【198 戴冠式と龍王集結】
【198 戴冠式と龍王集結】
〔本編〕
「しかしだ……」アッティモ将軍が口を開く。
「話によるとここにまだ一万の敵軍が残っていたという話ではないか! その上で、わずか五千の軍で倍の俺の軍に挑ませるとは、同じ聖王子でもブーリフォン聖王子様とは雲泥の違いだな! そのデルニエとかいう聖王子は……」
「既に聖王子ではありませんが……。とにかく十日前の一一月八日に、兵をおいて数名の家臣と共に東へ逃げたとのことです。まあ、デルニエ王が逃げる時には、王都でも逃亡兵が数多く、既に千を切る数であったとのことですが……」
クーロは、アッティモ将軍にそう答えた。
「成程、それでは後続軍を編成する余裕はないな! ところで、それよりお前の方は一瞬で勝敗が決したと聞いているぞ! 二万五千も敵がいたにも関わらず……」
「既に、父マデギリーク将軍の軍と相対した時には、敵は二万をきり一万六千程度ではありましたが、父の軍と相対すれば、そのような結果になるのは火を見るよりも明らかでありましょう」
「おい、クーロ! 俺の目は節穴ではないぞ!」
アッティモ将軍がクーロに向かい、意地の悪い笑みを浮かべ、大声で吼える。
「後、ジュリス王国の諜報機関も侮るなよ! ブーリフォン聖王子に向かった軍が一瞬で蹴散らされたのは、お前の遊撃部隊による指揮官狙撃のせいだろ!! それが無ければ、少なくともそっちも俺と同じように三日はそこで敵と戦っていたはずだ! 違うか!!」
「アッティモ将軍、それは買いかぶり過ぎでございます。たまたま、私の部隊が大金星を上げただけということです」
「おお、俺をも油断させようとしているな! そうはいかぬ! クーロ! お前の部隊の噂は、お前が思っている以上に敵味方に浸透しているぞ。俺も今後もし聖王国と戦端を開く事態にでもなったら、背後にお前の存在がいないかに常に注意を払おう! ハッハッハッハッ!」
アッティモ将軍が大声で笑った。
「私たちが戦う想定など、将軍も物騒なお話をなされます」クーロもつられて冗談を言い、共に笑った。
しかしそれでもアッティモ将軍が最後に言った、自分の存在が敵味方に思ったより浸透しているという言葉は、クーロの胸に深く刻まれた。
今後、相対する敵が自分と自分の軍を調べ上げ、攻略方法を研究している場合があるということだからである。
先のバラグリンドル城防衛戦で、ミケルクスド國の三将軍の一人バッサート将軍の裏をかき、結果、クーロがバッサート将軍を翻弄させたが、あれはあくまでもミケルクスド國最高峰の大将軍であるバッサート将軍の立ち位置からすれば、クーロという存在があまりに小さすぎて、全く知る機会がなかったからである。
今後、クーロと戦う敵は、クーロのことを全く知らないということが、ほぼ無いということをアッティモ将軍の言葉は物語っていた。
さて年が明け、龍王暦二一〇年一月一日。ブーリフォン聖王子がソルトルムンク聖王国第六代聖王に即位する。
一月一日より七日間にわたって行われた聖王戴冠式においては、各國からも使者が参列し、聖王国聖王の証でもある『三種の神器』も揃った上での、正式かつ盛大ではありながらも、一方厳かな雰囲気に包まれた儀式であった。
そしてなんといってもこの戴冠式が正当なものであることを示す証として、ソルトルムンク聖王国の建国神であり守護神でもある八大龍王の一人、優鉢羅龍王本人がこの式に参列したのであった。
黄金の鎧に身を包んだウバツラの、その身に纏う神気は並々ならぬものであり、この者が“人”でない、いわゆる“神”であることは誰の目にも明らかであった。
昨年の一一月に王都マルシャース・グールにブーリフォン聖王子が入城して後、聖王戴冠の儀式を来年の一月と定め、高位の魔術師を通じて、天界のウバツラ龍王に戴冠の儀式への参列を打診し、それが叶った。
建国神の龍王が戴冠式に参列することにより、龍王が、ブーリフォンが聖王となるのを認めたわけであった。
昨年の九月に前聖王であられたジュラーグレース聖王が、デルニエ聖王子のクーデターによって斃れてからわずか三か月後の出来事であった。
さて、場面は変わり、ここはヴェルト大陸の上空数万メートルにあたる地――天界、神々が住まう地である。その地を漆黒の鎧に身を包んだ一人の者が大股で歩いている。
「おお、トクシャカではないか?」その漆黒の鎧の者に声をかけた者がいる。
「アナバタツタか! 早いな!」漆黒の鎧の者が、声をかけた者にそう応じる。
声をかけた者は紫色の鎧を身に纏っていた。
二人について“者”と表現したが、人ではない。漆黒の鎧の者が八大龍王の一人、第五龍王にあたる徳叉迦龍王。そして紫の鎧の者が同じく八大龍王の一人、第六龍王阿那婆達多龍王であった。
つまり、二人とも天界に住まう神であった。
「トクシャカ! 今回の龍王召集はお前が言い出しっぺらしいな!」アナバタツタが、トクシャカにそう切り出す。
「……しかし、第八龍王のウバツラは、今不在だぞ! 今、宮殿には第七龍王のマナシしか居ないというのに……」
「知っている!」トクシャカは、アナバタツタにそう答える。
「奴は、ソルトルムンク聖王国の新聖王の戴冠式に呼ばれ、今は地上界に赴いている」
「それを知っていながら、龍王召集をかけたのか?! 呆れた奴だ」
アナバタツタは、そう言うとニヤリと笑い、言の葉を続ける。
「トクシャカ! 何を企んでいる!」
「おお、言い出しっぺが、最後に到着とはな!」
第五龍王徳叉迦と第六龍王阿那婆達多が、ヴェルト大陸上空の中央部にあたる宮殿に辿り着いた時、そう声をかけた者がいた。
「ふん、ナンダか!」トクシャカがそう呟く。
徳叉迦は顔に黒い仮面をつけているため、その表情は分からないが、仮面の奥から見えるその目は鋭く、声をかけたその者を睨みつけた。
声をかけた者は、紅い鎧を身に纏った第一龍王の難陀であった。
「トクシャカ! お前が龍王召集の要請を示した時にも伝えたが、今、第八龍王の優鉢羅は、地上に赴いていて留守である。だが、お前はそれでも構わないとのことだったので、残り七龍王をこうして召集させた! その理由をまずは説明してもらおう」
宮殿の真ん中の席に座っている銀色の鎧を身に纏っている者が、トクシャカに対し口を開く。
今、この場に七人が集まっている。銀色の鎧の者が第七龍王摩那斯であり、ここに集まっている七人が、第八龍王優鉢羅を除く残りの七龍王たちであった。
〔参考 用語集〕
(八大龍王名)
難陀龍王(ジュリス王国の守護神。真紅の鎧の第一龍王)
徳叉迦龍王(ミケルクスド國の守護神。漆黒の鎧の第五龍王)
阿那婆達多龍王(カルガス國の守護神。紫色の鎧の第六龍王)
摩那斯龍王(バルナート帝國の守護神。銀の鎧の第七龍王)
優鉢羅龍王(ソルトルムンク聖王国の守護神。金の鎧の第八龍王)
(人名)
アッティモ(ジュリス王国の将軍)
クーロ(マデギリークの養子。中官)
ジュラーグレース聖王(ソルトルムンク聖王国第五代聖王。故人)
デルニエ王(父王を殺害した聖王子。殺害後、王を僭称する)
バッサート(ミケルクスド國三将軍の一人)
ブーリフォン聖王(ソルトルムンク聖王国第六代聖王)
ブーリフォン聖王子(ソルトルムンク聖王国の聖王子。第四位王位継承者)
マデギリーク(クーロとツヴァンソの養父。将軍)
(国名)
ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)
ジュリス王国(ヴェルト八國の一つ。西の国。聖王国と同盟を結ぶ)
(地名)
バラグリンドル城(バラグリンドル地方の主城)
マルシャース・グール(ソルトルムンク聖王国の首都であり王城)
(その他)
三種の神器(ソルトルムンク聖王国の聖王の証。「聖王の冠」、「聖王の杖」、「聖王の剣」の三つの宝物)
三将軍(ミケルクスド國で最も優れた三人の大将軍のこと)




