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【209 第一次西部攻略戦(五) ~ホウニィアオ地方の戦い~】


【209 第一次西部攻略戦(五) ~ホウニィアオ地方の戦い~】



〔本編〕

「先ず一点目が、バッサート様はご自分が最も優れているとおっしゃられましたが、実際には三将軍中最強の軍勢を率いていらっしゃるのは『仁将』バロン様! そしてもう一点がバッサート様はマデギリーク、フセグダー両軍神を破り、ご自身が歴史の上書きを宣言なされましたが、そのバッサート様は、自分より若いクーロ殿に敗れ、むしろ次代に取って代わられた印象でありますが、そこのところいかがなものかと?」

 ケリウス副官のこの歯に衣着せぬ発言に、バッサートは苦笑いしながら応じる。

「相変わらず、上官を上官とも思っておらぬ無遠慮な物言い。ケリウス! お前が有能でなければ、この場で首を切り落としている! 今、俺はその衝動を必死で抑えているだぞ!」バッサートの苦笑いしながらの言葉にしては、物騒極まりない物言いであった。

「まあ、言っていること自体は間違いではないが、もう少し正確に俺の言葉を聞き取れ! 俺は自分を三将軍中、最も優れているとは称したが、その俺の軍が最強とは一言も言っていない! 確かに軍として最強なのは、業腹ごうはらではあるがバロンの軍で間違いない! しかし、それはお前にも原因の一端があるぞ! お前がバロンを超える将になっていないからだ!」

「……」

「そしてもう一つは、確かに俺はクーロなる若将に敗れた! それは否定するつもりはない! だけど、言い訳は大いにする! 俺はクーロを知らなかった! そしてそれは当たり前だ! あの当時、俺は伝説の大将軍、それに対してクーロは将軍にすらなっていない一若輩指揮官! ……だが、次はない。クーロと相対したら、必ず奴を倒す! 全力でな……」

「……」ケリウスは半ば軽い気持ちで、クーロを話題にして茶々を入れたが、今後はバッサートの前でクーロの話題でからかうのは止めようと心に誓う。

 それほどクーロへの敗北は、智将バッサートの矜持プライドを深く傷つけたのであると、この時、初めてケリウスは気付いたからであった。

「しかし、いい勉強はさせてもらった!」バッサートは少し気が晴れた顔で続ける。

「今後は敵がどのように地位の者であったとしても、しっかり調べ上げてから、戦いに臨む!」ケリウスは、バッサートのこの言葉で、ヴェルト史上最も優れている将から一切のおごりがなくなったことを知った。

 これならば、本当にマデギリーク、フセグダーの二人の伝説の軍神たちであっても、バッサートが打ち破る可能性があることをケリウスは実感し、ケリウスはクーロの存在に感謝すらしたくなった。

 そして同時にクーロが聖王国の将であることから、ある意味、クーロの存在によって、聖王国一のマデギリークがバッサートに倒されるという皮肉な運命になるかもしれないと、ケリウスは心の中で笑ってしまった。


「しかし、マルダー宰相閣下からこれほどの妙案が出てくるとは……。ただ、陛下におもねるだけの無能な佞臣では無かったのですね」

「ふん!」ケリウスのその呟きに対し、バッサートは鼻をならし、こう続けた。

「俺が放っている諜報兵によると、昨日の夜半、マルダー宰相閣下はある地下牢をお忍びで訪ねたらしい。おそらくは、前宰相閣下で今は投獄されているセミケルン殿が投獄されている地下牢であろう」

「バッサート様、……と言うことは!」

「マルダーにこのような案が思いつくはずがない! これは、全てセミケルン殿から授かった戦略案に他ならない」

「しかし、セミケルン様が自らの政敵にそのような助言アドバイスをなさりますでしょうか? それも投獄させた本人マルダーに……」

「セムケルン殿はそのような清廉潔白なお人なのだ! 文官でありながら『王都の虎』という異名を持っていらっしゃるのは伊達ではない! 我ら三将軍もセミケルン殿の命であれば、愚痴一つ言わずに従う! 俺もこの戦略案がセミケルン殿の立案と確信しているので従うのだ!」

「成程!」

「ケリウス、軍の編成を急ぎ行え! 明後日には第一陣が進軍できるように手配しろ!」

「ハッ! バッサート様、共に歴史に名を刻みましょう」ケリウスはそう言うと、バッサートの元を辞した。


 ミケルクスド國三将軍の一人、智将バッサートの軍勢がミケルクスド國北方の領土――ホウニィアオ地方において、ジュリス王国、ソルトルムンク聖王国二國連合軍と対峙する。

 ジュリス、聖王国連合軍は、ジュリスの『生ける武神』ことフセグダー将軍と、聖王国一の指揮官で、国内唯一の大将軍マデギリークが指揮する、精鋭中の精鋭で構成された連合軍であった。

 しかし、そこは自国の利を最大限に生かした戦い方を展開するバッサート将軍を前に、さしもの連合軍も攻めあぐねるという事態に陥る。

 ソルトルムンク聖王国が構想する第一次西部攻略戦初戦が膠着状態となり、序盤で作戦が頓挫するのではと思われる戦況となっていた。

「いやあ、さすがはミケルクスド國が誇る智将バッサート将軍、一筋縄では行きませぬな!」ジュリス王国のフセグダー将軍が笑いながら、聖王国のマデギリーク大将軍に話しかける。

「左様! 我ら二國最高峰の指揮官二人を前に、堂々と互角の戦いを展開している。いくら、自国内で戦う利があるとはいえ、たいしたものでありますな」話しかけられたマデギリーク大将軍も笑いながら、フセグダー将軍の発言に同調する。

 北部戦線が膠着状態に陥っているにも関わらず、二人の熟練将軍たちには全く焦りがなかった。膠着状態程度で指揮官が慌て、味方を不安に陥らせるような事態にすることは、この二人の将軍に限っていえば無縁であった。

 それに西部攻略戦全体で考察すると、この北部の膠着状態は、必ずしもジュリス、聖王国側にとって憂慮すべき事態ではなかった。

「ただ、我らがここに居る限り、この北部戦線からミケルクスド國で最も優れたバッサート将軍を外すことは、ミケルクスドには出来ない。敵王都にもぐらせた諜報兵の情報から、王都の虎ことセミケルンはまだ投獄されたまま、つまり王都イーゲル・ファンタムに全体の戦略を考え巡らせる者が不在で、それが唯一出来るであろうバッサート将軍も、この戦場からは離れることは出来ない!」

「フセグダー将軍のおっしゃるとおり!」マデギリーク大将軍も頷きながら同意する。

「さらに言えば、ここホウニィアオ地方の東方には、標高五千メートル級の山々がそびえる高山地帯、通称“ワイヴァーンパレス”がある。我らも、そこから飛兵が襲撃してくるのを警戒し、兵をワイヴァーンパレス側にも割かなければならないが、それは裏を返せば、敵も我らが攻撃目標をワイヴァーンパレスに変更して攻め寄せるのを警戒しなければならないということ。つまり、ワイヴァーンパレスから他の戦場に飛兵を援軍として自由に送ることができないことになる」

 フセグダー将軍も、マデギリーク大将軍のその言葉に大きく頷く。

「我ら二人で最高峰の智将と、ミケルクスド國特有の精鋭兵である飛兵をこの場に足止めしている! 今回の作戦の本命は貴国のヌイ将軍率いる南部軍! その南部軍に、バッサート将軍と飛兵――特に竜飛兵ワイヴァーンナイトという二大要素を使えない! だからと言って南部軍が侵攻するに手をこまねいているわけにもいかず、南部軍を食い止めるために、バッサート将軍と竜飛兵の二大要素を南部戦線に投入しようものなら、今度は我ら北部軍が本命へと変わり、王都イーゲル・ファンタムに迫る! こちらはその時が来るまで、じっくりと敵に付き合おうぞ。いや、愉快! 愉快!」

 フセグダー将軍はそう言うと、豪快に哄笑した。




〔参考一 用語集〕

(人名)

 クーロ(マデギリークの養子)

 ケリウス(バッサート将軍の副官)

 セミケルン(ミケルクスド國の元宰相)

 バッサート(ミケルクスド國三将軍の一人)

 バロン(ミケルクスド國三将軍の一人)

 フセグダー(ジュリス王国の将軍。『生ける武神』の異名を持つ)

 マデギリーク(クーロとツヴァンソの養父。大将軍)

 マルダー(ミケルクスド國の宰相。ツァイトオラクル王のお気に入りの家臣)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)

 ジュリス王国(ヴェルト八國の一つ。西の国。聖王国と同盟を結ぶ)


(地名)

 イーゲル・ファンタム(ミケルクスド國の首都であり王城)

 ホウニィアオ地方(ミケルクスド國領)

 ワイヴァーンパレス(ミケルクスド國に広がる標高五千メートル級の高山地帯。ワイヴァーンが数多く生息している)


(兵種名)

 ワイヴァーンナイト(最終段階の飛竜に騎乗する飛兵。竜飛兵とも言う)


(その他)

 三将軍(ミケルクスド國で最も優れた三人の大将軍のこと)


〔参考二 大陸全図〕

挿絵(By みてみん)

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