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【210 第一次西部攻略戦(六) ~ヌイの為人(ひととなり)~】


【210 第一次西部攻略戦(六) ~ヌイの為人ひととなり~】



〔本編〕

 さて、ミケルクスド國北方ホウニィアオ地方において、ミケルクスドのバッサート将軍と、ジュリス、聖王国連合軍が対峙しているのと時同じく、南北に分断されたうちのミケルクスド國北部、その南方に位置するリノチェロンテ地方においても、ミケルクスド國軍とソルトルムンク聖王国軍が対峙していた。

 ミケルクスド國が王都イーゲル・ファンタムから南下してきた三将軍の一人、仁将バロン。ミケルクスド國最強の軍を率いる大将軍であった。

 対する聖王国が、将軍に昇格したばかりとはいえ、その戦績は既に中堅どころの将軍に匹敵するほどの実績を持つ若干二十七歳のヌイ。若将ではあるが、その実績と実力から将来を有望視されている。

 そして、そのヌイの元に小隊の頃から仕えている三人の優秀な副官、さらに二十三歳という年齢でありながら、ヌイの副官に抜擢されたツヴァンソが加わり、充実した軍容であった。

 しかし軍容では、バロン将軍の方が数倍充実している。三将軍の一人で『仁将』の呼称の通り、バロン将軍の人徳と天才的な部下掌握術により、十人もの優秀な指揮官が彼の配下にいる。

 その十人全員が将軍であることから、その十人は『バロン十将』と呼ばれ、バロン将軍とその十将による軍容から、ミケルクスド國における最強の軍と謂われていた。

 さて、ヴェルト大陸において最も精強な兵を擁している國といえば、異論なくバルナート帝國であり、そのバルナート帝國において、最強の軍が四つの軍団から構成されている『四神兵団』であった。

 それはヴェルトの民であれば誰もが知っている常識であったが、おそらくはその四神兵団の軍と遜色のない強さを持つのが、このバロン軍であるということも、ヴェルト大陸における常識の一つではあった。

 ただ、それは実際には証明されていない。

 ミケルクスド國軍はごくまれに四神兵団と戦い、その都度負けてはいるが、その戦いに三将軍の軍は参戦していない。

 ミケルクスド國歴代の王が、四神兵団には決して三将軍をぶつけていないからではあったが、これは三将軍の出し惜しみというよりは、ミケルクスド國軍部の象徴と謂われる三将軍とバルナート帝國の四神兵団を戦わせ、仮に三将軍が敗れた場合、その“三将軍”という國の象徴価値シンボルブランドが地に落ちてしまうのを恐れたからであった。


「そうか! ミケルクスド國最強の軍であるバロン軍が相手か! これは俺の相手としては不足なしだな!」ヌイのこの言葉は、彼の傲岸不遜の性格をそのまま表している。

 ミケルクスド國領の一つで、バラグリンドル地方の北に位置するリノチェロンテ地方。

 龍王暦二一〇年四月一日、聖王国の第一次西部攻略戦開始のその日に合わせ、ヌイは即日リノチェロンテ地方に侵攻を始めたが、その八日後の四月八日、リノチェロンテ地方領内の三つ目の砦を陥落させた。その時に敵将バロン南下の情報がヌイにもたらされたのであった。

 聖王国南軍(ヌイ軍)はその報を知った後、陥落させた三つの砦を拠点として一旦進軍の足を止め、バロン軍の動向を探るべく、多くの諜報兵を広く放つ。

 さらに一週間が過ぎた四月一五日、ヌイはバロン軍の軍容をある程度把握することができた。そしてヌイはその情報を元に軍議を開く。その席上での第一声が、先述した傲岸不遜な発言であった。


「……ただ、バロン軍の全てがここに向かっているわけではないらしい」ヌイの声のトーンが少し下がる。

「バロン将軍の元には、十人の将軍がおり、バロン十将と呼ばれているらしいが、その十将のうち、六将しかこちらに向かっておりません!」ヌイの副官の一人、シュナーベルが皆にそう説明する。

「大方、愚かで臆病なミケルクスド國の王が、王都からバロンと十将全てが離れるのを良しとはせず、十将のうち四将を王都に残したのであろう。完全な形のバロン軍と戦えないのが非常に残念ではある」ヌイは心の底から残念そうに、そうつぶやく。

 ヌイからしたら独り言のようなつぶやきなのであろうが、まるで軍議の席で指令を出しているかのような全員の耳にそれは届いた。

 聖王国に将軍は数十ほど存在しているが、ミケルクスド三将軍の一人バロンと対峙することを対し、どの将軍であっても緊張から憂鬱な気持ちになるものである。

 たとえそれが聖王国一のマデギリーク大将軍だとしても、さすがに憂鬱な気持ちにはならないまでも、少なくとも彼の緊張の度合いは一気に高まるであろう。

 しかし、ヌイにはそれが全く無かった。

 さらに、バロン十将のうち四将が王都に留まり、バロンと六将しかここに来ていないのであれば、他の将軍であれば気持ちがいくらか楽になるところを、ヌイはあろうことか十将全員揃っていないことに落胆の色を見せる。

 この性格は、他の者であれば致命的といえるが、ことヌイに限って言えば、彼のその性格はどんな相手にも委縮しないという長所となってしまうのであった。

 それほどヌイの実力は他より大きく抜きん出ており、その上、それは未だ成長過程なのであった。


「バロン十将のうち、この戦場に来ていない四将の中にレオパルドゥスが含まれているらしいです。彼はバロン十将中最も優れた将軍であり、十将の筆頭と言える存在でありましょう。そのレオパルドゥスが、こちらに来ていないとは、我々にとっては幸運、……いえ、不運と言わざるを得ません!」シュナーベルが軍議の席でそう報告した。

 報告を途中で、“幸運”から“不運”と言い直したのは、ヌイがシュナーベルの“幸運”という言葉に反応して、彼を睨みつけたからであった。

 そのシュナーベルの言い直しに、軍議の席上で数名がクスリと笑ったが、ヌイがその笑った数人を睨みつけたことにより、それらの者は慌てて口をつぐみ、ヌイの鋭い視線を避けるように目を伏せた。

「アッハッハッハ!」途端、ヌイが大声で笑い出し、それにつられてその軍議の席の者一人の例外なく、大声で笑い出す。

 ヌイが睨みつけたことにより言い直しをしたシュナーベル、またそれを笑って、ヌイに睨みつけられて口をつぐんだり、目を伏せたりした者たちも、最後は皆で一緒に笑っている。

 基本、ヌイ軍はこのように明るく、いんに籠るよう空気は、この軍においては皆無といえた。

 副官に任命されたツヴァンソも、ヌイ軍の軍律の厳しさと、その真逆ともいえるこのあっけらかんとした明るい雰囲気が、この軍の強さの源であろうと感じていた。

 むろんそれは、軍の長ヌイの魅力によってである。

 ヌイの敵、或いはヌイから嫌われた者にとって、ヌイは常に死と隣り合わせにいると感じるほどの恐怖の対象であるが、逆にヌイの味方、それもヌイから気に入られた者からすれば、ヌイほど頼もしく安心感のある存在も他にはないと感ずるのであった。




〔参考一 用語集〕

(人名)

 シュナーベル(ヌイ軍の司令官)

 ツヴァンソ(マデギリークの養女。クーロの妹)

 ヌイ(クーロ、ツヴァンソと同世代の指揮官。将軍)

 バッサート(ミケルクスド國三将軍の一人)

 バロン(ミケルクスド國三将軍の一人)

 マデギリーク(クーロとツヴァンソの養父。大将軍)

 レオパルドゥス(バロン十将の一人)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 バルナート帝國(ヴェルト八國の一つ。北の強国)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)

 ジュリス王国(ヴェルト八國の一つ。西の国。聖王国と同盟を結ぶ)


(地名)

 イーゲル・ファンタム(ミケルクスド國の首都であり王城)

 ホウニィアオ地方(ミケルクスド國領)

 リノチェロンテ地方(ミケルクスド國領)


(その他)

 三将軍(ミケルクスド國で最も優れた三人の大将軍のこと)

 四神兵団(バルナート帝國の最強四軍団)

 小隊(この時代の最も小規模な集団。十人で編成される)


〔参考二 大陸全図〕

挿絵(By みてみん)

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