジヌを討ち取ったという声だけでは、敵がこちらを混乱させるための虚報とも言えなくないが、キクナスの背後にあるソヴァジヌの本陣から、味方の旗であるミケルクスド國の旗が全てなくなり、代わりに敵聖王国の旗が乱立するように立ち並んだという事実が、ソヴァジヌ将軍が討ち取られたことを如実に物語っていた。


 そして聖王国の旗は、ソヴァジヌのいた本陣だけではなかった。

 いつの間にか、本陣の背後である森林地帯の木々の合間にも、聖王国の旗が一斉にたなびいた。その数は百本を超えた。

 しかし、この百本余りの旗は全て偽兵の計であった。ソヴァジヌを強襲したツヴァンソたち騎兵とは別に数名のツヴァンソ兵が背後の木々の間に潜み、敵本陣が陥落したタイミングで、一斉にその聖王国の旗を立てたのであった。

 しかし、これで形勢は一気に逆転した。

 それまで一方的に攻めていたソヴァジヌ軍の兵士たちは、敵の大軍に背後をとられ、その大軍によって自分たちの本陣が飲み込まれたと錯覚してしまい、兵たちは大恐慌を起こし蜘蛛の子を散らすように散り散りに敗走を始めたのであった。

 ツヴァンソ軍は敗走する敵を存分に屠り、二日目の戦績を五分にまで戻した。それでも作戦とはいえ、ツヴァンソ軍は二日目の前半戦で大いなる損害を出してしまった。ツヴァンソ軍三千九百、ソヴァジヌ軍二千九百で始まった二日目の戦いは、終了時にはツヴァンソ軍二千五百、ソヴァジヌ軍二千となっていた。

 損害だけで言えばツヴァンソ軍千四百に対し、ソヴァジヌ軍は九百であるので、ツヴァンソ軍の方が大きかったが、それでも敵指揮官ソヴァジヌ将軍をツヴァンソが討ち取ったことは、その差を埋めて有り余るものであった。

 これは敵右翼の将を討ち取ったということであるが、それ以上に、軍師並みの智将――“頭脳のソヴァジヌ”を戦いの初期段階で討ち取ったということは、この荒れ地での戦いにおいてヌイ軍は絶対的に優位となり、さらにはリノチェロンテ地方攻略全体を大きく一歩前進させたということに他ならないからである。



 さて荒れ地での戦いの本当の意味での勝利、それはヌイ率いる中央軍が敵中央軍を破ることを意味するが、こちらはヌイが昨日と、今日の前半戦までの手抜きの戦いから、本気の戦いに一気に切り替えたことにより、ビルニーク軍そして後方のフィール軍二軍を圧倒することになった。

 右翼のソヴァジヌ軍から援軍として派遣された副官アナスの率いる軍五百も、シュナーベル軍によって抑えられ、ヌイ軍の勢いを削ぐことが全く出来ない。

 そうこうしているうちに、ヌイの元へさらなる報告が入る。しかしそれは左翼のツヴァンソからではなく、右翼のプリソースカからの伝令兵からであった。

「ヌイ様! 敵左翼のオルソ軍並びにシール軍全軍が敵中央軍の救援に動き出しました! 防御に徹しておりましたプリソースカ並びにメェーフの二軍も、すぐに敵の後背から攻めかかり援軍に対するけん制をしてはおりますが、とにかく軍の先頭に“暴れ熊”の異名を持つオルソがおり、ヌイ様の軍に直接向かっております! くれぐれもヌイ様にはお気を付け下さいとの、プリソースカ様からの伝言であります!」

「ふっ、プリソースカも存外心配性だな! だが、将が先頭となり全軍でこちらに向かっているのであれば、ここは俺自身が直接お出迎えするのが礼儀だな! 良し! 五百の兵は俺に続いて、これから襲来してくる左翼の敵軍に当たる! 残りはこのまま中央軍の殲滅せんめつに専念しろ!」

「ヌイ様! 五百の兵でよろしいのですか?! 敵左翼全軍となれば、五千ほどの大軍! それに先頭は猛将のオルソ! あのプリソースカ様が敵わなかった相手でございます! 危険過ぎます!!」

ヌイはその部下の言葉に大声で笑う。

「左翼の軍は五千とはいっても、こちらに慌てて向かってくる軍だ! 軍は伸び切って、先頭を駆ける兵など百程度に過ぎない! その上、敵の後方はプリソースカとメェーフの軍が削っているので、敵も前方にだけ全て注意を向けるわけにもいかない。それに敵将オルソは、プリソースカは敵わない敵かも知れないが、俺はプリソースカより数段強い!! その猛将がわざわざ先頭でこちらに向かってきているのであれば、そいつさえ討ち取れれば、その援軍は一気に勢いを失う! 中央の救援に向かっている軍が、いきなり逆に攻められ、さらに先頭の将が討たれたとなれば、その動揺ぶりは非常に大きい! 心配するな! いざとなれば、俺についてくる兵たちだけで、最低限敵をしばらく足止めさせよう」

 ヌイはそう言うと、精鋭五百を選別し、敵左翼が向かってきている方向へ向けて駆け出した。

 進言した部下もヌイの強さを疑っているわけではなかったが、それでもヌイの片腕とも謂えるプリソースカが敵わなかったという猛将の未知の力量レベルに、ヌイでも勝てないのではないかという一抹の不安だけは、どうしても拭いさることは出来なかったのであった。




〔参考 用語集〕

(人名)

《ソルトルムンク聖王国側》

 シュナーベル(ヌイ軍の司令官)

 ツヴァンソ(マデギリークの養女。クーロの妹。中官)

 ヌイ(クーロ、ツヴァンソと同世代の指揮官。将軍)

 プリソースカ(ヌイ軍の司令官)

 メェーフ(ヌイ軍の司令官)

《ミケルクスド國側》

 アナス(ソヴァジヌの副官)

 オルソ(バロン十将の一人。“暴れ熊”の異名を持つ猛将)

 キクナス(ソヴァジヌの副官)

 シール(バロン十将の一人。“狂将”の異名を持つ老将)

 ソヴァジヌ(バロン十将の一人。“頭脳のソヴァジヌ”の異名を持つ)

 ビルニーク(バロン十将の一人。“守備のビルニーク”の異名を持つ)

 フィール(バロン十将の一人。“万能のフィール”の異名を持つ)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)


(地名)

 リノチェロンテ地方(ミケルクスド國領)


(その他)

 副官(将軍位の次席。率いる軍組織は特に決まっていない)

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