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【211 第一次西部攻略戦(七) ~バロン軍との初日戦~】


【211 第一次西部攻略戦(七) ~バロン軍との初日戦~】



〔本編〕

 ミケルクスド國領リノチェロンテ地方の主城はリノチェロンテ城になるが、聖王国ヌイ軍一万八千は、そのリノチェロンテ城から離れること南方二十キロメートルの地点で一旦行軍を停止している。敵の王都イーゲル・ファンタムから派遣されたバロン将軍の動向を見定めるためである。

 ヌイの諜報兵からの報告によると、四月一三日にバロン将軍は主城リノチェロンテ城に到着した。しかし、彼と十将の一人であるハイタと兵三千だけが城に留まり、それ以外の十将の五人とその軍勢一万二千は、そのままヌイ軍に向けて進軍を続けていたのである。

 その軍はリノチェロンテ城南方二十キロメートルの山地の狭間に広がる荒れ地において、一万二千を五軍に分けて展開する。

 ヌイも四月一五日の軍議の後、自身の軍勢をその荒れ地に到着させる。バロン軍一万二千と、ヌイ軍一万八千が五百メートルと離れていない距離において対峙した。


「バラグリンドルの南側の守りは、コロンフル殿にお任せしているので、我らは前面のバロン軍だけに集中すればよろしいわけですが、こちらの一万八千に対し、敵は一万五千のうちの一万二千のみを、我が軍の前に展開いたしました。それも野戦の形で……! どういう了見からでしょうか?」

 ヌイの副官の一人シュナーベルが、ヌイに尋ねるような形でこう発言する。

「それだけ俺たちが舐められているということだな!」ヌイはにべもなくそう言い放つ。

「敵は、五軍を右翼、中央、左翼の三つに分けて軍を展開しています! 敵の左翼が二軍で合わせて五千、縦に軍を並べています。中央が二軍で四千、こちらは横に軍を並べています。そして最後に右翼が一軍ではありますが、兵数は三千。こちらも敵の配置に対し、同じように軍を三つに分けて展開する必要があります」

 こう述べたのは、ルーラの養父であるセルマン将軍の実の娘のカナリーノ。ルーラより三つ下でクーロと同年齢の二十五歳、ルーラとは義理の姉妹ということになる。


 ルーラの義妹カナリーノは、ルーラ軍にずっと所属していたが、今回の作戦に当たりヌイ軍に配属された。ヌイ軍に配属されたといっても、軍を率いる指揮官という立場ではなく、常にヌイのそばで意見を述べる参謀のような扱いであった。

 これは一時期ルーラと共にバクラ地方に転戦していたヌイの副官、シュナーベルの発案からであった。

 シュナーベルとしては、ルーラの元で戦略や戦術等を学んだ以上、少しでもヌイ軍の軍事行動の中にルーラの戦略戦術思考を組み入れたいという思惑であり、ヌイ自身もそれを望んでいたため、ルーラの義妹カナリーノが今回の作戦からヌイの軍に加わり、ルーラとの連絡を密に出来る体制が整ったのであった。

 ルーラからしても、同世代の有望株であるヌイの動向を知ることは、非常に好ましいことであった。さらに、そのヌイ軍に少しでもルーラ自らの戦略戦術思考が反映できるのは、ルーラ自身も望んでのことであった。

 ただ、ヌイの副官で女指揮官プリソースカだけが、そのカナリーノがヌイ軍に加わることに対して難色を示した。

 ヌイが憧れの存在であるプリソースカにしたら、常に若い女性がヌイのそばにいることに対して、到底、穏やかな気持ちではいられない。

 そこはプリソースカのツヴァンソに対する感情と同等のものであるが、ツヴァンソ以上に警戒の目を向けているのは、カナリーノが参謀として、常にヌイのそばにいるからであった。

 むろん、プリソースカだけのこのような個人的な感情は、一顧だにされることはなかった。当然ではあるが……。


 さて、ヌイはバロン軍五将の配置に対し、自軍も三つに分けてそれに応じた。

 敵の左翼である二軍五千には、プリソースカ、メェーフの二軍六千。中央の二軍四千には、ヌイとシュナーベルの二軍九千。そして右翼の一軍三千には、ツヴァンソ中官軍三千。

 兵数で敵一万二千に対し、ヌイ軍が一万八千と六千以上上回っているにも関わらず、あえて敵の左翼五千に対して、ヌイ軍の右翼は一千のみを上回らせる六千、敵の右翼三千に対しては、ツヴァンソ中官軍三千のみの同数の配置にした。

 しかしその分、敵中央四千に対しヌイ軍の中央は九千と倍以上の兵数を配置した。これは、ヌイ本人が倍以上の中央軍で、一気にバロン軍の中央を蹴散らし、瞬時にその勝敗を決めようというヌイの決意からであった。



 荒れ地での、バロン軍一万二千とヌイ軍一万八千の初日の戦いが始まる。

 朝方の八時から始まったこの初日戦は、夕刻の十七時、両軍が自軍に引き上げて終わる。結果は、聖王国新進気鋭のヌイ軍が、ミケルクスド國最強のバロン軍に一方的に敗れた形となった。

 特に中央、右翼、左翼の三つのうち、ヌイ軍右翼――プリソースカとメェーフ二軍の被害が甚大であった。

「ヌイ様! 申し訳ございません!! 敵より数で上回りながら大敗を喫した責、私の命で償います!!」ヌイの副官、女丈夫のプリソースカが大きな身体を縮めて、ヌイの前に平伏する。

「気にするな! プリソースカ!!」それに対し、ヌイは豪快に笑い飛ばす。

「さすがミケルクスド最強を謳うバロン軍! 今回、それが分かったのが大いなる収穫といえる! しかしだ……!」ヌイはここで真剣な表情に戻る。

「プリソースカとメェーフの二人は、俺の両腕とも言える剛の者! その二人の軍がここまで負けるとは、敵将はそれほどの者であったか?!」

「はい! 私が相対した将は、二メートルの背丈と体重は二百キロを超えるかという巨漢の将! 一見した限り、太り過ぎの豚のようでありましたが、その動きは兎のように素早く、大きな矛を軽々と振り回すその技量も並々ならぬものでありました。私はその将と数合打ち合い、討ち取られないように撤退するのが精一杯でありました!」




〔参考一 用語集〕

(人名)

 カナリーノ(ルーラの義妹)

 クーロ(マデギリークの養子。大官)

 コロンフル(マデギリーク将軍の副官)

 シュナーベル(ヌイ軍の司令官)

 セルマン(聖王国の将軍。ルーラの養父)

 ツヴァンソ(マデギリークの養女。クーロの妹。中官)

 ヌイ(クーロ、ツヴァンソと同世代の指揮官。将軍)

 ハイタ(バロン十将の一人)

 バロン(ミケルクスド國三将軍の一人)

 プリソースカ(ヌイ軍の司令官)

 メェーフ(ヌイ軍の司令官)

 ルーラ(クーロ、ツヴァンソと同世代の指揮官。大官)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)


(地名)

 イーゲル・ファンタム(ミケルクスド國の首都であり王城)

 バクラ地方(ソルトルムンク聖王国とバルナート帝國の国境にある地方。北側がバルナート帝國領、南側がソルトルムンク聖王国領であったが、両國による不可侵条約により全てが帝國領となる)

 バラグリンドル地方(ソルトルムンク聖王国の一地方)

 リノチェロンテ城(リノチェロンテ地方の主城)

 リノチェロンテ地方(ミケルクスド國領)


(その他)

 中官軍(三千人規模の軍)


〔参考二 大陸全図〕

挿絵(By みてみん)

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