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【199 龍王会議(前)】


【199 龍王会議(前)】



〔本編〕

優鉢羅ウバツラへは、事後報告でいいと思ったからだ! 所詮、あいつは我ら七龍王が全員一致の意見には逆らうことは出来ないからな!」

 徳叉迦トクシャカは一言そう説明しただけで、本題に入った。

「先代ウバツラ龍王の専横により、我ら七龍王と我らが建国した七國は、非常に虐げられてきた! しかし、それは龍王暦一五〇年に先代ウバツラが死去したことにより改善された。……つまり、我ら七龍王の建国した七國も、ウバツラが建国したソルトルムンク聖王国からの屈辱的な従属関係から解放され、八國が対等な立場となったのだ。しかしながら、建国当時の強大な力と絶対的な権限を失ったはずのソルトルムンク聖王国が再び力を蓄え、あろうことかまた他國を従属させるべく侵攻を始めた!! これに対し、改めて我ら七人でソルトルムンク聖王国に鉄槌を下すべきとの判断から皆々に召集を呼び掛けた! 是非、賛同頂きたい!!」

 トクシャカはここまで一気にまくしたてるように語った。

「確かに我ら七龍王が、トクシャカの意見に賛同すれば、ウバツラも先代龍王専横の経緯から、やむなく従うとは思う。それでもあえて、彼がいないこの時期を見計らって召集をかけることもないのではないか?」

 この場の七龍王中、最も数値の大きい第七龍王摩那斯マナシが、そうトクシャカに尋ねる。

「ウバツラは、八大龍王では筆頭格にあたる第八龍王ではあるが、先代龍王の専横と、次代の彼自身がまだ若輩なところから、我ら七龍王の全会一致の提案には逆らえないことは先ほども言ったとおりだが、今回の議題は、彼の守護するソルトルムンク聖王国に鉄槌を下すという案件である。彼が出席した上で、その案件を全会一致にするというのは、さすがに彼の矜持プライドをとことん貶めることになり、それはあまりにも情がないと俺は思った! それよりはウバツラが不在のところで決め、後でマナシから言い含めた方が、彼をこの場で公開処刑するようなやり方を回避できるという、俺なりの配慮のつもりであった!」

 トクシャカは、マナシの問いにそう答えた。


「果たしてそうかな!」

 それに対し、口を差し挟む龍王がいた。

 皆がその方を見ると、先ほどトクシャカに声をかけ、敵意の眼差しを向けられた第一龍王の難陀ナンダ龍王である。

「ウバツラ本人がいると、残り七龍王の足並みが揃わず、お前が提案した案件が却下され、お前が大恥を掻く。それを回避するための召集ではないのか?!」

 トクシャカのように仮面をつけていない深紅の鎧のナンダはニタニタ笑いながら、そうトクシャカに反論した。

「貴様!!」黒の龍王トクシャカが怒鳴る。

 まるで、竜族最強の種――巨竜バハムートが数十頭ほど一斉に吼えたかと思われるぐらい迫力がある怒鳴り声であった。

「たかが第一龍王の分際で、八大龍王最強の俺に意見するのか!!」

「おい! お前のその言いようも、先ほどお前が批判した先代ウバツラの専横と何ら変わらぬ言いぶりだぞ!」

 負けじと真紅の龍王ナンダも怒鳴り返す。

「そもそも八大龍王の序列は従属的な関係のものではない! 例えば第一龍王の俺が、筆頭龍王のウバツラに意見を述べる、または反論することについて何らはばかりもないはず! そうだよな、マナシ!」

 ナンダは銀の龍王マナシに話を向けた。

「ああ、ナンダの言う通りだ! トクシャカ! 今のはお前が悪い!」マナシはナンダの言いぶりを擁護した。

「悪かった!」それについては、トクシャカも素直にナンダに頭を下げる。

「俺の言いぶりはすまなかった。しかしナンダ、お前の言いようも俺を侮辱した言の葉ではあった! 先代ウバツラと変わらぬという言いぶりは……」

「ああ、それは俺も素直に謝ろう! すまぬ!」ナンダもトクシャカの発言を受け入れ、素直に自らの非を詫びる。

「よし、それではトクシャカから申し出た案件の中身について議論に入ろう」マナシが議事を進行すべく、口を開いた。

「確かに最近、ソルトルムンク聖王国が活発に他国に侵攻を始めていることは事実だな!」

 そう述べたのは紫の龍王、第六龍王の阿那婆達多アナバタツタであった。ヴェルト大陸東部の強国カルガス國の守護神である。

「おおアナバタツタ、お前もそう感ずるか! 聖王国が一時期の強大な力は失ったのは事実だが、それでも国力はまだ他国より大きい! ここは我ら八大龍王の干渉が必要な時だと思うが……」

「そうだな、トクシャカの言いように一理ある」アナバタツタは、トクシャカの意に賛同する気配を見せる。

「どうだ、和修吉ワシュウキツ! 沙伽羅シャカラ! お前たちはどう思う!」トクシャカはここで素早く、第四龍王ワシュウキツと第三龍王シャカラにも賛同の意見を求めた。

「確かに、私の國も最近侵攻され、一地方の主城が奪われるほどの被害を被った」シャカラがそう答えた。

 第三龍王シャカラの守護する國はゴンク帝國である。ならば今のシャカラの発言の『一地方』とはアルヒ地方のことであり、その主城であるアルヒ城は聖王国のヌイによって実際に陥落させられていた。

「おお、シャカラの守護する國も聖王国の被害を被った口か! ならば、シャカラも俺の意見に賛同してもらえるな!」

「悪いが俺は、賛同できぬ!!」横合いからまた言の葉が発せられる。ナンダであった。

 トクシャカによって、賛同の流れに傾きかけていた話しに、待ったをかけた形になった。

「ナンダ、トクシャカの議案に賛同できない意見を聞かせてもらおう」

 マナシが、トクシャカが口を出すいとまを与えず、ナンダに問いかける。マナシの議事進行ぶりはなかなか同に行ったものであった。


「確かに聖王国が、ミケルクスド國やゴンク帝國へ侵攻しているのは事実だ! しかしそれは聖王国に限らず、他国も同様に聖王国または、それ以外の國に侵攻している! 侵攻をしているという理由だけで、神の鉄槌が下るなら、ヴェルト全ての國に鉄槌が下ることになるのではないか?!」

「……だから他国と違い、聖王国は国力が大きい! そのような國の侵略を見逃すと、我らのおきて――八國が一国として滅亡せぬよう目を光らす――がないがしろにされ、ひいては八大龍王の神としての神格を他の神々から蔑まれる要因にもなりかねない!」

 トクシャカが、ナンダの反論にそう返した。

「国力の差は必ずあり、今のヴェルトの現状において、滅亡の憂き目にあいかけているほど逼迫ひっぱくしている国家があるようには俺には思えぬ! トクシャカ!! そのような表向きの理由ばかり並びたてるな! 要はお前の守護國、ミケルクスド國が聖王国によって南北に分断されたのが許せないだけであろう。それも兵の質で格下と思っていた聖王国によって……。むろんこのことも憶測の域は出ない発言ではあるので、先に一応詫びてはおく!」

「……」

 トクシャカは黒い面をつけているため、その表情はうかがい知れない。しかし、おそらく今のナンダの発言で、トクシャカの顔は真っ赤になっていることであろう。




〔参考 用語集〕

(八大龍王名)

 難陀ナンダ龍王(ジュリス王国の守護神。真紅の鎧の第一龍王)

 沙伽羅シャカラ龍王(ゴンク帝國の守護神。白い鎧の第三龍王)

 和修吉ワシュウキツ龍王(クルックス王国の守護神。深緑の鎧の第四龍王)

 徳叉迦トクシャカ龍王(ミケルクスド國の守護神。漆黒の鎧の第五龍王)

 阿那婆達多アナバタツタ龍王(カルガス國の守護神。紫色の鎧の第六龍王)

 摩那斯マナシ龍王(バルナート帝國の守護神。銀の鎧の第七龍王)

 優鉢羅ウバツラ龍王(ソルトルムンク聖王国の守護神。金の鎧の第八龍王)


(人名)

 ヌイ(ソルトルムンク聖王国の指揮官)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 カルガス國(ヴェルト八國の一つ。北の強国)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)

 ゴンク帝國(ヴェルト八國の一つ。東の国)


(地名)

 アルヒ城(アルヒ地方の主城)

 アルヒ地方(ゴンク帝國領)


(竜名)

 バハムート(十六竜の一種。陸上で最も大きい竜。『巨竜』とも言う。また、単純にドラゴンと言った場合、バハムートをさす場合もある)

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