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【194 クーロ遊撃隊(前の続)】


【194 クーロ遊撃隊(前の続)】



〔本編〕

 矢を射る瞬間に矢筈やはずに仕込んでいた火薬に火をつけ、小規模な爆発を起こすという発想自体は正しい。……なのでそれをいかに安全かつ簡単に起こせるかということが課題であった。

 それに当たり、魔術で薄い防御膜を作り、その防御膜によって物理的な攻撃を防御するといったものがある。それが応用出来ないかを、クーロは当時考え付いたのであった。

 つまり矢筈に、火薬とその防御膜で覆った火球をあらかじめ仕込み、矢を射る瞬間に弓兵が呪を唱え、その防御膜を解除させるというものであった。

 魔術で作られた防御膜であるため、魔力が供給され続けている限り防御膜は存在し続けるが、魔力の供給を絶てば、たちまちその防御膜は存在できなくなる。

 それを応用すれば、矢を射る瞬間に防御膜への魔力供給を絶てば、防御膜が消滅し、火薬の中に火球のみが剥き出しで残り、つまりは矢筈が小爆発を起こすという仕組みであった。

 これであれば、呪を唱えて魔力供給を絶てばいいだけの話なので、初歩中の初歩の魔術であり、術を行使するのに比べ遥かに簡単で、ほとんどミスが起こることもない。

 問題は、そのような小規模な火球とそれを包むような小規模な防御膜を作る術の行使であるが、それは中堅クラスの魔兵であれば、それほど難易度の高い魔術ではなかった。

 中堅クラスの魔兵が防御膜に覆われた火球を作って、火薬が仕掛けられている矢筈に埋め込み、魔兵から弓兵に防御膜の魔力供給を引き継ぐことが出来れば、後は弓兵が自らのタイミングで矢を射る瞬間に防御膜の魔力提供を絶てば良いだけの話であった。

 これは弓兵と魔兵の高等連携技の矢筈に火球をぶつけるのに比べ、格段に難易度は下がることになる。


 しかしそれでも課題は残った。

 火球を燃やし続ける燃料物の問題。術で作った火球をその場で敵にぶつけるなどの場合は、あまり燃料物について考慮する必要はないが、少なくとも火球を術で作った後、防御膜で覆うのであればその間、その火球を燃焼させ続けなければいけないため、何らかの燃料物がないと難しいことになる。それも小規模かつある一定期間燃え続ける燃焼物が必須であった。

 そのような小規模で簡素なものは火薬しかあり得ないが、火薬は直接火球に触れれば、一気に燃焼し一瞬で燃え尽きてしまうため、一定期間燃え続けさせるのは不可能であった。

 結局、この方法についてもそれほどの有用性が期待できないと思われたが、この防御膜の発想から、一つの解決策が生み出されたのであった。

 とある魔術師の術式で、魔術そのものを石に貯めるというものであった。



 魔術を石に貯め込むことを考えついた魔術師の始祖は、あまり高位な魔術師ではなかった。

 逆に高位な魔術師でなかったからかもしれないが、純粋な魔術対決をした場合、その魔術師は自分より高位な魔術師には、魔術力並びに魔力量の差で絶対に勝ち目がないと、本人は理解していた。

 しかしその魔術師は、もし魔力を貯めておくことが出来れば、魔術力では差は埋められないが、代わりに魔力量で高位の魔術師にも対抗できるのではと考えたのであった。

 純粋な魔術対決では、仮に『一』の魔力しか一時いちどきに出すことが出来ないその始祖の魔術師は、自分より高位の魔術師で一時に『二』の魔力が出せる魔術師には到底勝つことは出来ない。

 しかし魔力を貯めることで、その貯めた魔力が三回分の魔力量――つまり『三』の魔力を一気に行使できるのであれば、その瞬間は『二』の魔力の魔術師の魔力量を上回ることが出来る。

 そして一瞬でも魔力量で相手を凌駕できれば、それは相手からすれば想定外のことなので、魔術対決で勝ちに繋げることは十分に出来る。魔力対決は一瞬で勝敗が決することもままあるからであった。

 そう考えた魔術師は、いろいろな材質の物体に自らの魔力を貯め込むことを模索し始める。結局、簡単に入手できる物質で一番効率よく魔力を貯めておけるのが『石』という結論に至った。

 そうしてその魔術師の家系は、その術を子孫に代々引き継ぎ、現在の龍王暦二〇〇年代に至った。その末裔の一人が、聖王国のクーロ軍の中に魔兵として所属していたのであった。


 防御膜の発想は方向性として間違っていないとはいえ、実用化させるにはかなり課題があるとのことでクーロのこの発想は断念しかかった。

 しかしその時、クーロ軍最古参の魔兵ファーモが、その石に魔力を貯め込む魔兵の存在に気付き、クーロにそのことを伝えたのであった。

 クーロは早速、その魔兵を召喚し、魔力を石の中に貯め込む術を説明させる。

「クーロ様! 確かに私の祖先が石の中に魔力を貯め込むという発想に気付きました。しかし、それは知ってしまえば魔兵であれば誰にでも出来るレベルのものであり、それに実際にそれほどの量の魔力は貯め込むことが出来ないので、私には祖先のその術式の有用性があまりピンとこないものでありました!」

 そう切り出したその魔兵は、詳しい術式をクーロに説明する。

 クーロはそれを最後まで聞き、頭に電流が走ったような衝撃を受ける。クーロの中で挫折しかかった一つの道筋が見えた瞬間だったのであった。



 龍王暦二〇九年一〇月一六日午前九時、デルニエ王側の将アルナブは、全軍に総攻撃を命じた。一万六千の軍勢のうち、一万五千が一斉にブーリフォン聖王子側の兵に向かって突撃を始めたのであった。

 今、ここにいるブーリフォン聖王子側の兵は一万。既に本軍を除く先鋒部隊だけで一万の兵がいるが、それでもこの戦場に限って言えば、アルナブ将軍側の方が五千以上も兵が多い。

 全軍突撃を命じたアルナブ将軍は、この時点において最上の選択をしたことになる。

 さらに、アルナブ将軍は全軍の士気を上げるため、兵の前に堂々と姿を晒し、大声で味方の兵を鼓舞した。

 むろん、将軍の周りには親衛隊がいるので、姿を晒したとはいえ、アルナブ将軍に向けて敵が攻め寄せることは実質的に不可能であった。

 またアルナブ将軍自身は、先頭に立つ猛将タイプではないので、あくまでも後方の本陣にいる。これではブーリフォン聖王子側は、姿を晒して鼓舞しているアルナブ将軍に直接攻撃を仕掛けることは絶対に出来ない。

 アルナブ将軍からすれば、味方の兵への鼓舞のみならず、後方から味方の兵で戦場から離脱する者がいないかについても目を光らせていたのであった。

 仮にそのような者を見つければ、すぐにその場に、ここにいる親衛隊を差し向けるつもりでいる。

 そのように将軍の目が後ろで光っているのが分かっているデルニエ王側の兵士たちは、気持ちの上では隙を見て戦場から離脱したい者も多々いたが、実際にはそれも出来ず、結果、敵と戦わざるを得なかったのであった。




〔参考 用語集〕

(人名)

 アルナブ(デルニエ王麾下の将軍)

 クーロ(マデギリークの養子。中官)

 デルニエ王(父王を殺害した聖王子。殺害後、王を僭称する)

 ファーモ(クーロ隊の一員。魔兵)

 ブーリフォン聖王子(ソルトルムンク聖王国の聖王子。第四位王位継承者)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

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