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【215 第一次西部攻略戦(十一) ~特攻~】


【215 第一次西部攻略戦(十一) ~特攻~】



〔本編〕

「ツヴァンソめ! この俺様を、敵将ソヴァジヌを狩るための手段の一つに組み込むとは……。ハッハッ! それはそれで痛快だがな!!」ヌイは戦いの最中さなか、副官のシュナーベルに興奮してこう話しかけた。

「ヌイ様の昨日の戦いを拝見いたしまして、手を抜いていらっしゃるというのは中途から私は気付いておりましたが……。そして今日は当然最初から全力で敵中央軍を蹴散らすための昨日の布石と思っておりました。しかし、昨日と同様の戦い方でしたので、まさか本当にビルニーク軍を抜けないのかと心配し始めていたところでした! それが実はツヴァンソ殿からのご指示だったとは……」

「俺も、今日は戦いが始まったらすぐにビルニーク軍を蹂躙じゅうりんするつもりでいた! しかし、戦いが始まるわずか一時間前にツヴァンソからの伝令があった! ツヴァンソ軍で狼煙を上げるので、それまでは昨日の“手抜きの戦い”でお願いしたいと……。フッ! 俺の昨日の戦いを見てもいないのに“手抜き”と言い切った! まあ、厳密に言えばルーラの義妹のカナリーノが俺の戦いを見て、それを伝え聞いたツヴァンソの結論のようではあるがな……。俺としてはそのせいで、昨日の退屈な戦いをさらに一時間近く繰り返す羽目となってしまった」

 ヌイはそう言いながら、大いに兵を鼓舞こぶしつつ、ビルニーク軍並びにビルニーク軍救援のため後詰として参戦したフィール軍の二軍を圧倒する。

「ヌイ様! ツヴァンソ殿の言った通り、左側面に一軍が近づいてきます! 数にして五百ほど……。それについては私の軍で対処します!」

 そう言うとシュナーベルはヌイの元を離れ、千の兵を率いてヌイ軍の側面をついたソヴァジヌ将軍副官アナスの軍と相対した。



 さてミケルクスド側の左翼の話である。突如としてソヴァジヌ将軍の本陣左に数騎の騎兵が現れ、そのまま将軍の本陣目がけて突進してきた。

「ソヴァジヌ様! 敵がここ目がけて突進してきました! 数にして十騎程度! 恐らくは、我が軍の包囲を突破した小勢が、ここ本陣の旗を見つけ、やぶれかぶれで特攻をかけたのでありましょう!」

 ソヴァジヌ将軍は部下のこの報告に、左側の敵十騎を一瞥し、すぐに正面の包囲陣に目を戻す。ソヴァジヌからすれば、こちらの包囲を満身創痍まんしんそういで脱した敵が、それでも生きて味方と合流出来ないことを悟り、敵将の本陣を見つけたのを唯一の幸運とし、一人でも多くの敵を死出の道連れとすべく決死の特攻を仕掛けたのであろうと考えた。

 それはソヴァジヌに限らず、そこにいる本陣百人の総意であり、左から特攻してくる十の騎兵に対し、最も左の槍兵十人が盾を構えて相対しただけで、ソヴァジヌ将軍以下残り九十は、そのまま敵左翼を半包囲している前面の敵の方を注視していた。

 これが、本当にソヴァジヌ将軍たちが考えているよう、自軍の罠から辛うじて脱した疲労困憊の残党兵であったなら、この対処でなんら問題はなく、彼らの必死の働きによって仮に左側の槍兵が抜かれたとしても、次の瞬間、他兵が数名の残党を多勢で囲んで始末してしまえば終わりであるから……。

 しかし、この十の騎兵はそのようは兵ではなかった。

 ソヴァジヌ将軍の半包囲陣から脱出した兵たちではなく、二日目の戦いが始まった直後に、こっそりとこの場に敵に見つからないよう移動し、ずっと今まで隠れていた兵たちだったのである。

 つまりは満身創痍まんしんそうい、または疲労困憊ひろうこんぱいの兵であろうはずもなく、無傷で体力気力充分な十騎だったのであった。


 十の騎兵は最速となり、ソヴァジヌ将軍の本陣に攻め込む。

 突入した初撃で大盾を構えていた十の槍兵のうち、五人が大盾と共に吹き飛ぶ。吹き飛んだ重装備の槍兵は、文字通り一旦宙に舞い上がり、そのまま本陣内に落ちてきた。

 重装備をまとった槍兵は、体重も合わせて総重量は百五十キログラム以上、大盾の重量も二十キロから三十キログラム、そのような超重量の物体が本陣内に落ちてくることによって、本陣の兵の何人かが下敷きになり、それで陣形も大きく崩れた。その間に、槍兵を突破した十の騎兵は、本陣中心のソヴァジヌ将軍に肉薄した。

 それにはソヴァジヌ将軍も、びっくりして十の騎兵の方に目を向ける。また本陣の兵たちも気を取り直し、将軍を守るように、素早く将軍と敵騎兵の間に割って入り、攻め込んできた騎兵たちを討ち取ろうとした。

 この本陣は、百人とはいえソヴァジヌ将軍を守る親衛隊の兵たち――ソヴァジヌ軍の中で最も強い精鋭兵たちであった。

 しかしその精鋭兵たちがいとも容易く討ち取られていく。敵から特攻という奇襲を受けたことは否めないが、それでもソヴァジヌ直属の親衛隊である。戦闘力、適応力など諸々の要素に非常に優れている兵たちなので、少なくとも数的優位のある今の状態であれば、十騎程度の特攻で本陣が揺らぐことはないはずであった。一般兵による特攻であれば……。

 しかしその特攻した十騎は一般兵ではなかった。否、一般兵でないどころか、狭い意味で言えば精鋭兵と表現するのもはばかられる。

 なぜなら、十のその騎兵たちの先頭は軍の長であるツヴァンソ本人であり、その後ろに続いている九の騎兵も、ホッホ、エーベネというツヴァンソの小隊時代からの最強の二兄弟を筆頭としたツヴァンソ軍における幹部クラスの最強の九人だったのである。

 バロン十将の一人――ソヴァジヌ将軍は“頭脳のソヴァジヌ”という異名を持つほど、こと戦略戦術に関しては軍師並みに戦場全体を見渡せるほどの智将であった。

 しかしソヴァジヌ将軍個人の戦闘力に関しては、一般兵士より少し上程度の実力しかない。智将として敵を策で翻弄するソヴァジヌ将軍にとって、自分一人の戦闘力などその程度で何ら問題はなかった、少なくとも今の今までは……。

 結果は火を見るよりも明らかであった。百人程度のソヴァジヌ将軍の本陣では、ツヴァンソ軍のツヴァンソを筆頭とする最強の十人の特攻を許した時点で、本陣崩壊並びにソヴァジヌ本人の死という運命からは、逃れ得ない事態となったのであった。




〔参考一 用語集〕

(人名)

 アナス(ソヴァジヌの副官)

 エーベネ(ツヴァンソ隊の一員。ホッホの弟)

 カナリーノ(ルーラの義妹)

 シュナーベル(ヌイ軍の司令官)

 ソヴァジヌ(バロン十将の一人。“頭脳のソヴァジヌ”の異名を持つ)

 ツヴァンソ(マデギリークの養女。クーロの妹。中官)

 ヌイ(クーロ、ツヴァンソと同世代の指揮官。将軍)

 バロン(ミケルクスド國三将軍の一人)

 ビルニーク(バロン十将の一人。“守備のビルニーク”の異名を持つ)

 フィール(バロン十将の一人。“万能のフィール”の異名を持つ)

 ホッホ(ツヴァンソ隊の一員。エーベネの兄)

 ルーラ(クーロ、ツヴァンソと同世代の指揮官。大官)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)


(その他)

 小隊(この時代の最も小規模な集団。十人で編成される)

 副官(将軍位の次席。率いる軍組織は特に決まっていない)


〔参考二 大陸全図〕

挿絵(By みてみん)


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